野菜とキュウリとごめんなさい

満足度
◆公演時期   2010年8月10日〜15日
◆会場 神保町花月
◆脚本 冨田雄大(劇団オコチャ)
◆演出 吉谷光太郎

あらすじ
愛ってスゲー
だから言っただろ
「面倒臭いから、この世の憎しみを全部俺にくれ」
病は流行 色は悲痛 キュウリと呼ばれるメンズ

尖った街キーアオのある男を探しにきたライン。
キーアオは、風邪になり、ある医者に診てもらうと、いろんな病になってしまう。
感情がなくなる病。
恋を知ると死ぬ病。
抱くと相手の体に激痛が走る病。
この街にきたラインは真相解明に走るのだが・・・。

(公式サイトより引用)
観劇感想

あらすじは前述していますが、私のあらすじとしては、

ラインという男が、とある人間を追って、ある町に辿り着く。
その町は、ある病が流行っていることで有名であった。
そこにキュウリ、頭巾、カラー、フレッシュ、キャラメル、
蛇ガール等、様々な人間模様が同時進行で流れ、
いずれはひとつに結びつく・・・という流れです。

よしもと「神保町花月」の劇場に来るのは初めてでした。
かなりしっかりした劇場。
銀座・博品館劇場の3分の2ぐらいかな?
舞台も広く、奥行きもある。

客層は、9割が女性。
やっぱり、お笑い芸人目当てがメイン。
時間前に携帯をチェックしている人が多い多い。
ちょっぴり残念なのはイス。
ちょっと簡易的な座席で、少しの衝撃でも揺れる。
後ろの人が、少しイスに足をぶつけただけでも揺れます。

なにはともあれ、とにかくまず脚本が秀逸。
すばらしい。かなりすばらしい。
今回のキャスト陣ももちろんすばらしいが、
全とっかえで他のキャストだと、
また違った舞台になると思う。
それだけすばらしい脚本。

若いお笑い芸人がメインということで、
ところどころにコメディ、コントのようなものが入ります。
そんなに押しつけがましいものではないので、物語には大きく影響せず、
私は違和感ありませんでした。
ただ、本当に申し訳ないのですが、
私の笑いの感性には全く触れません。
回りの若い女性の観客は爆笑の連続なのですが、
面白さが全くわからない。
私は笑いのセンスが他の人とは変わっているので、
ご容赦願いたい。
今の若い女性とは感性がたぶん違うのでしょう。
客層もそちらがメインですし、タッーゲットは間違っていませんから。
変人相手の笑いは必要ないもの。

吉本は独自の劇場がたくさんあります。
新人の頃から(全員ではないが)舞台に出て、
経験を積んで、そこで磨かれる。
だから最初は、コメディアン、芸人を目指しても、
途中で舞台の楽しさに目覚め、役者路線に行く人がいるかもしれない。
芸人→俳優へいっても全く不思議ではない。
テレビ主体の役者よりも、
舞台出身の芸人の方がいい演技をすることもたくさんある。

小劇団は、毎回舞台に出ることすら大変。
であるのなら、目的が芸人でなくても、
最初は吉本に入って下積みをする・・・
なんてことも考えられる。
よく「お笑い芸人が役者の真似をするな」
なんて批判もあるけれど、
そもそも舞台で自分の力を毎回だしているんだよな〜
テレビドラマだけ出演する役者よりも、
生の舞台で鍛え上げられている芸人の方が、質は高いことだってある。

お笑いライブのチラシはたくさんいただいたが、
どれもこれも紙の質が高い。
小劇団だと、チラシの質を高めることすら難しいもの。
予算が無い。
量と質、その両方を兼ね備えるのが「吉本」だと思う。

オープニングはいい。
スクリーンを手前に出しての映像、役名とキャスト紹介。
そして本人も登場。
最近の舞台では多いですが、この手法、わかりやすくて私は好き。

コメディ、コント的な流れも多いが、
基本はサスペンス。
前述していますが、とにかく脚本が面白い。
ネタバレしてしまうが、
ここまでのバッド・エンドはなかなか珍しい。
最近、ハッピーエンドばかり観ていたせいか、
BADENDはとても新鮮に思えました。

ドクターとナースの怪しいコンビ、
キャラメルとフレッシュの恋人関係、
柱丸とへびガールの兄妹、
そのへびガールを好きになってしまう、感情を失ったカラー、
頭巾ちゃんと、不可思議な共同生活を送るキュウリ、
様々な組み合わせの物語が同時進行で進み、
最後にひとつになる・・・
私が好きな流れ。とても面白い。

さらに後半は怒濤の展開をみせます。
かなり強烈なシーンの連続。
語りあう、ラインとキュウリ。
憎しみを膨らますことが生きがいだと語るキュウリ。
なかなか深みのあるふたり芝居。
そして、ラブレターの真相も深い。

カラーが蛇ガールに一目惚れ。
ラブレターを書いて彼女に手渡す。
蛇ガールは、じつは恋を知ると死ぬ病であった。
しかし、初めてのラブレターで、悩んだ末についに開けてしまう。
幸福の中、彼女は死んでしまう。
蛇ガールにの死に、呆然とするカラー(ただ、感情がないのでいつもと同じ)
しかし、彼女が読んだ手紙はカラーが書いたものではなく、
キュウリがすり替えたものであった。
つまり、キュウリが書いたもので、蛇ガールは死んでしまったのだ。

で、それをきっかけにさらに何かが起きる・・・
なんて思いましたが、そこまでの進展はありませんでした。
そこまでやってしまうと、収拾つかなくなってしまうかな?

印象深いセリフとして、
99点と1点のテストのくだりがいい。
99点取った子と、1点しか取れなかった子。
どららが出来がいい子かと言われれば、
普通に99点の子であろう。
ただ、もし99点の子が間違った1点を、
1点しか取れなかった子が取った時、
それはどうなるのだろうか?
他の小説からの引用か、自分自身の脚本なのかはわかりませんが、
ここは素晴らしいと思う。
かなり印象に残っています。

ただ、結局、「野菜とキュウリとごめんなさい」の意味は、
1回だとわかりませんでした。
2回見ないとですね。
キュウリが言っていたのは、
何か悪いことをして「ごめんなさい」と謝ればそれですむの?
それで全部解決なの?
だったら、俺は謝らない。
そんなことを言っていたと思います。
子供には悪影響ですね。

エンディング終了後は、全員出演でのトーク。
トークイベントみたいな感じ。
さすがに演劇の時とは違い、喋りは面白い。
「JODAN」はちょっと多過ぎたかもしれませんが。
「そんなの関係ねえ」もありました。

芸人の出演者、ほとんど全員、声がしっかり出ている。
これは流石。
よく先輩芸人の方が声が出ている・・・
なんてことも聞かれますが、
今回私が見た若手は、とても声が良く出ていました。
マイクの性能もあるとは思いますが。

この舞台のテーマかな?
キーポイントは「憎しみ」
それも、深い恨みの憎しみではなく、
軽々しく、単純、物凄く遊び感覚な憎しみを、人々の心に植えつけていく。
それを見て楽しむ。そんなノリ。

病院側も、自分たちで病を流行らせ、
患者の病を治すことで、自分たちの医療技術の高さを証明し、
名声を得ることを目的にしている。
全員が完治するわけではなく、
何人かは治ることなくそのままか、死んでいく。
死んでいく人間がいることに微塵も興味無し。
完治する人間がほとんどなのだから。

そんな悪人だらけの世界を、すでに死んでしまった人間たちが、
幽霊という形でつぶやいているのは、ある意味悲しいですよね。
こいつらのせいで死んだのに何もできず、
さらに他の人も真相を知ることなく、助けることもできない。
その無念さを、おそらく天国にいるであろう人達が話すのですから。
かなり皮肉。

気になった役者は・・・

主役である、キュウリ役の「かたつむり」林大介
この人、うまい。
まずこの役自体が、のらりくらりした人物で、
演じることがとても難しい。
それをうまくこなしている。
極端な怒りではなく、変に不気味な笑顔という感じ。
一直線な演技とか、
ちょっと個性が強過ぎる役というのはやりやすいけれど、
この役は難しい。
この林大介は、役者路線でも十分に通用するでしょうね。
というか、間違いなく何かの「きっかけ」があれば出てくると思います。

キャラメル役の永作あいりはとにかく声が綺麗。
発声もいい。
瞳の動き、配らせ方なんて、すごくうまい。
間合いもキチンととっている。
なかなか気付かないことだけど、私にはそう感じました。
演技は言うことありません。
実績ありますから。
ヒールをはいているせいか、背が高く見えました。

彼女は現在のところグラビア展開メインですが、
いずれは舞台、ドラマ等をやってほしい。
一緒に出演している芸人も、スタッフも、
彼女の実力、すぐにわかるでしょ?
演技の飲み込みの速さも。
ただのグラビアアイドルじゃないことが絶対にわかる。
コメディもうまい。ダンスも。
ただ単にダンスをさせられて放置されていましたが、
臆することなく踊っているもの。

彼女はフレッシュとの二人舞台が多いのですが、じつにうまい。
フレッシュ役のゆったり感の江崎
凄く清廉された真面目なサラリーマンっぽく、
彼氏と彼女との関係はバッチリ。
ふたり芝居は、とても引き込まれます。

蛇足ながら、彼女のことは2000年ぐらいから知っているのですが、
良い意味で、全く変わらない。
1ミリグラムも変わらない。
ここまで昔から、性格も雰囲気も変わらないのはちょっと聞いたことがない。
間違いなく、
現場の芸人、スタッフ、他のグラビア・アイドルからも好かれてるでしょ?
嫌なイメージとか、天狗になった部分とか全くないし、
爽やか路線一直線そのもの。
じつはこれが一番驚きました。

さらに超蛇足ながら、
女性客から「永作あいり、かわいい〜」という、
感想コメントが一番嬉しかった。
女性受けすることは、本当に重要ですから。

ライン役の「若月」の若月徹は、熱血漢あふれる一直線な役。
演技もまっすぐ、すごくいい。
普通に舞台役者ですね。

前述したフレッシュ役の「ゆったり感」江崎も、
真面目な雰囲気がとても良く伝わってきた。
永作あいりとのコンビも、息がピッタリでした。

秘密の役、「ゆったり感」ブタ
ブタが芸名なんですかね?
どうやら、中村英将が本当の名前のようですが。
ずる賢い悪役にピッタリ!
私はすごく好印象。
悪い役はいいかもしれない。

頭巾ちゃん役の工藤史子は、劇団の人?
年齢はわかりませんが、すごくかわいい雰囲気。
ちょっとネジがはずれている女性の役だが、
さすがにうまい。
抱くと一生相手の体に激痛が走る病ですか。
つらい病ですね・・・
キュウリは最後、本当に抱いたのだろうか?
それが彼なりの贖罪?それともそれすらフェイク?

カラー役の「井下好井」井下
本当の性格は全く知らないのですが、
このカラー役はうまいと思う。
感情を無くしたために、
シャツをいちいち変えて、色によって感情を他人に伝えるしかない。
演技も、感情を無くした雰囲気そのまま。
淡々とシャツを着替えるところもいい。
シュールな演技。
喋りは少ないが、存在感はかなりある。
もともと目立つし、おいしい役ではありますけど。

総括
コメディ的な笑いに関しては私に合いませんでしたが、
脚本が秀逸なため、とても面白い舞台になりました。
出演している芸人も、舞台役者となんら変わりようのない演技、
そして声の張り。
ものすごく見応えのある舞台でした。
BAD・ENDの舞台もたまにはいい。
特に主演の林大介は相当すばらしいと思う。
今後ブレイクしそうな予感。

(敬称略)

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