◆ 世田谷シルク「Kon-Kon、昔話」

満足度
◆公演時期   2012年3月23日〜25日
◆会場 pit 北/区域
◆作・演出 堀川炎
◆原案 狐遊女

あらすじ
毎日むかえる、おじさんのいつもの朝。
妻が作ってくれた、いつものトースト、コーヒー。
何気ない朝食のはずが、
いつになく美味しい。
妻に尋ねると答えない。
喋らない。
さらに問いつめると妻が・・・
観劇感想
世田谷シルクは前回の「渡り鳥の信号待ち」に続いて2回目の観劇。

まず思ったことは、このカンパニーというか劇団は、
ダンスシーンが多い。
ストレートプレイの舞台と思ったら大間違い。
途中途中の普通のダンスシーンだけでなく、
細かい動き、そしてパントマイム等。
これだけ常に動いているということは、
体力をそうとう使っていますね。
見た目以上にそれがわかる。

冒頭の部分に落語があるのですが、
不思議なことに扇子を持っていない。
落語家であれば必需品。
扇子がいろいろなものを表現しますから。
ただ、最後の「コーン」という鳴き声。
つまりは、キツネが化かしてた?という意味合いなのでしょうか?
だから、扇子を忘れた?その存在を知らなかった?
ということになるのかな?

話の流れとしては、
男が朝目覚めると、妻がキツネに変わっている。
→回りの人間たちもキツネに変わっている。
→混乱する男が道を走りだすが、
ひとりの人間の少女が追いかけてくる。
→それに気づいたものの、大きな穴に落下。
→そこで「不思議の国のアリス」のように、飲み物、食べ物の選択。
→飲み物を飲むことによって、体が小さくなり、
とある、喋るドアノブを見つける。
→ドアの向こうにはいろいろな世界が広がる。
→そのひとつは昔の田園風景が広がる世界。
→古い家だが、現実世界の妻も年老いた状態で存在し、
とりあえずそこに住むことになる。
→食べ物がなく、苦しい生活だが、そのなかから切り詰めて、
家に集まってくるキツネにもエサを与える。
→ついに夫婦の食事がなくなり、餓死寸前。
→そこへお礼をしたいと、人間に化けたキツネが現われた・・・
こんな感じですね。

前回の「銀河鉄道の夜」をモチーフにした舞台と比べて、
こちらは、いろいろな昔話、童話が混ざってきますが、
基本はわかりやすい。
家族向けともいえる。
「吉原」の話もでてくるのですが、
全くいやらしさもなく、家族で観ても問題ないレベル。
ここはうまい演出だと思います。

かつて、ダンカン演出の舞台『マリークリスマス』も観ましたが、
あれは、子役出演があったのに、
けっこうきわどい部分がありました。
それを思い出すほど。

昔話をモチーフにしていて、
「おむすびころん」「不思議の国のアリス」「浦島太郎」」「鶴の恩返し」
他にもあったでしょうか?
なんとなく「ごんぎつね」にも関連あるような・・・
「吉原」の遊女の名前も独特なので、
何かしら関連があるのかもしれませんが。

たくあん(人間に化けたキツネ)が、
じいのために「吉原」に行く話しなんて泣けます・・・
泣きませんが。
そして吉原での仕事仲間とのいろいろなやりとりも面白い。
ここで、ちょっとした事件が発生するのは意外でした。

妻が途中、咳をして「コンコン」言っていたけれど、
彼女もキツネだった、ということなのかな?
それゆえのエンディングなのかな?

命からがら「吉原」を逃げ出し、
外観が変わってしまったじいの家に、
たくあんが道を尋ねます。
そのたくあんの声に呼応して、
男がドアを開けるか悩むシーン。
ここは本当に悩みます。
私だったら・・・
やっぱり、開けないかな?
男と同じことを考えると思います。
昔話だと、結局なんだかんだで、
最後の最後まで化かされる話しが多いですから。
ま〜私だったら、そもそも「吉原」に行かせませんが。

ただ、化かされてもかまわない、
と、ドアを開けて、
たくあんともどもキツネになって仲良く暮らすという終わりも、
ある意味、ハッピーエンドになるのかも。

それにつけても、この舞台のヒロインである、
人間に化けたキツネ、タクアン役の大日向裕実がいい。
演技的にどうこういうものではなく、
この役にバッチリ。
完全に彼女の当たり役。ハマリ役。
大人でありながら、純粋、ピュア、それでいてちょっと天然。
この要素を持った女優を探すのは難しい。
もちろん、女優なのだから、
どんな役でもこなせなといけない。
ただ、役として演じていても、舞台、ライブだと、
それが本物なのか、演技なのか、すぐにわかってしまう。
別に偉そうに言う必要はないけれど、
私はすぐに気づいてしまう。
表と裏、さらにその裏。そういうのが何となくわかってしまう。

話し戻しますが、彼女にはそれがない。
特に女性なら、もっとすぐにわかると思う。
彼女の純粋さが。
舞台に出ているもの。
だから、観客も彼女に感情移入できる。

この役にピッタリすぎるほどピッタリ。
純粋で、はかなげで、じいの為に頑張るけなげな姿。
そして「吉原」でのきょとんとした雰囲気。
すばらしいと思う。
カツゼツも全く違和感なく、よく聞き取れる。

東京メッツ時代から観ていて、
演技的には「The Girls next door」で開花。
そしてついにヒロイン。
そういった途中経過があるので、感動もひとしお。
演技的には、まだまだ向上の余地は山ほどあるけれど、
この役に関しては文句のつけようがない。
脚本、演出も、彼女のために作ったようにも思えるほど。
この役、他のメンバーで演じるのは難しいですからね。
というか、彼女はもう大人ですが、
子役でも、こういった演技ができる子がいるかどうか・・・
あまりにも情報社会の渦に巻き込まれすぎていますから。
彼女ぐらいの年齢になっても、この純粋さを保てる人材がほしい。

気になった役者は・・・
主役のおじさんこと、岩田裕耳は、
どちらかというと、もっさりした感情が豊かではない役柄。
変な世界にまぎれこんで、
「あーだ、こーだ」ギャーギャー騒ぐ感じではないので、
とても好印象。
突拍子もない現象、現実にも、
違和感をもちつつ受け入れる。
舞台を落ち着いて観られたのも、
彼の演技が要因。
雰囲気的に落ち着いた森山未来的な感じかな?

ドアノブやお涼役の堀越涼は、
芸人「NON STYLE」の石田明をもっとかっこよくした感じ。
その比較も失礼な話しですが。
雰囲気的には、ひょうひょうとした感じ。
ドアノブの、ちょっと裏表があるような演技と、
「吉原」で仕切っているお涼の優しさがありつつ厳しい演技。
ちなみに冒頭の落語もやっていますが、面白かったです。

こども役の堀川炎は、「渡り鳥の信号待ち」では、
ちょっと色っぽい役でしたが、今回はこども。
ネタバレになるので、子供のままにしておきましょう。
前と全くイメージが変わります。
背もこんなに低いんですね。ビックリ。
のほほとんした童子も凄く似合っている。
かわいらしい少女な雰囲気になっています。

ただ、彼女は演じるだけでなく、
音響、SEも担当。
「拍子木」って言うのかな?
火の用心等で使う、カチカチ鳴らすもの。
舞台だと「ツケ」と言うそうですね。
あれを担当していたのですが、
鳴らすタイミングを全部覚えてる。
もちろん、役者のセリフや間合いで。
覚えるのプラス感覚もあるでしょうね。
本当に素晴らしかった。

総括
脚本が意外と家族向けで、
ほどほどにわかりやすいのが特徴。
それと、大日向裕美のピュアな演技が光りました。
大人でピュアな演技はなかなか難しいですから。
私はものすごく楽しめました。
(敬称略)
このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録


トップ     観劇一覧     キャスト     女優