ミュージカルひめゆり 2010

満足度
◆公演時期   2010年7月8日(木)〜13日(火)
◆会場 シアター1010
◆作曲・編曲・音楽監督 山口e也
◆脚本・作詞・演出・振付 ハマナカトオル
◆美術 松野 潤
◆衣裳 富永美夏
◆照明 太田安宣
◆音響 戸田雄樹
◆プロデューサー ハマナカトオル
◆企画・製作・主催 企画・製作・主催

あらすじ

昭和20年(1945年)沖縄。
米軍上陸が迫る中、
沖縄師範学校女子部と、沖縄県立第一高等女学校の女学生は、
「ひめゆり学徒隊」となって、
南風原陸軍病院へ従軍看護婦として派遣されていくが・・・

観劇感想

ミュージカル座の舞台を観るのは初めてでした。
さらには日本の沖縄、戦争の話しですからね。
今回は沖縄出身の知念里奈が主役を演じるということで、
否が応にも注目度が高まります。

流れ的には、
女子学校に集まる。
→陸軍病院へ行くか、帰るかを選択。
→お国の為、他人の目も気にして、結局、陸軍病院に行くことになる。
→病院は地獄絵図。看護にてんやわんや。
→状況は悪化。ついに米軍が近場にまで押し寄せる。
→病院から撤退。動けないものはそのまま。
→撤退した先で、学生たちもバラバラになる。
そしてどうなるか?という感じです。

いきなりオーバーチェアがあるのには驚きました。
重苦しい戦争ものの舞台でかかるとは予想外。

まず思ったことは、 全編が歌なんですね。
「レミゼ」と同じ。
ミュージカルであることは明記されていたのですが、
まさか全編歌とは思わなかったので、ちょっとビックリ。

当然のことながら、出演者の演技、歌のレベルは高いです。
下手とかそういうレベルのものではありません。
全員プロの役者。

セリフがあると、感情的なセリフが多くなり、
おそらく重い舞台になったことでしょう。
つらい内容が多過ぎますから。
歌ということで、やや緩和されていたと思います。
これはこれでいい。
コアな観客をメインにしている劇団ならともかく、
この舞台はファミリー系で子供にも戦争の恐ろしさを伝える役目もあり、
リアリティすぎる演技は観客が引きますから。

歌メインとはいえ、エンターテイメント性はありません。
ただ、多少はコメディチックな場面もあります。
ないと、悲惨すぎます。

全編歌、出演者も多いこともあり、やはり音響スタッフが大変だな〜と思いました。
各マイクは?音量は?ハウリングは起きないか?
ミュージカルナンバーは間違ってないか?
きちんと詰めなければいけないことが、山ほどありますから。

女学生たちの不安、追い込まれた軍人の悲哀、理不尽さ、
物凄く胸に響きます。
テンポがあるので、どんどん舞台が進んでいく。
息つく暇もない。
途中、テンポが止まるところもありますが。

思ったのは、この舞台、日本人の胸にはグッとくる。
日本人が演じる舞台、日本人の観客の心には物凄く響くことでしょう。

日本がアメリカと戦争をしたことすら知らない若者がいました。
私としてはありえないのだが、現実問題としてある。
だからこそ、こういう舞台を通じて、過去にアメリカと戦争があったことを伝えるべきだと思う。
伝えないと、日本の若い人は過去に戦争があったことすら忘れてしまう。
そういう恐れが本当にある。
学校の歴史で勉強したことを忘れてしまう・・・それが現実としてある。
だから私も勉強なんてできなくていいから、過去の歴史ぐらい覚えてほしいと思う。
「歴史は繰り返される」って、過去の歴史を忘れてしまうからだし。

一番印象に残った場面は陸軍病院。
この舞台は出演者が多いことから、せまい病院で大多数の密集した雰囲気、
ゴタゴタな雰囲気も見事に表現されていました。
実際もこのような慌ただしさだったのではないか?と想像できるぐらい。
その陸軍病院から、外の生い茂った草むらへの場面転換もすばらしい。
展開が早い。
暗転からの場面転換ですからね。スタッフは大変。

内容として、仕方のないことではありますが、
登場人物が何か特異なことをしようとすると即死亡。
あまり何かことをなさない方がいいのか・・・
その典型が、今まで地味だったチヨが突然目立ちだします・・・
ということは・・・これも完全にフラグでした。
予想どおりすぎた・・・

2幕最初、ゆきの小鳥のナンバー。
おそらく誰も言わないから、あえて私が言う。
長い。
フルコーラスはちょっと・・・
今まで他のミュージカルナンバーがテンポ良い切れ味なのに、
突然フルコーラス。
1番だけでいい。
舞台のテンポが少しずれる。
そんなに聞かなければいけないか、この歌?
1番だけでも十分伝わると思いますが。
それだけ「ゆき役」がおいしい役であることは十分承知だが。

それと同じように、檜山上等兵とキミとの場面も長く感じました。
他の場面がテンポ良く進むから、長めの場面はちょっと違和感を感じます。

じょじょに「生」にこだわることができなくなり、
どう死ぬか、が問われます。
私は・・・毒かな?
苦しみすぎる毒は嫌だが、神経を麻痺させてから・・・
というのがいいらしいような話も。別に自殺を助長するわけではありませんが。

軍人、女学生、避難民が、隠れている防空壕のようなところ。
ここで、赤ん坊、母親と、つらい部分が続きます。
観ていて苦しい。
だが、これが現実だと思う。
援軍が、必ず友軍が助けにくる・・・
そのことだけを頼りに米軍と戦っていた軍人の狂気。
ここはカットできないもの。

そういえば、ゲゲゲの鬼太郎の作者、
水木しげるもニューブリテン島ラバウルへ出征。
あまりにも非日常、地獄絵図すぎて、ついには笑ってしまうくらい。
それだけ異常だったようですね。
麻酔のない状態で左腕切断手術・・・凄過ぎます。

少し似ているな〜と思ったのは、
映画「シドラーのリスト」でのシャワーシーンの安堵感。
この舞台はどっちなのかわかりませんから、見てる方も緊張感走ります。

エンディングは衝撃的・・・ちょっと驚きました。
救いもありますけど、どちらかといえば悲し過ぎる。
でもそれが現実。
この舞台を観て、沖縄に行った時、
ひめゆり関連の施設に訪ねてみようと思う方がたくさんいることと思います。

日本での地上戦は沖縄だけ。
だからこそ地上戦の悲惨さが描かれています。
アメリカにしてみると、この悲惨さがわかったからこそ、
地上戦を広げないために、広島、長崎、に原爆を落とした・・・と言えるのでしょう。

日本には兵役がありません。
永世中立国のスイスでさえ兵役があり、
女性も任意ではありますが、兵役の義務があります。
兵役なんて絶対に復活させてはいけませんが、
それに甘えてはいけない。
日本の平和の意味を重く噛みしめるべき。
戦争のこと、今の平和のことについて考えることも、時には必要でしょう。
それを投げかける舞台でした。

気になった役者は・・・
ほとんどプロなので、言うことありませんが、補足がてら。

主役、キミ役の知念里奈は若い。めっちゃ若い。
その若さの秘訣を教えてほしいぐらい(笑)
ミュージカル女優としての実力、噂には聞いていましたが、
観劇は初めてでした。
素晴らしい。文句無し。
演技はしっかりしているし、清純で清楚なたたずまい。
意外と目の印象も強いので、舞台女優としても見映えがありますし、
それが演技にもつながっています。
全編歌ですが、歌唱レベルは言うまでもなくうまい。
声がかすれることもありませんでした。
彼女は沖縄出身ですからね。
他の舞台とは、また違う思いでの演技だと思います。
物凄く素晴らしかった。

滝軍曹役の岡幸二郎
この人は凄過ぎて感想言うのもアレなんですが、役について。
敵役というか、嫌な役ではある。
ただ、前述しているとおり、沖縄に派遣され、支援がない中、
「いつか援軍がくる」「日本が負けるはずがない」その思考での戦い。
ある意味、哀れな軍人の狂気を演じていました。

上原婦長役の井料瑠美
まさに気高い、日本のナイチンゲールのような役柄。
雰囲気がピッタリでした。
本当にこんな人がいたかどうかはわかりませんが、
意外とキーポイント。ちょっと驚きの行動。
あの戦時下でここまでやるのは本当に大変なことだと思う。

ふみ役の神郡英恵
キミとは別のもうひとりの主人公ともいえる。
この人も演技、歌ともに抜群でした。
目が大きいこともあって、観客席からもよく表情がわかるし、よく目立ちました。

ゆき役の高田亜矢子、ハッキリ言ってかわいすぎる。
普通にジュニアだと思っても違和感ない。
背が低いので、前半でも、小さい子がよく目につくほど。
ゆき役はおいしい。いろいろな場面で見られますから。
「小鳥」のナンバーは長い・・・と前述していますが、
歌自体は、はかない歌声で本当にすばらしいです。
背が低く、はかなげな役には彼女は適役だな〜と思いました。

あき役、清水彩花
清水彩花、私が観劇するのは久々すぎる。
2002年のアルゴ『誰もがリーダー誰もがスター』以来かな?
ただ、今回三つ編みスタイルなので、
2000年のアルゴ「あんず」の歌手を目指す役の雰囲気。
ルックスが、全然、全く変わらないんですけど!
凄いな。
出番も多めで、セリフ・・・というか、歌う場面多いです。

やえ役の小林風花
2004年のNEWSエンターテイメントスクール自主公演 『青い空の彼方へ』の時と、
ほとんど変わらないルックスと雰囲気。
特に黒髪が似合う。
2009年のThe Musical AIDA アイーダにも出演して、
着々と舞台女優としてのが実力をつけている感じです。
アイーダの時は、エチオピア囚人役で、肌の色を変えていましたが、
今回は黒髪に美白ですからね。よく目立つ。
後半は埃かぶりになりますが。

とし役 福田奈実
私も気づきませんでした。
まさかここで福田奈実とは。
1996年の『GANg』チータ役が印象深いです。
まず名前で気づき、パンフレットの顔写真で合致しました。
彼女のルックスも当時と全く変わっていない。
近藤花のダブルということで、当時のこともすごく覚えています。
ひじょうに懐かしい。
ミュージカル女優として頑張っていて嬉しいです。

総括
かつては本田美奈子.も主役キミ役で出演した舞台。
日本の歴史、触れたくない過去の戦争ものの舞台なので、
目をふさぎがちにもなります。
しかし、何年かに一度は観て、
今の日本があるのはこのような戦争があり、たくさんの犠牲があってこそだということを、
改めて心に刻むことがとても大切だと思います。
人はすぐに忘れがちですから。
戦争の悲惨さを次の世代にも伝えるべく、いつまでも続けてほしいです。

歌も、テレビも口パク全盛のこの世の中、
本物の生の舞台はじつに得難い存在だと思う。
嘘、虚構のものではなく、舞台の本物を観ることが重要だと再認識。
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