公演時期 | 2013年10月23日(水)→28日(月) |
会場 | ザムザ阿佐ヶ谷 |
演出 | 原田光規 |
脚本 | 小森義大 |
舞台監督 | 中野佑 |
音響 | 権藤まどか |
照明 | 中島一(RIZE ONE) |
美術案 | QR8C 743 |
協力 | サンズエンタテイメント、プリーモ |
協賛 | (株)スターク グローイングアカデミー |
あらすじ |
目覚めた場所は、今はもう存在しないはずの父の実家の居間だった。 呆然とするプロ野球選手の長篠隆。 「特別なテレビ」のあるその居間で、食卓を囲むのは やはり今は亡きはずの、長篠家の面々だった。 彼らが憂う「一族の危機」は、隆の妹・皐月に関することなのだが・・・。 思いがけず二つの世界を行き来することになった隆は、 長篠家の運命を背負い、行動を開始する。 (公式サイトより引用) |
観劇感想 |
スタークコーポレーション主催 初回公演。 Bチームのみの観劇。 休憩無しの約2時間。 まず思ったことは、とにかく脚本がいい。素晴らしい作品。 チラシの正面に「私たち、生物として変なんですかね」 というコピーがありますが、これがじつのところ本編に通じるものがある深さ。 話の流れは、 →プロ野球選手、長篠隆がバッターボックスでデッドボールを受け、意識不明。 →気づくと、昔住んでいた家にいてお茶の間には、死んだ家族が食事をしている。 →家族は幽霊。魂のため、見た目は自分が一番充実していた時の若さのまま。 →子供の時に亡くなった卯月は大人になった自分を想像できず子供のまま。 →長篠隆はまだ完全に死んではおらず、生き返る可能性もある。 →テレビがあり、生きた血縁者がいればチャンネルを回して見ることができる。 →現状、妹のチャンネルしかなく、祖母からなぜ遺伝子を残さないと怒られる。 →その妹を早く結婚させ、遺伝子を残せと祖母に言われて困惑する隆。 →しぶしぶ昏睡状態にある自分の病室に向かうと、幼なじみの北原純平がいる。 →北原純平もプロ野球選手だが、ずっと二軍暮らしであった。 →じつは北原純平は幽霊を見ること、会話もでき、長篠隆の存在も理解できていた。 →妹のことを頼もうとする隆であったが、すでに妹には瀬川勝治という彼氏がいた。 →ただ、隆は瀬川のことをあまり気にいらないため、なんとか北原に頑張ってほしい。 →そんな中、隆の恋人であった扇原唯も見舞いに訪れる。 →亡くなったことにもサバサバしていたが、マフラーを編んでいるという一面も。 →兄の彼女である扇原唯のことを、妹はあまり好いてはいなかった。 →誰よりも兄を思っていたのは、何よりも妹の皐月であった。 →金持ちでエリートであったはずの瀬川には、じつは借金があった。 →兄が亡くなることで、遺産がころがりこむであろう妹の皐月に近づいていた。 →二軍暮らしであった北原純平にもチャンスが舞い込み、 一軍への切符がかかった打席に向かう・・・ こんな感じです。 基本はアットホームなストレートプレイ。 「ザ・ホームドラマ」という感じ。 出演している役者さんも、みなさんプロなので、 私は特に言うことありません。 今回の舞台、1階と2階がある演出。 2階は現実世界での病院。 1階は「あの世」ではあるものの、長篠隆の家族がいるお茶の間。 特に「お茶の間」で幽霊たちが繰り出すホームドラマが懐かしい。 幽霊話というSFチックな話しなのに、普通にヒューマンドラマ。 役者がしっかりしているせいもあるけれど、じつに舞台に集中できる。 全く飽きがこない。 ポツポツと小事件があるので、細かな変化があって楽しい。 それが飽きさせない所以でしょう。 主人公の長篠隆はプロ野球選手で、 デッドボールを受けたために昏睡状態となる。 その為、まだ「死」ではないものの、 死後の世界で亡くなった家族と出会うことになった。 この死後の世界が、昔の茶の間の団欒風景。 この演出も良かった。 ほんわかしている雰囲気は楽しい。 懐古主義ではないけれど、ノスタルジックに浸るのは、 テレビドラマでも映画でも同じでしょうね。 だから、昔の話しの方に親近感がわいてしまう。 祖母が発する、遺伝子を残せ発言。 いまさら感もあるけれど、その気持ちも痛いほどわかる。 さらにこの舞台の場合、テレビがあるのですが、 そこに映る映像は血縁のみ。 ひとりしかいなければ、チャンネルはひとつ。 ふたりいれば、もうひとつ違うチャンネンルの映像を見ることができる。 つまり途絶えてしまうと、死後の世界にいる人々は、 自分たちが見る楽しみが無くなってしまう。 これもけっこう深い内容。 先祖が自分を見守っている、という逆の解釈もとれますね。 さらには、家族愛は当然として、幼なじみとの友情。 そして、妹の兄を愛する思い、逆に妹だけ残して死んでしまった兄の苦悩、 妹が幸せになってほしいと思うところに、その彼氏の性格の不都合さ。 自分はまだ死んでいないため、毎日面会にくる妹の体を心配するあまり、 自分を死なせたくなる思い。これは安楽死への意味合いにもとられる。 じつに様々なテーマが含まれています。 家族愛のテーマとしては、看護婦、湯島梓役の金田彩花。 最初は普通の看護婦なのだけれど、 皐月が看護婦が結婚をしていること知り、子供の話しになった途端、 話しが急変。 スマホを持ち出し、双子の写真を見せ、 さらには運動会のリレーや、玉入れの動画を見せられる始末。 ここのコメディチックな場面は凄く面白かったです。 この時の桐原真奈の表情とか、セリフのタイミングとか、じつにうまい。 コメディをよく研究している。 看護婦のとんでもない親バカ話しを、面白く引き立てています。 やっぱり「間」は大事。 ちなみに、この場面、「子を産み、子を愛すのも恋愛」というセリフがあり、 皐月も感心します。 「子供は裏切らない、いつも一緒」 ま〜そうは言うものの、ある程度年齢を重ねると、親離れするでしょうけど。 それまでの恋愛という感じかな? こういうテーマも、スッと入れてきますからね、この脚本。 じつにうまい。 最近の傾向かはわかりませんが、 舞台のタイトル名が「キー」で、そのままセリフで締める手法。 最近流行っているんでしょうか? かなり前から「キャラメルボックス」が良くやっていた感じかな。 この舞台、エンディング的にいうと3段落ち。 厳密にいうと、2回と、最後は後日談。 ちなみに大きなお世話ながら、1回目と2回目のエンディングは予想できました。 流れ的に、そんな感じかなと。 一筋縄ではいきませんからね、この舞台。 そして、途中、祖母の長篠弥生がひっそりと退場。 輪廻というわけではないけれど、 遺伝子がとりあえずは保たれた為、あの赤ん坊に・・・ という解釈もできます。 最後は家族が見守る中でテレビでの出産シーン。 よく考えると、そもそも血縁者の姿を見る視点は、 俯瞰なのか、本人の視線なのかは、難しいところ。 どの位置にカメラがあるのか?という、ま〜おとぎ話でしょうね。 物語は終了しますが、 結果的に、妹とその彼氏がどうなったかはわかりません。 一応別れ話は出てきましたが。 だとすると、あの「借金」話はどうなったかも謎です。 兄が死ぬことによる、 遺産やら保険金目当ての結婚をもくろんでいた瀬川だったんですけど。 途中、いい人になってしまった。 私が観た回は吉岡大輔でしたが、 エリートかつ嫌な感じを全面に推しだしていて、憎たらしいぐらいな存在感がいい。 音楽、SEもかなり効果的に使用され、音量の調整も良かった。 気になった役者は・・・ 私自身、個人で楽しめた部分があります。 まさかの桐原真奈と太田彩乃の共演。 女優同士の対決。 これですね。これに尽きる。 まさかこの二人が、同じ舞台の上でバチバチ女優バトルを繰り広げるなんて、 数年前までは考えられませんでした。 長生きはするもんだと、つくづく思います。 そもそもまず、桐原真奈という女優。 たしか初舞台が2004年の「BEST DREAM」 ダンス等は頑張っていましたが、演技はまだまだこれから。 というか、かなり無理があった気がします。 それから、2006年のドラゴンファンタジー」 2007年のドラゴンファンタジー2 いつか青い空の下で〜はじまりの章など、 着実に女優として成長していきました。 ただ正直な話し、子役レベルかな、とは思いました。 ところがどっこい、ついにここまできたかと思うほどの演技力。 これには本当に驚きました。 そもそも長篠皐月という役柄も良かった。 主人公の妹で、兄思いの優しい妹なのだけれど、かなりこだわった部分がある。 それが彼女の雰囲気とピッタリでした。 これは確実にハマリ役。 長いセリフ回し、表情付け、コメディ、絶妙の間、タイミング、 いろいろできていて驚きの連続。 泣きの演技も、ちょっとアクは強いものの、その不器用さ加減がとてもいい。 ほんといい女優になったと思う。 そして舞台上、女優として対決シーンがあるのが太田彩乃。 あの太田彩乃と対決するなんて、ほんと夢にも思えない。 なんと言っても、1995年(汗)のアルゴミュージカルSing fou You Sing fou Me この時のオウム役は、今でも鮮明に記憶に残っています。 空中ブランコのみならず、丸太の上で転がしながら歩くパフォーマンス。 子役として他のアルゴミュージカルにも出演し、 ミュージカルアニーのリリーや、東京メッツでの背番号2番。 とんでもな芸歴の持ち主。 今回の扇原唯役は主人公の恋人役。 サバサバした雰囲気で、元キャバ嬢。 『見た目こんな感じでも、古風な部分もある、っていうギャップがいいんだよね』 と自分でそれを言ってしまうほど。 どちらかと言えばやりやすい役かもしれませんが、 ま〜バッチリでした。 正直言うと、もう少し出番があっても良かったかな?と思うほど。 もう少し観てみたい感じ。 この舞台、基本ダブルキャストで、彼女はシングルキャスト。 仕方のない部分かもしれません。 それから久々観たせいかもしれませんが、体の線もさらに細くなった。 東京メッツ時代とは全然違う。 そんな対極的な二人が、兄のことを巡って演技バトル。 ほんと、見応えありました。 ちなみに蛇足ですが、 桐原真奈は太田彩乃の芸歴という凄さを全く知らないんですよね。 それが逆に良かったのだと思う。 変な知識が無いぶん、対抗できたのだと。 子役っぽいイメージで、雰囲気は昔と全く変わらない彼女ですが、 もう20歳だそうです。 それを聞くと、ま〜これぐらいの演技ができて当然かな、とは思います。 まだ高校生ぐらいかと思いましたから。 観客もその年齢を聞くと驚くでしょう。 主役、長篠隆約の森岡宏治は好青年で、私は素晴らしいと思う。 とにかく嫌味がない。 ま〜そういう役なんですけど、爽やかさが印象的。 この人を観ていて、本当に飽きない。 良い主人公。 そしてある意味、別方向の主人公?が、北原純平役の濱田嘉幸。 彼が・・・というのは、じつはかなり予想してました(笑) それはそれとして、幽霊が見えることもあり、この物語ではかなりキーポイント。 三枚目というよりは、かなり控えめかつ面白キャラ。 でも真っ直ぐなところもある。 ま〜この役は抜群でしたね。 観ている人、一番感情移入をしたのは彼かもしれない。 「頑張れ!頑張れ!」って心の中で応援していたことでしょう。 それが裏切られますが(笑) ちなみに、パンフレットの「自分の役との共通点」が面白かったです。 「こいつも、あんまり、モテそうにない」 私が観た回の子役、長篠卯月役は五戸理奈。 セリフ回しや、カツゼツの面でまだまだこれからではあるけれど、 雰囲気がいい。 ヤンチャで生意気で、ちょっと上から目線の大人びた雰囲気。 嫌いじゃない。 足がけっこう長いので、これから伸びそうな予感。 総括 客層として、若い人だと、テンポがあって、流れが早くて、 どんどん展開が変わっていくストーリーが楽しいこともある。 でも、年齢を重ねると、やっぱりついていけない部分も出てきます。 そういった場合、今回のこのまったり具合がちょうどいいんですよね。 ゆったりとした雰囲気で、高齢者の方にもおすすめ。 久々のゆったりとしたホームドラマは、私にとって刺激的でした。 いろいろなテーマが押しつけがましくなく散りばめられていて、 「ああ、そういうことか」と、なんとなく観客に納得、理解させる感じ。 予想以上に素晴らしい出来ばえ。素敵な舞台でした。 (敬称略) |