ソラリネ。#10「止むに止まれず!」

満足度
公演時期 2013年10月30日(水)→11月4日(月)
会場 上野ストアハウス
作・演出 佐藤秀一(3LDK)

あらすじ
舞台は広島。
音信不通だった、鈴原正隆の息子、あきらから連絡があり、
結婚の許しを得るために戻ってくるとのこと。
父は困惑するが、長女のはるか、次女の瞳は、
久々の兄との再会ということもあり、父をなだめる。
ようやく帰ってきた兄であったが、その姿は・・・
さらには結婚相手、瞳の彼氏をも巻き込んでいく。
観劇感想
「鈴」チームのみの観劇。
ストレートプレイ。

作・演出が佐藤秀一(3LDK)
どこかで聞いたことがあるな〜と思いましたら、
なるほど、「(改訂版)おい!オヤジ。」でも観劇しました。
この人のホームドラマ作りは本当にうまい。
何気ない生活の中で、微妙な違和感、そして勘違いの連鎖、
そこから話を盛り上げていく。

最近の舞台は、正直、テンポが早い。
ついてこれる人もいれば、ついていけない人もいる。
観客層のことを考えての流れもあるとは思いますが。
ホームドラマは、ゆったり系。
もちろん、慌ただしく、ドンドン追い込む場面もありますが、
それは抑揚であり、間。
ホッとする場面があるのは、私は好き。

「(改訂版)おい!オヤジ。」でも、居間が舞台でしたが、
今回も同じ、ちゃぶ台がある昔の居間。
ここに懐かしさ、ノスタルジックを私は感じてしまう。
映画「ALWAYS 三丁目の夕日」のように、
過去ものが当たる理由でもあると思う。。
床がフローリングで、ダイニングスペースで食事というのは、
また雰囲気が異なりますから。
ちなみにアパート経営でも、
畳みにするのか、フローリングにするのか、悩みどころではあるそうです。

話の流れ的には、
→舞台は広島。音信不通だった、鈴原正隆の息子、あきらから突然の連絡。
→結婚の許しを得るために戻ってくるとのこと。
→父は困惑するが、長女のはるか、次女の瞳は、久々の再会に喜ぶ。
→住み込みで働く中田竜次と瞳は、兄が連れてきたであろう女性と会う。
→ところが、じつはその女性こそが兄であった。
→真実を打ち明けるタイミングを失い、父、長女ともに兄の結婚相手だと思ってしまう。
→自分の彼女が、元・男であったことを知らない結婚相手、金子真一も登場。
→父への挨拶になるが、父は勘違いをして次女、瞳との結婚だと思ってしまう。
→さらに瞳と本当に交際をしていた藤田芳郎も登場し二股状態に。
→混乱に拍車がかかるものの、ついには全ての真実が明かされてしまう。
→そんな中、一番ショックを受けていたのは、
結婚相手が元・男であることを初めて知った金子真一であった
→そしてついに父は・・・
こんな感じです。

広島弁のせい?かどうかはわかりませんが、
常に喧嘩しているように思えてしまう、ホームドラマ。
変な家族だけれど、それはそれでいい。
大きな出来事ではあるけれど、サスペンスでも、SFでもない、ヒューマンドラマ。
家族との向き合い方を、改めて再認識するかのよう。

120分休憩無し。
セリフの量は半端なく膨大なのですが、
なかでも鈴原あきら、鈴原瞳、中田竜次は多かった。
この3人のやりとりは物凄く多い。
間とかタイミングとか、大変だったことでしょう。
さらには舞台が広島で、みなさん広島弁ですからね。
そこも大変。方言指導とかもあったのかな?

面白さ的に、一番のキーポイントは中田竜次役の重見将臣
「俺が全てを知っている」的な発言は面白い。
コメディ的に、他の出演者が彼をどう活かし、活用するかがポイントなんですよね。
その転がせ方でいかに笑いをとるか、そして彼がどう受けるか。
そんな感じ。
ちょっと劇団ひとりとか、ネプチューンの堀内健の雰囲気がある。

この舞台、後半けっこうみんな正座しています。
あれは訓練をしていないと本当に立ち上がれない。
地味に大変だったと思います。

自分が結婚しようとした女性が、じつは元・男。
その衝撃の事実を知り、悩む金子。
自分の息子が娘に変わって帰ってきた事実に衝撃を受ける父。
二人が相対し、父は別れるよう勧めます。
現実問題として、向こうの両親にも、世間体的にも、
いろいろこれから困難が待ち受けていますから、それをわかっている父の思いやり。
さらには、この舞台では言いませんでしたが、
子供、赤ん坊の問題もありますからね。
先日観た「あいすべき、不毛」の話しではないけれど、
遺伝子ということも頭にいれないと。
単純に「養子」という考え方ではすまされない、物凄く難しい問題が出てくる。

ただ、金子は全てを受け入れて、
父に対し、お付き合いを前提にすることを願い出ます。
父は金子がお酒を一滴も飲まないことを知りつつ、
あえて自分と酒飲み勝負を受け、勝つことができたら承諾すると。

ネタバレし過ぎるので、最後の最後の父親エンドは秘密にしておきます。
最初につながるっていうのは、憎い演出。

気になった役者は・・・
基本みなさん、大人、プロの方なので雑感。

鈴原あきら役、永作あいり
彼女の舞台を観るのは久々。
野菜とキュウリとごめんなさい以来。

彼女とは、一番古い知り合いのひとり。
そもそもこのサイトの「エターナルファンタジー」
観劇感想はネットを始める前から大量にメモ書きを残していた為、
すぐに始めることができましたが、
女優や俳優をピックアップしようとは思いませんでした。
そんな中で何の因果か知り合いになったのが彼女でした。
話しだすと長くなるので割愛。

主役ということもあり、セリフ量は膨大。
それでも昔から声質には特徴があり、
響くようなセリフ回しで、カツゼツも問題無し。
重みを置くタイプではなく、歌声のように声がとおる。
グラビアアイドルとしても有名ですが、
歌唱力はプロですらか。

このあきら役、じつは「男」ということが物語前半でわかりますが、
東京で暮らしていたこともあり、標準語、広島弁と、使い分けます。
ここは大変だったと思います。
他の出演者は、金子真一以外、広島弁でいいですからね。
彼女は切羽つっまった、唐突に発っする言葉が広島弁という、
ちょっと変わったセリフ回しをしなければならない。
さらには、息子の結婚相手だと思っている父には敬語、
正体を知っている瞳たちには慣れた口調と、言い回し方も変わる。
本当に難しい役柄を演じきりました。
女優として、率直に言って素晴らしいと思う。

私の思い出として、彼女の笑い方。
これは、昔と全く変わらない。
あの笑い方を聞くたびに、私の脳内にある海馬が刺激されて、
ノスタルジックに過去へ逃避行してしまう。
それぐらい、本当に変わらない笑い方。

女優インタビューをしている、大日向裕実もそうですが、
永作あいりも、昔と全く変わらない素直で純粋な女優。
共演すればわかりますが、まず彼女の性格の良さに驚くと思う。
アイドルユニットの他のメンバーからも、慕われるのもわかる。

昔も美人でしたが、さらにここまで美人なるとは当時は思いませんでした。
私的には、女優として、もっともっと活動の場を広げてほしいところ。

鈴原はるか役、山田真由子
清楚かつ、ちょっとのんびり系で不思議キャラ。
ただ、怒る時は怒る。
私的に一番好きなキャラですね。
ほんわかして清楚な雰囲気がとても素敵。
大竹憲太郎が好きになるのも、痛いほどわかる。

鈴原瞳役の永井友加里
前述していますが、彼女もセリフの量が膨大。
次女ということもあり、姉とは違って、かなり積極的なキャラ。
けんか腰にガンガンいく。問い詰める。
でも根はいい子、みたいな感じでしょうか?
兄の正体を知っているので、父や姉にわからないよう、
いかにその場をつなぐか、獅子奮迅するありさまが滑稽で面白い。

金子真一役の田口治
あきらの結婚相手。
雰囲気からして、すごく真面目そうに思えました。
表情、そして全身からいい人そうオーラが見える。
「老けて見えますが、若いんです」ってなことを言っておきながら、39歳とか。
ちょっと本人天然な部分ありますが。
彼のこの真摯な態度と、父親とのやりとりがあったからこそ、
後半は締まった舞台になりました。
ただ単にコメディだけではない。

鈴原正隆役の、剛たつひと
昔気質の頑固もの親父。
そもそもこういった人を、テレビドラマでも見かけなくなった気がしますね。
今のテレビドラマは父も母も若いし、祖母や祖父も若い感じ。
だからこそ、そこに厳しい父親が登場すると、こちらも緊張します。
敵とか、犯人とか、黒幕とか、そういったものではなく、
本当に厳しい父親像を、逆に人々は求めている気もする。
そういった意味でも、彼の息子、娘たちへの対応、金子真一への対応、
緊張感、真実味が増す舞台にも繋がったと思います。

総括
前述しましたが、ホームドラマって楽しい。
ほんわかして、何気ないところから物語が始まる。
ゆったりと、安定して観られる。
テレビドラマの視聴率が悪い、テレビドラマを見ない人が増えている、
そういった話しをよく聞きますが、
もしかしたら、「ホームドラマ」こそが原点回帰なのかもしれません。

テレビドラマは、若い女性向け?が主流で、
恋愛もの、サスペンス、SFチック、そういった流れ。
それとは別の層、特に高齢者は時代劇がほとんどなくなり寂しい毎日。
だからこそホームドラマが必要なのでは?という思いを、
良作の「ホームドラマ」を観続けて感じました。
テレビの場合は、また出演者によってもいろいろあるとは思いますが。

ホームドラマの安定した楽しさ、面白さ、家族の大切さ、温かさ。
それを改めて知る機会を、テレビではなく舞台から教わりました。
時代錯誤ではあるけれど、怖い父親像。それが観客の心にどう響くか。
少なくとも私の胸には大きく響き渡りました。
(敬称略)
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