公演時期 | 2012年4月14日~22日 |
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会場 | 東京国際フォーラム ホールC |
原作 | 田中芳樹 |
脚本 | 村上桃子 |
演出 | 西田大輔 |
音楽 | 三枝成彰/出来田智史 |
音楽監督 | 大平太一 |
クリエイティブディレクター | 津川昌平 |
衣装 | 三浦将起 |
アクション・殺陣 | 深澤英之 |
振付 | 山崎たくや 神谷直樹 |
あらすじ人類ははるかなる宇宙に進出し、 西暦2801年、銀河連邦を成立させ、この年を宇宙暦1年とした。 宇宙海賊を壊滅させた英雄ルドルフ・フォン・ゴールデンバウムは 「神聖にして不可侵たる」銀河帝国皇帝に即位して銀河帝国を建国。 独裁政権を確立し共和主義者たちを弾圧した。 共和主義者たちはルドルフの死後も帝国の圧政に耐え忍ぶ日々が続いたが、 帝国暦164年、アーレ・ハイネセンを中心として、 辺境の流刑地で密かに天然ドライアイスを材料とした宇宙船を建造して、 帝国からの逃亡に成功。 帝国暦218年、安定した恒星群を見いだし、 そこに民主共和政治を礎とし自由惑星同盟を建国した。 こうして人類は、専制政治を敷く銀河帝国と、 民主共和制を唱える自由惑星同盟に分かれ、 慢性的な戦争状態が150年にわたって続いていた。 そして自由惑星同盟にある英雄が現れる。 後に「魔術師ヤン」「奇跡のヤン」と呼ばれる名将、ヤン・ウェンリーである。 (公式サイトより引用) 感想2011年に舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」を観ています。 スピンオフの舞台はありましたが、私はそちらを観ていません。 そして、先に述べておきますが、 私は大の銀河英雄伝説ファン。 原作を何十回も読み返し(字が物凄く多い。慣れるとスラスラ読めます) アニメもビデオ時代からすり切れるほど見ました。 そういった、かなりコアなファンであることを前提に、 観劇感想を書きます。 なにはともあれ、まずはヤン・ウェンリー役の河村隆一。 原作ファン、アニメファンの人にしてみれば、 「格好良過ぎる!」と思われても仕方ないでしょう。 私もじつのところ、かなり心配しました。 しかし、どうして、どうして、 河村隆一のヤン・ウェンリー、意外といい。 パンフレットでもわかるように、そんなにかっこいい部分をだしていません。 演技もナヨッとした感じで、口調もちょっと独特。 これは本人、いろいろ考えての演技、口調でしょう。 原作ファンを意識している。 よ~く考えると「お姉」言葉のようにも感じますが、 そこの一歩手前ぐらいな感じかな? そんな口調にもかかわらず、 私が観る限り、長セリフ、ほとんど噛みませんでした。 台本というよりも、 原作の好きなセリフ満載なので、 自然と小説やアニメの言葉を暗記しているのでしょう。 私もそうですから。 原作小説のヤンと、アニメのヤンとでは、またちょっと違うんですよね。 小説の方が微妙に皮肉が表に出ることがあるかな? アニメの方が優しい印象を受けつつ、ちょっとサバサバしている印象。 声優の富山敬氏の印象が強すぎますからね。 で、舞台の河村隆一のヤンはというと、やや機械的で早口かな? 迫力ある威勢がいい声ではない。 (ゼークトの通信文で怒るところは、もっと声を張ってもいいかな?) それからあまりボディランゲージをしない。 こんな感じですね。 ただ、河村隆一オリジナルのヤン・ウェンリーなので、 そこまでファンはこだわっていないと思います。 原作ファンの私から言わせてもらえば、まずまず満足な出来ばえ。 小説が名台詞や名場面が多く、 舞台としてとりあげたい部分が多い。 それが私にもわかります。 河村隆一も、「この部分は絶対入れてほしい」とか、 あったと思います。 ただそうすると、入れる部分が多くなって、 当然のことながら舞台の公演時間が長くなります。 結果、アムリッツア星域の戦いの前で舞台は終了してしまいます。 ここは残念。 せめて、アムリッツア終了までは舞台に入れてほしかった。 というか、そうしないと「銀河英雄伝説」を知らない人の観劇だと、 何がなんだわからず、尻切れトンボのような感じでしょう。 現に舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」の方は、 小説の2巻までで終わらせていますから。 キルヒアイスのあの場面で終わったからこそ、 あまり「銀河英雄伝説」を知らない人にも、受け入れることができました。 今回はちょっと区切りが悪過ぎ。 ラップが早々に死亡するのは仕方のないことですが、 その回想シーンがかなり多い。 途中で何回も出てきます。 役者が野久保直樹なので、出番を増やす意味合いであることは明白。 ただ、このあたりをはしょれば、アムリッツア終了まで行けたかな~? なんて、思えないこともないです。 相反しますが、どうせラップの回想をいれるのであれば、 ヤンとラップが、 ジェシカとダンスをするシーンもいれてあげれば良かったのに、なんて思います。 ただ、良かった部分もたくさんあります。 やっぱり名場面は入れてますからね。 アスーターテ星域でのラオとのやりとりの、 「頭をかいてごまかすさ」とか、 同盟軍の戦没者慰霊祭でのトリューニヒトやジェシカとのやりとり、 (ここは舞台の演出として、客席の通路からジェシカが登場して訴えます。 慰霊祭の会場そのもの。シーン的にもかなり時間をさいています) ヤンが起立しない自由を行使するところとか、 (実際に私もやったことありますが、目立つ目立つ・・・) ヤンの自宅での憂国騎士とのやりとり、 (憂国騎士団がダンスをするのには驚きますが) キャゼルヌ来訪時のテーブルの上であぐらをかいて紅茶を飲むヤンとか、 ヤンとフレデレカとの8年前のやりとりとか、 ヤンがシェーンコップに「名誉欲か、出世欲か」と問われるシーンとか、 帝国軍のゼークト司令官からの通信文にヤンが珍しく激怒するシーンとか、 最高評議会でのトリューニヒト、レベロ、ウィンザー夫人とのやりとりとか、 同盟の作戦会議におけるフォーク准将、ビュコック、ヤンとのやりとり、 (ここのやりとり、私はかなり好き。やっぱ劇中にもいれたい) そしてその後のシトレ元帥とヤンとのやりとり、 (ここはほぼ全部入れてるでしょう。 フォーク准将の政府への裏ルートのことは言ってませんが。) 他にもたくさんありますが、 セリフ劇とも言うべき小説ですから、全てを詰め込むのは難しいです。 私的に、 人間の社会には思想の潮流が二つあるんだ。 生命以上の価値が存在する、という説と、 生命に優るものはない、という説とだ。 人は戦いを始めるとき前者を口実にし、戦いをやめるとき後者を理由にする。 恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもの望みはしない。 だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた。 吾々が次の世代に何か遺産を託さなくてはならないとするなら、 やはり平和が一番だ。 そして前の世代から手渡された平和を維持するのは、次の世代の責任だ。 この当たりが印象深い言葉ですね。 オープニングはいきなり、パエッタ中将が負傷をし、 ヤンが引き継ぐところから。 ここでアニメ版ですとアッテンボローが登場なのですが、 原作小説にならってラオが登場。 ちょっと渋いです。 それはいいとして、その後のオーバーチェア的なOP。 これって、あのマントからすると、地球教の人ですよね? 「銀河英雄伝説」を全く知らない人にしてみると、 何がなんだかわからない。 ダンスはけっこう長いです。 アンサンブルの人は地味に大変。 ずっと踊っていますから。 そして、LGMonkeesのラップ。 ごめんなさい。ちょっと私に理解できませんでした。 前回は戦闘シーンを群舞で表現していたりしていましたが、 今回は無し。 映像として、スクリーンに投影。 イゼルローンからトールハンマーを撃つところの照明と演出もいいですね。 舞台から観客に向けての真正面かららのライト、 それにゼークト提督を重ねると。 そういえば、意外と舞台中の音楽の印象が少ない。 戦闘シーンが少なかったので、スペースオペラにはなりにくいですし。 セリフ劇なので、あまり入れづらいというのもありますが。 帝国の貴族の雰囲気はクラシックをかけやすいんですけど。 前述しましたが、最高評議会での選挙のやりとりまで出るのは良かった。 ウィンザー夫人役の方もピッタリで、 天狗の鼻のごとく、お高い感じがよくでていました。 支持率、選挙関連と戦争の関係もそのままに演出してくれたのは嬉しい。 同盟の作戦会議におけるフォーク准将は、最高すぎ。 アンドリュー・フォーク役の樋口夢祈もすばらしい出来ばえ。 ある意味、結果として、この人ひとりで同盟を崩壊させましたからね。 ここでヒステリー盲目症がでてしまうことにはビックリですが。 ひどい言い方ですが、フォーク准将がでると楽しい(笑) 待ってくましたのお約束感が半端ありません。 一番最後のシーンでの、シトレ元帥とヤンとのやりとり。 ここはかなり注視しましたね。 かなり長いセリフ劇。 シドニー・シトレ役には西岡徳馬で、全く問題ありません。 そにヤンの河村隆一も対応しています。 あまりはしょることなく、けっこう原作に沿っています。 スパルタニアンのパイロットと、 薔薇の騎士ローゼンリッターとの喧嘩。 これは、外伝2巻の話しかな? ユリアンがフライングボールの話しをするのは、 外伝小説2巻の「イゼルローン日記」のような気がします。 (ちなみに、外伝2巻はユリアンの日記なので、読みやすいです) ローゼンリッター登場の場面は、 映像としてのフライングボールと、人間のダンスがリンクしています。 なかなか憎い演出。 こういうのはアリだと思う。 まっ、いきなりフライングボールはビックリしますが。 斧を持っての戦闘シーンで、 ローゼンリッターの強さをイメージさせても良かったとは思いますが。 イゼルローンを攻略して、帝国軍の艦隊が押し寄せてくる時、 ヤンがイゼルローン要塞のトールハンマー(簡単にいうと大量破壊兵器)を、 使うかどうか、かなり悩みます。 その前のシーンで、ジェシカに、 「戦争に勝つということはそれだけ人を殺す」ということを言ってますからね。 それゆえに、悩むところはかなりう間合いをとりました。 いい演出でしたし、河村隆一ヤンも良かった。 同盟の話しですが、 やはりイゼルローン攻略の話では、帝国軍側の人物が必要となるわけで、 ゼークト役の伊藤哲哉、シュトックハウゼン役の佐藤和久が登場。 特にゼークトの散り際は、役者としてはおいしい場面。 イゼルローンのところは、舞台でも時間をさきましたから。 オーベルシュタイン役の貴水博之も映像で登場。 ちょっとカッコ良過ぎるかなと(笑) 本当にあんなルックスだったら、 オーベルシュタインは女性に大モテでしょうね。 ロイエンタールと張り合えるぐらい。 私的にシェーンコップ役の松井誠は殺陣もかなりできるようなので、 本当はもっと観たかったです。 あの程度の戦闘シーンでは足りないくらい。 演出的にはスパルタニアンの戦闘が独特。 宇宙空母から発進する戦闘機で、 最初は映像が投影されますが、そのスクリーンの向こうでは生身の姿で戦闘。 意外とあってました。 面白い演出。 ポプランは陽気に、そしてコーネフはクロスワードの本をかかえての殺陣。 個性があっていい。 エンディングの歌は、正直微妙。 出演者全員で歌いあげます。 時にはみんなで肩を組んで。 ここは正直、好き嫌い別れると思います。 そういえば、葉っぱのフレディでも似たことしてましたっけ。 気になった役者ラップ役の野久保直樹そんなに違和感ないですね。 原作と大きくは変わらないと思います。 落ち着いた感じで、ヤンと親友になるくらいだから、 頭は良いけれど、ちょっと変わってる感じも出ている。 シドニー・シトレ役の西岡徳馬出番が多い。 今回、一番ヤンとの絡み多く、セリフも多い。 それは、ヤンに対して話しているだけではなく、観客にも向けられますからね。 このシトレ役は合ってたな~ ジェシカ・エドワーズ役の馬渕英俚可女性ふたりとも原作のイメージにピッタリ。 ここは違和感全くないです。 ジェシカは、前半はラップの恋人、 後半は政治家になりますから、そこでの雰囲気の違いを演じるのも難しいところ。 慰霊祭でのトリューニヒトへの訴えかけ、 政治家になった後の訴えかけ、両方ともにピッタリ。 フレデリカ・グリーンヒル役のはねゆりこちらもイメージにピッタリ。 あんな副官がいればいいな~と(笑) あれだけけっこう積極的ですと、普通、気づきますけどね。 アムリッツァ星域の戦いがあれば、もう少し出番があったかもしれません。 アレックス・キャゼルヌ役の雨宮良意外と印象度が少ない。 やっぱり、キャゼルヌ夫人とか、二人の娘さんがでて、 家族愛あふれるところがあればな~なんて思いました。 ムライ役の大澄賢也意外といいですね。 原作のムライのイメージがどうなるか不安でしたが、 落ち着いた雰囲気の大澄賢也もいい。 ただ、あの風貌とルックスだと、まるまるフィッシャー提督のような・・・ パトリチェフ役の金澤博そのまんま。 あのふくよかな感じとか、みんなを叱咤激励するのにもピッタリ。 本当は重要な「なるほど」の台詞が無いのが残念ですが。 オリビエ・ポプラン役の中川晃教ポプランの雰囲気が出ていていい! とかいう前に、普通に演技がうまい。 それはすぐにわかる。 スパルタニアンのエースパイロットでありながら、 明るくて女好きでムードメーカーのポプランは美味しい役。 役者もノリノリでやれます。 このポプランは原作ファンでも言うことないでしょ。 スパルタニアンのエースパイロット4人のかけあいは、 コメディ色が強い。 イワン・コーネフの中村誠治郎ボプラン同様に美味しい役。 クロスワード好きなのはともかくとして、 本を持ったまま格闘というのがカッコイイ。 イケメンですし、演技もできるしで、 この人は相当人気でるでしょうね。 私は好きだな。 シェイクリ役の大山真志、ヒューズ役の仲原裕之スパルタニアン関連のところではけっこう出ていたけれど、 やっぱり本当はアムリッツア星域での戦いでの死にざまが観たかった。 あまり舞台だとわからないけれど、 ふたりとも優秀なパイロットなんですけどね。 ヨブ・トリューニヒト役の井田國彦彼もイメージにピッタリ。 見た目だけだと、一票入れそうですし(笑) この舞台、トリューニヒトはおいしい場面が多い。 慰霊祭での弁舌、ジェシカとの絡み、 さらには最高評議会での帝国領土進行への反対票など。 弁舌好きな人にはたまらない役。 かなり目立ちますしね。 ユリアン・ミンツ役の桑代貴明雰囲気的にはそんなに悪くはない。 現状としては、背が高過ぎるかな。 物語後半だとあのくらいの背でもいいけれど。 ただ、演技力に関しては閉口。 それからカツゼツも。 声がかすれぎみ。 毎日の公演のせいなのか、変声期のためかはわかりませんが。 私はガッカリのレベル。 ただ、雰囲気やルックスはいいので、それで楽しむ感じかな? それはそれでいいと思う。 初舞台の方なので・・・という妥協。 ナオミ役の長澤奈央正直もったいなほど少ない出番。 殺陣もしっかりできる役者ですから。 新しい舞台が発表され、そちらはスパルタニアンメンバーがメインのようなので、 かなり出演機会も多いことでしょう。 長澤奈央ファンはそちらの方がいいかもですね。 でも、もしかしたら、元々の女性陣がジェシカとフレデリカだけなので、 アンダースタディ(病欠等の場合の代役)だったのかも?なんて思ったりもします。 ローゼンリッターのビクトル・フォン・クラフト役、 川隈美慎なかなかの美形。 人気でるでしょ。 落ち着いて柔和で、優しい雰囲気的。 ブルームハルト役でもいいですね。 ダスティ・アッテンボロー役の荒木健太朗出番が少なくてもったいない。 まっ、本当はアムリッツァ星域会戦の時に、第十艦隊、ウランフ提督のもとにいて、 脱出時の先鋒を任せられるんですよね。 シンガリをつとめたウランフ提督は味方が突破するのを見て息絶える・・・ なんてお話しもあります。 蛇足ながらトークイベント。 原作者の田中芳樹先生も登場。 年をとられました・・・ かつて、数年前にイベントで見たことがありましたから、 その時に比べるとね・・・ ただ、受け答えは、ユーモアのセンスもあって、頭の回転が早い。 のらりくらりしながら、コメントは辛辣。 そんな感じですね。 本人曰く、小説で三角関係が書けないとのこと。 今までの小説でひとつも無いらしいです。 恋人が敵になって・・・みたいなのも無いとのこと。 そう思い返すと、たしかに。 でも、 唯一キルヒアイスが主役の外伝で、老夫婦が登場する「汚名」 「創竜伝」のレディLとか、 微妙な部分もありますが。 総括ヤンの河村隆一は、難しい役だけれど、 私はまずまず満足のいくヤン・ウェンリー役でした。 舞台の内容的には、帝国に比べるとセリフ劇となり、 重要なセリフが多い気がします。 やっぱり、原作の言いたいところは、舞台でも取り上げたいですから。 それを詰め込みすぎて、アムリッツァ星域の戦いの前で終わるのは本当に残念。 中途半端すぎる。 生の舞台なので、やっぱり初見の人もいますからね。 そこが一番気になる点ですが、 原作ファンであれば、重要であろう好きな言葉、好きなセリフ満載ですから、 楽しめることと思います。 ※敬称略 |