劇団ドガドガプラス21回公演「カゲキ・浅草カルメン」2016年


満足度
公演時期 2016/2/19→21 25→29
会場 浅草東洋館劇場
作・演出 望月六郎

あらすじ
江戸時代後期、黒船がやってくる前夜のお話。
江戸浅草界隈に三人の若者がいた。
『勝麟太郎=後の海舟』は、直心影流免許皆伝にして世の白眼に耐えながら蘭学に挑む若きパパ。
『河竹新七=のちの黙阿弥』は、裕福な商家の生まれでありながら放蕩の限りを尽くし
歌舞伎界=賤民の世界に身を投じた戯作者にしてトランスジェンダー。
そして我等がヒーロー『干 愚鈍=ドン・ホセ』は江戸勤番水戸藩士にして劇症型尊皇バカ。
三人が運命の糸に操られ、出会った先が浅草の“影の支配者”弾左衛門の座敷=サロンでありました。
禁断の果実・肉食の宴を彩る踊り子の名は我等がヒロイン『カルメン=軽女』
自らを「あたしかい?あたしなら軽めの女・・・カルメンさ」
とうそぶく女には、深くて重〜い秘密があった・・・
(公式サイトより引用)
観劇感想

こちらのカンパニーは初観劇。
公演時間はだいたい2時間15分ぐらいかな?
イメージ的には、もっと演劇演劇していると思いきや、歌もダンスもあって驚きました。
公演場所が浅草ということもあってか、エンターテイメント的要素が多いのかもしれません。
ミュージカルの流れというよりも、突然の歌謡曲みたいな印象。
歌唱力があるのは当然としても、ダンスがキッチリしているのにはさらに驚き。
エンターテイメントの舞台として、歌はできても、ダンスはおざなりになることが多い。
それを考えると、バックダンサーも含めてダンスがキッチリしている。
私は好印象。

浅草に来たことは過去に何度もあるけれど、舞台観劇は厳密にいうと二回目かな?
『めぐり姫萬國漫遊記』以来。
懐かしい。
ここで初めて、浅草の劇、観客のノリを感じました。
他の舞台の印象とは全く異なります。
浅草の雰囲気。
おそらく、地方に行けば行ったで、
また違った雰囲気になるんだろうな~と初めて感じたのがこの舞台でした。

なんとなく観客の雰囲気から、浅草、この劇団目当て、というのは想像がついたのですが、
ちょっと違和感もある。
それもそのはず、なるほど、元グラビアアイドルさん出演ということか。
そういう雰囲気はすぐに空気で感じることができる。

今回の舞台は、江戸時代後期。
ということもあってか、台詞が当時仕様で難しい。
イントネーションもある。
それでいて、マイク無しで大声量を出さなければならない。
発声に関しては役者ごとに、できる人と、まだまだな人がすぐにわかってしまう。

それに関連する話として、私の両親が「真田丸」を観ているのだけれど、
長澤まさみが嫌い。
なぜかって聞くと、言葉遣いが現代語、東京弁そのまんまが嫌らしい。
過去の大河を観ればわかるけれど、特有の声質があり、
時代考証に基づいた台詞遣いをしている。
私なりに弁護すると、
もしかしたら若い人向けに東京弁で喋ってほしいという演出があるかもしれない。
私の意見としては、両親と同じだけれど。
いくら三谷脚本が面白くても、それを演じる役者の台詞が軽かったり、
当時の言葉づかいでないと、私はガッカリする。
それもあってか、
今回の「カゲキ・浅草カルメン」は時代劇口調がしっかりしていて凄く見応えがあった。
言葉の覇気もある。
舞台特有ではあるけれど、
あの覇気や口調は、もはやテレビでは観られないのかもしれない。
観られたとしても、若い人は無理だろうな。
30、40歳になってわき役ながらブレイクする人が出るのもわかる。
大手事務所が若手は活用されるもの。

ただ、それにプラスしての長台詞もあり、つっかえることもしばしば。
それは仕方のないことだと思う。
それで満足せずに、物凄く大変なことであることは重々承知だけれど、
完璧を目指すのがプロの役者。

長台詞で完璧な舞台だったのを思い出すと、
The Girls next door
これは凄かった。
現代劇ではあるけれど、ひとりひとりの台詞が物凄く長く、
カツゼツも良く、間も良く、そのテンポで舞台が進む。
つまりは、ひとりが台詞をつっかえたら、そのテンポがずれてしまい、話が止まってしまう。
観客の方も緊張してしまうぐらいな舞台。
ある意味「言葉遊び」を使った台詞の妙。
それでいて、私の記憶においては台詞をつっかえた子は一人もいませんでした。
しかも、みんな若かった。

今回の舞台とこの舞台を比べる必要はないけれど、
やはり完璧は目指してほしい。

話の内容はかなり複雑。
河竹新七、勝麟太郎、千愚鈍の3人が、
浅草の影の支配者、弾左衛門の座敷で出会い、意気投合。
→千愚鈍は踊り子であるカルメンに魅了される。
→彼女はダンスの妖艶さ、その美貌だけでなく、じつはアヘンを使って虜にし、仲間にしていた。
→カルメンの夫でもある我流史荒の仲間になる千愚鈍。
→カルメンを愛人という立場ではなく、自分の妻にしたいと思う千愚鈍は我流史荒を殺してしまう。
→夫がいてこその愛人である千愚鈍を可愛がっていたカルメン。
だが、いざ夫婦の関係になると、彼女の心は・・・


という感じです。
本当はアヘンの密売やら、浅草の影の支配者、弾左衛門、その後継者である真希乃も関わったり、
歌舞伎芸がらみの、藪中、沢村も複雑に絡んできたりします。
もうワンエピソードとしては、勝麟太郎の父親、勝小吉と照古満の関係もいい感じ。

正直言うと、時系列、話の流れが一幕はわかりづらかった。
よくあるパターンではあるが、一番最初のシーンが、話の中盤?あたり。
それはわかるけれど、イマイチ弾左衛門とのつながりとか、
政府、警察の敵味方関係もわかりづらい。
2回観ればわかると思うのだけれど。
簡単すぎても、サスペンスチックにならないので、それはそれで難しいが。

開演前の前説。出演者による個々のキャラの説明等は面白かった。
出番的にも、注目する意味合いとしても、ここで目立つ子もいるので重要。
本編以外として楽しめました。

いろいろな流れはあるものの、
本質は、男と女の色恋。
そこにアヘンも加わる。
女性の色香と薬で、男が惑わされる。
普通に恋愛して結婚するのとは全くかけ離れた世界で、
男女の関係を楽しむという大人の遊びとも言える。
私の好きな「銀河英雄伝説」のロイエンタールに言わせれば、
「人にはふさわしき生と、死を、か」と言ったところか。

上記のようにちょっぴり官能的なシーンが何カ所か出てくるものの、
私はそんなに性的なものは感じませんでした。
舞台では当たり前の演出。
思うに、「heart of silence」という演出・脚本がダンカンの舞台は、
子供が出ていましたが、似たような官能的なシーンもありました。
たしか当時小学生だったかな?
まー慣れですね。

ダンスもしっかりしているが、殺陣もしっかりしている。
ここは迫力ありますね。
特に背丈がある人の殺陣だと迫力が倍増。

人数が多いので仕方ありませんが、荒川沈馬と勝燐太郎とのからみや、
利根主税とアカシアのからみも、本当はもっと深く広く話が伸ばせたかも。
少しもったいない。
まっ、公演時間が決まっていますからね。はしょらないと。

私的に好きなシーンは、勝小吉と照古満のところかな?
この二人のシーンは、どこでもお互いの愛を感じる。
小吉には妻がいるのだけれど、それはそれであり~の、
勝小吉と照古満の関係は凄くいい。
熱い場面が多いから、意外とホッとする場面でもある。

気になった役者は・・・

基本、みなさんプロなので、あまり言うことはないので雑感的に。

ヒロイン?でもあるカルメン役のゆうき梨菜はじつに妖艶だった。
舞台である以上、やっぱり見応えがあり、集中できる女性は必要。
特にヒロインであればなおさら。
私はアイドル系の舞台も多々観ているので、ルックスが良い女優もたくさん観てきました。
ただ、妖艶なあの目つきを取得するのはなかなか難しい。
ここはやはり舞台の稽古、経験値が違う。

性癖というか、本性というか、
自分の我を通し、そして自分の行く末もすでに見据えてわかっている。
それもまた良しとする、気構えなのか。
そんなカルメンを演じてくれたゆうき梨菜には称賛を送りたい。
千愚鈍も身の程をわきまえて、愛人で終わらせれば良かったのに。
と言いたいけれど、アヘンもからんでたから可哀相ではある。
私の場合は危険察知能力があるので、絡むと危なそうな人は回避、スルーです。

丸山正吾の勝麟太郎は言葉も強いし、声量があってじつにいい。
江戸後期のところも時代考証的な台詞遣いも素晴らしかった。
まさに舞台の声。
他のキャストもそう。声の質がテレビに出演している俳優とは全然違う。
無論、テレビ用とは違うことは重々承知だけれど、
今回のような時代劇に近いところは、大河的な台詞遣いの方が断然いい。
役柄的にも、いろいろと熱い。
後の勝海舟だけれど、より若い青年時代ということもあってか熱血漢あふれる。
龍馬が登場する時期だと、幕府お抱えのこともあってか、
テレビ等では、けっこうのらりくらりした演出になる。

勝小吉役の前田寛之と照古満役の飯嶌桂依
前述しているけれど、本編よりこの二人のからみの方が私は印象深い。
飯嶌桂依の落ち着いた演技と色っぽさ、カルメンとはまた違った女性の色香。
意外と私はヒットだと思う。

藪中役の岡田悟一と沢村歌二郎役の中瀬古健は、歌舞伎での女形の印象が強い。
藪中は、ちょっとおっちょこちょいな感じで憎めない雰囲気。
沢村歌二郎は役者としての実力があるのに、なぜか恵まれない不遇な雰囲気をかもしだす。
それゆえに、道を間違えたか悪の道に進んでいく。
ひょうひょうと演じた中瀬古健はじつにうまかった。
彼もそうだけれど、今回の出演者はけっこう背が高い役者が多く迫力がありました。
それを合わせるために、靴の調整とかもよくある話。

河竹新七役の渡辺宏明も歌舞伎らしい雰囲気そのまま。
この人はうまいでしょ。
カツゼツや抑揚は完璧に思えた。
最初から元歌舞伎の方なのか、歌舞伎っぽい口調の演技なのかわからないほど。
ただ、3人の中では性格的に落ち着いたところもあり、
義兄弟?の中では控えめ。

荒川沈馬役のバアナは「敵憎し!」という男性っぽい勇ましいところから、
キスされたところからの女性的な落ち着いた雰囲気への変化。
このメリハリが良かった。
マンガチックな演出。
ただ、そこからの展開があると、私的はもっと面白かったけど。

那珍役の璃娃(レイアイ)
そのまんま中国の方かな?
エンターテイメントの部分がメインかな。

アカシア役の野村亜矢
カルメンの妹分的役割だが、イマイチ役割分担が不明。
お色気で男性を惑わすでもないし。使いっぱ的な存在。
ただ、前述していますが、利根主税とからみがあり、
恋心があるのか?あまり深入りしない方がいいと言いたいのか、
カルメンに近づかない方がいいと思っているのか、
結局何も言うこともなく、彼があんな目にあってしまうのは災難。
もう少しやりとりがあっても良かった。

ドモ安役の大岸明日香
彼女はまだこれからの子かな?
ドモリがある役だけれど、ここはまだまだ勉強の余地がある。
ドモリというのは、凄く難しい表現。
精神的なものがある。相当勉強しないとね。

浅草弾左衛門役の小玉久仁子
各劇団を見比べたりできるほど観劇はしていませんが、
女性でこういった男性的かつ野性的かつ悪童な女優は観たことがない。
あの荒々しさは普通の女優でも難しいし、誰にでもできる役ではない。
インパクト、迫力は物凄かった。
迫力を超えた、ド迫力。
まさに怪演といったところ。
ヤバイ意味での、闇の後光が見える感じ。
そんな彼女も我流史荒には・・・ってところも性分のなせる技か。

千愚鈍(ドン・ホセ)役の的場司
ある意味、表、裏、両方の主役とも言える。
アヘンに関わってしまったこともあるけれど、カルメンに出会ってしまったこともまた彼の不幸。
いや、幸福なのかもしれない。
そんなまともな人生を送ることができなかった千愚鈍役を演じた的場司は素晴らしかった。
若さあふれる青年から、荒々しく、ドス黒く染まっていく様。
舞台上で変わっていくその姿は、悪人になってしまったけれど哀れでもある。
演じるって、その人の人生そのものを演じるということ。
特にこの千愚鈍は舞台上の変化が激しかったから、その様を演じるのも役者冥利に尽きると言える。

真希乃役の古野あきほ
正直、今回のヒロインは彼女。
まーかわいい。容赦なくかわいい。
物凄く目を引く。
と思ったら、グラビアアイドルもやっていたみたいですね。
至極納得。
舞台女優として観客を引っ張る魅力は多分に必要。
そして、ただルックスが可愛いだけでなく、演技もしっかりしている。
馬鹿っぽい演技はまだまだだけれど、
じつはそれが演技という、本当の自分を見いだしたところも良かった。
舞台をけっこうこなしているみたいだけれど、これからも頑張ってほしいな。
絶対にどこかで誰かが観てくれているはず。
こんなに素敵な女優、使わない手がないもの。
そうはいっても、なかなかテレビで起用されるのは大変なんだけれど。

蟋蟀(こおろぎ) 役のヴァニー
鈴虫(すずむし)役の中村絵里奈
雰囲気、髪形がちょっと似ているので、どっちがどっちだったか判別できず申し訳ない。
大阪弁を喋っていた気が強そうな子がいたけど、どっかわからん。
二回観ればわかったけれど。
男性陣は色気がある二人を見つめたりするシーンがあるけれど、
正直そこまで色気はまだ感じないかな?
ただ、あまり色気を出そうとすると色気担当の人もいるから、加減が難しそうだ。

ザクロ役の相馬毬花
歌はさすがにうまい。開演前ではフランス語?か何かの歌を歌っていた。
素直で素朴な雰囲気はバッチリ。
ダンスもキッチリ。
子役からやってますからね。
たまたまだけれど、青い衣装だったのでかなり目立つ。
カルメン=赤なので、青の衣装は逆に目立つ。
ただ、劇団のメンバーの声量の大きさが半端ないので、
それに比べるとまだまだ物足りない。
出演するカンパニーやマイクの有り無しにもよるだろうけど、
ここは経験だな。

利根主税(ちから)役。川又崇功
背も高く、イケメンなのに、後半登場のみで少しもったいない。
もう少し話しを膨らませてあげてもいいぐらい。
アカシアと何となくあってもいいのにな~

隅田川狐狸庵役の流しの信之と、お紺役の松本彩希は、
怪我を治すシーンが面白い。
こういうコメディはあっていいし、
実際「病は気から」という気合的なものは、なくもない。
出番少なめですが小っちゃくて頑張ってた。

総括
現代劇とは違う、江戸後期を題材にした舞台なので、
時代考証がある大河ドラマのようなセリフ遣いが新鮮。
今の大河ドラマに見せてやりたいぐらい(特に若い人)
当時の喋り方で、あの声量。台本を覚えるだけでも大変だけれど、
ここも役者の本分になると思う。
特に高齢者には受けるだろうな。
もはや、昔懐かしい大河ドラマを見るためには、
テレビではなく舞台で見るしかなくなったとも思える。

劇団ドガドガプラスは創立10周年ということで、
10年続いている劇団だけれど、世間の荒波なんのその、
こういう劇団があるということだけでも、観た価値がありました。

(敬称略)
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