公演時期 | 2014年8月28日→31日 |
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会場 | 六本木 俳優座劇場 |
脚本・作詩・演出 | 羽鳥三実広 |
作曲・歌唱指導 | 鈴木喬子 |
振付 | 松永さち代 |
あらすじ出生の秘密を知らされないまま、孤児院で15年を過ごしたマリア。 優秀な成績で推薦状を手にし、 「パレモアで働く」という夢への第一歩を踏み出そうとしていた矢先、 仲間のトラブルで権利を失い、追放の身となる。 飢えと疲労で倒れたマリアを救ったのは、絵画の贋作を生業とするベラおばの弟子達。 工房に運ばれたマリアの人生は一変する。 しかしその存在すら知らない異母兄のフレデリックの奸計によって、 マリアは罪を犯し、裁判をかけられることに・・・ (パンフレットより引用) 感想B組のみの感想。 この舞台がどういうものなのか、 全く事前の下調べをすることなく観劇したので、 そのレベルの高さに驚きました。 大きな箱である帝国劇場ではないけれど、 まさに「ザ・ミュージカル」だと思う。 なんというかな、品のあるセレブ的なミュージカル。 観客同士の感想戦として、ちょっと上品な物言いになる客層。 高尚な人たちが観る舞台のよう。 大手、大きな箱の劇場とはまた違う本格的なミュージカル。 そう頷けるほど、演技も、ダンスも、歌も、 とにかくレベルが高い。 派手なダンスではないけれど、 一糸乱れぬ、細かく正確なあのダンスは筋肉相当使うでしょ。 大人はもとより、子役も同じレベルですから。 それにも増して凄いのが歌唱力。 この歌を聞いて、一般素人レベルでは、もう評価とか感想を述べられないな、 なんて思ってしまうほど。 ここまでうまいとなると、 歌唱指導をする人たちが「どこどこの部分がまだまだ」と気づくレベルでしょ。 歌手の歌い方、ミュージカル系の歌い方等、 いろいろな歌い方があるのでひとくくりにはできない。 ただ、今回のこのミュージカルの歌唱力に関しては非のうちどころがない。 子役を含めて、全員プロだと思いました。 そもそもの声の出し方がまるで違うもの。 オープニングから無音劇。 この導入部分はなかなか珍しい。 ちなみにエンディングでのキャストへのアンコールの登場シーンも音楽無し。 ここも珍しい。あえてやってますね。 気になるってほどでもありませんが、 この舞台、ベテランの役者ばかりなので、 けっこう役者同士のバトルが熱い。 「自分が自分が」というのが私にはちょっと見えてしまいました。 レベルが高いからこその、高い位置での争いでしょうね。 この舞台、照明設備もものすごい。 後方からのスポットだけでも4つ以上、上部も3つ、さらにサイドに2つ。 光線も多数。 演出、そして舞台役者への配慮も怠っていない。 話の流れとしては、
「ミュージカルアニー」と「少公女セーラ」の合体版、 と考えるとわかりやすい。 親友を守るためとはいえ、 自分の未来を閉ざすことになる行動を起こしたマリアは、マジメすぎる。 シャアだったら言うでしょうね。 「坊やだからさ」 なんて。 まっ、15歳なので、そこまでの判断は無理。 あまり深く考えず、ストレートにためらわずに行動できるのが若さだもの。 なんて、私は偉そうに解釈しました。 そのマリアへのイジメの発端となった子の行動により、 今度は孤児たち全員が罰を受けることなります。 そして今度は、そのイジメをした子に対するイジメ。 この流れはいいと思う。 因果応報だけれど、心の優しいマリアはそれをも受け入れる。 マリアめっちゃいい人だな。 ずっと孤児院の生活だから、世間知らずという意味合いもありますが。 この舞台、1幕と2幕目とでは、けっこう雰囲気変わります。 主役はもちろんマリアなのだけれど、 1幕の裏の主役はレイラ。 こちらは全体として張りつめた空気で、かなり深刻で重苦しい雰囲気でした。 2幕の裏の主役はベラおばさん。 1幕とはガラッと変わって、かなり明るくコメディチックな雰囲気。 面白さ的には当然のことながら2幕の方が面白い。 ベラおばさんが最高ですしね。 マリアとレイラとモニカの3人の約束。 この時点で、絶対破られると思っていたら、これは当たりました。 レイラの死は、さすがになんとなく読めます。 とはいえ、エンディング間際でのレイラの死はかなり衝撃的なシーンでした。 レイラにとっても、手紙を読んだマリアにとっても。 ここは名シーンですね。 普通の人だったら、泣くこと間違いなし。 レイラ役の中野彩美が良い演技をするんですよ、本当に。 私は変人なので、涙ギリギリ我慢しました。 謎の男である、伊藤謙吉が演じるフレデリック。 私、最初は良い人かと思いました。 マリアを助けるために陰ながら応援を・・・なんて、完全に予想はハズレました(笑) この人は、私が好きな小説「銀河英雄伝説」のオスカー・フォン・ロイエンタールの、 悪い部分が出てしまった感じ。 ロイエンタールの場合は、 「お前は生まれてくるべきではなかった」と、子供の時から父親に言われ続け、 それを糧に逆に出世していく。 かたやフレデリックは、 「お前が娘から財産を奪い取れ」と、子供の時から母親から言われ続け、 その言葉を胸に悪の道へ進み、実行していく。 ともに幼少期のトラウマが根底にあります。 肖像画が並ぶシーンでは、 額縁の向こうに実際の人を配置。 この演出は良かった。 最後に別件ながら、パンフレット。 非常に読みごたえある内容。 マリアについて、4人のインタビュー記事とか、 衣裳デザインについてとか、こういった記事は読みごたえあります。 裏方のスタッフが写真付というのも珍しい。 気になった役者みなさんプロなので、本当に気になった人だけ。 今野愛 マリア役まさかの主役、大抜擢。 GANG(2005年12月)ではヒロインのリリー、 森は生きている(2009年12月)では10月役。 そして、今回ということで、今野愛の演技を観るのは本当に久々。 これだけ大御所ぞろいで、どうなることかと思いきや、 堂々たる演技にビックリ。 15歳の役にしては、かなり大人びていて背も高い。 背丈に関しては、レイラぐらいの方がいい感じではある。 それはそれとして、彼女はま~発声がいい。 舞台特有の発声。 その声質かつ、セリフ回しもすばらしい。 努力を積み重ねると、ここまで成長できるのか、って思うぐらい昔とは違うもの。 さらに特筆すべきは歌唱力。 マジか。 と、率直に思いました。 これは尋常ではないでしょ。 ここまで歌えるようになるなんて、本当に驚き。 他の歌がうまい子と、比較する必要もないのだけれど、 小林風花、永作あいり、北川理恵、 タイプはみんな違うけれど、このクラスに匹敵。 彼女の歌い方の特徴として、伸ばす部分。 ここがかすれることなく、優しく、じつに綺麗。 前述していますが、このクラスの歌唱力となると、 一般素人があーだこーだ言えるレベルではない。 プロの視線でないと無理だもの。 「この子役、歌がうまいな」とか、「この歌手、本当に声量あるな」とか、 日常で何気なく思うけれど、本物の歌声を聞くと全てが霞んでしまう。 やっぱり、「本物」は違うな、とつくづく思いました。 マリアという役柄的に、仲間にいじめられ、か弱い部分もありつつ、 レイラの為に、孤児院のシスターであるキャサリンにたてつく力強さも持っている。 この演じ方の切り換えは良かった。 裁判所のシーンは、ほぼ座っているだけ。 だけど、ただ座っているだけというのも、本当に難しい演技。 仲間を救うために、気の強い部分を全面に押し出すところもいい。 しかし彼女は背筋がピシッ!としている。 ダンスシーンがそれほど多いわけではないけれど、 次回はダンスも観てみたいところ。 中野彩美 レイラ役ま~彼女のレイラ役は素晴らしい。 小柄だし、あの雰囲気も、まさに「レイラ」って感じ。 か弱い演技も抜群だし、歌唱力も素晴らしい。 1幕だと、本当に彼女がキーポイント。 レイラあってのマリアとも言える。 それぐらい、私は印象に残りました。 惜しむらくは、彼女のダブルキャストが三代川柚姫なので、 彼女のレイラも観たかった。 塩田朋子 ベラおば役ベテランすぎて、言うことないのだけれど、 本当に素晴らしかった。 2幕は彼女の独壇場とも言える。 あの雰囲気、そして場の持っていきかた、 おいしい役であることは間違いないのだけれど、 それをいかんなく発揮。 ベラおばさん最高。 圓山佳菜のモニカけっこう難しい役。 マリアをいじめつつも、 その後自分の失敗により、逆に仲間からいじめられる。 瞳の力も強いので、けっこう印象に残りました。 出津彩子のテオ役三枚目的なコメディチックな役。 2幕の明るい雰囲気の舞台では、かなり印象度が高い。 稲川佳穂 マオ役彼女は、パンフレットの写真よりも実物の方がかわいい。 パッと見が明るいし、舞台上でも華やか。 しかも歌唱力もある(まっ、下手な人いませんけど) 舞台映えする女の子。 総括エンターテイメント性の舞台とうよりかは、 重厚な歴史を重んじるような舞台。 孤独だったマリアが、いろいろな人々の支えによって幸せを掴む、 という普遍的なストーリーではあるけれど、 その過程においてサスペンス、コメディ、悲劇と、盛りだくさん。 子供も楽しめるけれど、観客対象としては大人。 王道な「ザ・ミュージカル」 ※敬称略 |