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舞台「奇跡の人」2003年観劇感想

満足度星星星半星空星
公演時期 2003年3月2日~4月5日
会場 東京シアターコクーン
演出 鈴木裕美
装置 堀尾幸男
照明 小川幾雄
衣装 八重田喜美子
音楽 横川理彦
音響 井上正弘
ヘア&メイク 高橋功亘
殺陣指導 川原正嗣
演出助手 坂本聖子
舞台監督 二瓶剛雄
原作 ウィリアム・ギブソン
翻訳 額田やえ子

あらすじ

40代のアーサー・ケラー大尉、その若い妻ケート・ケラーが ベビーベットを心配そうにのぞきこんでいる。 1歳半のヘレン・ケラーが急に熱を出したのだ。 やっと熱が下がったと思ったら、 ヘレンは音にも反応しない、光にも反応しない。 それから5年の月日が経つ。 それ以降、ヘレンは見えない、聞こえない、しゃべれない世界を生きている。 そして、ケラー一家は暴君のように振る舞うヘレンを持て余していました。 盲学校の生徒アニー・サリヴァンの元に、 誰もが投げ出したヘレンの家庭教師の口が回ってきます。 一人ぼっちで最低の環境と戦いながら生きて来たアニーが、 初めて得た仕事。 かくして、ヘレンとアニーとの闘いが始まります。 (パンフレットより一部抜粋)

観劇感想

6年ぶりの「奇跡の人」観劇

1997年以来です。 最初の導入部分は新鮮でした。 と言っても、アーサー・ケラーとケート・ケラーが ベビーベットを心配そうにのぞきこんでいる場面ではありません。 ケート・ケラー役のキムラ緑子さんの背筋が凍るような悲鳴。 暗転。そしてスポットライト下に登場する鈴木杏ヘレン。 まずここが良かった! さらにそのまま舞台が回転(装置で回転している) ヘレンが歩くところ、四つんばいになったところ、階段を登るところなど、 いきなりヘレンという人物の特徴を観客にわかりやすく説明する感じ。 まるで、三重苦であるヘレンの動きをカメラで追っているかのよう。 ここの演出が自分としては一番好きですね。 ちなみに6年前に見た時は、回転装置ありませんでした。

家のセットには2階があります。 面白いことに、部屋のセットというものはあまりなく、 基本のパイプが丸見えでした。しかし、違和感はまったくありません。 それよりもなによりも、パイプとパイプの間が広いので、 ヘレン役の鈴木杏さんが落ちないかちょっと心配でした(笑)

セット自体は、自分が見た時に比べると、見栄えは良くありません。 でも、この舞台はそれほどこだわる必要はないと思います。 駅の場面なんて、セットらしいセットなんてなくても、 十分にその雰囲気が伝わってきましたから。

ユーモアというか、コメディの面白さという部分においては、 6年前の方が上かもしれません。 他の観客の方は笑っていましたが、自分はそんなに笑えませんでした。 やはり少し観客の年齢層が高いのかな?

途中、アニーが過ごした盲学校の生徒が登場するのですが、 6年前は、役者さんとともに本当の盲学校の方が出演していました。 ど~してやめたんでしょうか?必要ないと見切ったのかな? まぁ、それほど重要な役というわけではないのですが、 観客に呼びかけるメッセージとしては必要かもしれません。 ということで、今回は役者さんが盲学校の生徒役ですが。 1幕で出演は終わってしまうため、印象薄いです。 ちょっと悲しい(涙)

今回は、黒人役をひじょうにうまく使ってます。 パーシィを活用する場面なんて、うまいな~と思いました。

ヘレンとアニーのぶつかり合いの最中、スポット間隔のように、 アーサー、ケート、ジェイムズが意見をぶつけ合います。 なかなか斬新な演出。

格闘するヘレン対アニー

舞台上で格闘するヘレン対アニー。ある意味、みなさんお待ちかねでしょう! ここを楽しみに来ている人も多いはず。 近くの客席から『プロレスみたい・・・』と聞こえましたが、まさにそのとおり。 プロレスに関しては、私も幼稚園から観ていることもあり(笑)うるさいです。 関節技や、ケンカキックも飛び出してましたね、ビックリ!

照明はずっと暗いです。 やっと明るくなったな~と思ったのは、 アニーがヘレンと2週間2人で暮らすために、生活必需品を運ぶところ。 たぶん、ここだけですね。

食事の際の食べ物や水も実物。 6年前は違ったような気もしますが、ここは記憶が曖昧です。

校長とアニーとのかけあい。 面白いんだろうけど、自分にはちょっとついていけませんでした。

今回は弟ジミーのことがトラウマのように何度もでてきます。 6年前はありませんでした。 多少あってもいいけど、ちょっとしつこいかな~とも感じました。 ジミーとアニーのところが強くなりすぎるような気もします。

精神病院の話もありました。ここは本当かどうかはわからないけど、 聞き入りました。

名場面「うぉ~たぁ~!」

名場面中の名場面『うぉ~たぁ~!』ですが、 鈴木杏さんの演技、私は良かったと思います。 最初にコップ(水さし?)を落とすのは、ちょっと嫌なんですけど(笑) 間をあけて、天に向け、『うぉ~たぁ~!』と叫ぶ場面は、 自分の体の中に悪寒が走るほど鮮烈でした。 その一言によって、 物には名前があるということをヘレンは理解します。 今まで理解できなかったものが突然理解できるようになり、 心の奥底でたまっていたものが弾け飛びます。 そして、ヘレンの『言葉』への要求が始まります。 『いろんな言葉を教えて!!』 アニーから言葉を教えてもらうたびに、 ヘレンは喜び、楽しみ、嬉しさがこみあげてきます。 ここの場面の鈴木杏さんのヘレンは秀逸でした。 言葉を渇望するヘレンの表情、そして表現力、 彼女を観ずにはいられないほど見応えありました。 流石、鈴木杏!と言ったところでしょう!

そしてラスト、客席からは、すすり泣く声やジュルジュルと鼻水を吸う音が、 あちらこちらから聞こえてきます。 悲しいことに、自分はあまり感情移入しないタイプなので、 そういった人たちの気持ちはよくわかりません。 ど~しても心の奥底で客観的に観てしまうんです・・・ もっと素直に心を開いたほうがいいかな?

ちょっと関係ないですけど、 パンフレットの最後のページのお菓子のCMの杏ちゃん。 すごく目立つ(笑) パンフレットの終わりぎわに急に赤が目に飛び込んでくるので、 宣伝効果は抜群でしょう!この戦略は正しいです。

気になった役者

アニー・サリヴァン役の大竹しのぶ

6年前とまったく変わらず、すばらしい演技でした。 早口のセリフが多く、自分としては赤毛のアンにも似た、 マシンガントークのイメージが強いです。20歳という役柄ですが、遠くから観ればまったく問題無し。 いえいえ、とっても可愛らしいですよ。 それから、アニーってこんなに明るい役だったのかな~とも感じました。 ちょっと説教じみているところもあって、嫌いな部分もあるのだけれど。 今回は歌もありました。歌唱力ありますね。 なかなかしみじみとした歌で、はかなげな感じです。 でも、本当に歌う場面必要かなぁ~なんて思ったりもしました。 6年前の私が観た回では、大竹しのぶさんがセリフをかむという、 滅多に観られない光景を目にすることができました。 今回は・・・残念ながらセリフ完璧でした(笑)

ヘレン・ケラー役の鈴木杏

初舞台ではありますが、たくさんのテレビや映画で活躍していて、 その演技の才能は誰もが知っているところです。 私的にはとても良かったと思います。 まぁ、演技という演技ではないんですけど(汗) 特に、手を口に入れている印象が強いですね。 そういった特徴のヘレンを演じていたのだと思います。 鈴木杏さんは、もともと目に力強いものを持っているため、 舞台映えします。それにかわいいです(笑) 正直、6年前に観た寺島しのぶさんのヘレンは『華』がありませんでした。 観ていてあまり楽しくなかったです。 今回の鈴木杏さんは、もって生まれた『華』があります。 TV、映画、そして舞台と、出るものすべて観客を魅了します。 舞台役者として、観客を引きつけるということは必要でしょうね。

今回は背中で演技をする場面がありました。 アニーとヘレン、ふたりきりで2週間生活をし、 ようやくひとりでナプキンやスプーンをあつかえるようになったにもかかわらず、 期限切れで、家族のもとへ戻ったヘレンが最初に食事をする場面。 家族の誰もが、ナプキンやスプーンを使うヘレンを想像する・・・ しかし、観客に背を向けているヘレンはナプキンをフワッと放り上げ、 手づかみで食事をする・・・ なかなかいいですね~!もちろんこの演出もすばらしいのですが、 その時の背中の演技をする杏ちゃんにも、しびれました! やっている本人も、 「これが私の背中の演技よ~!」なんて思ってるかもしれません。

ちょっとふくよかになってはいるけど、 あれだけの激しい演技を毎日やっているんですから、 体力つけてないとやってられません。 パンフレットで本人がコメントしているように、 次回はセリフがある鈴木杏さんの舞台が観たいです!

ケート・ケラー役のキムラ緑子

前述しましたが、我が娘が目が見えないと知った時の悲鳴は、 実にすばらしかったです。 母親としての、ヘレンへの過保護的愛情表現は抜群でした。

アーサー・ケラー役の辻萬長

なぜか雰囲気的に『アニー』のウォーバックスさんの印象が強いです(笑) ヘレンを愛しつつも、今のヘレンの行動をなんとかしたい。 時に沈着冷静、時にオトボケチック、 微妙に戸惑うバランスの演技だったと思います。

ジェイムズ・ケラー役の長塚圭史

6年前に観た時は川平慈英さんだったので、 ど~してもあの方の印象が強いです(笑) で、川平慈英さんと比べると、知的で沈着冷静でキザッぽい感じでしょうか? あくまでも川平さん独特の、あまりにもハッキリとした喋り方、 ややオーバー気味な演技と比べてですけど(爆) おおっぴらに明るくないぶん、影の部分が見え隠れしますね。 何をしでかすか、わからない感じ。 「父親、母親と和解していなかったらどうなることやら」と、ちょっと心配しました(笑)

セアラ役の石丸椎菜

ダブルキャストですが、自分が見た回は彼女でした。 セアラという役は、表情が固くおとなしい役どころです。 「アニー」のモリーと同じような役柄。 椎菜ちゃんはその雰囲気がよく出ていました。 目の不自由な演技も良かったと思います。 ただ!ハッキリ言って、この役は椎菜ちゃんじゃなくてもできるのでは? と思いました。 とりたてて難しい演技でもないし、表情の強張った演技なら、 じつのところかなりの子役ができるでしょう。 椎菜ちゃんの演技の実力は、アニーのクリマスコンサートや、 ショートフィルム等で拝見しました。 すばらしかったです。歴代モリーの中でもトップクラスでしょう。 明るい演技の方が似合うし、表情の豊かなところも好きです。 今回は、まぁ、役が役なだけに仕方のないことではあるけれど、 これからこの経験を活かして、演技の幅をひろげてほしいです。 今度は元気で明るい演技がみたいです!

マギー役のマギー

犬のマギーです。特にあまり印象はありません(笑) 関節技の実験台や、ヘレンの文字遊びの実験台になったり、 ご苦労さまです。

総括

大竹しのぶさん、鈴木杏さんのコンビ、たいへん楽しく拝見できました。 演出も今回はかなり斬新で、見応えあります! できればもう1回みたいのですが、そんなに時間の余裕がないし、 地方は遠すぎ(涙) これからの鈴木杏さんの活躍がすっごく楽しみです!

※敬称略
キャスト表