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満足度星星星星半星
公演時期 2018/2/7 →2/26
会場 シアタークリエ
原作 アリソン・ベクダル
作曲 ジニーン・テソーリ
脚本・作詞 リサ・クロン
翻訳 浦辺千鶴
訳詞 高橋亜子
演出 小川絵梨子

あらすじ

漫画家として活躍するアリソンは今、43歳。
アメリカの小さな町ペンシルバニアで生まれた彼女の家族は、
父ブルース、母ヘレン、弟のクリスチャンとジョン。
ブルースは高校教師をしながら家業の葬儀屋を営んでいたが、
彼が最も愛情を注いでいたのは「家」だった。
古い家を改築してアンティークの家具を修理し、完璧に整理整頓された室内。
家はブルースの美意識そのものだった。

「父も私も、同じペンシルバニアの小さな町で育った。
そして父はゲイだった。
そして私はレズビアンだった。
そして父は自殺した。
そして私は・・・レズビアンの漫画家になった。」

主人公・アリソンはペンシルベニアの葬儀屋(Funeral Homeを略してFun Home)の長女として生まれ、今は漫画家として活躍しています。彼女は今、43歳。父ブルースが亡くなった時と同じ年齢に差し掛かっています。アリソンとブルースにはいろんな共通点がありましたが、一番は・・・アリソンはレズビアンで、ブルースはゲイだったこと。そしてアリソンはそれを受け入れ、父は隠し通す道を選び、自らの命を絶ったのでした。―なぜ父は自らの命を絶たなければいけなかったのでしょうか?

(公式サイトより引用))

観劇感想

Wキャストですが、笠井日向アリソンのチームのみの観劇。

舞台奥にオーケストラピット。
ここまで本格的に音楽が重視されている舞台とは意外。
生演奏で歌える格式高い舞台。
この環境で歌えるということは、子役たちにとっても幸せなこと。

思えばシアター・クリエという会場での観劇は、たぶん初めてだと思います。
となりに宝塚劇場もあり、
客層からしても、かなり舞台好き、観劇玄人が多いように思えます。

女性客がメイン。
おそらくは「東宝が制作する舞台だから」という観客の方もいることでしょう。
それだけ安心安定した舞台を送り続けているという自負があるように思えます。

このシアタークリエは、意外と奥行きがあります。
さいたま芸術劇場も奥行きがある舞台ですが、
あまり奥行きがある舞台だと、キャストが奥の方で演じることもあり、
観ずらく感じることもあるので、ちょっと気にはなりました。
今回の舞台では、そこまで奥で演じることもないので、
本当に少しぐらいかな?

テーマ

この舞台、観客に何か答えを求めるようなものではありません。
訴えかける大きなテーマでもないし、
サスペンスのような謎解きでもない。
観客ひとりひとりが感じればいい。
そういった印象を受けました。
とはいえ、私のサイトは観劇感想なので、
私なりの解釈で感想をつづっていきます。

そもそもこの舞台は、なぜアリソンの父親は自殺したのか?というのがメイン。
自殺した父親と同い年になり、
父の死を思い出しながらマンガを描く、アリソンの過去への振り返りの物語。
自殺の真相なんて誰にもわからない。
ただ、紐解いていこうというスタイル。

もうひとつわかっていることは、
アリソンの父はゲイ、アリソンもレズビアンいう事実。
これもこの舞台の根底に流れている。

父の自殺、ゲイ、レズビアン。
あとあとから考えると話しは難しい。
大人アリソンがマンガを描きながら、過去回想を始めることによる思い出なので、
時系列がバラバラ。
私は普通に観られましたが、高齢者の方はわかりづらいかもしれません。

ミュージカルかつ、ストレートプレイ

ミュージカルではあるが、そこまでミュージカルミュージカルしていません。
かなりストレートプレイに近い。
ダンス、歌等、「ザ・ミュージカルナンバー」という、区分けされた感がないので、
演技、物語に集中できる感じでしょうか。
自然な流れでの歌。

観客の年齢、性別、役者への感情移入による視線の変化

この舞台における感情移入は、出演者の役の視線でも異なると思います。
父親目線、母親目線、子供目線。
大人アリソン、大学生アリソン、小学生アリソン。
観客が男性、女性、年齢によっても変わる。
ここはとても興味深いところ。

役者の圧

これが半端ない。
圧倒される。
それが舞台の凄さであることは、
数々の舞台観劇をしていて重々承知なのだけれど、
強さ、激しさ、熱情に波動、
バシバシ伝わってくる。
それがこの舞台は特に顕著。

重要な「キーホルダー」

物語は、自殺した父と同じ年齢43歳になった大人のアリソンが、
過去の記憶を紐解いていくことで始まります。
父の遺品を取り出し、ひとつひとつ見つめ、手に取る。
そして、キーホールダー。
ここがきっかけで、物語が進行。
物語では大きく触れられませんが、
この「キーホールダー」が物凄く重要な部分であるように思えます。
なぜなら、ミュージカルナンバー「鍵の束」Ring of Keys
ここで初めて小学生アリソンが相手の女性を意識したと思われる場面。
演じる笠井日向の歌い方が素晴らしい。
ちなみにプログラムの裏表紙もキーホルダー。
それだけこれがいかに重要であるか、意識してみるとさらに面白いかも。

もうひとつキーホルダーとは違いますが、
物語後半、父と車のキーの受け渡しを手投げでおこないますが、
これもなんだか意味深のように思えます。
父から娘へ・・・なんて考えたりしますね。

泣かせる「鍵の束」Ring of Keys、そしてFinare

基本、アリソン役の瀬奈じゅんが主役なのだけれど、
自分の回想を観ている感じなので、ブルース役、父の吉原光夫がメイン。

物語の流れとしてみると、最初は普通な感じ。
徐々に徐々に盛りあがっていく。
特に大きく変わるのが、笠井日向が歌う「鍵の束」Ring of Keys
ここでドカーンと胸にくる。
今までの普通の物語が変わる。
そんな感覚。
そして、 大原櫻子、瀬奈じゅん、吉原光夫のソロが感情をのせて盛り上げていく。
淡々としていたストレートプレイに近い舞台が、一気に感情を高ぶらせていく。

そして最後の笠井日向、大原櫻子、瀬奈じゅん、3人が歌うFinare
ここが本当に物凄い。
間違いなく見せ場。
なぜだか涙があふれてくる。
理由はわからない。
そこまで緊迫したシーンでもないのに。
この3人の歌声ゆえんだ。
ここで涙腺が・・・
と、私はギリギリ耐えましたが、泣く人はここでしょうね。
素晴らしい。

パパの飛行機

アメリカのレビューサイトでは、
父のブルースが小学生アリソンを足の裏で支えて飛行機のように飛んでいる部分が重要、
みたいな書き方をしていたので、私なりに興味深くそのシーンを観劇しましたが、
意外とそこまで印象には残りませんでした。
もっとインパクトがあってもいいかな~と思います。
舞台の一番最後に、大人アリソンがその飛行機のシーンのことを話しますけどね。
1回しか観ない人にしてみると、印象は薄い。
時間、空間の停止とか、スポットライトとか、
何か変わった演出があってもいいと思う。

唯一の弾けたシーン

アリソンの恋愛ということで、
夢物語のように、全員が歌やダンスを披露するシーンはこの舞台の中では独特。
ずっと落ち着いたストレートプレイなので、
一瞬のエンターテイメント、安心、ほんわかした温かさを感じる。
ただ、父ブルースだけは、それがあまりに誇張。
それゆえの、心の揺れ動きがここに表れているように思える。

LGBT

最近はLGBTのテレビドラマが増えている・・・というのを耳にしますが、
舞台の方がテレビドラマよりも緩いので、こちらは前々からかな?
アメリカではもっと前から。
ファミリー向けのドラマで放送していますからね。
しかもかなり濃い内容で、キスシーンが普通にあります。

母親が、娘からレズビアンであることを告げられた時のショックは大変なことと思う。
こう思うのは、まだ私がLGBTに対して寛容ではないためだろうか?
父の影響で、娘もこうなってしまった、みたいな。


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母の葛藤。出会い、結婚、その後・・・

3人の子供がいて、結婚してからも男性との付き合いが続く。
しかも家で。
母親であるヘレン役、紺野まひるの演技は、本当に複雑で難しい。
というか、原作ありきだから、ま~事実に近いことなんでしょうね。
一般ピープルの私はとしては、なかなか理解しがたい。

父の自殺の要因

真実は誰にもわからない。
無論、私の推測。

古いものを新しくするのが好きな父親。
新しく始める。
つまりは開花してしまったアリソンは、
成長したため、新しくなったということなのだろうか?

陶器には制作者の刻印がある。
自分の刻印ともいえる、娘のアリソン。
自分はそれを終えてしまったというのか?

父が自殺した原因は何なのか?
大学生アリソンがレズビアンであることを告白したために、
やはり娘がそうなってしまったという後悔か?
(ではなぜ、レズビアンの本を大学生アリソンに渡していたのか?
そもそも父は小学生アリソンの時に、気づいていたのでは?
それをようやくアリソンが自覚したためか?)
母親がそれに驚き、これからの世間体で悩むかもしれないためか?

鬱病は脳の病気であり、ノルアドレナリン、セロトニンが減少することが要因である。
父もそれにかかっていたせいなのか?

アリソンがレズビアンであることを自覚せずにそのままでいたら、
父は自殺をしなかったのか?
いろいろ考えさせられる。

ピックアップ

  • 子役3人によるファン・ホームのCMは、完全に笠井日向がリードしている。
    印象度合いも歌も。
  • いきなりドイツ語の部分が出てくるので、わかりづらい人がいるかもしれません。
    「グーテンターク」とか。
    私は「銀河英雄伝説」マニアなので、けっこうドイツ語はわかるほうですが。
    シュワルツ・ランツェンレイターとかね。
  • ロイとのシーンは、観てるこちらもドキドキする。
    ロイがワイシャツのボタンをバッとはずすシーンとか。
    「悪くない・・・」ってナンバーもね。すごいな。

気になった役者は・・・


横田美紀 ジョーン役
素朴でサバサバ系。
スッキリしていて、このキャストの中で一番好きかもしれない。
アリソンが惹かれるのもうなずける。
強いオーラがあるわけではないのに、引き込まれる。
他のメンバーが濃過ぎるので、逆に自然な感じが受け入れやすかった。

楢原嵩琉 クリスチャン役
そこまで歌の子ではない。
ちょっと、ぬぼ~とした天然な感じだ。

末っ子のジョン役、阿部稜平はとても印象深い。
この子はただ者ではないでしょ?
末っ子の無邪気さ、表情の変化も楽しいし、
ミュージカルナンバーの声もよく出ていた。
本当に声がよくとおっている。
歌唱力も素晴らしい。
なんと言うかな?体全体が柔らかい。
私としてはかなり注目したい子役だと思う。

笠井日向 小学生のアリソン役
ミュージカルマリアと緑のプリンセス2015では準主役のプリンセス。
気品あふれる笑顔のみならず、雰囲気もプリンセス。
蛇足ながらエターナルファンタジー演劇大賞では最優秀新人賞。
ファミリーミュージカル アルプスの少女ハイジ2016では主役のハイジ。
ハイジの元気の良さは、歴代ハイジの中でも傑出している。
ミュージカルアニー2017年ではジュライ役。
「ミュージカル・アニー」のジュライのソロでは、
「アニーよりうまいのでは?」なんて思うほど。

小学6年生ながら、そうそうたる経歴。
彼女は独特のワールドをもっている。 ここが面白いところ。

3人の子役のミュージカルナンバーも、完全に彼女が主導している。

表情が豊かなのは当然として、
笠井日向の首を「うんうん」とうなずくシーンは独特。
また、何か良からぬことをたくらんでいるニヒルな表情も印象的。
この表情付けは、子役ではなかなかできない。
笠井日向ワールドの特徴でもある。

質問の仕方も独特。
「〇〇だった?」「何か特徴あった?」
母親に聞くシーンのイントネーションも独特で趣がある。
彼女の個性と、それを受けて母親が答えるシーン。
意外とこのシーンが私は好き。

そもそもこの舞台における小学生アリソンの複雑な心境は、
演じる役者も、演出する方も難しい。
どこまで理解して、どこまで教えるのか?
逆に教えない方がいいのかもしれない。
今の年齢で自然に感じ取ることが必要なのだろう。
そんな子供ながらの無邪気さと、女の子っぽい服を着たくないわがまま感、
どこまで理解しているかはわからないが、子供アリソンの心情を体現化している。

そして後半のミュージカルナンバー「鍵の束」Ring of Keys
大いなるきっかけ。
この何かが弾けるような、開花したようなミュージカルナンバーは本当に秀逸。
海外の子役にもひけをとらない。
素晴らしい歌声。
心に響く歌い方。
言うこと無し。

ちなみに「おっぱいとおしり」のところはあまり面白くはない。
原作にあるのなら仕方ないてすが。
アメリカだと受けるのかな?

もはや子役の器ではない。
大人。
だからこそ、今後の舞台は並大抵の舞台では難しい。
他の子と比較すらできないもの。
そこは彼女のプライドが許せない可能性もある。

あくまで私の意見としては、
ミュージカルピーターパンのピーターパン役が観たいところ。
少年っぽいし、演技も歌もダンスの実力もある。
オールマイティー。
ホリプロさんの関係者が観ていたら、
ぜひピックアップしてほしいところ。
ホリプロに入らないとダメですが。

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大原櫻子 大学生アリソン役  
大変申し訳ない。
歌手であることは知っていますが、その内容も歌唱も全く存じあげません。
テレビも音楽もうといので、彼女の名前はなんとなくわかる程度。
ということで、舞台女優としての感想。

彼女の演技は初めて見るので、他の違った役柄を観たこともなく、
こういう感じの演技をする女優なのかな~?という印象。
ふわっとした雰囲気。
太ももあらわの演技も頑張った。
ちなみに、私的にはそこまでの色気は感じませんでした(失礼)
当たって砕けろ的な大学生アリソン。
サバサバした、男性的な雰囲気。
特に違和感もなく、ドギマギした大学生アリソンを演じてくれました。
歌唱力は言うまでもなく、折り紙付き。

ミュージカル系の歌声とはたしかに違うけれど、
そこまで違和感のある歌い方ではない。
ただ、やはり音楽家という印象。
サバサバした演技は、かつての富田靖子を思い出しました。

櫻子のジョーンへのミュージカルナンバーは、
とてもいい。
ここは歌うというよりもセリフ。
ジョーンへの熱い気持ちが観客にも伝わります。
大原櫻子の歌の中で、ここが一番好きだな。

吉原光夫 ブルース役
有名どころすぎますが、私は初観劇。
やはり噂どおり物凄かったです。
淡々とした父親の演技。

父ブルースが銀食器を手にとり、職人のサインが入っていたことに喜ぶ。
職人の歴史が刻まれていることがわかる。
様々なものに、その歴史が刻まれているということだ。
古い家を建て直す楽しさ。
それは父ブルースも思いを共有していたのかもしれない。

この一番最初の部分の演技、後々考えると、一番好きなシーンかもしれない。
父親として、娘と話していて、本当に自然な会話。
その自然なシーンが一番印象深い。

そして後半の、車でのアリソンとのミュージカルナンバー。
ソロ。
メガネをかけた時と、取った時とでは雰囲気が違います。
だからソロナンバーの時にメガネをとった姿は迫力がありました。
恐いほどの熱情。

電話線・・・で14の時のノリス・ジョンーズとの関係。
それは相手にされたのか?
自分もその気があったのか?
と、私なりにいろいろ試行錯誤。

瀬奈じゅん アリソン役
主役ではあるけれど、基本は自分の思い出を横から眺めている。
それをずっと見つめ、時に思い返して言葉を発する。
傍観者。
ただ、その静かな流れが父親の自殺前の記憶に近づくと、
感情をあらわにしていくことになる。
徐々に徐々に。
すべてが終盤への布石。
この終盤への盛り上げ方、観客へのアピールは役者冥利に尽きると思う。
「電話線・・・」のところなんて、熱いし、観客は静かに息を殺して見守るだけだもの。

「補足説明」というフレーズが多用されるが、
やっぱりドラマ的、マンガ的なキラーワードなのかな?

紺野まひる ヘレン役
前述していますが、出会った時が一番幸せだったのだろうか?
子供が3人いて、その間もずっとこういう関係だったのだろうか?
そして最初に気づいたのはいつだったのだろうか?
父親のブルースも悩むけれど、母親の苦悩、精神的にもきつい気がします。
それを吐露するミュージカルナンバーは、
かなり詰め込んでいる、とても大切なもの。
ヘレンにとって、あそこが一番の肝でしょうね。

上口耕平  ロイ役
とにかくワイシャツのボタンを開けるシーンがやばすぎる(笑)
あそこの印象が強すぎた。
ある意味、裏の名場面。

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総括

独特の世界観。
しかもかなりアメリカ向けの内容なので、
それが日本でどう演出、役者が演じられるのか注目の舞台でした。

前述しているとおり、とにかく役者の「圧」が強い。
半端ない。
出演キャストが少ないこともあってか、さらに強く感じられる。

アメリカのトニー賞で、ピックアップされた動画を見ても、
全く日本の子役も負けていない。
英語で歌っても違和感ないでしょ?

「父が自殺した話」だけれど、
そこにいたるまでの過程が濃密で引き込まれていく。
そして、なぜかはわからないけれど、
エンディングに向かうにつれて何かしらの感情が心にあふれ、
涙を流してしまう・・・
まさに悲喜劇の家族の物語でした。

※敬称略
キャスト表