◆  『奇跡の人』 2006年

◆公演時期   2006年10月4日〜22日
◆会場 青山劇場
◆原作 ウィリアム・ギブソン
◆翻訳 常田景子
◆演出 鈴木裕美
◆装置 堀尾幸男
◆照明 小川幾雄
◆衣装 前田文子
◆音楽 横川理彦
◆音響 井上正弘

あらすじ

40代のアーサー・ケラー大尉、その若い妻ケート・ケラーが
ベビーベットを心配そうにのぞきこんでいる。
1歳半のヘレン・ケラーが急に熱を出したのだ。
やっと熱が下がったと思ったら、ヘレンは音にも反応しない、光にも反応しない・・・・・

それから5年の月日が経つ。
それ以降、ヘレンは見えない、聞こえない、しゃべれない世界を生きている。
そして、ケラー一家は暴君のように振る舞うヘレンを持て余していました。

盲学校の生徒アニー・サリヴァンの元に、
誰もが投げ出したヘレンの家庭教師の口が回ってきます。
一人ぼっちで最低の環境と戦いながら生きて来たアニーが、初めて得た仕事・・・

かくして、ヘレンとアニーとの闘いが始まります。
(パンフレットより一部抜粋)

観劇感想

1997年の観劇感想(大竹しのぶ&寺島しのぶ)
2003年の観劇感想(大竹しのぶ&鈴木杏)

今回は観る予定が全くたたなかったので、ど〜なることかと思いましたが、
何とか平日の当日券で入場することができました。
G列の上手ですが極端なほどの端ではないので、とても見やすかったです。
ちなみに、公演一時間半前から8人ぐらいは並んでいたので、本当にギリギリです。
休日でしたらかなり厳しいでしょう。もちろんそれを考えて平日を狙ったのですが(汗)
オーケスラトピットも無いし、スピーカーも無いしで、
端っこの方でもこんなに見やすいの?というぐらい快適でした。

「奇跡の人」の英語の題名「ミラクル・ワーカー」
直訳すると「奇跡を起こす人」という意味だそうです。
これは初めて知りました・・・いつになっても勉強です。

まずはパンフレットを購入。
サラサラ〜と読んで見ると、気になることが数点。
1. 演出家の鈴木裕美さんは3回目
いろいろなところが一新ということで演出も一新なのかな〜と思っていたのですが、
演出家の人は同じでした。

2 .翻訳の常田景子さんは初めて。
翻訳する人によっても解釈がかなり違うようですね。またまた勉強なります。

3. 山崎裕太がめっちゃいいこと言ってる!(爆)
いや、本当に舞台役者としていいコメントしてますよ。
彼の物語の取り組み方がじつに良く理解できます。

4. 子役もいた(南川あると中津川南美)
全く知りませんでした。
前回は石丸椎菜が出ていたので、今回は無しかな〜と思っていたもので・・・
ただ、そんなに出番はないな〜とも予想してました。

さて、本編。
幕は最初からあいています。
セットは前回と同じ感じです。居間がメイン。
その横に階段があって二階もあります。
前回同様の鉄パイプですが、これは全く違和感がありませんでした。
さらには前回同様の回転する舞台装置を使い、駅のシーンやアニーの障害施設等を表現します。
このあたりは前回と同じ演出です。
同じと言えば、ヘレンの最初の登場シーン。
耳が聞こず、目が見えないことを観客に知らせるために、
回転装置を使ってヘレンの動きを追いかける演出です。ここも前回と全く同じ演出です。

アニー・サリヴァンのトラウマ(?)として、
弟のジミーの話がフラッシュ・バックとしてあらわれるのですが、
なんとなくはわかりますが、具体的には曖昧な感じなんですよね。
ま〜わざと曖昧にしているのかもしれませんが、ちょっとわかりづらかったです。

前回はそんなに気がつかなかったのですが、イスや机はすべてプラスチック使用なんですね。
だから女性でも簡単に持ち上げたりできるんだ・・・と納得。
もちろん、怪我対策でもあるでしょう。
ただリアリティーにはちょっと欠けますけどね。

印紙(?)の場面ではヘレンの顔にちゃんと黒いインクがつきました。
それから、水差しの水をかぶる場面も本当に水をかぶっていました。
実際にリアルに使ったのこのぐらいでしょうか?
もちろん、井戸の水は本物ですけど。

ヘレンとアニーの格闘シーンも「奇跡の人」では名場面のひとつですが、
ここに関しては、前回の大竹しのぶ&鈴木杏コンビの方が圧倒的に上です。
田畑&石原コンビはパワーが足りない気がします。迫力がないんですよね・・・

前回同様、劇場内が明るくなるのは、
アニーとヘレンが二人だけで暮らす為に引っ越しの作業をする場面のみ。
それ以外はほとんど暗いです。これがある意味「奇跡の人」の特徴でしょう。

パーシー役はある意味大変。
バットで叩かれたり、腕をひっかけられたり、本当にパシリあつかい(笑)
でも、唯一この舞台の中ではコメディチックな場面なので非常に重要です。

時間割りとして、1部1時間、休憩、2部1時間、休憩、3部50分、という形でした。
(ちなみに私が見た回は座談会もあったのでさらに30分です)
やっている方は当然ですが、観る方も相当体力がいります。
特に2部はヘレンの登場場面が少なく、休ませている印象を受けました。
そんなこともあり2部まで見終わった時点で、ヘレンはいてもいなくてもいいな〜なんて思いました。
なにより、ヘレンよりアニー・サリヴァンの悲哀の方が強いですから。

印象的な場面のひとつとして、2幕のアニーと母親、父親、3人で語りあうシーン。
私的には一番ここが好きですね。
アニーの気持ち、父親の気持ち、母親の気持ち、すべてをぶつけあいます。
まさに生の舞台!役者さんたちの息づかいで、こちらも引き込まれる感じです。
ちなみにここの場面では、アニーの早口な長セリフが入ります。
観ているこちらもハラハラ(笑)
そうそう、座談会で田畑智子さんもここのシーンが一番印象に残っていると言っていました。

「奇跡の人」クライマックスシーンである、井戸での「ウォーター」
石原さとみのヘレンは、一瞬うつむき加減で静寂します。ここの演技はなかなかいいですよ。
アニーはそんなヘレンを見つめながら、彼女のために間(ため)をつくります。
ヘレンがこの後ど〜なるのか?それを見届けたい感じです。
そしてついにワ〜ワ〜(ウォ〜タ〜と言っているが言葉にならないため)と言葉を発します。
ここにきて、よ〜やく私は感動することになりました。
それまで感動とまではいきませんでしたから。
「ようやくか〜」という感じですね。ちょっと待たせすぎ。

今回公演中、携帯が鳴っていました。
引くんですよね、こういうのは。
ほんと、劇場内に電波を流して携帯の電波をかき消してほしいです。

気になった役者さんは・・・
アニー・サリヴァン役の田畑智子
誰からも言われたことと思いますが、今までこの役を大竹しのぶがやっていたこともあり、
いろいろな人から注目、批判されることは明白であり、
プレッシャーは相当なものだったことでしょう。
とにかく彼女の表情のつけ方は抜群です!完全ににプロの舞台役者さんですから。
やや上目づかいな感じもグッド!
そして、当然のことながら膨大な長台詞。
しかもアニーの性格上、早口で喋らなければならないため、これまた台詞回しがたいへん。

たしかに大竹しのぶと比べるとアニーの迫力自体はないでしょう。
ただ、原作的には20歳前後のアニーということで、じつにピッタリ。
駅でジェイムズと初めて会うシーンで「あまりの若さに驚く」というところがあるのですが、
大竹しのぶのアニーはちょっと引きましたから。
田畑智子の方がここは適任。

ヘレン役の石原さとみ
彼女は初舞台です。
現時点で、私が見る限りではまだ弾けていないような気がします。
本性を隠している感じ。自分の中で抑えてしまっているのかもしれない。
激しいところも、どことなく顔をぶつけないようにとか、体を傷つけないようにとか、
怖がっていてなんとなく自己保身をしているような気がするんですよ。
顔が綺麗すぎるのも不思議。あちこちあざだらけとか言ってましたが、
見えないところであざがあるんでしょうかね〜?

たしかにいろいろと表情が変化するのですが、
とりたてて千変万化の表情付けというわけではありません。
表情を作っているように見えて、けっこう単調な表情作り。イメージがわかないのかな?
笑顔はとてもかわいいのですが・・・

あくまで私が感じたことですが、なんとなく彼女は目が見えているような感じなんですよね。
特に父親がペロペロキャンディー(懐かしい響きだ)を取り出した時は、
嗅覚で甘いという表現ではなく、目で甘いという表情が見てとれたんですよ。
ここはちょっと残念。

ケイト役の小島聖
ハッキリ言ってめゃくちゃうまいです。
特に最初の駅のシーンでアニーサリヴァンと出会う場面。
落ち着いた雰囲気で、しっとりした感じで、存在感アリアリな雰囲気で対決するんですよ。
ここはすごく見応えありました。

彼女の演技は常に安定しています。
母親としての存在感は物凄いです。
3部の「娘を返して〜!」と鬼気せまる場面は悪寒すら感じます。
安定しすぎて、自分のペースに他の役者を巻き込むところもありますけどね(汗)

ジェイムズ役の山崎裕太
舞台役者として、前々から評判が高かったので、
私自身は初観劇ということもありすごく楽しみにしていました。
・・・・・めっちゃすごい!
彼のイメージとして、もっとやんちゃで荒削りな感じがあったのですが、
ど〜して、ど〜して、すごくすっきりというか真面目で清廉した役も似合います!
発声の時点ですごく光るものがあるし、声に張りがあるし、背筋もすごくピシッ!としています。
ちなみに1997年は川平慈英さんが演じていたのですが、ここまで性格が違うのか〜!
と、けっこう新鮮でした。

印象的なシーンは、
2階で、アニーがヘレンに勉強を教えているところを、からかいながら見ている場面。
ここの3人のからみはかなり良かったです。特に山崎裕太のこなれた演技が引き立ちます。
今後も彼は舞台役者としてどんどん良くなっていくでしょうね。かなり大満足!

父親、ケラー役の梨本謙次郎
威厳ある父親なのですが、ある部分ではお茶目です。
特に2幕目では、コメディチックな表現を見せてくれて面白いです。
(アニーに叱っておきながら、結局アニーの言う通りにするところ)

座談会にて・・・
石原さとみさんの声はガラガラでした。
当然のことながらヘレン役の時に声は発声しないのですが、
わめいたり叫んだりするため、声がかすれてしまうそうです。
また、気合の入り方も違うようで、昼の一公演だけの時は全力でぶつけれらるそうです・・・
ということは昼夜2公演の時は(爆)

彼女は座談会の時、背筋がピシッ!としていて、足も綺麗に閉じています。
なんとなく育ちがわかりますね。
変わって田畑智子さん。
やや前かがみで、足もやや大股開きで男っぽいです(爆)

総括
今回は、アニー、ヘレンだけでなく、
母親、父親、ジェイムズがじつに丁寧に描かれている気がします。
ここにスポットライトが当たるためとても感情移入しやすいです。
そんなこともあってか、ヘレンがいなくてもいいんですよね。
特に1〜2部まで観ている限りでは全く感動しません。
よ〜やく3部にきて、感動のスイッチが入るという感じです。
間違いなく感動する名作であり、アニー、父親、母親、ジェイムス、個々の話はとても秀逸でした。
ヘレンは・・・・・・微妙だな〜嫌いではないんですけどね〜

(敬称略)


トップ     観劇一覧     キャスト     女優