劇団ひまわり「アンネ」

満足度
◆公演時期 2011年5月3日〜15日
◆会場 シアター代官山
◆原作 アンネ・フランク著
深町眞理子訳『アンネの日記<増補新訂版>』
(文春文庫刊)
◆演出 山下晃彦
◆脚本 横山一真
◆音楽・楽士 和田啓(作曲・打楽器)
◆歌唱指導・楽士 松本泰子
◆振付・ステージング KALAMA WAIOLI
◆舞台美術 尼川ゆら
◆衣装 関野公子
◆照明 重松希代子
◆音響 山田健之

あらすじ
1942年の夏休み、アンネの姉、マルゴーに強制労働の呼出し状が送られてくる。
第二次大戦下のヨーロッパでは、ヒトラー率いるナチスドイツが、反ユダヤ人主義を掲げ、
反対する人々やユダヤ人を次々と逮捕しては強制収容所に連行していた。
ユダヤ人迫害の波を身近に感じ、
アンネたち一家はかねてから準備していた隠れ家に身を寄せることにした。

(パンフレットより引用)
観劇感想

そもそもこの舞台を観ようと思ったきっかけは、
「劇団ひまわり」というネームバリューでもなく、
「アンネの日記」が題材のテーマだからというわけでもなく、
暇だから気まぐれに・・・というわけでもありません。
ハッキリ言って、野本ほたるを観に来た。
それだけ。

かつて、
ファミリーミュージカル 魔法使いサリー2008ではチェリー役。
劇団ひまわりミュージカル 銀河鉄道の夜2008ではタダシ役。
2回観劇しています。
リンク先を見ればわかりますが、あまり良い印象を持っていません。
当時から有名で、他の舞台でも活躍の話も聞き、私も期待していたのですが、
初めて観た時はちょっとガッカリな部分がありました。
あれから3年。
アンネで主役ということを知り、久々に野本ほたるを観てみたい衝動にかられました。
どのくらい成長したのか、いてもたってもいられずの観劇。
※Aキャストのみの観劇。

さすがは「劇団ひまわり」の舞台。
出演者全員がプロ。
チケットの値段相応、いや、それ以上の舞台。
見応え十分。

ミュージック、SEはあるものの、
和田啓、松本泰子の生の打楽器がメイン。
これには驚き。
トライアングルとか、特殊な木琴(名称不明)のようなものも使います。

「ユダヤが悪い」
「ユダヤのせいで職が無くなった」
「生活が悪くなった」
「国が悪くなった」
これを聞くと、今現在、日本のあるフレーズを思い出してしまう。
なんというか、物凄く深い言葉。
すごくわかるというか、私自身、危険な思想に陥ってしまう。
本当に怖い。
民衆の煽動というか、集団心理というか、
一方向のベクトルにしか人々が考えられなくなっている様。
ここの演出は怖いものがある。

ヒトラーとユダヤ。
この関係を、永井豪の「デビルマン」や、
手塚治虫の「アドルフに告ぐ」で、いろいろと解釈があり、
私も読みふけったことを思い出します。

「ハイル・ヒットラー」の連呼は怖い反面、
かっこいい場面に思えてしまう。
最近でもありませんが、
「オール・ハイル・ルルーシュ」とか、印象深いんですよね。
それはそれでおいておきます。

アンネの妄想シーンとして、ハリウッドのオーディションという演出があります。
「誰を選ぶか〜?」みたいな感じです。
ここに、アンサンブルで登場する、松村理子や河口舞華、宮原理子もいるんですよね。
色気は松村理子がありますし、
河口舞華は初めて観ましたが、表情豊かでかなり印象に残っていますし、
アニー葉っぱのフレディのクレアを演じたあの宮原理子までいると、
さすがの野本ほたるとはいえ、ちょっとかすみます。

本来であれば、ゲシュタポ関連も加わって、内容はかなり暗くなってもいいはず。
ただ、やはりそれだと舞台として暗くなりすぎてしまうので、
全体的には明るい場面が多いです。

会社の2階、3階に隠れ家があるということで、
日中は音をたててはいけないため、みな静かに。
そこで、つい、ペンを落としてしまったり、毛糸を落としてしまったりと、
コメディな部分もあります。
椅子を観客席正面に向けて、
隠れ家にいる人たち全員がこちらを向いているという演出は独特。
ただ、そんなに面白いか?と言われると、面白くはないのですが、
ま〜ちょっとした間でしょうね。
舞台進行の流れ、リズム、テンポの変換ともいえる。

机の下にヒトラー、その上にはアンネなんて演出は、
素直にすごいと思いました。
さらには、そこにペーターも加わっての3人。
そしてキスシーンでもヒトラーが・・・
ヒトラー自身を、笑いを起こさせるコメディの要因のひとつとして活用していました。
ここは皮肉ってますね。

大きな場面ではありませんが、ミープが野菜を買いに生き、
八百屋の家族と話しをする場面から、
→泥棒が入って・・・見て見ぬふり。
→最後に八百屋が秘密を守る場面。
ここの流れも面白いです。
アンネの隠れ家生活と並行しての流れですからね。
観てる私もけっこう緊張しました。

日本、ドイツ、イタリアの三国同盟。
結局、ドイツ、イタリアは降伏してしまい、日本は全世界を相手に戦ったんですよね。
地図で見るとよくわかりますが、全世界を相手に勝とうとしていた。
この時の大手マスコミ、新聞各社も国民を煽ってましたっけ。
それは絶対に忘れてはいけないこと。
戦時下だから・・・なんて理由はききません。

「アンネの日記」の舞台の観劇感想を書くのに、
戦争の話しとかしなければいけないのか?
難しいところ。
書かなれば「お前は戦争肯定論者か」とか言われそうですし、
書くと「お前はそういう考え方の持ち主なのか」と、
なんでも否定されますから。
何を言っても批判されることは間違いありません。
だったら書かなければいいってことですが、私は書きます。
変人ですから。
ちなみに、私の祖父も軍人でした。
海軍。
海軍生活が、ものすごく厳しかったことは祖父から聞かされていました。
それが規則正しい生活だったこともあって、
93歳まで長生きしました。
92歳ぐらいまでは本当に健康そのものでした。
幼少時、悪いことをしたら、線香で手に火傷をされたのは、
良い思い出なのか、トラウマなのか。

気になった役者は・・・

アンネ役の野本ほたる
そもそも、本当のアンネの性格がどういったものであるのか?
日記、伝記を読んでいない私には、よくわかりません。
本がどこまで本当のことを伝えているのかも微妙ですし。
マンガ「ガラスの仮面」でヘレン・ケラー役オーディションをむかえる前に、
金谷英美がヘレンのことについて、
幼少期の姿、性格、好きな食べ物やら、本人の情報を事細かく取り入れていました。
そういう役作りも、あるにはある。
ひとつの方法。
さて、野本ほたるはアンネをどう演じたか?

私はアンネの本当の性格は全く知らないので、野本ほたるアンネを見て。
けっこうはしゃぐ感じなんですね。
落ち着いて静かで穏やかな性格ではない。
自分のことをどんどんアピールしたり、言葉に出したり、感情表現豊かな少女。
私にしてみると、アンネのイメージ変わりました。

野本ほたるは、昔に比べて背は伸びましたが、
表情というか、雰囲気は「ファミリーミュージカル 魔法使いサリー2008」の頃と、
ほとんど変わらない。
かわいらしいルックス+幼さ、しかも喋り方がめちゃくちゃ可愛らしくて独特。
ここにはハマリました。
「魔法使いサリー」のチェリー役の時には、
そんなことは微塵も感じませんでした。
こんなに幼い声質なんですね。
「ミュージカル・アニー」みたいな雰囲気に感じる時もあります。
たとえるなら、なんというかな、吉川ひなのの声質を、ろ過して清廉させた感じ。
そして、もっとハキハキした感じ。
たぶん、彼女の声質について好き嫌い別れると思いますが、
このアンネの役に関しては、物凄く好き。
今後どういう路線でいくかはわかりませんが、
声質がこのままなのであれば、声優もいけそう。

正直、大人からしてみると、
野本ほたるアンネは生意気でヤンチャで、でしゃばりな感はあります。
ただ、やっぱり表情がかわいいし、喋りが独特で引き込まれるんですよね。
憎めない。
親もその表情に騙されて、甘やかしそうな感じ。

そして・・・歌もあるのには驚き。
しかもアカペラ。
歌は弱点かな〜?と思ったのですが、
短いフレーズということもあるけれど、そんなに違和感は感じませんでした。

野本ほたるは体の線が物凄く細い。
手足も長いのだけれど、本当に細い。
ちょっと触ったら、折れてしまいそうに感じます。

2011年、彼女が生きていたら80何歳と言って、
老婆役も演じていましたが、
頑張ってはいるけれど、ここはまだまだかな?
若い娘で、老婆役だと、「かぐやの浦島モモタロウ」の中村裕香里が秀逸でした。

原作どおりではあるようですが、
アンネは段々とペーターに恋心を抱いていくんですよね。
ただ、この芝居に関しては、
なんでこんなにかわいいアンネが、ペーターを好きになるのか、全くわかりません。
アンネに聞きたいですよ、
ペーターのどこが気に入ったのかを。
どこが好きになったのかを。
ま〜恋愛に関しては正確な答えがあるわけでないので、仕方ないですけど。
善人でも悪人でも、
好きになってしまうことに理由なんてありませんから。

今回ダブルキャストで田上真里奈を観ることができませんでしたが、
パンフレットのコメントを野本ほたると比較すると、
性格出るな〜とつくづく思います。
それが個性ですけど。

今後大人の女優の階段を駆け上がるわけですが、
どう変わっていくのか、ひじょうに楽しみ。

野本ほたる以外はキャストを全く気にせず観ていたので、
マルゴー役が石川由依だと後で知ってビックリ。
雰囲気全然違いますね。
森は生きているの娘役の時とは全く別人。
ま〜メガネをかけているせいもありますが、石川由依とは気づきませんでした。
マルゴー自身、地味で静かな性格ですからね。

同様にプリシラ・レイン役が熊本野映と知って、またビックリ。
化粧が濃い役だったせいもありますが、
全く気づきませんでした。
高飛車というわけではないけれど、
あんなにツンツンしている演技もできるとは驚き。
ただ、あまりセクシーな雰囲気は感じませんでした。
アイラインというか、マツゲの印象が強過ぎました。

アドルフ・ヒトラー役の郷本直也
声優としても有名な方。
ヒトラー役というのは、役者冥利に尽きるでしょうね。
やりがいあるもの。
最初の方で画家として登場しますが、
そのキーワードで、気づく人は気づきますね。彼がヒトラーだと。
そこでの行為、回りの人々の共感、そして独裁者ヒトラーへの道。
アンネの隠れ家の話しだけでなく、彼の生い立ちのようなものも演出されていましたが、
その対比が面白い。

プロの声優ということで、演技も、声質もいうことありません。
迫力ありますよ。
特にヒトラーは、国民を煽動する独特な声質、間の取り方、抑揚は天才的でした。
これがゲッベルス宣伝大臣の指導があったかどうかはわかりませんが。
それを、おそらくは相当研究してますよね。
静かにたたずんたり、間をとって表情を変えたり、時に穏やかに、時に大声をあげたり、
めちゃくちゃ素晴らしかったです。
髪をとかしての変貌ぶりも格好良かった。

ミープ役の井上阿弥は、すごく独特な雰囲気。
イメージ的には、真野あずさ、石井苗子に近い。
ユダヤの人をかくまうことにより、自分も逮捕される可能性が常にある。
にもかかわらず、懸命に手をさしのべ、買い物等、手助けをしつづけるミープ。
アンネ、ヒトラーとはまた違った意味での、この舞台における鍵的役割。
隠れ家に住んでいるユダヤの人たちとは一線をかくすこともあり、
彼女の演技はものすごく印象に残りました。
意外と難しい役だと思います。
何と言っても、ただひとり生き残った父オットーに、
大切に保管していた「アンネの日記」を手渡したのは彼女ですからね。

総括

「劇団ひまわり」ということで、
演出はすばらしいし、役者さんのレベルも高く、ハズレはありません。
物語の内容が自分にあっているかどうかですね。
ヒトラー、密告の場面等、緊張するところもありますが、
どちからというと明るめの内容。
アンネの妄想、夢をメインに華やかな部分も多いです。

他の出演者、スタッフの協力があってこその舞台「アンネ」ですが、
観客はやはり主役を観ます。
主役がこけたら、全部ダメですから。
過去に観劇した、私の中でもベスト5に入る劇団ひまわり「赤毛のアン」
これは本当に伝説の舞台。
過去を美化しすぎるのは申し訳ないのですが、
主役の小川亜美のアンがとてつもなくすごかった。

それとは全く異なる、主役のアンネ役、野本ほたる。
可愛く、いじらしく、無邪気なアンネを演じてくれました。
声質が幼く、かわいらしすぎて、好き嫌い別れるかもしれませんが、
野本ほたるがこの年齢でしかできない、
今できる全てを出し切ってくれたアンネは、観る価値がありました。

(敬称略)

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