Seiren Musical Project 29th 「FAME」

満足度
公演時期 2013年2月28日〜3月4日
会場 品川・六行会ホール
企画 藤田悠平 助川紗和子
演出 阿部義嗣
翻訳・訳詩 芝田未希

あらすじ
舞台はニューヨークの芸術学校。
ダンス・演劇・音楽のスペシャリストを育成する名門校
「High School for the Performing Arts」
の難関オーディションを突破した各学科の新入生が、
期待と不安を胸に夢への第一歩を踏み出そうとしていた。

4年間の学生生活を通して、成長していくストーリー。
(パンフレットより抜粋)
観劇感想
あらすじ的には、
ニューヨークの芸術学校に新入生が集まる。
→自意識過剰とも思えるほど積極的、自信に満ちあふれるカルメン、
地味でおとなしいセリーナ、
元は子役の出で、それを払拭するために努力で入学したニック、
三枚目的お調子者のジョー、
気品あふれるお嬢様のアイリス、
頭はイマイチだがヒップホップは天下一品のタイロン、
食べる事大好き、ちょっぴり太めのメイベル、
おぼっちゃま育ちのシュロモ。
→セリーナはニックのことが気になるが、なかなか二人の関係は進展せず。
→タイロンの勉強の出来の悪さを主張するシャーマン先生。
それに対抗し、ダンスの秘めたる才能を伸ばすべきと主張するベル先生。
タイロンには、とある秘密があった。
→シュロモ、グッディ、ラムチョップスの3人でバンドを組む。
→そこにカルメンが現われ私も・・・しかし、結局は参加せず。
→カルメンの積極的な行動に心奪われるシュロモ。
→ロミオとジュリエットの演目。
ジュリエットにセリーナ、ロミオにまさかのジョー。
→結局ニックがロミオを演じることとなり、セリーナとの仲が深まる。
→カルメンが学校を辞める。
→数カ月後、カルメンが学校に現われるが姿はボロボロ。
シュロモが一文無しになったカルメンにお金を渡すが、
その優しさにふれ、カルメンは・・・
こんな流れですね。

REDチームのみの観劇。

大学の1サークル、
アマチュアの集まりとはいえ、
舞台に上がる以上、全員が舞台役者。
観劇感想は否応なしに書きます。

六行会ホールは何度か行く機会がありながら、
予定が合わず、今回が初めて。
観客席も多いし、舞台も広く、特に奥行きがあってビックリ。
この会場で舞台ができる環境があると言うのも、
ひとつのステータスでしょう。

ちなみに余談。
トイレで手を洗う際、
赤外線で勝手に水が出るものと思ってずっとかざしていましたが、
となりの人に「手で回すんですよ」と言われて恥ずかしかった・・・
あの形からして、
普通に赤外線によって自動で出てくるタイプかと思ってしまいました。
以上。

ミュージカル「FAME」は映画版、
さらには各国で舞台化されている作品。
オーソドックスに個々のキャラクターにスポットが当たる脚本、
ダンスナンバーもしっかりしていて、
ハズレがないな〜という印象。
ひとりひとりの個性があると、
物語としては当たり前のことながらわかりやすい。
学校生活が主体ということもあって、
大学生が演じるにはうってつけ。
エンターテイメントとしては完成されています。

全体的にまず思ったことが、
出演者のルックス、体格、そして雰囲気。
大学生にしては、すごく成熟しているイメージでした。
昔・・・になるかわかりませんが、
前も似たような年齢の方が出演している舞台を観た時は、
もう少し、子供っぽい印象がありました。
それに比べると、脳内再生ですが「大人だな〜」という感じ。

良い意味で、みんなすごく大人びているけれど、
逆に言うと、若さが足りない。
もっとピチピチかと思ったら、そうでもない。
食べ物のせいか、環境のせいかわかりませんが、
体の骨格や内蔵等もアメリカ的になっているのかな?
と思いました。

パンフレットをいただきましたが、
キャストの写真を見ると、なんとなくアゴをひいている人が多い。
ということもあり、意外と舞台上の役者と写真の一致が難しい。
静止画と動画が違うのはよくあることですけれど。
でも、見映えは商業演劇であれば重要ですからね。
たかがパンフレットの写真だけれど、
一番良い部分を見せるのは当然。

それと似た感じですが、
今回の出演者を見ていると、みなさん白いが歯が眩しい。
そして歯並びもとても綺麗。
こういった部分においても、
舞台役者としてしっかりケアをしているのがわかります。
よくアイドルの卵も、
事務所から言われて自費で治す方がいますからね。
だいたい自費。
しかも歯の矯正や治療代はピンキリで、値段の幅がかなりあります。
芸能界で生き残る為とはいえ、悩みどころではあります。
自分の夢のためにお金をかける。
人それぞれのお金の使い方。

私的に、さまざまな人種、国籍の生徒がいるので、
もっと差別的なことがあるかと思いきや、
そういう脚本ではないんですね。
「海外ドラマ」ばっかり観ている私ですと、
アメリカは意外と差別的なことをガンガン訴えかけてきますから。
日本は様々な理由から、
あまり突っ込んだことはできないのでしょう。
テレビドラマでさえできないもの。
昔の偉大なる脚本にツッコミを入れても仕方ありませんが。

この舞台では4年間の時間経過があるのですが、
なんとなくはわかるものの、
ちょっとした時間経過がわかる演出があってもいいかな?
観客に媚び過ぎるのはよくないけれど。

それから、シュロモ、グッディ、ラムチョップスの3人が、
せっかくバンドを組むことになったのに、
その進展がよくわからなかった。
バンドが結成されて、歌があると本当はよかったな〜
脚本的にはもっと脹らませることができたと思いますが、
上演時間のことも考えて、泣く泣く削除したのかな?
この3人とカルメンの関係はもっと観たかった。
というか、三角関係なり、四角関係があっても面白いと思う。
ラムチョップの扱いがもったいないので、どうしてもそう思ってしまう。
グッディだって、もっと活かせるキャラ。

オープニングのミュージカルナンバーは本当に見事。
最初のツカミはOK!という感じで、
観客に期待感をもたらします。
ここでの「入り」で、観客は舞台に集中できます。
なんとなくですけど、「春のめざめ」的な感じでもありますが。
こちらが後ですけどね。
ま〜この時点で、すぐに「劇団四季」っぽいことが、
わかる人にわかりますが。

性的表現・・・かなりやんわりとはしていますが、
これもまた「春のめざめ」的なものかな?
私は観ても特に驚きませんが、
観客層によっては受け止め方がいろいろあるでしょう。

カルメンは、「薬」のキーワードが出てきた時点で、
とあるフラグは予想できました。
あの流れは仕方ないでしょう。
そして、あれをエンディングにもっていかずに、
卒業エンディング。
カルメンをシュロモ脳内での神格化。
一番無難ですよね。

セリーナの、ジュリエット役に目覚めるシーンは面白い。
愛するニックが、もしかしてゲイ?
そう思う心苦しさ、悔しさ、怒り、悩み・・・
「この感情がまさにジュリエットにあった葛藤なんだわ!」と開眼。
面白すぎ。
まさに、マンガ「ガラスの仮面」の「奇跡の人」で、
ヘレン・ケラーを演じる北島マヤと姫川亜弓が「ウォーター」の演技において、
「水風船」と「電気ショック」から得たものに似ていました。
この演出は大好き。
しかも北川理恵の演技ですから、たまらないでしょ、ここは。
私的に名場面のひとつ。

シャーマン先生とベル先生のナンバー。
ここはプロなので言うことないんですけど、
楽しい。
じつに楽しい。
他の部分は目をつぶっても、
生徒の活かせる才能を伸ばすべきという主張と、
世の中に出て物事の分別を教えることこそが大事という主張。
それぞれに正しいし、怒りにも似た熱意ある討論。
ここは本当に素晴らしい。

そして、そのタイロンは、今後がもの凄く心配になる。
いくらダンスがうまくても、頭が、というのはつらい。
昔の落語か何かでありましたが、
打てばホームラン、投げれば160キロという野球の選手をスカウトしたいが、
なにぶん頭が弱く、野球のルールを覚えられないから断念した。
そん感なじですからね、このタイロンは。

この舞台、パンフレットの序列でもわかるように、
本来はカルメンが主役だと思います。
ただ、こちらのチームはセリーナ役が北川理恵
申し訳ないのだけれど、こちらは彼女が主役でしょう。

同年齢で他にもいろいろな役者、女優がいるけれど、
彼女は群を抜いていると勝手に思う。
あまりにも違い過ぎる。

雑談で申し訳ないけれど、
観劇中、後方の女の子たちが、前半で、
「おさげ髪の子、うまいね」
後半が終わると、
「あの子凄かったね」

いやいやいやいやいや、
私は正直そこでツッコミたかった。
「レベルがダンチなんだよ」と。
「機動戦士Ζガンダム」のライラ・ミラ・ライラなみにツッコミしたかった。
それだけ尋常ではないレベル。

彼女の歌唱力は、現時点でも超ハイレベル。
一般素人レベルの聴覚では、非の打ち所がないほどに思えてしまう。
でも、私は他の歌唱力に自信がある女の子も観ているので、
(実名をあげると、小林風花。彼女も負けず劣らず凄い)
じつのところ、今回は歌唱力よりも演技力に惹かれました。

プリンセス・バレンタインで破天荒な性格の役もできれば、
地味で大人しい役も難なくこなす。
集中の極致。
どれだけ自分を追い詰めてこの役をものにしたのか、
切羽詰まるものがあっただろう・・・なんて妄想してしまうぐらい。
このセリーナ役は完璧。
そう言わざるをえない気迫だもの。

ちなみに、オープニングのナンバー、
彼女は静かで奥手なセリーナ役のまま歌っています。
セリーナが4年の間に成長する時間経過、その成長の演技も、
彼女はこの舞台で表現。
1回の舞台で4年間を演じ、そしてまた1年に戻る。
もちろん、他の役者も同じ経過で演じますが、
北川理恵のセリーナ役は、一番いろいろと変化しますからね。
わかりやすいと言えば、わかりやすい。

彼女の場合は、アイドル性をもった、
超美少女的なルックス・・・というわけではない。
失礼ながら。
ただ、役に入り込むと、
通常の倍、いや3倍以上に可愛く見える。
観客の心を引き込む演技が、それを可能にしているのだと思う。
そりゃ、いろいろ方が彼女を起用したくなりますよ。

それから、北川理恵の魅力は歌っている時の表情。
ここが物凄く魅力的。
当然、歌唱力抜群なので歌に聞き惚れるのだけれど、
それに加えての表現力が素晴らしすぎる。
海外ドラマの「glee」を見ている人ならわかりますが、
若さ+歌唱力+表情付けのこのトリプル。
ここが魅力的なんですよね。
日本のミュージカルでさえ、
表情の表現力はなかなか海外に及ばないところがある。

ある意味、北川理恵の表情の表現力はアメリカ的。
ただ歌詞の意味を理解して歌うだけでなく、
表情にして演技をつけて歌うこと。
まさにミュージカルナンバーの王道。
これを身につけるのは、並大抵の努力では難しいけれど、
彼女はそれを体現している。
そして、さらに成長を続けている北川理恵という女優を見ないで、
誰を見るの?って話。

これから舞台女優を目指そうと思う子は、
とにかくも、まずは彼女の出演する舞台を観るべきだと思う。
テレビに出演している役者とは別次元、
生の迫力の演技と歌、
今回はそこまでソロのダンスは無かったけれど、
彼女の舞台女優としてのパフォーマンスの高さを感じてほしい。

その他の気になった役者は・・・

カルメン役の高松舞
あくまでどちらかというと、演技の人だと思います。
歌やダンスも頑張ってますけど。
それから、別に細かいことを言うわけではないけれど、
後半、疲れた為かわかりませんが、
少し早口になると、舌なめずりな部分が聞きとれました。
最初はそこを気をつけて、特に違和感はないのだけれど、
何かのきっかけで、そいうった部分が出てくるのかもしれません。
本当にささいなことだけど。

演技は好きですね。
荒れている部分、高飛車、ナーバス、自己中、
悪い方向、悪い方向に行く流れが演技から観てとれました。
表情付けもすばらしく、カルメンという役作りはものにしている。
誰が観てもカルメンそのもの。

シュロモに対するちょっとした優しさを見せる部分も、
この舞台ではとても重要な部分。
後半は、結局そのシュロモの優しさが裏目に出てしまうという、
ちょっと悲しいものがあります。
学生の発表会レベルであれば、彼女の歌声で文句ないのだけれど、
相手が北川理恵ですからね。
観てる方も辛口論評になってしまうのはつらいところ。

ニック役の岩橋大は、セリーナの彼氏役として頑張っていたと思います。
特にふたりのナンバーがありますからね。
北川理恵を相手にして、本当に頑張った。
ま〜大変ですけど。
彼はオープニングの時から、青のチェック柄の服を着ていて、
よく目立っていました。
セリーナが惚れるのもわかる。
ある部分において、感情移入できるルックスは重要だと思う。

グッディ役の伊藤広祥は、
一番最初のオープニングでも印象的。
かなり目立っていました。
ものすごい元気の良さ。
ただ、いざ舞台が始まって見ると、
独特な役でビックリ。
オープニングのキャラと、
私はちょっと違ったように見えてしまいました。
演技的には面白い。
あくまでオープニングの格好良さからの・・・という感じで。

アイリス役の敷波美保はかわいい。
これは美人。
ちょっとお高くとまって、お金持ちで、ツンケンしている・・・
というわけではない、とある過去を持つアイリス。
演技的もいいし、雰囲気もピッタリでした。
私的に髪の毛をアップしていることが多いので、
ちょっと違和感あるけれど、本当は下ろした方が可愛い。

ただ不思議と目立つ役なのに、そこまでのインパクトはない。
タイロンといる時は、タイロンの癖が強いし、
カルメンやセリーナが出てくるとキャラが霞むせいかな?
特に思ったのは、歌うシーンがほとんどない。
最後の方ちょっとだけですよね?
下手ではなかったので、舞台の脚本上、仕方のないことではありますが、
彼女が歌う場面がもっとあったとしたら、印象は違うでしょうね。

シュロモ役の清澤貴光は、
言い方が変で申し訳ありませんが、
きれいな博多大吉。
まずそれが頭に浮かびました。

背が高く、ホワッとした雰囲気が、
いかにも世間知らずで甘やかされて育った、お坊っちゃまな感じ。
その部分は抜群。
歌唱力はこれからでしょう。
ただ、全くもって別件ながら、
こんなシュロモが本当にカルメンを好きになるかな〜?
という疑問は正直あります。
恋愛は何が起こるか神様でもわかりませんけど。
ま〜それだけ女性に対しての免疫力が無い、
お坊っちゃまだったということでしょう。
だから、最後の最後までカルメンの心の揺れ動きに気づかなかった、
というのも考えられます。

タイロン役の田川雄理は、
ハッキリ言って、やっぱりカツゼツ。
セリフがわからないと、観客に伝わらないもの。
でも、それにも増して、私が気になるのは、ラップ。
歌がイマイチな人は、ラップになるのは大昔からよくある話。
だからこそ、ラップは頑張ってほしかった。
カツゼツ抜きにしても、ラップはきちんとしてほしかった。
ここは次回から切なる願い。
と、ツッコミ多いですけど、
タイロンの独特の雰囲気は嫌いじゃない。
メインキャストの中でも、じつのところかなり重要な役回りで、
性格的にも難しい役。
いろいろと複雑ですし。
それを考えれば、
演技の雰囲気としては独特の感性で演じられたと思います。
ドレッド・ヘアー?って言うのかな?
あれも似合ってました。

それから意外と体の線が細いことにも驚く。
腕の部分なんて、となりにいるアイリスとあまり変わらないほど。
「グラップラー刃牙」のジャック・ハンマーのように、
そもそも鍛えてもあまり筋肉がつかないタイプなのかな〜?
なんて思ってしまうほど。

ジョー役の橋本薫は、三枚目的な役柄。
簡単に見えて、こういう役柄は本当に難しい。
たまに本人が緊張している部分が見えてしまうところもありましたが、
全体的には良かったと思います。
おちゃらけた雰囲気も、よくかもしだしています。
特に自分の秘密の過去を、先生や友達に赤裸々に話してしまうシーン、
私は秀逸だったと思う。
観客席にも、かなりの緊張感が走りました。
先生をも手玉にとるジョーの演技力は、
もしかしてナンバーワンかも。

不良が勉強する姿と、
ガリ勉が勉強している姿とでは、
不良の方がより勉強しているように見える。
「魁!!クロマティ高校」でありました。
だからこそ、普段三枚目役の人が真剣な演技をすると・・・に思えてしまう。
じつは先生はそれを見抜いていて、
嫌がらせ的なロミオ役抜擢なのかもしれません。

メイベル役の谷中しおりは、海外ドラマ「glee」でいうメルセデス的な役割。
太っちょで、食べ物が好きで、歌がうまい、というのも全くそのまま。
どちからとういうと皮肉屋タイプで、目立つ役ではないけれど、
ソロナンバーもあり、彼女の歌声もいい。

アンサンプルとして、佐藤まりあが出演していました。
久々。
胸を強調した衣装だし、色気も本当にでてきた。
もともと昔から瞳パッチリですから、彼女の場合は。
舞台でもよく目立つ。
ルックス自体は、子役時代とほとんど変わりません。
パンフレットなんて、高一でも通用するくらい。
ま〜まだアンサンブルなので、これから。

じつはもうひとり気になったアンサンブルの人がいます。
山本有祐子
彼女はアンサンブルの中でも相当目立つ。
髪形のせいか、パンフレットの写真より、
実物のほうが目鼻立ちがいい。
スラッとしたスタイルで、どちらかと言えばダンス系かな?
けっこう目立ちました。
そのわりに、独特なキャラ設定もされていて、
アニメ声で「ニャハハ〜」みたいな声質でした。
今後ではあるけれど、伸びていく予感がします。
私は面白いと思う。

総括
エンターテイメントとして、普通に楽しめる舞台でした。
アマチュアとは思えない、学生たちのパワーも物凄い。
それに輪をかけて、北川理恵のセリーナ役が凄かった。
かつて、小川亜美が主役を演じた「赤毛のアン」を彷彿させるほどの、
北川理恵の秀でた演技力と歌唱力に脱帽。

(敬称略)
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