世田谷シルク「ブラック・サバンナ」

満足度
公演時期 2013年4月3日〜14日
会場 アトリエ春風舎
脚本・演出 堀川炎

あらすじ
地球に隕石が多数落下し、大多数の人類が死滅する中、
とある理由でサバンナに辿り着いた、数人の男女。
なんとかここでの生活を始めようと、
コミュニティを作るのだが・・・
観劇感想
世田谷シルクは過去に何回か観ていますが、
「Kon-Kon、昔話」
「渡り鳥の信号待ち」
それらに比べて、今回は特に秀逸だと思います。
残念ながら、家族向け、エンターテイメント的では無いけれど、
それが無いにしても、じつに考えさせる。
深みのある舞台で、観客の理解能力も必要。

今回は内容的に、時系列がバラバラで難しいのですが、
物語の流れとしては、

地球に隕石が多数落下。大多数の人類が死滅。
→そんな中、なぜかエレベーターに乗っていた数人の男女が、
上昇するエレベーターごとロケットの推進力代わりとなり、
遥かサバンナまで飛ばされて助かる。
→サバンナ各地に散らばっていた男女が集まり、
ひとつのコミューンを作る。
→じつは数日前、宇宙飛行士である、受験生の姉と保険員が、
密かにある計画を建てていた。
→隕石の落下とともに、
来訪者(宇宙人)が地球人とコンタクトをとりにきているという噂。
→サバンナで生活を始めるが、そこがいかに過酷であるかを、
彼らは知ることとなる。そして・・・

こんな流れです。

満足度として、いろいろあるのですが、
まず内容が独特。
話が突拍子もない。
エレベーターをロケット替わりにして、
脱出させる為に飛ばすという発想は凄い。
「ありえないだろ」
というツッコミももちろんあるのだけれど、
それを押し切るところがいい。

時系列もけっこうバラバラで、
受験生(とりあえずみなさんアダ名になっている)の姉と、
保険員の話がありますが、ここは過去の話。
現在はサバンナでの話。
この話しが交互に登場。
海外ドラマ「LOST」でいうところの、
途中途中に過去のフラッシュバックが入る感じ。

姉が女性宇宙飛行士というのもポイント。
それゆえにロケット力学に詳しい?ということなのかもしれません。

隕石落下を予想して、こっそりエレベーターを改良。
当たりはずれのあるエレベーター。
それにたまたま乗り合わせた人だけが、
隕石落下の最中、生き残ることになるという選別。
この部分も肝でしょうね。
後半に述べられる、保健所での動物の選別にも引っかかる感じ。

エレベーターがロケットのように飛んで、
サバンナに辿りついたものの、各人バラバラ。
たまたまイカダで川を下っていたコックを見つけ、
各人が救いを求め、イカダに乗ることになります。
このイカダの場面、
黒子として数人が登場して台車のようなセットで動かしているものの、
全く違和感を感じない。
まさに「ガラスの仮面」、
北島マヤが一人芝居をした「女海賊ビアンカ」の船のよう。
熱帯雨林のジャングル、その光景が目に浮かびます。

とあるサラリーマンは「淑女」とあだ名する女性と一緒にいたのですが、
妻が死んだと勘違いをし、結婚何年目かの指輪を渡してしまいます。
ところが、イカダが辿り着いた場所には奥さんが。
当然のことながら夫婦喧嘩。
「淑女」から何とか指輪を返してもらおうとするが、返してもらえない。

とそこに、夢か幻か、自らを「神」と名乗る少年が現われる。
他の人には見えない存在。
その「神の少年が」指輪を取り返したらしく、
葉に覆われた指輪を妻に差し出す男。
妻が開けて見ると、そこには指輪の形をしたグミキャンディー。
結局、妻は「淑女」が隠していた指輪を見つけ、
勝手に自分のものにしてしまう。

指輪が無くなったことに気づいた「淑女」はサラリーマンに探すよう促す。
そこでサラリーマンは再び「神」だという少年に頼み、指輪を取り戻し、
淑女に手渡す。
ところが開けてみると、またもやグミキャンディー。

と、このグミキャンディーのくだりの意味合いは、
私はちょっとわかりませんでした。
なぜ指輪ではなくグミキャンディーなのか?
いろいろ理由があることと思いますが、
私には理解できず。

突然登場した「神」と名乗る謎の少年。
サラリーマン以外の人には見えないらしい。
実際に幽霊のように存在したのか、
サラリーマンの妄想なのか、
はたまた隕石と一緒に来た「来訪者」なのか、判断つかず。
ここは理解が難しいです。

これより前、トキの話がありました。
食料不足の為、鳥を撃ったのですが、
捕ったものがトキ。
天然記念物のトキ。
学名Nipponia nipponという、本当に日本そのものの鳥。
ただし現在、日本産のトキは絶滅しています。
そのトキが、なぜサバンナにいたのかは謎ですが、
自分たちの食料にするため撃ってしまった。
そのことに悩みます。

もしかしたら、最後の一羽だったかもしれない。
その鳥を私たちが殺してしまった。
でも、生物学上の頂点に位置するのは人間であり、
それを食するのは仕方ない。
そう納得し、結局ローストチキンになります。

このへんは、よくあるお話。
今現在、この地球上では生物学上の頂点に位置するのが人間。
だから、何をやってもかまわない。
動物を殺しても、食しても。
ただ、もし宇宙人が来て、人間が生物学上の二番目になった時、
宇宙人が仮に人間を食そうとした時、どうするのか?
こういう問いかけは山ほどあります。

そして、いざ食事をしようとすると、なんと「淑女」が食べられていると・・・
しかも、今現在・・・

つまりは、フェンス?のようなものがあって、そこから出てしまい、
猛獣に食べられている、ということかな?
しかも、フェンスから出したのは指輪を気にしていて「淑女」を忌避していた、
サラリーマンではないか?という噂が広がる。
ここは結局わからずじまい。
最初は、来訪者こと宇宙人か、サバンナに住む部族かと思いました。
突拍子もないですからね、この事件は。

そして、受験生の話。
過去に姉の友人である大学生が、
家からの帰り際、車でネコをひいてしまい、自分に助けを求めたことがあった。
命を救うため病院に行かせるのかと思いきや、すでに足を失っており、
助かったところでどうしようもないと、言い放つ大学生。
では、自分の家で飼えば?と受験生は問うが、
足を失ったネコを飼うことなんてできないと言う。
それがどれだけ大変なことなのか、あなたは理解できないの?とまで言う。
そして大学生はネコを連れて・・・
という場面で、そこは終わります。
ま〜殺してしまったんでしょうね、処分に困って。

このぐらいの「心の闇」であれば、
ま〜あるな〜と思うのですが、まだ続きがあります。

この受験生。
じつはかなり心に闇を抱えているらしく、
姉が物凄く大事に飼っているネコを虐待していました。
足を切り、しっぽを切り、そのまま放置をして眺めます。
そしてそれに飽きたら、マンションのベランダから外へ放り投げる。
その落ち様もじつに見事。
尻尾も四本の足も無いから、クルクルと良く回転するとのこと。
そして数時間経ったのち、そのネコがどうなったか道路に行ってみると、
そこには姉が呆然と座り込んでいて、
ネコのために買ったキャットフードがあたりに放置されていた・・・

とんだ闇を抱えてますね、この受験生は。
というか、もう無理でしょう。
意味合いとしては、仮面夫婦ならぬ、仮面姉弟。
お互いに。

そんな受験生にも、サラリーマンが見ていた、
「神」と名乗る少年が現われます。
この時、黒子も手伝って、空中回転をします。
これが意味するのは、ネコの回転なのか、
はたまた姉である宇宙飛行士の宇宙遊泳を意識しているのか、
それとも両方か、なかなか深い表現。

そして姉からの手紙を持って、受験生である弟に渡します。
受験生がそれを読むと、それはかつて自分が子供の時、
姉からもらった短い日記。
弟に対する伝言。
「今日は○○があったね。楽しかったね」
そんな語りかけの文章。

そして「神」と名乗る少年が、とある柩があることを知らせます。
中には姉がいて、すでに亡くなっていました。
特に悲しみもわかず、そのまま柩を閉める弟の受験生。

コックの船頭によって、川の流れによって、
何とはなしに導かれた場所に、姉の遺体がある。
じつに不思議。

そもそも、なぜサラリーマンと受験生にだけ、
「神」と名乗る少年が見えたのかも謎。
ふたりにある共通点。
それは罪悪感なのだろうか?

翌日、なぜかは知りませんが、
受験生と保険員以外、全員猛獣に襲われて亡くなります。
そこでようやく、保険員が姉と知り合いであったことを明かします。
いや、たしかに長かった。
ずっと知らんぷりですから。
そして、姉が弟を助けるために、
エレベーターにロケットの仕掛けを作り、飛ばさせたことを伝えます。

過去の話しに戻り、保険員が姉に尋ねます。
「弟と一緒に、このエレベーターに乗らないんですか?」と。
姉は応えます。
「弟が嫌いだから」

ここで壮大な伏線を回収しました。
じつはもうひと波乱あってのエンディングですが、
ここは大きなネタバレになるので、さすがに割愛。

物語後半の受験生の猫の話。
ドス黒い。
正直、嫌な部分。
淡々と話すところがまた怖い。
しかもこの前に、別の猫の話しがありますからね。
二重にくる。
最後の反撃で肉がえぐり取られるとか、
伏線はありました。
それが受験生の腕をかいたりするところ。

思うに、この演出家と、私の心の闇は似ている。
ドス黒い。ドロドロ。
・・・と自分はそういう闇を抱えているのではないか?という脳内妄想。
ケンドー・コバヤシが普通の家庭なのに、獄中出産と言い張る感じ。
そう思いたい脳内妄想が、私にも彼女にもある気がする。
あくまで私の空想。

この、脚本+演出、
インスタレーション(美術制作のようなもの?)
さらに自ら役者として演じる堀川炎。
この人、凄過ぎ。
思った以上にとんでもない人。
しかも、たまたま何気なく話したことがるあるのですが、
物腰が低い(たまたまかもしれませんが)
不思議な人。

ダンス+肉体表現もあるのですが、
この振付も彼女なのかな?
ダンスシーンもしっかりしていますが、
ものすごくゆっくりとした動きの肉体表現も印象深い。
見た目以上に筋肉を酷使。
当たり前のことながらメンバー鍛えてます。

最初の発声、早口語り?のところも不思議な交換。
そして、セリフ、タイミング、間がとにかく重要なので、
セリフを噛んだりしたら、その空間がアウトになる。
全員でのチームワークが必須。
一瞬の気のゆるみが、舞台そのもののテンポを壊してしまうほど。
私が観る限り、噛んだ人はいませんでした。
完璧。

屠殺の話しなんて、なかなかできるものじゃない。
禁句である「可哀相」という言葉を使ってはいけない、
というのもわかります。
当たり前といえば、当たり前ですが。
今の人は屠殺場に行く機会なんて、普通はありませんから。

保健所の話しも、言葉にして聞くとこたえますね。
今はガスやら二酸化炭素を使うようですが、
昔は一匹一匹、棒のようなもので撲殺していたようです。
殺されることがわかっていますから、
犬や猫も必死になって抵抗をし、物凄い力をで攻撃するとのこと。
そして、さらに深いのは、保健所センターで働く女性の話では、
すべてが処分されるわけではなく、
定期的に飼いたい人が来る期間があること。
犬や猫たちは、自分たちがこのままだと死ぬことがわかっているかのごとく、
飼い主になるだろう人間に向かって最大限の愛想をふりまくようです。
なかなかグッとくるお話。

私の予想としては、コック長、または帽子の女が、
来訪者かと思いましたが、ハズレました。
独特な雰囲気、セリフもあったので、ストレートすぎるとは思いつつ、
そう予想してたんですけどね。
これは私、脚本家に踊らされました。
ちなみに昔の海外ドラマ「V」で、
宇宙人のことをすでに「来訪者=ビジター」
と読んでいます。
来訪者という言葉で、私はこれがすぐにピンときました。

そういえば、 隕石が降ってくる最中、ロケットの打ち上げに行く姉、
というのも不思議。
生きようが、死のうがどちらでも良かったのでしょうか?
そしてなぜか、棺桶に入れられていたのはなぜか?
このあたりは、やはり保険員がが関わっていたのかな?

というか、そもそも学生の夢の話し?なんて解釈もできるな〜
でも夢オチは嫌だから、来訪者エンディングが正解かな?

気になった役者は・・・
基本プロなので、言うことありません。

前述したように、どちらかというと早口、
しかも独特なタイミング、「間」がある。
そのセリフのタイミング、「間」こそがこの舞台の演出、肝なので、
セリフの言い間違えは許されない。
当然、長セリフもありますが、
私が観る限り誰も噛んでいる人はいませんでした。
セリフを噛んでいいわけありませんが、
この舞台は、カツゼツが物凄く重要ですからね。
ひとり間違えると、ドミノ倒しのように流れていく危険があります。
カツゼツは本当に大事。

特に今回、この舞台の出演女優が、みなさん美人。
美人でしかも個性的な演技ができるとなると、
それは集中して観られる。
全員が美人すぎてリアリティが無いと言う考え方もあるけれど、
それはケースバイケース。
美人な方が不美人演じることができるように、
その逆もしかり。

姉役の木下祐子はしっかりした女性宇宙飛行士と思わせつつ、
じつは弟に対してコンプレックスを持つ。
前半部分なんて、普通にいい人なので、
その隠された「闇」の部分は微塵も感じませんでした。
感じ良い人だからこそ・・・という意味合いかな。

受験生役の細谷貴宏は、一応主役かな?
最初から最後まで、たしかにヌボォ〜とした感じでした。
ただ、途中の大学生と猫のくだりで、
じつはけっこう良い人かな?
と思わせつつ、じつは過去に事件を起こしていたなんて意外でした。
役柄的には、それを悟らせない演技が必要なので、
けっこう難しい役。
根暗で淡々としつつ、相手の話しも聞き、時には自分の意見も言う。
そして奥深い「心の闇」
申し分無い演技。

保険員役の荒木秀智は、雰囲気的には、
ロッチの髪の毛がボサボサの方。
過去の話しとして、姉との会話もありつつ、
現在進行形で行われている話しにも登場。
意外と要。
じつのところ、「何でも屋」というのが、正しいのかな?
姉との約束は、結果だけを見ると、自分の死なり、弟のことなり、
いろいろ考えさせられます。
弟のことをずっと前から知っているのに、
そのことは最後に告げることから、
知らない対応をする演技と言うのも、観客からすると見応えあります。

センター員役の外村道子は、
保健所の話が一番印象深いかな?

サラリーマン役の岩田裕耳は、
自分の妻が恐らく死んでいるだろうと考え、
一緒に居合わせた淑女と恋人になる・・・
つもりであったが、妻が生きていた為一悶着が起きるという流れ。
女性に振り回されるのも大変。
他の人には見えない、「神」だと名乗る少年にも結果振り回される。
あたふたする感じが印象的。

妻役の若林えり
瞳パッチリの女性ですが、
歌って踊って演技もできるアイドルユニットの一員なんですね。
というか、普通に上手かったです。
気の強い奥さん役もバッチリでしょ。
失礼ながら、アイドル素人レベルではない。
相当な芸達者。
彼女がこれほどできるなら、この演劇アイドルユニットも見てみたくなる。

男役の高田淳と、女役の湯口光穂は、どこにでいるもいるような、
ラブラブな新婚夫婦という感じ。
ある意味、この舞台上では普通の一般人の目線とも言える。
普通の夫婦を演じるというのも、それはそれで難しい。
でも、仲が良さそうな夫婦は見ていて心地いい。
あまりいざこざないですからね。
観客としては安心する。

コック役の三嶋義信
正直、登場した時は、ちょっと怪しい感じではありましたが、
実際に料理の腕前もあったので、
コックであったことは嘘ではなかった。
ただ、受験生の姉が有名な宇宙飛行士であることを知った時の、
あの訝しげな表情は印象深い。
結局なんだったのか、イマイチよくわかりませんでしたが。

淑女役の竹浪歩
正直、こういった自己中というか、精神的にバランスを崩している人は、
対応に困ります。
実際問題として、ご近所トラブルとかもよくある話しですし。
でも、自治会の会長になるほどの積極性がある性格。
前半だけ見れば、私でも惚れそうで、
まさに「淑女」とあだ名されるぐらい、清楚で優しい人だと思ったんですけど。
表裏というわけではないけれど、自分の思うがままに突き進むこの性格、
竹浪歩はピッタシはまっていました。

帽子の女役の大日向裕実
彼女も登場した当初は、普通の人でありながら、
ちょっと不可思議な雰囲気、セリフ遣い。
徐々に普通な感じになっていくのですが、
後半はまた不思議な雰囲気に逆戻り。
意外と情緒不安定なのかな?
大日向裕実は、ダンス力には定評あります。
コミュニティーでダンスを始めますが、その最初は彼女ですからね。
下手なわけがない。
他の人が、カツゼツがバッチリで流れるように舞台進行をしていくため、
大日向裕実が、どうなることかと心配したのですが、
全く無問題で安心しました。
セリフをとちったり、噛んだりしただけで、
この作品の雰囲気が崩れてしまいますから。
「Kon-Kon、昔話」では、ハマリ役の主役でしたが、
それにも増して演技力が身についてきた。
他の役者と比べても遜色ないレベル。

神役の北村美岬
そもそもこの役柄、相当難しい。
どういった感じで、自分を役に投影していくのか。
「神」ですからね。
それがどういう意味合いでの「神」なのかも定かではないし。
イメージ的には、とにかく純粋な少年という感じ。
その中に、自覚しているのかしないのか、いたずら心もある。
笑顔が愛くるしい、憎めないフワッとした演技。
どちらかというとイタズラ好きな「天使」の雰囲気かな?

大学生役の堀川炎
いやっ、この人凄過ぎでしょ。
なんでもやるな〜
色っぽい役もできるし、少年っぽい役もできるし。

総括
家族向け、エンターテイメントでは無いけれど、
不可思議な空間、
かなり面白い内容で大満足。
この劇団、これから注目株でしょう。
そして、この脚本・演出の堀川炎にも注目。
出演もするし、この人、尋常ではない。
(敬称略)
トップ  観劇一覧  キャスト