公演時期 | 2013年9月5日(水)→9日(月) |
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会場 | 日暮里d-倉庫 |
劇作 | モスクワカヌ |
演出 | 田中圭介 |
音楽 | 伊藤靖浩 |
振付 | 工藤美和子 |
あらすじ謎の男、カリオストロが導く世界。 時は18世紀末フランス。 かつての国王ルイ16世が処刑された。 革命に沸くパリで、パリの死刑執行人「ムッシュ・ド・パリ」こと、 シャルル=アンリ・サンソンと、彼の息子アンリ・サンソン。 そして「ギロチン」の名を、通称「マドモアゼル・ギロティーヌ」 死刑執行人という運命を逃れ、市民として生きることを望んでいたアンリは、 町で出会った、自分を恐れないローザという女性に恋をする。 アンリに弟子入りを志願する少女クレール。 神の手に置かれた場所で生きるよう諭す父シャルル。 苦悩するアンリのもとに、 元王妃マリー・アントワネット処刑の命がくだされる。 (パンフレットより一部抜粋) 感想日暮里d-倉庫という公演場所が私は初めてでしたし、 チケットが6000円というのやや高めの設定もあり、 どんな舞台になるのか、正直不安もありました。 だがしかし! 出演者のレベルの高さ、脚本の奥深さに圧倒されます。 日暮里d-倉庫という場所もこじんまりしたイメージだったのですが、 高さ、奥行きがかなりあり、とても広く感じました。 まず思ったことが、かなり前衛的な舞台で独特な空間。 作品として、相当チャレンジしています。 この舞台、物語を観客が理解、解釈していく感じです。 内容的にはかなり難しい。 セリフは「レミゼ」のように全部歌う、というわけではないけれど、 かなり歌に比重をおいている。 ということもあり、出演者の方のほとんどが歌唱力抜群。 完全にプロのレベルの方がほとんどなので、 私も特に言うことはありません。 演技もみなさん素晴らしい。 「このミュージカルナンバーがいい!」 というよりかは、歌うセリフが多いので、なかなか特徴が掴みにくいのだけれど、 それでも佐伯静香、高橋エマ、大日向裕実、 3人のハモリがある歌の場面はかなり良かったです。 基本、音楽は生ピアノのみ。 舞台そででずっと弾いています。 打楽器もあるので、それも活用。 たまにSE的に別の音楽も流れますが、ほとんどが生ピアノですから。 それに合わせての歌となると・・・ それがいかに大変であるかは、役者の人が一番わかっている。 生ピアノでの生歌は、プロでも凄く難しい。 照明も素晴らしく、ド派手というよりかは、 同じ光でも微妙な明暗で印象づける感じ。 今はコンピューター制御されているところも多いけれど、 ここはどうかな? 床を見ると色違いのバミリのシールがいっぱい。 ギロチンへの道等、いろいろと舞台装置を移動させることが多いなので、 何色もあるのでしょう。 それを把握するのも大変。 それだけ全員が把握していないと。 物語としては、フランス革命後の市民の混乱が主体。 ルイ16世も、マリー・アントワネットもギロチンで処刑され、 貧しい生活から抜け出せる・・・と市民は思ったものの、 結果的にはロベスピエール一派であったサン・ジュストたち、 革命家の恐怖政治となり、市民生活は何も変わっていなかった。 ちなみにロベスピエール自身は、この舞台ではあまり大きく関わっていません。 基本はサン・ジュストが革命家の核。 得意の演説、民衆を鼓舞させるところは、 サン・ジュスト役、一色洋平が、抜群すぎるほど抜群でした。 イケメンでこれだけ弁がたつと、民衆がのっかてしまうのもわかる。 それを感じさせる演技でした。 ドイツでいう、ヒトラー時代のゲッベルス宣伝大臣的役割でしょうね。 舞台での大まかな流れとしては、上記の流れがありつつ、
こんな流れです。 死刑執行人である父親をもち、それを継承する息子アンリ・サンソン。 「ジョジョの奇妙な冒険」のジャイロ・ツェペリにも似ていてるな、とまず率直な感想。 痛みを感じさせずに、死刑執行・・・ という綺麗事な部分だけでなく、ルイ16世を死刑執行をしたことにより、 市民から疎まれる存在となり、人を殺す道具であるギロチンを、 マドモワゼル・ギロティーヌという女性として見てしまう。 なおかつ自分を慕う少女の死、心奪われる女性がじつは・・・という悲劇。 そして自らも・・・ 悲しい運命となってしまったアンリ・サンソン。 その実直な青年役の川畑亮の演技は見応えありました。 ストーリーテラー的存在として、カリオストロ役の山田宏平が観客を誘導。 時には劇の中にも入り、登場人物と会話したり、 ギロチンであるマドモワゼル・ギロティーヌとも会話。 ものすごく難しい役柄。 マドモワゼル・ギロティーヌ役の、高橋エマ舞台の名前にもなっている。 パンフレットを見ると美人ですが、 この舞台でのメイクと衣裳はかなり怖い感じ(笑) ギロチンのイメージ的母体ともいうべき存在。 そこで語ったり、歌いあげたり、さらには死刑執行もしますから、 役柄的には物凄く難しい。 基本、人を殺す道具ですからね。 そこで自分なりに解釈をして、ギロチンを擬人化して、 性格や喋り方、振る舞いを研究しなければならない。 大変な役作りだったことでしょう。 ヒロインである、ローザ・ルージュ・イヴェール役、 佐伯静香ルックスは美人で、ずっと見続けられる。 ローザ役はヒロインでありながら、複雑な背景が多数あって、 一番難しい役だと思います。 左手の甲に大きな傷跡があるのも、ルックスとの対比で、 けっこう目立ちます。 そういう意味合いもあるのでしょうね。 歌唱力は素晴らしいの一言。 一般素人の私には、不快な部分が見つかりません。 彼女に限りませんが、 今回は女優さんのほうれい線が消えていることが印象深いです。 メイクのせいか、照明のせいかはわかりませんが、 いろいろ工夫しているのでしょうね。 彼女の亡くなる演技、ここも秀逸。 マリー・アントワネット役の井料瑠美1幕最後のクライマックスとして登場する。 特別出演ということで、元劇団四季のベテランの方。 1幕最後の美味しい場面で登場し、マリーアントワネットの心を歌に歌い、 ギロチンのある死刑執行台へと向かいます。 ま~プロですから言うことありません。 彼女の歌を聞けただけでも、この舞台を観る価値ありました。 クレール・ララ・ミュゲ役の大日向裕実久々見ましたが、ま~美人になりました。 パンフレットの写真も舞台女優としての表情。 友情の舞台で丸坊主にして、ここまで髪が伸びましたから。 それを思うと感慨深い。 彼女はクリッとした瞳と口元が特徴で、じつに色っぽい。 舞台上で本格的な色気も放てるようになりました。 ダンスシーンはじつに魅力的。 2004年の東京メッツ時代、基本はダンスの子ですからね。 それが演技の勉強を重ねて、世田谷シルク「Kon-Kon、昔話」では主役。 この成長度が凄い。 今回、最初に帽子をかぶって登場した時点で、 「少年役か」 と一瞬思いましたが、少年のふりをした少女役でひと安心。 みなさん歌がプロ級にうまいので、 彼女の歌はそれに比べるとまだまだ。 ここは仕方ないでしょう、全然下手ではありませんから。 あくまで他の人の歌唱力のレベルが高過ぎ。 それゆえに、彼女は演技で勝負。 はかない演技、ピュアで真っ直ぐな雰囲気は彼女独特で引き込まれます。 女優であれば、もちろん汚れ役もやらなければならないけれど、 彼女はそれでも常にピュアで柔和な演技ができる。 ドロドロした濁流ではなく、澄んだ清流。 山から沸きだしたばかりの初水。 それを何度も毎回続けることができる。 それが彼女の女優としての強み、そしてとりえのひとつだと思います。 セリフもじつに聞き取りやすいし、どれだけ稽古を積んでいるのかもわかる。 死ぬことにになるのですが、途中からかすかに歌うことになるので、 そのバランスが難しかったことと思います。 今にも死にそうなのに歌いますからね。 それでも彼女の死ぬ場面は物凄く良かった。 まっすぐでキラキラした純粋な死。 ここは評価したい。 今回、女優として大日向裕実は、 ルックスにおいても、演技においても、 相当なレベルになったことを明記したい。 ちょっと別問題ではあるけれど、 無料配布されたパンフレットの印字が薄かったのだけが残念。 せっかくの情報が見づらいのはちょっと・・・ こういう細かい部分での「おもてなし」は頑張ってほしいところ。 総括民衆の心の変化による時代の流れがありつつ、 若くして半ば途中での死。 生まれてきた意味、そして罪があるのか無いのか、 それすら不明のままギロチンにかけられる人々。 その時代の空気を観客たちに見せつけるお芝居で、 観客もいろいろと考えさせられます。 歌唱力はプロレベルなので、素晴らしいの一言。 ただイマイチ歌詞が難しくて、脳内に入るのが困難ではあります。 これもまた、観客も理解しないといけません。 難しい内容の舞台ですが、いろいろとチャレンジしている部分があって、 それはそれで楽しい。 予備知識無しで観劇したので、予想以上に素晴らしい舞台でした。 ※敬称略 |