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ミュージカル「えんとつ町のプペル」2025年観劇感想

満足度星星星半星空星
公演時期 2025/8/9→30
会場 KAAT 神奈川芸術劇場
製作総指揮・原作・脚本 西野亮廣
演出 吉原光夫
振付 KAORIalive
音楽監督 田邉賀一
オーケストレーター 竹内聡
舞台美術 佐藤央一
照明演出 井實博昭
音響 小林NOBI祐介
演出助手 MOEKO/加藤由紀子
舞台監督 弘中勲
ビジュアルデザイン かんかん
HP制作 株式会社Sabeevo
プロデューサー 小栗了
主催 株式会社CHIMNEY TOWN

あらすじ

物語の舞台はハロウィン。厚い煙に覆われた“えんとつ町”の住人たちは、煙の向こうに”星”があるなんて誰も想像もしていない。しかし、えんとつ掃除屋の少年ルビッチだけは、いつも空を見上げてはそこに輝く星の存在を信じていた。そんなルビッチを町の住人たちは嘘つきだと笑う。一人ぼっちになってしまったルビッチは、あるハロウィンの夜、ゴミから生まれたゴミ人間のプペルと出会う・・・(公式サイトより引用)

観劇感想の前に

KAAT 神奈川芸術劇場

まず、この劇場が素晴らしい。建物自体凄く近代的な造り、構造も素晴らしく、田舎ものの私としては面食らった。回りの建物を見てもいかに立地条件が良い場所に建てられたのかがわかる。劇場自体初めて拝見しましたが、みんなこの劇場を利用したくなるのもわかる。はじの席でも舞台全体が見渡せる。見切りがないことに驚き。音響設備のせいか、劇場特有の空間のせいかわからないが、反響がいい。音楽が最初から大きくしていたせいかもしれないが、爆音で、セリフも凄く聞き取りやすい。なんて素晴らしい劇場なのだろうか。

客層

夏休み、そして休日なこともあってか、家族連れ、子供連れが異常に多かった。ミュージカルアニーでもここまで子供連れの多さは感じなかった。ま、アニーは個人で観る人も多いからということもある。

普通、会場までの道筋で舞台のチラシがあるのだが、今回は1枚も無かった。おかしいな~と思ったが、入り口で手渡しされました。なるほどそういう戦略か。

前回、スタッフのことを書いたが今回のスタッフは凄く覇気があり、活気に満ちあふれていた。「こんにちは」の声が大声で連呼して心地良い。笑顔も欠かせない。西野さんの指導があったかどうかは定かではないが、とても好印象。ちなみに、スタッフに困り事があって尋ねたところ、凄く親切丁寧に対応してくれました。

そういえば、マスクしてる人が少ないのも印象的。

今回、会場の中は屋台がイメージされていました(この舞台を見終わった後にアニメを見たのですが、このイメージだったんですね。初めて知りました)普通に屋台で遊べたり、お土産を売っていたり、ガチャガチャがあったり。この雰囲気、なんとなくミュージカルピーターパンに似ている。家族連れがターゲット。こういった方向性、集客力を目指しているのかもしれない。夏のイベントのひとつにしたいのだと思う。本当のお祭のようにみんなが来て楽しめるような。

製作総指揮・原作・脚本の西野亮廣

西野さんは子供のように無垢で純粋な人なんじゃないかな~と思いました。良い意味で思考が子供。だから、お金のことは考えず、いかに観客に楽しんでもらえるか思考し、気づいたら、制作費が4億5千万円だった、そんな気がする。この時点で儲けは考えていなかったのかもしれない。予算を削るところは山ほどあるだろうに、チケット代だってもっと高くてもいい。それをしないのは西野亮廣さんの性格だと思う。儲けようと考える人からしたら、何してるんだ、と思うけど、価値観の違いかな。そういう思考の持ち主だから、人によっては変人あつかいされたり、嫌われたりする。合わない人、違和感をもつ人、彼との距離感が産まれる。

「カイジ」で例えるなら、石田のおっさんが言うように「できる人間」「勝てる人間」だ、西野さんたちは。勉強ができる人、スポーツができる人、芸能に秀でる人、人望がある人、政治力に長ける人、みんな「できる」側の人間。私はできない。無理。「できない側の人間」「負ける人間」雑談だが、私は成人になってすぐにパチンコに行った。そして負けた。その時に悟った。私は負ける側の人間なんだ、カモになる人間なんだ、と。それ以来二度パチンコに行ったことはない。そして「ジョジョ」の吉良吉影のように波風たてずに静かに暮らしたい(彼は殺人者ではあるけど)それが生きざまになっている。

といろいろと我ながら推測してみたが、別件で彼の動画を見たがお金のことは凄く理解している人だった。とすると、単純に予定より制作費がオーバーしていただけなのかもしれない。

生演奏あり

今回も生演奏。2階部分にオーケストラピット。前述しましたが、音響は抜群にいい。音を大きめに設定しているのかはわからないが、BGMも歌もセリフも凄く聞き取りやすい。

4億5千万円の制作費

今回も公演前のセットの撮影はOK。噂に聞いていた4億5千万円のセット(衣装なり、照明なり、他の部分にも予算はかかっていると思う)煙突の立体感、奥行き、天井部分から、床下まで、細部にこだわっている。驚いたのは演者が舞台から下に降りて潜る部分にまでセットがあること。観客席からは見えないところまで、セットを作りあげている。まさにこだわりだろう。黒澤明が映画のセットで、観客が見るはずもないタンスの中まで小道具を入れていたエピソードにも通じる。ネタバレになりますが、動く舞台も迫力満点で本当に豪華。観客席にまで仕掛けがあるなんて、こちらも驚き。あれは元々簡単にできるものなのだろうか?この劇場だからこそできる仕掛けなのかな?

観劇感想

さて本編。前回2021年に続いて2回目の観劇。ちなみに私は今まで一度も案件はありませんので、率直な感想を書いています。

最初にピクミンみたいなのが出てくるのですが、これは理解できなかった。ちなみにこの時点でいまだに原作もアニメも見てません。さすがに見ないとか(この舞台観劇後、アニメは見ました)ゴム人間誕生の上から降りてくる演出は、シルクドソレイユかと思った。足やら腕やらいろんな筋肉が必要ですよね。演者は大変。

ミュージカルナンバー

スコップ役は明るく観客を盛り上げるためにも凄く重要な役。この物語、意外と明るく楽しい場面がないからスコップとルビッチがからむところで、子供達が覚えられるような派手で明るいエンターテイメント王道のミュージカルナンバーがほしい。この舞台の印象的なミュージカルナンバーはプペルしかない。もうひとつほしいところ。前回はもう少し盛り上がったと思う。子供たちを盛り上げるアクションとか振付があったのですが、今回は無し。ファミリーミュージカル王道だけど、あっても良いと思う。よく考えると今回はミュージカルナンバーがイマイチだった。私はファミリーミュージカル鑑賞が多いのでそれを極度に感じてしまう。アルゴミュージカルでも、ココスマイルでも、イマジンミュージカルでも、ピーターパンでも、子供や大人が印象に残るナンバーがあった。作曲家に頑張ってほしいところ。わかりやすい子供向けにキャッチーな楽曲が欲しい。自分を紹介する歌、自分がどういう性格の持ち主であるのかをさりげなく伝える歌。

ひとつひとつのミュージカルナンバーが長めの印象。演者の出番なり、気持ち良く歌ってほしいことも含めて。単独な場面も多いから、稽古はしやすいかな。

子ども向けになったが、わかりやすさは?

今回の舞台、前回と比べると子供向けになったように感じました。子供たちが楽しめればそれでいいんですけど。もしかしたら前回とは劇場の規模が違うので、観客に伝わりにくかった可能性もある。前回の劇場は最後列でも舞台との距離が近かったので感情移入しやすかったが、今回は物語を一歩引いて見る感じ。物語のわかりやすさで言えば前回の方がわかりやすかった。一人一人の過去背景がわからないから感情移入しづらい。内容の背景をもっと知りたい。一応ルビッチがストーリーテラーっぽい進行役になるのだがあからさまではないし、ナレーションベースがあっていいかもしれない。

とはいえ、大人向けな部分もある。今回はダンサーの出演者が多く、しかもみなさん優秀な方ばかりでダンスシーンは見応えあります。ハロウィンパーティーのところも見どころだし、前述した煙突掃除のシーンや異端審問官ベラールが歌っているシーン、。もうひとつあったかな?メインキャストもキッチリ踊ります。ちなみに雑談だが「異端審問官」の言葉が出るたびに「チ。 ―地球の運動について―」のノヴァクさんを思い出してしまう。

ダンさんが煙突から落ちる場面、前回は吹き矢だったが、今回はそのまま手で落とす演出に変更。これはやっぱりスーさん役が木下さんに変わったこともあるのかな?良い人感を出しつつも内面は、というなんとも言えない雰囲気があらわれていて私は良かったと思う。原作、映画、舞台、全部まるっきり同じにするか、変更するかは好みだもの。

一番最後のプペルがいなくなるシーン。前回もわかりづらかったけれど、なんとなくは理解できました。今回はさらに自然に消えた感じ。照明のライトで赤く燃えるような炎の演出でその行程はわかるものの、けっこうスッと消えた感じでした。余韻がない。そのままエンディングに移行するので、何が起こった?というモヤモヤ感は残る。

巨額な制作費に対する演者の力

小劇場の舞台では、ほとんどセットのない舞台も多い。演者の力でそこに小道具や大道具、風景があるかのように、観客に意識させる。「ガラスの仮面」で言えば、北島マヤが演じた「女海賊ビアンカ」のように学校の体育館倉庫が海賊船にもなりうる。

この舞台は4億5千万の制作費ということで、舞台セットも衣装も音響も照明もいろいろなところで豪華絢爛。どうしても観客は派手な部分に目を向けがちだし、見終わった後も演出の部分の記憶が強く印象に残る。個々の演者の印象は薄く感じてしまう。そんな4億のパワーに負けないように演者は必死に演じる。埋もれないように。だからみんな何かで印象づけようとしてる。歌やセリフやコメディチックな部分など。物語全体の流れを優先させるため、自分を抑えるべきか、前に出るか、難しい判断。最終的には個々の役者の度量。

ピックアップ

  • プペルのクビが落ちる演出は面白かった。手品で良くありますが私も理解できていない。
  • 煙突掃除の集団ダンス。あの足を左右に激しく動かすダンスは印象的。よく使われる振付。他のバリエーションも見たかった。
  • 照明のバリエーションも多い。レーザー光線も。迫力半端ない。とにかく目立つ演出。
  • 前述したが、音楽は大きくかなり響きわたる。イメージとしては映画のワンシーンのようにBGMが強く印象付けられる。これは意識しての演出かもしれない。
  • ネタバレになるが天井から床まで、星空のシーンは相当力を入れた演出だと思う。プペルの存在よりも星空の演出を印象づけたかったのだろう。

気になったキャスト

ルビッチ役 笠井日向

チケットを取る時、ルビッチは確定していなかったため運任せ。で、笠井日向。前回と同じ。そこまで大きな変化はないと思う。4年経過しているが雰囲気は変わらない。ただ時間が経過したせいか、やや声高に聞こえた。より少年らしさを出そうと意識したのかもしれない。演出が変わったことも影響あるのだろうか?そもそもルビッチはつかみどころがないから難しい役ではある。極端に静かな役でもなく、友人はほぼいないが仕事場では仲間はずれにされているわけでもないし。なんとなく今回は素直なイメージ。舞台キャラの印象度としては軽く思える。

4億5千万の制作費の舞台で主役。そして回りは有名タレントぞろい。他の方はアピールの仕方がうまいから、いかに自分が物語を引っ張っていくか、大変な役どころ。もちろん全員で舞台を作りあげるのは当然だけれど、主役のプレッシャーは相当あると思います。面白い場面はタレントさんの方が上手。その中で自分らしさ、ルビッチらしさを出していくのかがポイント。他のふたりのルビッチを観ていないから比較はできないが、派手さはないけど安定感重視かな?無難にまとまっている感じ。

気になったことは歌い方。彼女は役の中で感情的に歌う。物語を通して、ルビッチとして、自然とそうなるのだろう。ただ、他のキャストもそうなのかと見てみると、そこまで感情的ではなく、歌の音程を重視している。歌は歌、演技は演技として分けている感じ。ここは表現としてどうとらえるか難しい。受取り方は人それぞれだけれど、私は歌に集中したほうが印象に残りやすいと感じました。だから迫力あるように感じるし声量も凄まじい。私からすると笠井日向の歌の実力があることを十二分に理解している。過去作品で何度も聞いてきました。知っているがゆえ、感情的に歌うとパワーが物足りないように感じてしまう。もったいない。歌唱力はもっとあるのにな~と言いたい感じ。

そうそう。ピーターパンのように飛ぶ演出があることには驚いた。こういう部分にも安全面等で制作費がかかるんじゃないかな?それだけ入れたかった演出だと思う。せっかくなんだから、もっと派手に飛ばしてもいい。

プペル/ブルーノ役 廣瀬友祐

プロだから当たり前といえば当たり前なのだが、プペルとブルーノは全く別人と思えるほど、雰囲気も声質も違ってめちゃくちゃ良かった。特にブルーノはわかりやすい役。なんというかな、漫画「BLEACH」の京楽春水のような、アニメ「グレンラガン」のカミナのような、後輩を強く強く引っ張っていくイメージ。かつ江戸っ子で破天荒。印象に残らないわけがない。歌唱力は抜群。さらにガンガン声量出てました。歌のパワーがあってパッションがあって、観客も感情移入できる。

早着替えのように振り向き様で一瞬にして変わるところは快感だった。ここは前回と違って明らかにプペル=ブルーノを意識させる演出。物足りなさと言えばルビッチとプペル2人の場面、もう少し面白さがあると子供たちにも伝わるんだけど。ちょっと間があいてしまう感じ。なんとか楽しませたいところ。そういえば、前回はルビッチとプペルのハモリもミュージカルナンバーがあった気がするけど、今回は無かったような。うろ覚えだが。二人の印象的な歌声が無かったから、ルビッチの印象が薄いのかもしれない。ブルーノで歌っているから、プペルでは控えたのかな?

ローラ役  谷口あかり

かつて「High Fidelity」を観劇していました。当時の印象も強く残っています。今回の役はルビッチの母親役。基本、歌のイメージ。登場時から歌っていて、少し演技する場面があって、また歌うシーン。そんな印象。歌唱力は素晴らしいけれど、何か遠くから呼びかけるように歌う感じかな。少し距離感がある。

ダン役 広瀬彰勇
強面でおっかない雰囲気というよりも、落ち着いた頼りになる上司といった感じ。歌唱力も素晴らしい。
スーさん役の木下隆行

なんと言うかな、今ある自分のネットのイメージをそのままにした役。ピッタシすぎる。影がある裏の雰囲気は似合いすぎて笑える。かつ恐ろしさも感じる。配役の妙。のほほんとしたところもいい。普段はほんと良い人そうだ、と思わせる。ぶたれる場面はおいしいし、ダンスも頑張っていた。誰もいなくなる場面は、もう少し面白くなるといいな。あそこは凄くもったいない。

アントニオ役 藤戸佑飛

じつは舞台を観た後に初めてアニメを観たので彼の過去等、背景がわかりましたが、なんの脈絡もなく観た場合はなぜプペルに冷たくあたるのかわからず。単純にプペルが気にいらないだけの雰囲気としか舞台では思えない。それはそれとして、皮肉屋っぽい感じでイメージには凄く近い演技だったと思います。意外とプペルに八つ当たりする部分は怖かった。

レベッカ役 四宮吏桜

ダブルキャストの渡辺菜花はココスマイルで主役。私も観劇していました。が、今回は観劇できず。残念ではあるけれど、どうしてどうして、この四宮吏桜もなかなかやります。見た目ちょっときつめの印象だけれど、表情豊かで楽しい。遠くからでも表情の変化がよくわかる。さらにダンスも素晴らしい。他のダンサーに混じる場面もあるけれど、違和感なく踊っています。おそらくはダンスの力もあって選ばれた子でしょう。そもそもこの時点で私はプペルのアニメは見ていなかったのですが、この子のレベッカは強く印象に残りました。

スコップ役 エハラマサヒロ

滑舌素晴らしく、聞き取りやすく、セリフのキレも良く淀みない。話術も多彩。歌もアカペラで自由に歌っちゃう。ある意味主役を食う。タレントだから前に前に出る感じか。前回の藤森慎吾のチャライおちゃらけた雰囲気とはまた違った面白さがある。ゆるそうに見えて実は二枚舌で本当か嘘か、つかみ所がないスコップ。彼とのミュージカルナンバーは前回はもっと楽しかったイメージがあるのだが、今回は印象に残らず。演出が変わったせいかな?

ベラール役 中村中

トランスジェンダーということをふまえ、女性として書かせていただきます。彼女は歌唱力。半端ない歌声。響き渡ります。どう半端ないのかは聞いてもらわないと伝わらないレベル。優しいとか明るいとかではなく、観客に不安を抱かせる異様な歌声。彼女が歌っている時のバックダンサーも凄く印象に残っています。異端審問官役で謎な雰囲気満載。とはいえ、部下に任せることなく自らおもむき行動する。他人に任せたくないタイプなのであろう。自分でしないと気がすまない。と私は解釈しました。今回の舞台の作詞作曲にも関わっているんですね。

総括
4億5千万円の制作費が注目されたが、たしかに圧巻でした。舞台セットも照明も音楽も衣装も他いろいろな演出も。そしてその制作費に負けないよう演じるキャスト陣も素晴らしかったです。各所に登場するダンサーも効いていた。前回に続いてだけれど、物語の内容がもう少しわかりやすいとありがたい。知識ゼロの初見はちょい厳しい。劇場としての箱が広くなったゆえ、観客への伝わり方が変わったように思える。あと前述しているけど、子供対策として耳に残るミュージカルナンバーがほしい。

私は久々の舞台観劇だったので、日常生活では味わえない、非日常、別次元の世界に引き込まれた感じでした。その中で舞台のエネルギーをもらってまた日常に戻る。ありがたいし感謝しかない。舞台観劇はTVでは味わえないことを与えてくれるとつくづく感じました。夢のような世界だった。

観客席には子供たちがたくさん。その子たちが舞台という異空間で何かを感じ取り糧にし、現実の世界で活かしてほしい。これから厳しい現実が立ちはだかるかもしれないけれど、それを乗り越え、未来を創りあげる。彼らが主役の物語。

※敬称略
キャスト表