Seiren Musical Project「42nd Street」

満足度
公演時期 2014年12月24日→28日
会場 中目黒キンケロシアター
演出 守山真利恵
企画 近藤恵衣 山本海

あらすじ
ブロードウェイスターに憧れるペギー・ソーヤーは、
新作の『プリティ・レディ』のオーディションを受けに田舎町からやって来る。
が、引っ込み思案な性格が災いし、オーディションを受けるチャンスを逃してしまう。
偶然出会った出演者のビリー・ローラーやアン・ライリー(アニー)たちに助けられ、
オーディションを受けることができ、コーラスガールとしてカンパニーに加わることになった。
その一方、このミュージカルに、
プロデューサー人生の起死回生をかけているジュリアン・マーシュは、
公演のパトロン、アブナー・ディロンからのクレームや、
主演女優ドロシー・ブロックの秘密の恋人パット・デニングの存在などに頭を悩ませていた。
なんとか初日の幕が上がり無事成功かと思いきや、
ペギーがドロシーと接触し、ケガをさせてしまう。
怒ったジュリアンはペギーを首にしてしまう・・・
(公式サイトより引用)
観劇感想
FAMOUS組のみ観劇。

「Seiren Musical Project」は
「FAME」「シンデレラストーリー」に続いて、
今回で3回目の観劇。

まず思ったことは、この中目黒キンケロシアター。
愛川欽也と、うつみ宮土理がいろいろ配慮を重ねて作ったことだけあって、
観客にとっても非常に観やすい。
座ればすぐにわかりますが、まず深い。
グワッと、後ろまで背をもたれることができる。
固くなく、フワッと柔らかい座席。
座席と座席の間にかなり余裕があり、足元もゆったりと安心。
意味合い的には、高齢者に配慮した作りにも思える。
2人の気持ちが伝わってくる劇場。

さて本編。
この「Seiren Musical Project」は、基本、早稲田中心ではあるけれど、
他のプロの舞台、演劇集団と全く遜色ない実力ある団体。
チケットがすぐに売り切れになるのもわかります。

今回の「42nd Street」は1930年に作られた原作のようですが、
海外ドラマ好きの私から言わせてもらうと、
スティーブン・スピルバーグが製作総指揮を務めた「SMASH」のよう。
出演者、脚本、演出、音楽監督、振付、プロデューサー、
舞台を作り上げる上での確執、葛藤、恋愛、劇中劇等、
いろいろな要素がこの「42nd Street」にも入っています。
もしかしたら、スピルパーグもこの原作が元になっているのかも?なんて思ってしまうほど。
最近のアメリカのミュージカル、舞台もそうですけど、
古くても不変なものは、リバイバル作品として有効。

話の流れは、あらすじに書いているように、
とあるオーディションにギリギリで間に合わなかったペギー・ソーヤーが、
みんなの力を借りてなんとかアンサンブル最後の枠ですべりこむことに成功。
厳しい稽古の末、ようやく初日の幕が上がる。
ところが、主演女優ドロシー・ブロックとペギーが接触してしまい、
ドロシーはケガをしてしまう。
怒った演出家がペギーを即座に首にするが、主演女優の代わりができるのは彼女だけと、
出演者やスタッフに諭され、再び彼女を呼び戻し、主役へと大抜擢をする。
しかし、次の本番までは36時間しかない。
その間に、セリフ、演技、ダンス、歌、表情、心の動き等、全てを叩きこまなければならない。
厳しい指導による、体力の消耗、対立、焦り、そして絶望。
「もう無理」そう思ったペギーの元に現れたのは、
敵対していたドロシーであった・・

こんな流れです。

まず今回の舞台の脚本として、直接的に人をあまり傷つけない。
暴行シーンはありますが、そこまでひどくない。
もちろん、殺人も、自殺もない。
これが無いゆえに、安心して観られる。
舞台での表現の自由も大事だけれど、
客層等を考えた場合、こういう表現もいいと思う。
後味が悪くない。

デメリットとして、逆境を抜け出す、大きな感情、
人としての精神的な大きな変化というものも望めなくなってしまいます。
舞台上の強弱の差が少ない。
そしてそのデメリットをメリットに変えるものこそ、
アンサンブルから主役に抜擢される、ペギーの心の変化。
これが大きく重要性を増すことになる。

個々の主要キャラクターは性格付けがしっかりしていて、
観ていてわかりやすかった。
登場人物が多くても、ひじょうにわかりやすい設定。

もともとがこういう演出なのかわかりませんが、
舞台からはけた役者が、両脇でスタンバイしている。
待っている?
見守っている?
そもそも劇中劇?
こういった演出は新鮮。

演出家のジュリアンが、裏でいろいろ工作をしているところを観ると、
怖い世界だな〜というのが、もうひとつのテーマかな?

グループ二分しての対立ではなく、あくまで個々がメイン。
グループ所帯のミュージカルナンバーもあったけれど、
ほとんど記憶にないぐらい。
個々のソロの部分が印象に残っています。

観ているとわかりますが、ペギーの出番、1部は意外と少ない。
主役なのにこの出番の少なさは?と危惧することなく、
2部後半は女優ドロシーの代わりとして、ダンスや歌が集中。
その為のセーブだということが理解できました。

ペギーが誰かに推されてドロシーに怪我をさせることになるところは、
犯人探しとか、友人の妬み、裏切りとかがあるのかと思いきや、
特に何もなく進行してビックリ。
ここはけっこうあっさり。
二回観ると、本当の理由がわかるのかな?

気になった出演者は・・・

佐藤まりあ ペギー・ソーヤー役。
正直、この役にピッタリだと思う。
派手さの無い、田舎のポっと出の少女が、アンサンブルから主役へ。
ここでいきなり超美人の役者だと、違和感ありありですから。
観客の感情移入を舞台に集中させるためにも、この配役は素直に良かったと思う。

思えば、葉っぱのフレディ−2006年「TRUE PRESENT」2006年から観ていますが、
彼女がここまで成長するとは、夢にも思いませんでした。
実力はあっても、主役はどうかな?と、私でも思うくらい。
それが前回の「シンデレラストーリー」に続いての主役。
いかに努力をしてきたかがわかる。
今、子役で活躍している、脇役に近い小さな女優たちにも希望を与えている・・・
なんて大げさではあるけれど、それぐらい子役から大人の女優への成長ぶり。

「シンデレラストーリー」よりも、さらに歌唱力がパワーアップしているのわかる。
相当な歌声。ダンスも素晴らしいと思う。
そして、えこひいきなく、アゴのラインや、ウエスト、太もも、細く引き締まっているのがわかる。
これだけでも、どれだけ稽古を積んできたかがわかるもの。

途中途中、驚く際に出てくるブリッジ。
これは彼女特有の演出かな?
ダブルキャストの相手チームRICHを観ることができなかったので、
比べることはできませんが。

地味で奥手だった彼女が、演出家に淡い恋心を抱き、
演出家もそれを知ってか知らずか、
その感情を利用しての恋愛をしている演技の指導。
感情を高めるための抱擁。
この演出は凄く良かった。
もちろん、二人の演技も。

セリフ回し、か弱い演技は元々うまかったけれど、
劇中劇の気の強い演技になりきる場面、
ここは、ミュージカル プリンセス・バレンタイン2のロキシー役の経験が活かされた・・・
ような気がします。
いろいろな性格の役を経験したことは、こういう場面で効いてくるんですね。
髪をおろして赤いドレス姿で演技をする姿は、かなり情熱的な演技に変わります。

飯嶋あやめ アン・ライリー(アニー)役。
飯嶋あやめとも、観劇としては付き合いが長い。
GANG(2005年12月)からですか。
近年だと、私の場合は森は生きている 2009年かな?
そもそも、もう大学生になっていることに驚き。

まず思ったことは、前述している佐藤まりあもそうなのだけれど、
子役の時から、見た目の雰囲気がほとんど変化していないこと。
これは本当に驚く。
あのまんま成長した感じ。
これって、親の教育、しつけのせいなのか、
本人によるところが大きいのか、本当にわかりません。
子役時代と、まるっきり変わる子もたくさん観ているので、
人それぞれなのはわかりますが、
ここは本当に不思議。謎。

飯嶋あやめは目立つ。とにかく目立つ。容赦なく目立つ。
ま〜かわいいもの。
あの三日月瞳のニコニコ笑顔は、昔とちっとも変わらない。
あの笑顔でダンスをするんですよ?目を引かざるをえない。

このアニー役は、最初は少し嫌な意地悪女?を演じていました。
ただいかんせん、飯嶋あやめはその可愛らしさと、ニコニコ笑顔、
その性格の良さが雰囲気から感じとってしまうためか、
全く意地悪には見えないところがたまにキズ。
しかも、いつの間にか、ペギーと普通に友人と化してましたからね。

1部も目立つのですが、2部も目立ちます。
劇中劇、最初のOPは彼女のナンバーですから。
しかもウエディングドレス姿。
誰が主役なのかと(笑)
そうは言っても、ほんと彼女は演技も歌もダンスも、そつなくこなすんですよ。
目をひくのもいたしかたない。
キャバレー衣装?の網タイツの場面は、大人の魅力と言うよりも、
ジュニアアイドルと化している感じ。

あらゆるところで、目立つ女優なのだけれど、
正直言って、まだ子役の域を脱していない。
全てがジュニアレベル。
それが抜けきれないまま、いつもの感覚で演じている感じ。
それを強く感じました。
子役あがりではない役者もたくさんいるので、そことのギャップが見え隠れする。
まっ、まだ大学1年生なので、3、4年ぐらいたってから、
大人の雰囲気を身につけてほしいところ。
と思う私もいれば、このままでいいと思う私もいる。

小野実咲季 ドロシー・ブロック役。
私的に凄く良かった思う。
実力がありつつ嫌な女という、あの気の強い性格の演技。
普通に海外ドラマでも出てきそうな雰囲気。
目の配り方、表情付け、そして歌唱力も十分。
普段の雰囲気とは違う、パットのことが好きだという部分の対比も非常に良く出ていた。
この舞台で、彼女の存在は非常に大きい。

金子進太郎 ジュリアン・マーシュ役
ある意味、裏の主役とも言える。
率直に言って素晴らしい。
この役自体を良くつかんでいると思う。
相当作り込んだでしょ。
演出家という役の演技、存在感、申し分のない出来ばえ。
失礼ながら私の解釈でいうと、「劇団キャラメルボックス」の俳優にいそうなタイプ。
さらに彼は歌唱力もありますから、恐れ入る。

佐藤まりあを抱きしめることによる、かけあい、駆け引き、
その奥深い心の演技も私も伝わってきました。
また、観客を背にして、出演者たちを説得する場面、
彼の背中の演技も良かった。
背中で演技するのは大変ですから。

瀬下喬弘 ビリー・ローラー役
安定感ありすぎて、普通にうまいと思う。
歌唱力も素晴らしいでしょ。
女たらしで、共演者食い?のような気がしないでもないけれど、
普通に歌っていれば二枚目で、普段はやや三枚目に近い部分の演技もいい。
演技が良過ぎて、普通にスルーされてしまう。
最後まで空回りな感じで、ビリー自体、けっこう可哀相(笑)
まっ、本人はそう思ってないでしょうね。

加藤彩 マギー・ジョーンズ役
「シンデレラストーリー」ではチュウ之丞でかなり印象に残っています。

雰囲気的に、ストーリーテラー的な感じもするのだが、
全くそうではない。
言葉の言い回しが独特。
申し訳ないけれど、ちょっと違和感があった。
浮いている気もする。
個性を出し過ぎかな?

伊藤友惠 ナタリー役。
基本、ピアノ役。なかなかかわいい。
ピアノだけでなく、ダンスシーンでも登場する。
そのダンスも見応えありました。
スタイルもいいし、意外と色気あります。
表情で男は騙されそう。

柴田桃加 レベッカ・リー役
雰囲気そのものからして、ダンス指導者。
パッと見で、そういうことがわかる第一印象は重要。
観客もすぐに把握できるし。

櫻井汐里 ロレーヌ・フラミング役
主要キャストの中だと、かなり目立つ存在。
端正なルックスが目を引く。表情もいいですし。
これは言うまでもなく「華」がある。
それにつけて、あの抜群のスタイル。
ウエストの細さだけでなく、手足も細長く、印象度が半端ない。
おそらくクラシックバレエをみっちりやっていたであろう、背筋の良さ。
背筋がピン!としている。
ダンス力も当然あります。

ロレーヌの性格がイマイチ理解していないのだけれど、
演技は安定していた。
ま〜間違いなく今後出てくると思う。
男性観客は惚れること間違いなし。
初めて観た役者の中では一推し。

宮本佳卓 パット・デニング役
ドロシーが本当に好きな彼氏ということで、
どんな役を演じてくると思ったら、けっこうホワッとした感じなんですね。
なるほど、気の強いドロシーにしてみると、
こういった男性の方が好みなのか、と深読みしてみる。

濱野誉 アブナー・ディロン役。
いかにも金持ちのボンボンという、ありていの役柄ではあるのだけれど、
個性的な面白さもあって私は好印象。
ドロシー好きでに肩入れするけれど、切る時は切る。
お金持ちは、嫌なら他の女優に投資先を変えますし。

杉本峻 バート・バリー役
ちょっとおどけた役かな?
歌唱力もありますね。
役的に「ミュージカルアニー」のバート・ヒーリー的なオマージュか?
どっちが先かはわかりません。

アンサンブルのメンバーの中では、北條詩織が一番目につく。
異常に印象に残る。
スタイル抜群の体の線の細さ。小顔のルックス、華やかさ、
記憶に残らないわけがない。
舞台関係者もそれを察知してか、医者役や、男性役(?)やら、
けっこう地味に出演シーンが多い。
まだ緊張している表情や、平衡感覚のバランスの不安定な部分もあるけれど、
期待度はかなりあるでしょう。
見た目がちょっと大人っぽいので、年齢が気になるところ。
あえて言うなら、飯嶋あやめと逆で若さがほしい。
ただ、非常に面白い存在。

総括
舞台好きでも、一般の人でも、普通に楽しめる舞台。
新進気鋭の若い俳優が多いので、見ていて元気をらもらえます。
それでいて、出演者のレベルが高いですから。
今回の舞台は、前述したように海外ドラマの「SMASH」のように、
舞台好きが見るとさらに楽しい舞台。
佐藤まりあの成長の変化、小野美咲季の気の強さと歌唱力、
飯嶋あやめの笑顔と、見どころいっぱい。
極端に大きな感情の揺さぶりの変化はないけれど、
上質な舞台なので、一般の人にも本当におすすめ。

(敬称略)
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