◆  奇跡の人  2009年

◆公演時期   2009年10月23日〜11月8日
◆会場 Bunkamura シアターコクーン
◆原作 ウィリアム・ギブソン
◆翻訳 常田景子
◆演出 鈴木裕美
◆装置 堀尾幸男
◆照明 小川幾雄
◆衣装 有村淳
◆音楽 横川理彦
◆音響 井上正弘

あらすじ

40代のアーサー・ケラー大尉、その若い妻ケート・ケラーが
ベビーベットを心配そうにのぞきこんでいる。
1歳半のヘレン・ケラーが急に熱を出したのだ。
やっと熱が下がったと思ったら、
ヘレンは音にも反応しない、光にも反応しない・・・・・

それから5年の月日が経つ。
それ以降、ヘレンは見えない、聞こえない、しゃべれない世界を生きている。
そして、ケラー一家は暴君のように振る舞うヘレンを持て余していました。

盲学校の生徒アニー・サリヴァンの元に、
誰もが投げ出したヘレンの家庭教師の口が回ってきます。
一人ぼっちで最低の環境と戦いながら生きて来たアニーが、初めて得た仕事・・・
かくして、ヘレンとアニーとの闘いが始まります。
(パンフレットより一部抜粋)

観劇感想

過去に3度観劇していて、今回が4度目。
菅野美穂のヘレンが観られなかったことが、今でも心残りではあります。

今回、初演しか観る機会がありませんでした。
ということで、前々から予定をたてていて、かなり前方の席で観劇。

ホリプロのおべっか使うわけではないけれど、
ハッキリ言って、すばらしいと思う。

アニー・サリヴァン役の鈴木杏はどうなることか、
正直心配していたのですが、
大竹しのぶ、田畑智子に負けず劣らず、独自のサリヴァン役を確立。
これはすばらしい。
最初は、ちょっとセリフの言い回しが早いかな?とも思ったのですが、
すぐに元に戻りました。
カツゼツいいですよ。
当然長セリフばかりですが、全くもって無問題。
昔の鈴木杏とは全くの別人で、本当に舞台女優になったという感じ。

今回はトラウマである、弟のジミーのフラッシュバックが強いです。
影絵のような演出は抜群だと思う。
ジミーのアニーへ訴えかける声、「施設」の老婆たち、
サリヴァンの精神に、いかに重荷にであったのか、とてもよく表現されている。
何度も登場しますからね。観客の方も重くのしかかる感じです。
後半、その施設にいたことを、ヘレンの両親に述べるサリヴァンも、
自分の思いの全てをぶつけています。
ヘレンをそんな施設にいれさせたくない。
弟の思いと交差します。

本人も述べていますが、
実際のアニー・サリヴァンも当時20代前半で鈴木杏とかぶり、
両親との対立もすごくうなずける感じ。
アニーは、ヘレンの今後を思ってなんとか改善、
全てのものに「言葉」があることを教えようと両親抜きでの、二人での生活を求めますが、
両親には娘であるヘレンを、一刻も早く自分の腕の中に胸に抱いていたい、
2週間も我慢したのに、それ以上なんて無理!その気持ちも痛いほどよくわかります。
このぶつかりあいはとても良かった。
特に母親役である七瀬なつみの「返して!」と発する、
叫びにも似たセリフは素晴らしい。

手紙を書くシーンがありますが、ここは大竹しのぶのサリヴァンの時の方が印象深い。
鈴木杏は、特に何か印象に残る雰囲気ではなかった。
このあたりは、大竹しのぶの独特の演技の印象が今でも強いせいなのかな?

で、特に一番思ったことは、

「にぱ〜〜〜」という演出。

これ、誰が考えたのでしょうか?
演出の鈴木裕美氏なのかな?それとも鈴木杏?
鈴木杏はアニメ好きですし・・・ありうる(笑)

鈴木杏のアニー・サリヴァンも凄かったのですが、
それと同格ぐらい素晴らしかったのが、ヘレン役の高畑充希
ピーターパンの主役としても有名。
私も過去に観劇しています。
ミュージカルピーターパン 2007年観劇感想

彼女はイメージ的に失礼ながら、
美少女キャラ、華があるタイプではないと思う。
ショートカットの髪形のせいかもしれませんが、ピーターパンのような男っぽい少年役、
「3年B組金八先生」での田口彩華役のような、少しツン!とした感じ。
それが彼女の個性だと思いました。

ところが!!
今回、おそらくカツラ?のせいもあるとは思いますが、
かなりかわいい雰囲気、お人形さんのよう。
ヘレン役は申し訳ないのですが、かわいい子がやらないと観ていてつらい部分があるんです。
あまり言いたくはないのですが、これは仕方のないところ。
そのヘレンをカツラをつけた高畑充希が演じると、ものすごくかわいいわけです。
これは本当に当たりだと思う。
よくあるんですよね、自毛よりもカツラのほうが似合うってこと。
髪質とかが変わると、人の雰囲気さえ変わる。

そんなに目がパッチリしていたイメージは無かったのですが、
この舞台ではかなりまんまるな感じ。
とてもハッキリしています。ここはとても印象深い。
瞳の強さ、この舞台ではそうとう強いです。

その可愛らしさだけでなく、
表情も千変万化。
ここまで表情が作れる子とは思いませんでした。
眉毛を上下させたり、瞳の動かし方なり、微妙な変化、どれをとってもすばらしい。
視覚、聴覚が閉ざされていることもあり、嗅覚、触覚を重視。
特に嗅覚で回りの雰囲気をとらえることから、視線と全く別方向に歩きます。
2階で演じている時は、こちらもハラハラドキドキ。

特に思ったのは、ヘレンの動きの切れ。
おそらく、ピーターパンを演じているぐらい、彼女は運動神経がいいと思う。
だから、私が今まで観たヘレンに比べると、動きが物凄く機敏。
ヘレンが最初に登場する、回転舞台でのところも、素早い動きでした。
(この登場シーンは、前回と同じ演出)
体がすごく軽く感じます。
この動きの切れが今までのヘレンとは全く違うところ。

当初は、ヘレン独特の雰囲気が演技演技しすぎて誇張されたようにも思えましたが、
観ているうちに全く違和感がなくなりました。

サリヴァンと二人での生活。
家で毛糸を編んでいるシーンは、とにかく静かに編んでいます。
それがとても楽しく思えるヘレン。
これって、まさしく「ガラスの仮面」で北島マヤが、
「若草物語」のベス役オーディションでやっていたことそのまま。
これには驚きました。

そして「ウォーター」の場面。
嗚咽を吐きながら、自分の記憶を呼び戻そうとするヘレン。
かつては覚えていたかもしれない単語、「ウォーター」を必死に思い出そうとする。
う〜〜〜ん、まいった。すばらしいよ、本当に。
過去を美化せずとも、もしかしたら私が観た中では歴代最強かもしれない。
(菅野美穂、観てませんが)

ヘレンとサリヴァンの格闘シーン。
これはものすごく激しい。
お互いにガチで平手打ちを数回。
そうとうやってますよ。
間違いなく腫れますね。
おそらく、相手のことなど全く関係なく、
お互いにヘレン、サリヴァンとして対応した結果だと思います。

さらにさらに、母親役の七瀬なつみが、ものすんごく素晴らしい。
母親としての温かさ、時に驚愕、時に力強く、時に愛情。
感情表現と声の迫力は物凄いです。
この母親役は当たり役。
ただ、激しい場面だけでなく、
駅で鈴木杏とからむ落ち着いた場面が、じつは一番素敵だと思う。

父親の佐藤B作は、言うまでもなくベテランですから言うことないな〜
娘のヘレンに対する強い愛情の訴えるの部分も良かったし、
息子である、ジェイムズとのかけあいも良かった。

伯母の重田千穂子もうまいです(「お江戸でござる」のあの雰囲気ですから)
なるほど、この役を過去に演じた方が、
劇団の先輩が松金よね子さんなんですね。
ど〜りで似ていると思いました。
同じ劇団だから、演技が似ている、というわけではありませんが。

ジェイムズ役の中尾明慶は、
重要な役だし、すごく楽しみにしていたのですが、
正直、声質はまだまだ舞台声ではない。
高音だし、声が軽い。
演技は頑張ってますけどね。
ここはこれから頑張ってほしいな。
過去に私が観た方が、山崎裕太、川平慈英、
長塚圭史(おっとタイムリーな話題。常盤貴子さんと入籍した方ですね)
と、かなり豪華。
これから、舞台では舞台特有の声質にしてもらえると嬉しい。

後は・・・
照明、前よりも全体的に明るくなったような気がする。
私のイメージとして、常に暗い雰囲気で、
離れ(?)の家に家具を持ち出すシーンのみが、かなり明るかった印象でしたから。
今回は舞台をとおして明るく、とても観やすかったです。

スープがわざと固形物(ポップコーン的?)なものになった、感じでしょうか?
そのため、鈴木杏に吐きかけたりするシーンも、
液体ではなく固体でしたから。
ただ、水差しは当然液体の水なので、びしょ濡れになります。

それから、とにかく犬がおとなしい。
物凄く静か。
ヘレンがずっとなでたりしていたが、全く変な行動せず。
偉いね。

子役は、高木希望/小倉優佳のWキャストですが、
出番が出番なだけに、特に論評することもありません。
ジミーの声は、やはりどちらかがやったのかな?

総括
客席は、女性、年配の方が多いでしょうか?
後半は予想通り、鼻水をすする音が劇場内に響きわります。
終了した後は、ほぼ全員がスタンディングオベーション。
初日ということもあり、関係者も多いでしょうね。
私の場合、感動系の舞台は、かなり冷静に客観的に観るタイプなので、
回りの雰囲気に合せることはないです。
完全に変人ですから、回りの雰囲気に飲まれることはありません。
よほどのことがないかぎり、感動しません。
それが良いかどうかわかりませんが。
回りにあわせることは好きじゃない。
が・・・高畑充希の素晴らしさには感動せざるをえない。
超絶的にすばらしい。

伝説と化すかもしれない、鈴木杏&高畑充希コンビの「奇跡の人」
間違いなくおすすめの舞台。
ただひとつ気になるのは、体力が物凄く消耗するし、水びだしになるわで、
1日2公演の時は、大変だな〜とつくづく思います。
体調管理も重要。

『奇跡の人』1997年 観劇感想
『奇跡の人』2003年 観劇感想
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