ファミリーミュージカル アルプスの少女ハイジ2016


満足度
公演時期 2016年7月~8月
会場 全国公演
演出・振付 設楽みのる
作曲・音楽監督 山口琇也

あらすじ
幼い頃に両親を失ったハイジは、
アルプスの山に住むおじいさんと暮らしています。
山羊飼いのペーターとともに丘を駆け回ったり、山羊と遊んだりと、
山の子として楽しい日々を過ごしていました。
そんなある日、ハイジはデーデおばさんに連れられて、
フランクフルトという遠い街に住む、
ゼーゼマン家に引き取られることになりました。
そこでハイジは、足が不自由で外に出ることができない孤独な少女、
クララと対面することになります・・・
※公式サイトより引用
観劇感想
久々のハイジ。
私は過去に三度観劇しています。
2003年7月(ハイジ役 小崎愛美理。クララ役 安藤由紀)
2004年1月(ハイジ役 三倉茉奈、三倉佳奈。クララ役 山川恵里佳)
2009年7月(ハイジ役 松居真子。クララ役 生田絵梨花)

脚本も、演出もそこまで大きな変更はないので、
詳細は過去記事を参照してください。
記憶をたどると、ペーターがもう少し出番があったり、
アルムのおんじと村人の対立があったり、
クララが立つところが長かったような気もします。

オープニングの曲は懐かしい。
聞かされると思い出すレベル。

で、です。
めっちゃ楽しい。
ヤバイ。
アニーより楽しい。

アニーは大人の部分も多いので、ちょっと子供目線からずれますが、
こちらはほぼハイジ。
しかもハイジに集中できるできる。
後述しますが、ハイジ役の笠井日向が楽し過ぎる。
「このハイジは観とかないとまずいでしょ」と言えるレベル。
これは観ることができ本当にラッキーだし、幸せでした。

全体的に考えると、楽しさを前面に押し出している印象。
前は、アルムのおんじと村人との対立や、
教会に初めて来てハイジの無事を祈るとか、
ちょっとゴタゴタもありましたが、
今回はそういった部分をあまり見せない演出。

ゼーゼマン家では、そこまでロッテンマイヤーはきつくないし、
セバスチャンやチネッテのおどけた部分もあるので、
面白おかしく観ることができる。
もちろん、ハイジとクララのやりとりもいい。

ハイジは元気いっぱいで純粋で天真爛漫。
それに対し、清楚で可憐で物静かなクララ。
友達が来ることを長い間待っていて、抑えきれない熱い感情もある。
二人の対比も楽しいし、違う性格同士の友情も凄く伝わってくる。
舞台にこの二人しかいなくても、観客は余裕で集中できる。
それだけハイジ、クララの演技力が高い。

クライマックスの、クララが立とうとするシーン。
一番重要な場面ということもあり、何度も繰り返します。
しつこいぐらい繰り返す。
そしてハイジとクララの喧嘩。
「嫌い」のミュージカルナンバー。
そうは言っても、すぐに仲良くなるのがミュージカル。
まっ、このあたりにファミリーミュージカルということでご愛嬌。

エンディングの「君と、君と君と」の指さし確認はあいわからず楽しい。
私、普通に全部歌えますからね(笑)
超楽しい。

大きなお世話ながら、パンフレットの宣材写真より、
ハイジ、クララは実物の方が断然かわいい。
ま~パンフレットの写真は公演それぞれの特色があります。
宣材の時もあるし、
稽古で汗だくの(なぜその写真を使う?)的な舞台もありますね。
着飾らなく、素の表情ということでしょう。
そういった部分でパンフレットを見るのも面白い。

気になった役者は・・・

ブランコで登場のハイジ役、笠井日向
ミュージカル マリアと緑のプリンセス 2015ではプリンセス役。
たいした賞でもありませんが、
第14回エターナルファンタジー演劇大賞 2015年の最優秀新人賞。

率直に、
面白い女優が出てきた。

最初は口調も早く、テンポも早いかな~?と思っていたら、
慣れてきました。
目がクリッとして、
たまに能年玲奈に見えることもある(本当にたまに)
それだけ表情付けは素晴らしい。

過去のハイジ役、小崎愛美理、三倉茉奈、三倉佳奈、松居真子は、
どちらかというと真面目系かな?
真面目かつ、素直で元気いっぱいというイメージ。
たしか年齢も14~16歳ぐらいだった気がする。

それが笠井日向は10歳。
この時点で雰囲気が違う。
ハイジの年齢に近い。
本当の性格は知るよしもないけれど、
ヤンチャでお転婆で、それでいて自然。
純粋なのだけれど、元気いっぱいな純粋さ。
ここが過去の役者と違うところ。

顔を「クシャッ」とした笑顔は、
正直ちょっとやりすぎ感もあるのだけれど、
魅力的だし引き込まれるのは事実。
私は長年観ていることもあり、
キャラを作りすぎている部分が見え隠れしてしまうのだが、
彼女の場合は嫌味が無い。
まだ10歳だし、ここで「もっと自然に」というのは酷。
これだけやってくれれば、十分すぎるほど。
観客の中には泣いている人もいました。
それだけ彼女のハイジに感情移入しやすい。

正直、カツゼツはまだの部分もある。
「えほん」が「へほん」に聞こえてしまうこともある。
歌も良い時とイマイチな時の差が大きい。
ミュージカルアニーのセリフ回しに比べれば、
まだまだ未完成な部分はたくさんある。
だが、それらを吹っ飛ばしてしまうほど、
今回のハイジはものすごく魅力的だった。

とにかくハイジに集中できる。
これが凄い。
ファミリーミュージカルとして、観客は子供が多い。
しかもさらに低年齢な子もいる。
ざわついたり、走り回ったり、泣き叫ぶこともよく見かけます。
しかし、今回は舞台全体の出来が良いことにプラスして、
ハイジやクララに集中できたこともあり、
全く騒ぐことがありませんでした。

笠井日向は演技として、日向ワールドを持っている。
フランクフルトの都会に来てしまい、
アルムに帰りたい(ようはホームシック)思いを語るところは、
ひとり芝居でもある。
ハイジの感情を吐露するところ。
ここが凄く日向ワールド全開であった。
独特な感性。
私はちょっとやりすぎ感が見えてしまうのだけれど、
子供だから問題無し。

それに関連して、彼女は演技の間の取り方として、
余韻が発生する。
何か喋って、ほんのわずかだけ余韻を入れる。
一瞬。
意識的にやっているのか、無意識にやっているのかはわからないけれど、
ちょっと面白いところ。

「白パンをドッサリ」なんて、コメディチックな演技も抜群。
黙っていれば、ミュージカル マリアと緑のプリンセス 2015のような、
お嬢様プリンセスにもなれる。
こういった印象の違う演技ができるもの彼女の魅力。

さらにダンス。
静と動。止めるところはキッチリ止めている。
ダンスが好きなんだろうな~というのが凄くわかる。
何かウキウキして踊っている。

以上の点から、笠井日向のハイジには驚かされたし、衝撃を受けました。
「やってくれる!!!」
とひとり心の中で私がほくそ笑む感じ。
こんな感じになったのは、
過去に服部杏奈のアニー
富田麻帆アニー(モリー)、
小川亜美のアンの時かな?
それ以来の衝撃。

そして彼女のキャラ。
私はだいたい1993年から今まで長いこと舞台を観てきたけれど、
おそらく初めてのタイプ。
こんなキャラは見たことがない。
とんでもない子が出てきた。


大昔の死語で「新人類」というのがあったけれど、
彼女は「超・真・新人類」と言える。
他の子には真似のできない個性。
今後、どういう成長を遂げていくのか全く予想がつかない。

あえてひとつだけ、私が気になった点。
彼女は歌を歌う息継ぎの時に、あえて音に出している。
つまりは、ブレスの声が聞こえる。
クララ役の佐々野愛梨からはほぼ聞こえない。
これは、ハイジの元気の良さと、
クララの清楚なイメージの比較対象を意図しての演出なのだろうか?
ごめんなさい。私は気になってしまった。

じつはたまたま何かの番組で見ていたのですが、
平井堅が語るには「息継ぎ、ブレスも歌だ」とのこと。
たしかに平井堅の曲を聞くとわかりますが、
息継ぎの音が凄い。
そういう考え方もあるな~と思いました。
独特な歌い方、声、息継ぎ、
好き嫌いわかれます。
ただ、舞台だとどうなのかは今後の研究材料のひとつかも。

とにかくも、今回のハイジは素晴らしかった。
彼女の今できる全てを発揮してくれた。
それだけで十分に満足。
歌やセリフは、練習すればどんどん成長していく。
これからどれだけ変わっていくのか、
どれだけうまくなっていくのか、
その成長過程を楽しめる女優。
旬な話しに合わせれば、
のびしろある若手のオリンピック選手で「さらに4年後に期待」と言える。
今後も要注目の女優。

佐々野愛梨 クララ役。
私は初めて観劇。
雰囲気はクララのイメージにピッタリ。
箱入り娘で、本当にあまり外に出かけない雰囲気。
アニメのイメージに近いかも。
彼女も宣材写真より実物の方がかわいい。
おでこを出さない方が可愛いかな?
パッと見のルックスだと、田村花恋に似てなくもない。
表情の変化はあるけれど、コロコロ変わるというタイプではない。
そこであえてハイジとの対比を見せたのかもしれない。

演技、セリフ的には、ちょっとクセがあるかな?と思いました。
ただ、そこまでの違和感ではない。
すぐ歌に入るので、セリフよりも歌が多い感じ。

演技もさることながら、彼女は歌。
伸びがある歌い方。
癖が無く、透きとおる歌声。
ずっと安定していて、
聞き取りづらいと思うことは全くありませんでした。
まだ小6?これにもビックリ。

大人キャストは簡易的に。

小西博之のアルムのおんじは、
頑固そうだが優しいという雰囲気がピッタリ。

小林綾子のロッテンマイヤーは、正直、意外な配役。
真面目はともかく、
どうしてもイメージ的には優しい雰囲気がまとわりつきます。
きつい性格という部分、通常は感じないもの。
それをいかに自分のものにするのか、大変だったと思います。
きつくて、小うるさい中にも愛がある、
という感じのロッテンマイヤー。

ミュージカルとか、歌は初めてじゃないかな?
私は聞いたことがないのでビックリ。
かなり「頑張ってる」という印象。

天宮菜生のデーデ叔母は、自然体。
演技とは思えない、デーデ叔母そのまんまという雰囲気。
よどみようがない、おせっかい叔母さん。
私的にかなり良かった。

大橋忠弘のセバスチャンは、過去に何度も観ていますが、
ハズレがない。
というか裏のMVPでしょ。
お笑い全開で、やりすぎ感もあるけれど、
観劇している子供たちを飽きさせない要素のひとつで、とても重要。
みんな笑ってましたから。
率直に凄いと思う。

花原優香がペーターですか。
2009年7月のアンサンブルの時から印象に残っています。
今回は少年役だけれど、違和感なく演じています。
明るくて元気いっぱい。
男性的な動きもよく頑張っている。
表情付けも素敵で、とても魅力的。
過去の舞台だと、
ハイジやクララともうちょいからみがあった記憶があるのですが、
今回は少なめで残念。

入口寛子のペーターのおばあさんは、とても素晴らしかった。
ここは特筆していいと思う。
あの腰の低さも、演じる上では大変だったことでしょう。
セリフ、お婆さん口調もすばらしい。
声質的には若く感じるところもあるけれど、
老人の雰囲気は凄くかもしだしている。
そして歌唱力。
これは言うことないな~
老人がここまで歌えるのか?なんて野暮なことは置いといて、
聞き耳を立てるべき。
彼女の歌声で、
子供たちが生歌の素晴らしさを感じ取ってくれると嬉しい。
ハイジとの目が見えないことについてののやりとりは、
とても奥深かった。
ハイジの純粋さ、それを諭すように穏やかに語るおばあさん。
素晴らしいでしょ。

坂口さゆりのチネッテにはまいった。
ファニーフェイスで、表情がコロコロ変わって面白い。
おしゃまな感じで人懐っこい。
ゼーゼマン家の場面ではセバスチャンとチネッテがお笑い担当。
この二人が子供を飽きさせなかった要因でもある。
楽しかった!

総括
ファミリーミュージカルとして、物凄く楽しめました。
安定した王道な脚本だけれど、
大人キャストもさることながら、
ハイジの笠井日向とクララの佐々野愛梨の演技に集中できたことも大きい。
あらゆる世代に観てほしい、素晴らしいミュージカル。

(敬称略)
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