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エターナルファンタジーはファミリーミュージカル公演サイトです。

「明日もう君に会えない」

満足度 星星星空星空星
公演時期 2019/8/7→25
会場 下北沢 「劇」小劇場
構成・演出 倉本朋幸
企画・制作 山口ちはる

あらすじ

ここはとある田舎町
両親を災害で失いお姉ちゃんと二人で暮らすなつ
いつものように親友のさきとあかりとわかと川沿いの堤防を歩いている4人

なつは誰にも言えない、秘密があった。
なつは産婦人科のドアをノックする。

ここは堕胎が禁止された世界。
その世界で生きる女性たち。
一つの選択を禁止された世界で起こる圧倒的絶望の中で彼女たちはその問題にどのように向き合ってい
くのか

彼女たちは歩み続けるだろう、ひと時も止まることなくただひたすらに前を向いて歩き続ける

何で世界はこんなにも不合理で残酷で救いがないのだろう
(公式サイトより抜粋)

物語の流れ


この世界は法律で中絶が禁止されている。

未成年のなつは子供を身ごもってしまう。
両親は災害で失っており、姉のかえでと二人暮らしのため話すこともできない。
3人の友人もいたが、打ち明けることもできず1人で悩みを囲いこみ、こっそり産婦人科へ。
その産婦人科はあくまでネットの噂ではあるが、過去に中絶を行ったことがあると言う。
そこには妊婦になっている看護師、
子供に恵まれずようやく妊娠した女性、ゆい、
仕事一筋にもかかわらず妊娠してしまい、中絶を申し出る女性、横道
そして女医。

はからずもようやく妊娠した小笠原ゆいは、流産してしまう。
その最中、中絶をしにきた横道に怒りをぶつけてしまう。

なつの友人であるあかりも妊娠していた。
彼氏がいるにもかかわらず、浮気相手との子供をだ。
そのことで、彼氏からも両親からも頬を叩かれ問い詰められ、友人たちに愚痴を吐く。
そのあかりが、身を投げ、自殺する。
常にあかりを頼っていたわかは突然の出来事に気が動転してしまう。
友人のさきは元々身体が弱く、赤ん坊が生めない身体であることをなつに打ち明ける。

様々な思いが駆けめぐる中、なつの出した結論は?

舞台上に水

まず驚くのが舞台上に水。
セットはこれ以外に無し。
舞台全体が白い防水シートで覆われ、そこに深さ10センチぐらいの水が注がれている。
プールの深さとまではいかないが、けっこうな量だ。
その中で役者が演じながら歩き続けるという演出。

水と言えば、過去に蜷川幸雄演出の音楽劇「ガラスの仮面」で、
舞台上に雨がザーザー降っていたことを思い出す。
それ以来の「水」の印象が強い舞台。

さて、この「水」の演出にどういう意味があるのか?
観劇した人はみな考えるであろう。
観客が自分なりに解釈していくことになる。
いや、考える考えないのも人の自由。
ただ、私は空想、想像することが好きなのでいろいろと思考錯誤してしまう。

水と音の関係

そもそもセリフが大阪弁なのも謎。
場所も特定されておらず、役者の発言から過去に水害?土砂災害?洪水?津波?が起こった地域なのか?
その「水」はそこからのものなのか?
川?海?湖?
さらには母体の羊水?
歩く音は心臓の鼓動?
赤ん坊の鼓動?
何かしらいろいろとリンクしている気がします。

この舞台の水の中で、演者は基本歩きっ放しである。
動きも激しい。
そのまま体全体を水に漬かることすらある。
当然、髪の毛もビシャビシャだ。
1日2公演もあるから体力勝負。
役者としての体力は必要。
さらには水にずっと足がつかっているので、保湿ケアも重要。

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なつに現実が突きつけられる


主人公であるなつは、すでに両親を失っている。
両親がいた時は全く気にしなかったことが、
赤ん坊を身ごもってしまった彼女は、本来相談すべき相手がいないことにそこで初めて苦悩する。
それができないつらさがわかるシーンはなかなかいい。
なつを演じる田中怜子の一番印象に残るシーン。

妊娠したこと、友人が亡くなったこと、そもそも両親が亡くなったこと、
全てが夢物語のように思えてしまう、なつ。
だがこれが現実!
「ところがどっこい、夢じゃありません!現実です!これが現実!」
と、カイジみたいにも思えた。
様々なできごとが回りでも、自分の身でも起こる。
誰もが物語の主人公なのだ。

あかりを失ったことで、わかが気がふれるシーンは、イマイチ理由がわからなかった。
ひとりだけ衣装が黒になる。
他の出演者はみな白。
これにはどういう意味があるのだろうか?
2回観ると気づくのかもしれない。

中絶禁止


この世界では法律によって堕胎が禁止されている。
というか、アメリカでは中絶禁止の州がすでにある。
そこから「中絶は女性の権利」と主張する人、「人命」として中絶禁止を訴える人、
それぞれの主張がある。
宗教的倫理観もありますね。
その難しい問題がこの舞台のテーマでもある。

あまり深く考えず身ごもってしまい、母親になる覚悟もないまま、生んでよいものか?それとも中絶すべきか?
生まれてくる命を殺していいものか?
そんな論争すら起こる。

産むか産まないかの話しとは別に、私の大好きな小説の「銀河英雄伝説」でも似たような論議がある。

ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは、「劣悪遺伝子排除法」
「遺伝子が全てを決する」という思想に基づいたもので、
劣勢な遺伝子を排除することで後世に優秀な遺伝子のみを残すことを目的として作られた。
実際に先天的な障害を持って生まれた幼児を安楽死させるなどの処置を行うというもの。

昨今では産む前にわかることもありますね。
男女の産み分けにしてもそう。
もっと言えば、子供が恵まれない夫婦に自分たちのクローンを作るなんてことも未来では起きえる。

銀河英雄伝説のオスカー・フォン・ロイエンタールも、
「この女と自分との組み合わせより、はるかに、人の親となるべき資格にすぐれた夫婦が存在する。
なのに、彼らには子が産まれず、自分たちには子が産まれた。
生命の誕生は、よほど無能な、あるいは冷笑的な存在によって、
つかさどられているにちがいない……)
こんなこと言ってます。

理想と現実


子供が産まれたからといって、その子供を殺す母親、逆に息子に殺される親、
未来は誰も予想できない。

今回の場合は姉、または友人たちが面倒をみる、なんてことを言っているけれど、
姉妹でも子供の問題は関わらないことも多い。
ましてや友人のその場の雰囲気での発言がどれだけ信用できるのかと。
現実問題は厳しい。

9人の女性の物語


ひとりは主人公のなつ。

なつの姉のかえでは両親を失っており、妹のなつのためにもと家計を助けるため仕事がメイン。

ほがらかな癒し系のわかは、前向きでのほほんとした雰囲気。
だが、あかりが自殺したことで気が動転してしまう。

病院につとめる看護師は、最初は中絶しようとしていた。
ただ女医との会話において、さらにはお腹の子が成長するにつれて、
その考え方が変わっていった。

あかりは彼氏がいるにもかかわらず、浮気相手との間に赤ん坊ができてしまい、
彼氏からも両親からも非難され、身を投げてしまった。

ゆい(たぶん。小笠原の名字で呼ばれていた)は、
なかなか妊娠できずに、ようやくのことで妊娠に至る。
だが、突然の流産。絶望。

仕事一筋の横道。
突然の妊娠で自分の仕事ができなくなり、中絶をしてほしいと訴える。

さきは、元から身体が弱く、産みたくても生めない身体であった。

産婦人科を運営をする女医には過去がある。
暴行された女性が妊娠したことを気の毒に思い、中絶処置をおこなったのだ。
しかしその後、女性は中絶したことを後悔し自殺した。
そのことを悔い、今は中絶をしようとする女性を説得する立場にまわっている。

照明


基本、昼。
そして夜、夕方、血のような表現。
こんな感じでしょうか。
ちょっとうろ覚え。
これだけで表現してますからね。
水の舞台だけでセットも無いから、
観客が全てを想像する。

気になった役者は?


みなさんプロなので、簡易的な感想です。

なつを演じる主役の田中怜子途は淡々と演じていた。
未成年にもかかわらず、
なぜとはなく身ごもったしまったことに、嬉しさも後悔もよくわからない。
そもそも産むか産まないかもまだ判断できない。
水の中にいるようにただ流されるだけ。
流されるようになんとなく男性と一夜をともにしてしまい、
その結果の妊娠。
前述したように、
いろいろな出来事が自分に起こり、現実逃避に近い憤りの表現はとても印象深い。
ただただ、水の中を泳ぐポーズのシーンも印象的。
今回のなつ役は自分を押し殺すような演技だったのかしれない。

横道役の斎藤千晃は、何とビックリ「ココ・スマイル2」以来
(厳密に言うと『ココ・スマイル ファミリーコンサート VOL,2 ~Legend~』以来ですが)
あまりに久々すぎるので、そりゃ成長しますよね。
私的にはかなり雰囲気変わって大きくなった。
というか、子役の時のショートカットのイメージが私の中では強いかな?

横道は仕事大好き人間のキャリアウーマンで、人に対してかなり強気に意見を言うタイプ。
積極的、リーダーシップ的な感じか。
独特な目力もあり、ツンケンしている雰囲気。
声もけっこう低めかな?
子役時代とはまた違う、重きをおいた女優になった。

わか役の朝倉ふゆなも、
ミュージカルアニー2008でケイト役、ミュージカルアニー2011では主役のアニー役。
けっこう私、絶賛してます(笑)
あくまで子役時代の話。

ルックスはアイドル的。
なんとなくほんわかして笑顔のイメージが子役時代から強かったです。
今回のわか役はそのイメージピッタリ。
彼女の本当の性格を知るよしもありませんが、雰囲気はバッチリ適役。
前半部分はほんとそのまんま、明るく前向き。
他のメンバーがちょっと暗い雰囲気なので、一時のオアシスのような癒し。

後半、あかりが自殺してからの黒服わかは気が動転している演技。
ここは本当に難しい演技。
イマイチ私自身もここまでわかが気が動転してしまう理由、意味がわかりませんでした。
二人の間にはもっともっと深い理由、絆があったのかも。

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総括

男性視点ではない、女性視点での舞台。
画一的ではなく、みないろいろな考え方がある。
当然のことながら、どれが正しい選択かなんてわからない。

中絶禁止の世界で仮に子供を産んだとして、どうなるか?
きりがない。
そのきりがないことをテーマにしている。
もしかしたら、このプロデューサーのエゴかもしれない。
でもそれはそれで観劇した観客には思いが残る。
かくいう私のような超変人が観劇感想をネットに残すことにより、
こういう舞台があったという軌跡が残る。

いざ男性の視点になると少子化問題を語ってしまうが、
今回の舞台は女性視点。
男は全くわからない部分が多い。
知ったことではない、そう思う人もいる。
隠し子、二号、いろいろな表現がある。
これも男目線。

産まれた子供が、育ててくれなかった父親に会う口実として、
養育料せびってやれ、っていう話も銀河英雄伝説にありました。

エンターテイメント性の舞台ではなく、
観客が考えさせる作品なので満足度は感じにくいけれど、
親も子も、いろいろな角度から考えさせられる作品。

※敬称略
キャスト表