舞台「銀河英雄伝説」第三章 内乱

満足度 5点満点
公演時期 2013年3月31日〜4月13日
会場 青山劇場
原作 田中芳樹
制作/プロデューサー 多賀英典
ステージプロデューサー/脚色/映像 ヨリコジュン
脚本 村上桃子
演出・殺陣 西田大輔
音楽 三枝成彰
音楽ディレクター 大平太一
美術 大泉七奈子
照明 宮野和夫
振付 bable

あらすじ
人類ははるかなる宇宙に進出し、
西暦2801年、銀河連邦を成立させ、この年を宇宙暦1年とした。

宇宙海賊を壊滅させた英雄ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは
「神聖にして不可侵たる」銀河帝国皇帝に即位して銀河帝国を建国。
独裁政権を確立し共和主義者たちを弾圧した。

共和主義者たちはルドルフの死後も帝国の圧政に耐え忍ぶ日々が続いたが、
帝国暦164年、アーレ・ハイネセンを中心として、
辺境の流刑地で密かに天然ドライアイスを材料とした宇宙船を建造して、
帝国からの逃亡に成功。
帝国暦218年、安定した恒星群を見いだし、
そこに民主共和政治を礎とし自由惑星同盟を建国した。

こうして人類は、専制政治を敷く銀河帝国と、
民主共和制を唱える自由惑星同盟に分かれ、
慢性的な戦争状態が150年にわたって続いていた。

時に、銀河帝国にラインハルト・フォン・ミューゼル、
自由惑星同盟には、ヤン・ウェンリーが台頭しつつあった。

(公式サイトより引用)
観劇感想
2011年に舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」
2012年に舞台「銀河英雄伝説』第二章 自由惑星同盟篇を観ています。
スピンオフの舞台はありましたが、私はそちらを観ていません。

そして、先に述べておきますが、
私は大の銀河英雄伝説ファン。
原作を何十回も読み返し(字が物凄く多い。慣れるとスラスラ読めます)
アニメもビデオ時代からすり切れるほど見ました。
そういった、かなりコアなファンであることを前提に、
観劇感想を書きます。

私ながら、ちょっと気になったのは、
発音的に「銀河↓英雄伝説↓」なんですね。
アニメのイメージが強いため、
私は「銀河→英雄伝説→」イントネーション。

地下のエントラスンホールには、
イゼルローン要塞の模型。
撮影不可でしたが、そんな表記を無視して撮影する人も多いです。
こんな本当にどうでもいい部分においても、
人の性格が見え隠れする。

パンフレットにも書かれていますが、
舞台観劇をしてから、小説を読み始めた人も多いようですね。
それもそのはず。
私が観る限り、
客層95%ぐらいは女性でした。
男性の肩身がせまい。

さて本編。
舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」
舞台「銀河英雄伝説』第二章 自由惑星同盟篇」と、
難しい原作をいかに舞台化して表現するか、試行錯誤していました。
今回、演出、脚本、各スタッフを含め、
ようやくその集大成とも言うべき舞台になったと言っても過言ではありません。

特に照明の演出がすばらしい。
スポットライトの照明があちこちらから斜線で入る演出は、
じつにかっこいい。

舞台幕の大スクリーンの映像も。
最近のプロジェクターは画質が物凄いんですね。
迫力ある映像で、あれなら原作ファンも満足します。

今回、どちらかというと艦隊戦は少なめ。
アンサンブルメンバーによるダンスでの艦隊陣形。
そしてスポットライトでの演出。

スパルタニアンの空戦は、前回と同じく、基本陸戦という形。
その部分が唯一のミュージカルナンバー。
ポプランの中川晃教と、コーネフの中村誠治郎のところだけ。
これはこれでいい。
ここは絶品。ずっと観ていたい。

後は、オフレッサー石坂勇の殺陣、
同じくそのオフレッサーを倒すべく戦うミッタマイヤーの二階堂高嗣
ロイエンタールの内浦純一の殺陣も頑張ってました。
ラインハルト軍に捕まったものの、無傷で味方の元に帰らせ、
ブラウンシュヴァイクの猜疑心を煽り、味方に殺されることになるオフレッサー。
ここの、観客に顔を向けて死ぬ場面は印象に残りました。
出番が少ないので、おいしい演出にしてあるとは思いますが。

歌う場面としては、あとはアンコールのところだけかな?
歌手もいて、さらには歌唱力ある方もたくさんいます。
ここでキスマイの二人がソロで登場しないのは、
いろんな事情があることと推測します。
本人たちの考えと、事務所的の考え、いろいろあるでしょうね。

それ関連として、気になるのがセリフ。
ビッテンフェルトの川隅美慎はセリフが異様に少ない。
短気で粗野なビッテンフェルトが、けっこうこじんまりしている感じ。
川隅美慎自身はイケメンだし、たまに放つセリフもしっかりしているのに、
なぜか端役的存在。
何かビッテンフェルトが言ってもいいようなセリフが、
ミッターマイヤーに回っている気がするのは私だけ?
ミッターマイヤーのセリフ量、そうとう多かったもの。
キルヒアイスは元々セリフ量が多いけれど、
何かこの部分でのセリフ量が私は気になりました。
これもいろいろあるんでしょうか?

メルカッツの渡辺裕之も有名なのに、出番少なめ。
私的には、シュナイダーに語りかけるセリフ、
「卿はまだ若いな・・・」
で終わったのには残念。
あの後の、
「なるほど、たしかにブラウンシュヴァイク公は、私と約束をした。
だが、そんなことを無視して、私に意見をしてくるだろう。
そのうちローエングラム侯よりもわしの方を憎むことになるだろうさ」
「まさか」
ここはあってほしかった。

その前の、メルカッツがなぜ、
ブラウンシュヴァイク・リッテンハイム連合に加わったのか、
という経緯も本当はほしかったけれど。

シュナイダー役の荒木健太朗も、原作ではけっこう重要なセリフがあるのに、
少なかったのには残念。
「たしかにブラウンシュヴァイク公は、憐れな人かもしれない。
だが、その人に未来を託さねばならないとしたら、
その方がもっと憐れではないのか?」
この自問自答は好きなセリフなのに。

シェーンコップ役、岩永洋昭は今回は出番が多かった。
特に陸戦の殺陣というよりも、
ヤンを相手に独裁をそそのかしながら討論をする場面があって満足。
ああいう、ちょっと屁理屈的な言い合いは、原作ファンだとクスッときます。

帝国としては、リッテンハイム侯の死があっという間なのも残念。
脚本上、時間の都合上等、いろいろあるので仕方ありませんが。
ここのやりとり、意外と私は好きなんですけど。

同盟軍は、原作者の意向(?)もあってか、
コメディチックな場面がけっこう多い。
ヤンとユリアンの年齢のかけあい、
シェーンコップが惑星シャンプールを沈静化しての帰還に、ブラジャー等。
同盟だから、シェーンコップ、ポプラン、ユリアン等のからみは明るくしたい感じ。
ユリアンにとって、ここがまさに「黄金時代」
それを知っている原作ファンから見ると、明るくて問題無し。
そもそも今回ジェシカが亡くなると、
主要登場人物の女性が一気に減りますからね。
カリン登場は先のことですし。

内容的には、
原作2巻までの帝国軍、同盟軍の話しですが、
帝国軍の方は舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」と、ほぼ同じ流れ。
一応ひととおりの流れがあり、
前回入りきれなかったアムリッツアの戦いの部分も入っていました。
初めて見る方にもわかりやすかったと思います。
(本当に詳しく伝えるには時間が足りなさすぎますが)

一幕最後の演出は、
クーデターの主犯がフレデリカの父親、
ドワイト・グリーンヒルというところで幕がおりる。
ここは抜群。
ちょうどいいポイントでした。

同盟軍は予想通りクーデターの話。
ジェシカの「スタジアムの虐殺」は舞台化しやすいと思いました。
そのとおりではあるのだけれど、見ていてつらい。
でも、ここはキチンと描かないとね。

ジェシカ役の馬渕英俚可も気合入りまくりでしょう。
ここは物凄く目立ちますから。
ヤンとの恋話もありながら、凛として、
政治家として軍人と対決する。
殴られながらも、なお言い放つあのセリフ、しびれますよ。
ちなみに彼女のセリフ、私もサラで言えますね。

「死ぬ覚悟があれば
どんな酷いこともやっていいと言うの?
信念さえあれば どんな酷いことも
どんな愚かなこともやっていいと言うの?
暴力によって、自ら信じる正義を他人に強制する人間は後を絶たないわ。
大なるものはルドルフ・フォン・ゴールデンバウム。
小なのものはあなたに至るまで。
それを自覚しなさい。
そして、いる資格のない場所から即刻出てお行き


アニメ版だと、こんな口調だったと思いますが、
違っていたらごめんなさい。

クリスチアン大佐がまたひどい。
ここの撲殺シーン、まるまるやりますから。
けっこう演出がんばりました。
本来だと、倒れていた市民が立ち上がってクリスチアン大佐を暴行するのですが、
舞台版は救国軍事会議の主要メンバーとして再び登場するので、一度退場します。
とはいえ、深澤英之にとっては美味しい場面。

ヤンは名言が多過ぎる。
「命に変えてもやるべきことがある、というものと、
命に勝るものはないというもの。
人、戦争始めるとき、前者を口実にし、
戦争を辞めるときに後者を口実にする」


「軍隊というのは道具にすぎない。
それも無いほうがいい道具だ。
そのことを覚えておいて、
その上でなるべく無害な道具になれるといいね」


「専制とは、市民から選ばれない為政者が権力によって市民の自由を奪い、
支配することだ」


これ全部劇中でいいますからね。
河村隆一が言いたくなるのもわかります。
カッコイイもの。
河村隆一=ヤンは完全に定着したと言える。
私は文句ないな〜

ラインハルトの最後のセリフ、
私としてはアニメ版を引用してもいいと思う。
「もはや、失うべきものは何もない。
だが、なればこそ俺は戦う。
おまえとの誓約を守るため。
そしてこの胸の渇きを癒す何かを得るため。
それは良き友か?
それとも強き敵か?
ヤン・ウェンリー、お前ならそれに応えてくれるのか?」

そして、階段でヤンとラインハルトがすれ違っての斜光のスポットライト。
これが一番完璧かな〜?なんて私は思ってしまう。

前回のラインハルト役は松坂桃李でしたが、
今回は間宮祥太朗
プレッシャーは大変だったことと思いますが、
ものすごくよくやっている。
最初はちょっと固く、緊張しているかな?
と思いましたが、舞台が進行していくごとに良くなっていく。

どちらかといえば、松坂桃李より厳しいラインハルト。
ただ、やはりヴェスターラントの苦悩は大変だったことでしょう。
原作だと、最終10巻でもきますからね。
あの衝撃をいつか舞台に・・・というのは相当先のことですが。
個人的には凄く好きなラインハルト。

ミッターマイヤー役の二階堂高嗣は、
ジャニーズのKis-My-Ft2のようですが、
全く存じあげません。
申し訳ない。
それはそれとして、私はこのミッタマイヤーという重役、
かなり頑張っていると思う。
特に目立ったセリフの聞き取りずらさもなく、
セリフ忘れもなかったように思える。
どちらかと言えば、ミッターマイヤーは「智」よりも「勇」を先行することもあり、
少し短気な部分があっていい。
それを彼は実行していますから。
これだけやってくれたら、私は十分。
まだまだ若いので、これからどんどん伸びていくことでしょう。
ジャニーズにとっても、彼の舞台での成長は、
ひじょうに重要だと思う。

キルヒアイス役の横尾渉
彼もジャニーズで、Kis-My-Ft2。
ハッキリ言って、演技的にはまだまだ。
カツゼツも全然。
唯一気になるのが彼でした。
キルヒアイスの声は、永遠に広中雅志の声で再生されますからね。
彼はニュース等でナレーションをすることも多いのですが、
できるだけキルヒアイスの声のトーンは消すとのこと。
それだけ、この役に思い入れがある。

ただ、演技がイマイチだとしても、
長いセリフは良く覚えていたし、噛むこともありませんでした。
そこは立派。
数年後、自分の演じた役をVTRで見た時、
下手くそだったな〜と思うことでしょう。
でもそう言えるようになった時、彼は舞台役者として成長した姿があると思う。
演技的にはイマイチでも、キルヒアイスの優しい雰囲気は伝わってきましたから。
キルヒアイス死亡のシーンなんて、客席ガンガン泣いてますからね。
それは彼の演技が招いた結果でしょう。
このシーンは原作、アニメそのままですし、
感動する場面。

ポプラン役の中川晃教は、言うとこないっしょ。
完全に当たり役だもの。
それでいて、演技力、歌唱力もあって、
舞台役者として、これからどんどん出てくるでしょうね。
女性ファンが増えるのもわかります。
本物の舞台役者だもの。

ユリアン役の長江崚行
あのメンバー内での゛一番年下扱いを受けるところなんて、
イゼルローンにいるヤン・ファミリーそのものだもの。
ジェシカが亡くなったことを聞いた時のショックもいい。
「なんであの人が?」
身近な女性が戦争の犠牲になった、初めての出来事。
ユリアンにとって、相当衝撃的な出来事だったはず。
次は彼が主役で問題ないでしょうね。
そして、背は来年伸びて、ヤンと同じくらいになる予感。

アンネローゼの白羽ゆりは前回同様、母性くすぐる穏やかな演技。
やや出番が少ないこともあってか、舞踊を入れていました。

トリューニヒトの井田國彦は今回は出番が少なかった。
地球教の隠れ家・・・というのもなんだから、
電話でいろいろやりとりしている場面ぐらいしか印象がない。

ビュコックの伊藤哲哉は雰囲気がビュコックっぽいので、
原作ファンとしては問題無し。
このまま続けてほしいな。
これから何度かラインハルトと艦隊戦で、戦うシーンもあることですし。
私服であのベンチって、実写にしてみると違和感ありました。
実際にあったとしても、あんな感じなのでしょうね。
ユリアンが見張っていたとしても、
誰も気づかないレベル。

フレデリカのはねゆりも前回に続いての出演。
イメージピッタリ。
今回は父のクーデターや、ヤンとのやや恋愛がらみもあって、
出番が多い。
原作ファンも文句のつけようがない、理想のフレデリカ。
「査問会」の伏線もあり、彼女も付いていくことになるので、
ずっと続けてほしい。

ヒルデガルト・フォン・マリーンドルフこと、ヒルダ役に中山由香
彼女は初めて。
今回は出番がまだ少ないですが、
キルヒアイスが亡くなったことから、次回からは大幅に出番が増えることでしょう。
カツゼツはしっかりしているし、膨大な量のセリフも覚えていますし、
(本来は原作だともっと長文な意見を述べますが、舞台ではカットされていました)
次回、さらに期待が高まりますね。
要注目でしょう。

オーベルシュタインの貴水博之はハマリ役。
オーベルシュタインという役自体が役者として演じたい人物像ではありますが。
義眼をミッターマイヤーらに外すところを見せるは意外でしたが。
彼も舞台あり続ける限り、最後まて続けてほしい。
最終巻到達までは長いですが。

ブラウンシュヴァイクの園岡新太郎
アンスバッハの高山猛久
舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」と同じく、美味しい役。
ふたりとも物凄く印象に残る。
役者も気合が入るというもの。
このふたりの演技よって、安心して観られた部分も多い。
ある意味後半は主役レベル。

そう言えば見終わって、少し経ってから気づきました。
「アッテンボローいなかった・・・」と。
そういえばキャゼルヌも。
でも、いなくても普通に成り立っていたので問題無し。
「要塞VS要塞」の時は必要になると思いますが。

総括

コーネフ役の、中村誠治郎の誕生日ということもあり、
サプライズハッピーバースデー。
中川晃教の生ソロ。
本当にポプランがやりそう。
あの同盟の雰囲気そのままの空間でした。
ああいうことができるっていうのは、
このカンパニーの「和」が理解できる。

物語的にも舞台化しやすかったところが大きいけれど、
照明の演出等、飽きさせない演出が素晴らしかったです。
時間的には2時間30分ぐらいでしょうか?
あっと言う間に時間が過ぎる。
私が原作を知っているせいかもしれないけれど、
物凄く舞台に集中できました。

今回は前回のように中途半端に終わらなかったので、
原作ファンとしては、文句の無い出来ばえ。
入れてほしいシーン、きちんと入っていました。
「初陣」も、予定が合えば観に行きたいです。
(敬称略)
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