ミュージカル 舞台に立ちたい

満足度星星星星空星
公演時期 2017/8/4(金) →5(日) 
会場 高円寺スタジオK
脚本・作詩 ハマナカトオル
作曲 山口琇也
演出 中本吉成
振付 鈴木雄太 高橋咲

あらすじ

3人のミュージカル女優の10年にわたる友情と人生の変遷を、
笑いと涙で描いたオフ・ブロードウェイタッチのミュージカル・コメディ。

みゆき いづみ、ナナ。
ミュージカル女優として華ひらかせるため、日々舞台で奮闘する3人。
下積みの舞台が続き、地方公演もあったりで、生活も、彼氏との関係もままならない。
3人の中で、心の迷いが生まれていく・・・

観劇感想

率直に言って、めちゃくちゃ素晴らしい。
これが3回公演しかないのは、もったいない。
生演奏、生歌の本格的ミュージカル。

セットが無くても情景が浮かぶ

たった3人。
セットも無い。
無いにもかかわらず、観客には「ドレッサー」、ホテルの部屋、アパートの部屋、
その情景が見える。
間違いなく、3人の演技力、セリフ力に他ならない。

言うなれば、「ガラスの仮面」で北島マヤが体育館倉庫で「女海賊ビアンカ」を演じた感覚。
あちらは、倉庫の備品、飛び箱等、利用できるものをセットに見立てていましたが、
こちらはゼロ。
それでこの情景を観客に観させる。
生演奏の力もあるかな?
観客に想像をかきたてる。

公演時間は休憩無しの2時間でしたが、あっという間。
飽きることなく、いつの間にか終わっていた感じ。
10年に渡る友情と人生、その時間の経過、流れも見事。
それだけ舞台に、3人に集中できました。

3者3様の歌い方

基本、3人ともプロなので言うことはありませんが、
歌については、3者3様の歌い方。
単純に歌唱力の「上手さ」というわけではない。

小林風花は自然な歌い方、
内田莉紗は王道のミュージカル調、オペラ的でもある。
高橋咲もミュージカル的ではあるものの、そこまで強めではない。
それぞれの歌い方に特徴があって、とても面白い。

物語の内容


脚本としても凄く面白い内容でした。
舞台女優という仕事を続ける、3人の女性の友情と人生観の変遷。
舞台の裏話しなり、あるあるネタもあり、クスッと笑わせる。
ビッグサプライズもあれば、不幸に見舞われたりもする。
最後にその後の気になる部分もあるが、あえてそこは描かない。
観客の想像に任せる・・・という感じですね。

舞台女優の理想と現実。
地方公演で彼氏に会えないゆえの不安。
女性ならではの出来事。
恋愛事情。
友人からお金を催促。
けっこう厳しい内容も脚本にいれており、
私にしてみると虚構と事実の合間のようでもある。
舞台の流れとしてみれば、リアリティそのもの。

私が思うに、主役みゆき役のセリフが膨大。
さらにストーリーテラーもするし、生歌だし、ダンスもするし、
舞台の役どころとしては神妙な演技も必要になる。
正直、かなり主役に負担がかかる脚本だな~と思いました。

脚本も面白いけれど、それにプラスしてキャスト陣が素晴らし過ぎた。
当然のことながら、演劇も歌もダンスもできないといけない。
そしてなによりキャストに魅力が無いと、観客を引き込めない。
3人の力は物凄く大きいと思う。

ちなみに物語のセリフの中で、
「予算が無いから、演出家もしょぼくなる」
たしかに(笑)

気になった役者は


小林風花 みゆき役
NEWSエンターテイメントスクール自主公演 『青い空の彼方へ』
古い話で申し訳ない。
これだけでなく、ミュージカルキッズ・アルゴ 『ユー・ガット・ア・フレンド』
等、アルゴミュージカルにも多数出演していました。

彼女の魅力のひとつが歌唱力。
子役の時から物凄く上手かったです。
子役レベルの歌のうまさで終わるのであれば、それまでの人。
彼女はそこからさらに進化する。
しかも、ただでさえ歌唱力があるのに途中で歌い方を変えてくる。
マジかと。
ずっと成長し続ける凄さ。
常に新しく昇華していく。

情感あふれる歌い方ではない。
ミュージカル的な歌い方ではなく、本当にとりとめない、自然な歌い方。
今回、芝居をし、さらには主役でセリフが多かったのにもかかわらず、
安定した歌唱力を発揮できたのも、下地があるからこそ。
彼女の歌の実力を知らない人であれば、驚愕したこと間違いなし。
「ミュージカル的な歌い方でなくて、こんなに歌えるんだ」と思った人もいたことでしょう。
歌メインのライブではなくて、演技もダンスもしながら。
それでいて、ライブの時と同じ歌唱力。
ほんとただ者ではないよ、小林風花は。

みゆき役は、真面目でテキパキなんでもこなす、優秀なリーダータイプ。
小林風花の本当の性格はわかりませんが、
あくまで舞台上のイメージとしてはピッタリ。
そのまんまに思える。

前述してたように、セリフは膨大。
3人の中でも一番多い。
にもかかわらず、カツゼツよく、セリフ回しも抜群でした。
後半、不幸な出来事が待ちかまえているのですが、
その心の揺れ動きもじつに自然体。
日常生活そのまま。
というか、出演している3人のキャラが、そのまんまなのでは?と思うぐらい。
違和感が全くない。

ストーリーテラーもこなし、役もこなし、生歌、ダンスまで。
これを2時間ずっと。
小林風花のポテンシャルの高さに驚かされる。

で、じつのところ、私はダンスが一番頑張っていたと思う。
おそらく、ダンスは他のふたりが得意のような気がする。
それに負けず劣らず、彼女のダンスも頑張った。
ここは評価してあげたいな。

内田莉紗 いづみ役

1999年「ミュージカルアニー」の主演のアニー役。
じつは私、この回観てないんですよね。
人づてに素晴らしかったと聞いています。

彼女を観るのは、「ライオンキング」以来。
この時のヤングナラ。
私の中で歴代最強。
ヤングナラとともに、子象役としても出演するのですが、その時の歌い方。
なんて楽しそうな笑顔で歌うのかと、今でも鮮明に覚えています。

それ以来「大人の内田莉紗をいつか観たいな~」とずっと思っていたのですが、
なかなか予定が合わず、ようやくにして観ることが叶いました。
15年ぶり!

で、です。
ビックリ。
凄いカルチャーショック。
当時の思い描いていたイメージと、今回のイメージ。
表現がマニアックで申し訳ないけれど、
「超時空要塞マクロス」で、
敵側が「プロトカルチャー」を初めて見たショックに似ている。

まず声。
「こういう声質なんだ」
というのが率直な感想。
普通に喋っていてもイントネーションがミュージカル口調に近い。
その響きがある。
劇団四季の「ライオンキング」に出演していたから、
四季特有の発声法が起因しているのかな~なんて思ったりもする。
関係なかったら申し訳ない。

そしてアニメ声。
たしかに声優もしていますから、その影響かな?
知ってる人はずっと前から知っていたのだろうけれど、
私は19年ぶりに観たこともあり、すごく衝撃的でした。
彼女特有のセリフ回しも、かなり独特。

歌い方は完全にミュージカル調。
途中のミュージカルナンバーでも「ハッハッハッハッ」のスタッカート(であってるかな?)で、
彼女の歌唱力の高さを物語っている。

あと、これはおまけ的な話しですが、意外と身長が高い。160センチぐらい?
なんでかと言うと、だいたい子役のアニーをやっていた子は小さいイメージがある。
あまり背を高くさせないため、大人になっても低いままって方もいます。
ただ、内田莉紗を観る限り、そこまで身長が伸びないというわけではないんだな~と思いました。

彼女の極端にも思える表情付けはかわいい(今回はあえてそうしたのかもしれませんが)
物凄く「華」がある。じつに魅力的。
彼女の笑顔、表情だけで、パッと明るくなるもの。

今回のいづみ役は天然ボケのキャラ。
それが男を惑わせる要因のひとつという意味合いがある、
という大人の天然ボケキャラの深さ。
なんとなくわかる。

彼女の演技は、完全にミュージカル。
セリフも誇張気味で独特。
内田莉紗ワールドと言った感じ。
今回だけなのか、いつもこういった感じなのかはわかりませんが。
正直に言って、一般の人にしてみれば好き嫌い別れると思う。
慣れていないと、かなりクセがある。

ただ、これが「内田莉紗」なんですよね。
「内田莉紗」の個性。
演技も、セリフ回しも、表情付けも、歌も、ダンスも、
全てが「内田莉紗」という魅力。
観客がそこに惹かれることに、なんの疑いももたない。
クセがあるからこそ「内田莉紗」の魅力にハマッテいく。
そういう印象を受ける。

高橋咲 ナナ役

彼女は初めて観劇しました。

ナナ役は、3人の中では元気系で男っぽい雰囲気。
荒々しいところもあるけれど、優柔不断で心配性なところもある。

この荒々しい役、小林風花、内田莉紗にやれと言われても、まず無理だと思う。
たしかに、女優なのだからできないことはないのだけれど、
どう考えてもミスキャストになる。
だからこその高橋咲。
こういう役ができるというのも、自分の個性。

物語後半からは、かなり心が廃れていきます。
ここの演技はじつに迫力ある。
小林風花、内田莉紗もできないことはないけれど、
泥くさい冷めた演じ方は、高橋咲のようなタイプでないと難しいと思う。

心の揺れ動きが激しい役は、毎日の公演、
ましてや2回公演だと精神力が大変。
一回リセットして、それを演じ直しますから。
高橋咲の鬼気せまる表情はなかなか良かった。
そして最後の悟ったような優しく柔らかなところも。
意外とここが、舞台のキーポイントのような気がします。

前述しているように、彼女の歌い方はミュージカル系だけれど、
そこまで強くしている印象はない。
小林風花、内田莉紗のちょうど間ぐらい。
どちらかと言えばダンスの人かな~?とも思う。

総括

舞台の裏側のような、ちょっと現実味があるような脚本は面白い。
その脚本もさることながら、キャスト3人の魅力と実力が舞台に弾けている。
演技に生歌にダンスを2時間。
飽きることのない、集中した2時間の観劇を過ごしました。
観客が2時間だらけることなく、集中できるってなかなかありません。
しかも舞台はたった3人ですからね。
いかに凄いことか。

最高に楽しい時間を過ごせました。

(敬称略)
キャスト
みゆき 小林風花
いづみ 内田莉紗
ナナ 高橋咲
演奏
ピアノ 中林万里子
ギター 成尾憲治
パーカッション 森拓也
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