3LDK第11回公演「カサブタかきむしれっ!」2016


満足度
公演時期 2016/3/1→6
会場 中野・ザ・ポケット
作・演出 佐藤秀一

あらすじ
福島県いわき市にある農業高校。
そこでは、今まさに牛の出産が始まろうとしていた。
だがその時!!
生徒たちが牛舎に閉じこめられてしまい・・・

時計の針を止めた女 vs 前に進もうとする男
忘れることを選んだ女 vs 過去に抗う男
そして選択を迫られる生徒と教師たち
カサブタで覆われた傷口は、
ジュクジュクしたまま疼いている。

(パンフレットより引用)
観劇感想
この舞台は再演で、私は前回観劇しております。
物語の内容はそちらで。
そこまで大きく変わった部分は、たぶん無いと思います。
基本ストレートプレイ。

3LDKの舞台感として、
なんの変哲もない日常の生活の中から、
徐々に変化をもたらすという流れ。
エンターテイメント性重視の舞台とはコンセプトが全く違うので、
そこは注意したいところ。
舞台観劇に慣れていれば全く問題ないけれど、
楽しさ、面白さ、というのとは、ちょっと違うかも。
コメディチックな場面はありますけどね。

福島を題材としていることで、
原発、東電、酪農、農業、いろいろな材料が散りばめられています。
そういった事柄を、観客がどう受け止めるかは人それぞれでいいと思う。

今回一番気になったのは、全員で歌う場面。
最初はAKBの「恋するフォーチュンクッキー」なのだけれど、
そもそもこの曲を私はほとんど知らない。
で、次が「ベイマックス」の主題歌。
新たにみんなで歌い出すのだけれど、
今の時代、老若男女、全員が知っている曲があるだろうか?
そこが凄く引っかかった。
音楽CDが売れないこの時代、若い人でも昔の曲を聞き、
年配の方もスマホで昔の曲を聞く。
流行っている曲がない。
みんなで歌える曲がない。
ここはつらいな~と正直思いました。
もしかしたら、いずれは「童謡」になってしまうのだろうか?

気になった役者は・・・
基本みなさんプロなので、言うことありません。
あくまで私が気になった方。

井上あかね 主役、小島はるか役。
前回は永作あいりだったので、
その比較という感じになってしまうのは申し訳ない。
どことなく雰囲気は永作あいりに似ている。
ただ喋り方は、
永作あいりが特徴のある透き通るようなハッキリした声なのに対し、
はかなげな感じ。
すごく自然で、本当に新任教師という感じ。
違和感は全くない。
小柄で華奢。
初めて観たせいもあるが、凄く純粋な雰囲気を感じた。
前半は静かだけれど、後半はどんどん熱くなる。
危機的状況による焦り、
そして自分の今の現状に気づき、彼氏未満?の門馬幸太郎に激しく謝罪。
舞台中の時間経過による気持ちの揺れ動きも良かった。
そこまで「華」があるというわけではないけれど、
自然体に演じられたことがこの空気に合っていたと思う。

相元晴名 蛭田優子役。
前回、ダブルキャストの釘宮理恵を観たので、
その対比になってしまうのは申し訳ない。
気の強さはこちらかな?
やり直せない理由付けの場面も、筋が通っているように受け取れる。
いろいろな悲しみを押し堪えての演技は、非常に興味深かったです。

田村花恋 園部灯役。
この園部灯役というのは、この舞台の肝。
「真夏の夜の夢」でいうところのパック的存在。
前半は特に淡々とした場面が続くので、
彼女が登場して舞台の空気が一変する。
登場の時点ではひとりなので、まさにひとり芝居。
観客の目が釘付け。
それをこなす度量が必要になる。
前回の里美黎も素晴らしかったが、田村花恋もまた素晴らしい。
ハーモニー2013「ミュージカルシュークリーム」以来の観劇か。
その前の「池袋レインボウズ~season1~」の演技も印象に残る。

まず思ったことは前に比べてかなり痩せた。
アゴのラインがスッキリしている。
女の子は成長によって、一時ふっくらする時がある。
それを乗り越えてなのか、本人の努力なのかはわからないが、
細くなった印象。
二十歳でも高校生役は全く問題なし。
普通にいけます。
彼女の演技は今まで観ていると、
けっこうストイックに自分を追い込むタイプに感じていました。
それがかなり緩和している。
良い意味でメリハリが効くようになった。

あまり強過ぎる演技は観客からすると刺激が強過ぎる。
せっかくルックスが可愛いのにもったいない。
常々そう思っていたのですが、2年半ぶり?に観劇をして、
それが柔和になって安心しました。

前半は、主役の小島はるかはおとなしいので、
ほぼ園部灯が舞台を引っかき回します。
彼女の演技の持っていき方が非常にうまく、
誘導の仕方、目配り、自分の空間に観客を引き込んでいく。
ここは素直に凄いと思った。
ひとりで持っていくって、簡単に言うけれど、物凄く難しい技術。
それをこなせる雰囲気作りは凄い。

さらに言えば、後述する、生徒役の3人。
藤井真世鈴木友梨高瀬雄史が加わって、4人のみの場面。
大人の舞台と全く引けをとらない。
ここも凄い。4人全員素晴らしい。
若い4人だけれど、セリフ回しもうまいから集中できるできる。
藤井真世も久々に観たけれど、「アリスのいる部屋しっぽver.」か。

なすび 箱崎勉役。
前回にも増して、本当素晴らしかった。
同じ役だし、慣れているし、さらに成熟味を増しているとはいえ、
じつに自然なコメディをかもしだしている。
田村花恋とはまた違ったスパイスをこの舞台に降り注いでいる。
セリフもよどみないし、雰囲気がすごくいい。
テレビドラマや大河ドラマに起用されないのは本当に不思議。
イケメン枠は仕方ないとして、脇役として凄く有益な個性だと思う。
彼のような役者を起用できないところに、
テレビ業界の限界があるのだろうか?
もう少し演技の実力を見極めて、役者を起用してほしい。

総括
震災から5年。
首都圏側からの見方と、福島県側からの見方。
もう一度、改めて考えてみようというきっかけになる舞台。

(敬称略)
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