東京俳優市場 番外公演「池袋レインボウズ〜season1〜」

満足度
公演時期 2013年4月17日〜21日
会場 池袋シアターグリーンBASE THEATER

伊勢直弘

演出 清水宗史

あらすじ
橙子の引っ越し作業に、仲間が集まる中、
付き合っているはずの赤井と緑が口論。
皆が不安に思う中、じつは・・・
観劇感想
A組のみ観劇。
東京俳優市場は2011春を一度観劇しています。
各芸能事務所の新人公演。
今回は1話〜3話あるものの、
短編ではなく、つながっているお話。

簡単な話の流れは、
橙子の引っ越し作業
→じつは橙子は原発の影響で引っ越しを余儀なくされていた。
その為に精神も鬱屈。
→緑が妊娠。
→赤ん坊が生まれるが、聴覚に障害。
→緑は赤ん坊のことを、友人たちが責めていないのか不安になる。

こんな感じです。

話の内容的に、脚本は女性かな〜?とも思ったのですが、
男性なんですね。

正直、1話だけ見ていたらつまらない。
なんというかな、テレビドラマを録画する時、
1話を見てつまらなそうに思えたら、
2話目からは録画予約から削除する感じ。
だから、もしこの舞台がテレビドラマの第1話であれば、
もう見なかったと思う。
ただ今回は、休憩無しの3話連続。
だからこそ、
「あ〜そうだったのか〜」
という感想が書けます。
3話観れば。
ある意味、舞台の「押し売り」でもある。
できたら、やっぱり1話で観客を引き込むものが欲しかった。
1話後半は橙子の鬱屈した部分が観られますが。

基本、ストレートプレイ。
前述しているように、新人公演なので、
カツゼツがイマイチの人もいれば、
演技自体が、という人もいます。
おそらく、当の本人が一番わかっていることですから、
ここで「うまい!」なんて、お世辞にも言えません。
あくまでも、タレントに経験を積ませるその一点。
ただ、意外と出演者、出番が多いので、
セリフ量は多い。
いい経験になります。

とにかくまず思ったことは、
緑役の田村花恋の役が重い。
生まれてきた赤ん坊の耳が不自由で、
それを友人たちが影で何か言っているのではないか?
という不安にかられる若妻。

物凄く難しい役で、感情高ぶるし、精神の破綻度、破滅度が激しい。
本人の本当の性格は知りませんが、
なんとなく、ほのぼのとしていながら、
実は心の奥底にものすごく固い芯が通った信念の持ち主・・・
のように感じます。
この役も、なんとなく、本人の性格に近いのではないか?
なんて、私は思ってしまう。
直接すぎるヤンキー系では観客もつらすぎるし、
ちょっとほのぼのした女性の方が、まだ好感をもてるということかな?

神経すり減らすし、心も体もボロボロになる。
100歩ゆずって、1公演ならわかりますが、
これ1日3公演の時がありますからね。
とんでもない事態。
率直に凄いと思いました。
これだけ若い子がやるのだから、
他の新人たちも、相当勉強になったでしょう。

田村花恋の緑は3部からは若妻、子持ちという設定。
これが、全く違和感無し。
文句のつけようが無い演技。
普通に結婚して、子供がいてもおかしくないぐらい。
私は年齢を知っていますが、
観客で彼女の実年齢を知ったらビックリするかも。

なんとなく、子役あがりだと、童顔の子が多い気がします。
私の知り合いも、昔からほとんど変わらない人ばかり。
本人、気にしてたりしますが。
それはそれとして、田村花恋はそれにはあたらず、
男性から見て母性をくすぐるタイプ。
妹ではなく、完全にお姉さん。
甘えは許さない、超しっかりものの長女タイプ。
関係ないけれど、「オレオレ詐欺」等、絶対に引っかからないタイプ。

本編。
1話はまだ慣れていないせいか、
テンポ、セリフが早い。
内容がなかなか頭に入ってきませんでした。
2話でようやく、人間関係が把握でき、落ち着いて観られるようになる。

ただ、1話後半で、この引っ越し作業が、
原発の避難生活と関連していたことにはちょっと驚きました。
それゆえ、橙子の鬱屈した精神の乱れがあったんですね。

3話はメンタル面の話がでてきてつらい。
実際問題、そういった方を支えるのは物凄く大変。
並大抵の苦労じゃないもの。

おそらくは、1話、2話と、静かに進行させ、
最後のここに重きを置いた感じ。
映画「バカヤロー」で、
たまりにたまったものを、
最後の最後で「バカヤロー」と大きく叫ぶ、
それとも似ています。

桃が歴史の勉強をする時に、
歴史=戦争の勉強ということに悩む様子が描かれます。
これって、「銀河英雄伝説」のヤン・ウェンリーもよく言ってました。

戦争がなぜ「悪」なのか、
それは何よりもまず、無意味な死、
無益な死、犬死にを大量生産するから。

特に「査問会」での意見が辛辣
質問者のオリベイラが、
「活力と規律を生むのは戦争であり、
戦争こそが文明を進歩させ、人間を鍛え、
精神的にも肉体的にも、向上させるのだよ」
温厚なヤンもさすがに毒舌を吐く。
「すばらしいご意見です。
戦争で生命を落としたり、肉親を失ったりしたことのない人であれば、
信じたくなるかもしれませんね」
桃ちゃんも、ヤン提督に歴史を習うといいな。

別方向のベクトル。
やっぱり、若さゆえもあってか、
出前をとるにもピザ、
そしてコンビニのおでん。
う〜む、野菜は無いのか、野菜は?
なんて年寄くさいことも考えてしまいました。
まっ、病気になるまでは、
自分の食生活なんて見直さないでしょう。

気になった役者は・・・
どこまで新人なの、よくわからないのですが、
私なりの雑感。

赤井役の西川智宏は、
雰囲気的には若い斉木しげるのような感じ。
特に言うことありませんので割愛。

橙子役の藤田由美子はいい役者。
とても素直な演技をする。
明るく真面目で普通な性格であるものの・・・
メンタル面で追い詰められた部分もある役でした。
ひじょうに好感もてます。

黄田役、久保田健介
黒野役、 葉山裕太
正直、ふたりは髪形が近いので、
区別をするのに時間がかかりました。
できうるなら、髪形はパッと見、違う感じにしてほしかった。
服装だけだと、なかなか難しい。
黄田が負のオーラ全開の面白くない人、
黒野がそれのツッコミ役。
そんな感じで観てました。
黄田の面白さ、私はちょっと伝わりませんでした。

白瀬役の前田憲は、演技的にはまだまだこれから。
喋りも、歌も、カツゼツも、これから練習を積んでいかないと。
特に早口な部分があるので、内容が聞き取りにくい。
2話から落ち着いたのか、なんとか聞きとれるレベル。
バンドをやっているのに、歌が下手ってのはどう?
ハッキリ言うけど、リアリティには欠ける。
SF的な舞台ではなく、リアル重視のストレートプレイですから。
頑張ってるのはわかるけれど、
「上手かった」「頑張ってた」で終わるなら、成長も何もない。
ただ、これだけ長いストレートプレイ、
セリフも多いですし、勉強になったことは間違いありません。
他の役者のレベルの高さもわかるでしょう。
次の舞台の糧にしてほしい。
ルックスは滝沢秀明にも似たイケメンですし、
おそらくファンもついていることでしょう。
何事も経験。

青海役の大坂真優は、
おそらく今回の出演メンバーの中で一番若い。
ルックスも可愛らしい美少女。
セリフを覚えていて、えらいえらい・・・
とは、私の感想では言えない。
同じ年齢の子が普通に演技をできることを考えると、
お話にならないレベル。
カツゼツたどたどしいし、セリフは棒読みに近い。
まーわかりますけど。
これで「よくできました」とは、さすがに言えないもの。
ひじょうに落ち着いた演技はしてましたけど。
今回の舞台の経験をいかして、次に頑張ってほしいな。

灰原役 野田麻衣
灰原は何かしら病気になったり、怪我をしたり、調子が悪くなったり、
不幸が訪れる役柄。
一緒にいる人は大変。

藍咲役、矢野彩佳
藍咲って、普通に20歳代の人かな〜?と思っていたら、
桃と同じ高校生なんですね。これにはビックリ。
役柄的には、一般常識がわからない、天然をとおりこした性格。
ま〜そういう子も中にはいるのかな?という感じ。

筑紫役の立道梨緒奈は、ヤンキー風のギャルママ。
これはそのままビッタリの感じで、特に違和感無し。
意外と良い人。

桃役の西崎あや
今回の舞台では一番印象深い。
「ございまする」とか、
時代がかった、ちょっと変な言葉遣いの高校生。
キャラが立っていました。
相当目立つ。
表情もいいし、カツゼツもしっかりしているし、
瞳パッチリで視線も落ち着いている。
特に、自分の出番でない時の表情、そして目配り、
ここがじつに丁寧。
率直に言って、次の舞台が観てみたい。
それぐらい、現時点では実力もあるし、魅力的な女優。
ちょっと調べましたら、
元プロ野球選手、西崎幸広の娘さんなんですね。
ちょっと驚き。
長女ですか。
そして、次女が西崎莉麻。
まっ、私の場合、そんな血のつながりは知ったことではないので、
観劇感想はステマ無くガチ。
でも、彼女は良い女優になると思う。
雰囲気持ってますよ。
ただ、趣味がドラム・ギターだと、
音楽系に行くのかもしれませんが。
でも、女優と両方頑張ってほしいな。
高校生ぐらいかと思いきや、20歳越えてたんですね。

水野役 河野ひかる
彼女もうまい。
すぐに思ったことは、
キャラメルボックスの坂口理恵的な雰囲気があるな〜ということ。
ちょっとした天然系ではあるけれど、
だからこそ、気づいてしまうことが多い。
しかも黙っていればいいのに、言ってしまう。
ある意味、火種は彼女からでしたが。

茶島役の青地洋は、
後半部分しか出てきませんが、物凄く印象的。
演技もうまいですし。
面白いコメディチックな部分も絶妙。

総括
1話のつかみが全く無いため、
導入部分としては弱い。
日常の風景ではあるけれど、何かしら欲しい。

エンディングとしては、予想以上に良いできで、心温まる内容でした。
演技ができない人が主役のテレビを見るより、
舞台の方がいいとつくづく思う。

事務所側も、おそらくそれがわかっていて、
新人に舞台での経験を積み重ね、
演技を向上させているのでしょう。

何度も言うけれど、
田村花恋の緑役、1日3公演は神経すり減らす。
怖いぐらいに鬼気せまる演技。
そして、藤田由美子、西崎あやの演技も強く印象に残りました。

(敬称略)
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