舞台「銀河英雄伝説 第一章 銀河帝国編」

満足度
◆公演時期   2011年1月7日〜16日
◆会場 青山劇場
◆脚本 堀江慶/村上桃子/西田シャトナー
◆脚本監修 田原正利
◆演出 西田シャトナー
◆演出プラン 堀江慶
◆音楽 三枝成彰
◆舞踊監督/振付 森田守恒
◆美術 齋藤浩樹
◆照明 柏倉淳一
◆衣装 友好まり子
◆振付 瀬川ナミ
◆総合監修 田原正利
◆総合プロデュース 多賀英典(キティ) 
◆原作 田中芳樹

あらすじ
数千年後の未来、際限なく広がる銀河を舞台に、
『銀河帝国』VS『自由惑星同盟』の戦いは絶えることなく繰り返されてきた。
銀河帝国の下級貴族であるラインハルトは、
権力によって皇帝に奪われた最愛の姉を取り戻すべく、
幼馴染のキルヒアイスとともに軍人となる。
ラインハルトは戦い続ける。皇帝を凌ぐ力を手に入れるために…
それはやがて、全宇宙を支配するという野望へと変わっていく。

同じ目標に向かって戦っていたラインハルトとキルヒアイス。
しかしオーベルシュタインが現れたことにより、
二人の間に隙間が生じる。
その隙間は銀河を揺るがす大きな亀裂となっていき……。

今、銀河の歴史が動こうとしている!
(公式サイトより引用)
観劇感想

ちなみに私は原作の大ファンなので、
原作重視の観劇感想となります。

なによりまず言いたいのは、
パンフレットが足りないってどういうことでしょう?
少なくともひとり1枚として計算しても、
座席数1000として1000枚は用意していいはずなのに。
私は開場してほぼすぐ列に並んでいたのですが、
その時点でグッズ売り場は混雑していて、
残り30枚でした。
おかしすぎます・・・

公演開始からの配分ミスなのか、
印刷する数が足りなかったのかはわかりませんが、
次回からは本当に気をつけてほしいです。
クレームをつけている人もたくさんいましたから。
通販で買えますが、送料600円となっています。

予想どおり、劇場は満席。
立ち見席も出ているようです。
私は先行予約で、かなり良い席で観ることができました。
客層は、やはり若い女性がたくさん。
あくまで私のイメージ的には、
「ミュージカル・テニスの王子様」のファン層に近いかもしれません。
メインキャストとしては、女性はふたりしか出演しませんからね。

話の内容としては、
第一シリーズの最後まで。
原作2巻。
ここは当然でしょう。
私でもそうします。
あそこで終わるのが一番区切りいいですから。

舞台の幕が、ちょっと独特で、なんというかな、
ナウシカのオームの甲羅のような透明な半円球のものがたくさんついていました。
それで、銀河のイメージをつけていたのだと思います。

生のオーケストラではないものの、音響も良かったです。
音響設備が良かったせいでしょうか?
けっこう迫力がありました。

一番気になっていた、敵との艦隊戦は、アンサンブルのダンスで対応。
こちらもなんとなく予想していました。
陣形もアンサンブル。
たしかにわかりやすいです。
ひとつだけ残念なのは、アンサンブルは目の回りまで黒く塗っているので、
誰が誰やら判断できませんでした。
大胡愛恵が出演していたはずなのですが、
見つかりませんでした。申し訳ないです。

艦隊戦や、戦いの部分を舞台で表現するのは難しいです。
そこでやはり、そのあたりは少し早めに省略して、
会話の部分を重視する形になります。

ラインハルト、キルヒアイス、アンネローゼの会話。
(ラインハルトがけっこう子供で、感情を出すのは珍しい)

ラインハルト、キルヒアイス、オーベルシュタインの会話。
(ここは秀逸。原作、アニメとも似ていて、私は大好き)

ロイエンタール、ミッターマイヤー、オフレッサーの戦闘シーン。
(艦隊戦ではなく、白兵戦ということで、舞台でも映えます。殺陣もすばらしい)

そして最後のあの場面。
(ここは文句ないでしょう。原作を知らない友人も驚いてました)
この4カ所が特に印象に残っています。

前述していますが、
けっこうラインハルトが子供っぽく、
感情をむき出しにするシーンがあります。
(それが精神的な表現なのかもしれませんが)
キルヒアイスがアンネローゼと抱擁?しているのを見てしまい、
動揺したラインラルトがそのこじつけとして、
「ヒルダと一緒に!」なんて、けっこうお茶目です。
ただ、ここは賛否両論でしょうね。
原作ですと、そんなに感情を表に出しませんから。
アンネローゼとキルヒアイスの前では、ラインハルトも自分の素をだしてしまいますが。

ラインハルトが元帥府を開くことになって、
幕僚を迎えることになるのですが、
ここはケンプやミュラーがいないのは寂しいです。
結果、アムリッツア星域海戦では、
本来は対決するはずのない、ヤンとミッタマイヤーの対決なんてあります。
仮想ですけど。
ルッツやワーレンがいますが、ルッツは射撃の名手というイメージ先行で、
射撃ポーズばかりは、ちょっとガッカリ。
他に個性が、あの場では出せませんが。

2幕もどんどん早めに終わっていきます。
艦隊戦もそこそこ。

シュターデンとミッターマイヤーとの戦いも早く終わってしまうのは残念。
リッテンハイム侯を殺してしまうのが、アンスバッハというのも意外ですが、
舞台の制約上しかたありませんね。
正直、2幕だと、メルカッツとシュナイダー関連がもっと欲しかった。
そもそもメルカッツは、この貴族大連合軍の司令官。
本人は最初、無益な戦争には反対で、固辞したのですが、
ブラウンシュヴァイク公が、メルカッツの孫娘に危害が及ぶことを、
チラリと示唆したゆえに承諾したという経緯があります。
そこで、こと実戦に関しては全権が自分に委ねられること。
もうひとつ、私の命令に背けば、いかにやんごとなき身分の方でも、
軍規によって処罰されること。
その2点をブラウンシュヴァイク、リッテンハイムに承諾した経緯が無いのは残念。
ここでのシュナイダーとのやりとりも興味深いです。

シュナイダー「閣下は、連合軍の総司令官になられ、
二つの条件も盟主らに承諾なされたのでしょう?
であれば、大軍を率いて強敵に闘うのは武人の本懐と、私などは思いますが」
メルカッツ「卿はまだ若いな。なるほど、ブラウンシュヴァイク公らは、
たしかに私の約束を守った。
だが、すぐになんやかんやと、口をだしてくるだろう。
そのうち、ローエングラム侯よりも、私も憎むことになるだろうさ」
シュナイダー「まさか・・・」

ここはけっこう好きです。
もうひとつ。
ブラウンシュバイク公が無理な出兵をしたせいで、撤退。
その撤退を援護したにもかかわらず、援護に来るのが遅いとメルカッツを怒鳴りつけます。
副官のシュナイダーが短気を起こしそうになりますが、メルカッツがそれを制止します。
そして、その後。

メルカッツ「そう怒るな。ブラウンシュヴァイク公は病気なのだ」
シュナイダー「病気ですって?どこか、お体の具合でもお悪いのですか?」
メルカッツ「精神面のな。10年前なら、あれで通じたのだがな。憐れな人だ」
シュナイダー「・・・・・たしかに、ブラウンシュヴァイク公は憐れな人かもしれない。
だが、その人に未来を託さねばならないとしたら、その方がもっと憐れではないのか?」

この場面も入れてほしかった。

さて、この舞台全体、全ての肝はヴェスターラント。
ここでしょうね。
一番ここを訴えたかったため、
他の部分を省略、短めに設定したのだと思います。

賊軍のトップでもある、ブラウンシュヴァイク公。
彼の領地である惑星ヴェスターラントで民衆暴動が起こり、
彼の甥が殺されます。
それに怒ったブラウンシュヴァイク公は、惑星に核攻撃をおこなうことになります。
ラインハルトにもその情報が極秘に伝わり、すぐさま救援の艦隊を向けようします。
しかし、そこに参謀のオーベルシュタインが忠告します。
核攻撃をそのままおこなわせるべきだと。
動揺するラインハルト。
このまま核攻撃がおこなわれれば、相手の悪行が全銀河帝国に知れ渡り、
子供でもどちらが悪か判断できる、と。
たしかにそのとおりかもしれないが、惑星に住む200万人の命を無為になることはできない」と、
なおも悩むラインハルト。
しかし、オーベルシュタインなおも言い放ちます。
「閣下は支配者になられるお方。
仮にこのまま内線が続けば200万人以上の犠牲が出ることは確実。
閣下には、銀河帝国200億の民の未来がかかっているのです」
沈黙するラインハルト。
そして、核攻撃は実行。
一気に民衆はラインハルトを支持、門閥貴族連合軍は敗北にいたりました。
しかし、ジークフリード・キルヒアイスとの間に、
大きな溝が生まれてしまったのです・・・


一番気になるのは、オーベルシュタインの提案をラインハルトが受け入れるかどうか。
原作では黙認。
アニメでは、とりあえず偵察艇だけ先行させて、もう少ししたら考える。
しかし、核攻撃が予想より早めに実行される。
「敵の攻撃が予想より早まり、対応が遅れた」
という戦略をすでにオーベルシュタインが考えていて、
それが結果的にラインハルトの決断の遅延につながり、核攻撃が実行されてしまう。

今回の舞台では、ラインハルトはオーベルシュタインの意見を聞き、激しく動揺します。
他の軍人の前で(これも精神的な表現かはわかりませんが)
ものすごく悩みます。
舞台袖では、惑星ヴェスターラント市民のアンサンブルが登場し、
ローエングラム侯が救ってくれる、なんてセリフも入れて、さらにアオリ。
結局は黙認。
ここの描写も賛否両論わかれるでしょう。
私のイメージから言って、
ここまで激しく動揺するラインハルトの姿を、原作でもアニメでも見たことがありません。
自分の部屋ならいざ知らず、
部下の前で、あれほど取り乱すことはありませんから。
演出的には「多数を救うために、少数を犠牲にする」
その定義をクローズアップしたいのでしょう。
それはわかります。
ここのシーンを長くとるために、他の部分を削ったりしたのですから。
ただ、原作のイメージ、ラインハルトのイメージを優先するのであれば、
そこまで動揺するシーンは入れてほしくない。
冷静に悩んで欲しかった。
これが舞台版のラインハルトの演じ分けですから、仕方ありません。
あくまで原作好きな私としての意見。

最後の場面。
私は原作、そしてアニメのセリフもかなり暗記しているので、
セリフをたしかめながら観劇していました。
原作はファンはここで楽しめます。
特にアニメ版はよく覚えています。

キルヒアイス「ラインハルト様、お話しがあります」
ラインハルト「なんだ」
キルヒアイス「惑星ヴェスターラントで、200万の住民が虐殺された件です」
ラインハルト「それが・・・どうした」
キルヒアイス「ラインハルト様が、その計画を知りながら政略的な理由で黙認した、
と、申す者がおります。事実でしょうか?」
ラインハルト「事実だ・・・」
キルヒアイス「・・・ラインハルト様。
わたくしは、ラインハルト様が覇権をお求めになるのは、
現在の帝国、ゴールデンバウム王朝に存在しえない公正さによってこそ、
意味があると考えておりました」
ラインハルト「そんなことは言われるまでもない」
キルヒアイス「大貴族たちが、
500年にもおよぶ、不当な特権のつけを払って滅亡するのは、いわば歴史の必然。
そこに流血がともなうのも、致し方ないことでしょう。
ですが、民衆を犠牲になさってはいけません。
ラインハルト様がお造りになるべき新しい体制は、
今まで不当に抑圧されてきた民衆を解放し、それを基盤として確立されるのです。
その民衆を犠牲になさるのは、ご自分の足元を堀り崩すようなものではありませんか」
ラインハルト「わかっていると言っただろう!
現に内戦は予定よりはるかに早く終結し、結果的に犠牲は少なくなっている。
戦略的にも、政略的にも、やむを得ない手段だったのだ」
キルヒアイス「ラインハルト様。相手が大貴族なら、ことは対等の権力闘争です。
いかなる手段をお使いになっても、恥じることはないでしょう。
しかし、民衆を犠牲になされば、手は血に汚れ、
どのように正当化しようとも、その血を洗い落とすことはできません。
ラインハルト様ともあろう方が、いっときの利益のために、なぜご自分をおとしめられますか」
ラインハルト「お説教はたくさんだ!!!
第一キルヒアイス。この件に関し、俺がいつお前に意見を求めた?
いつ、お前に意見を求めたと聞いている」
キルヒアイス「いえ、お求めになっていません」
ラインハルト「そうだろう。
お前は俺が求めた時に意見を言えばいいんだ。
すんだことだ。もう言うな」
キルスアイス「ですがラインハルト様!
政略の為に民衆の犠牲をいとわないというのでは、
あのルドルフ・フォン・ゴールデンバウムと、なんら変わるところがないではありませんか」
ラインハルト「キルヒアイス・・・」
キルヒアイス「はい」
ラインハルト「お前はいったい、私のなんだ」
キルヒアイス「・・・・・わたくしは、閣下の忠実な部下です。ローエングラム侯」
さらでここまで書けるほど暗記してます。

役者自体は、みなさんうまいので、特に言うことありません。
主役の松坂桃李もよくやっている。
ラインハルト役という大役、どう演じるのか興味ありましたが、
変に動揺あるシーン以外は、安心して見られました。
そこまで舞台特有の声ではありませんが、
聞き取りにくいというほどでもありません。

キルヒアイス役の崎本大海は優しく穏やかな雰囲気そのまんま。
この人は今後人気でるかもしれませんね。
キルヒアイス役は一番おいしいし、感情移入できますから。

オーベルシュタインの貴水博之もあの、3人の場面はすごく秀逸。
演技は抜群にうまいし、落ち着いた喋りもオーベルシュタインっぽくていい。
ビッテンフェルトの吉田友一のちょっとお茶目で豪快なところもいい。
ちょっとしたアホさ加減もいい。

アンスバッハの高山猛久は・・・そうですよね、
ある意味一番いい役かもしれません。
原作、アニメそっくりでした。
私もアンスバッハやりたい(笑)
そうそう、指輪のレーザー光線もバッチリでした。
あと、シュナイダー役の村上幸平は、もっと出番がほしかった。
声だけを聞くとキルヒアイス並に優しい声質。

アンネローゼ役の白羽ゆりは、
「関口宏の東京フレンドパークII」 を見た時、
イメージぴったりだな〜と思っていたので、
全く問題ありませんでした。
完璧すぎるほど完璧。
イメージどおりです。
本当は歌いたかったかもしれませんが。

唯一心配だった、ヒルダ役、AAAの宇野実彩子ですが、
特に違和感ありませんでした。
カツラはバッチリ似合っています。
元々出番は少ないので、そんなに演技もこうもないのですが。
でも、雰囲気はヒルダぽかったです。
ちょっとマイクの音声が途切れることがあったのは、
音声のせいなのか、マイクの位置のせいなのか。

ミッターマイヤー役の中河内雅貴は、
なんと『葉っぱのフレディ 〜いのちの旅〜 2006』のマーク役以来の観劇。
あの当時から演技は上手でしたし、何より歌が素晴らしかった。
男性で小さな頃から声が出る人って、少ないんですね。
それだけ貴重でしたから。
それから、数年。
カツラのせいかどうかわかりませんが、
そんなに大きく変化したように思えません。
なんとなく、当時もこんな感じのイメージがあります。

ミッターマイヤーという役は、とにかく優秀で真面目。
部下の信頼も厚い、誰もが憧れる王道な司令官という感じです。
そこまでの性格付けを今回の舞台では全部出すことはできませんが、
真面目っぽいな、という雰囲気は感じとれました。

ロイエンタール役の東山義久は、
あくまで私のイメージですと、小栗旬っぽいですね。
アニメですと、そこまで前髪だらりと落としていませんが。

メルカッツ役のジェームス小野田さんは、もっと出番を増やしてほしかった。
というか、歌でしょ、歌。
彼の歌声を聞きたかった。

ラインハルトの父役、堀川亮
ここで、原作アニメのラインハルト役の方が出てくるとは驚きです。
アニメの声質は全く違った表現でした。
知らなければ、全くわからないでしょうね。

フリードリヒ四世 長谷川初範
灰色の皇帝という、何を考えているのか、
そもそも自分自身を滅亡に追い込みたかったのか、難しい皇帝でした。

総括
なんだかんだで、歌はありませんでした。
ほとんどストレートプレイ。
ダンスがあるというミュージカル。
歌が無くてもミュージカルという定義なので、そこはツッコミませんが、
メルカッツ役にわざわざジェームス小野田氏を配役したのには、
やはり本当は歌も入れたかったのでは?なんて思います。
脚本、演出、けっこう何回も手直し再考している気がします。

観劇好き、原作ファンの私からしてみると、
ツッコミどころ、もちろんたくさんあるのですが、
それらを差し引いても楽しい舞台でした。
これで、銀河英雄伝説という小説、アニメを知って見てもらえると一番嬉しいです。
話、ものすごく長いですけどね。頑張って読んでほしいです。

ただ、舞台だけを見ると、淡々として原作に沿っただけの舞台。
何か特別に変わったこととか、エンーターテイメント的なものは全くありません。
原作、アニメに忠実、そのままの舞台。
もちろん、そのままを舞台で、脚本、演出として作り上げるのは大変なこと。
そもそも舞台を作り上げる意味合いがよくわかりませんが、
あえて考えるのであれば、若手の起用。
若手を有名原作を主体とした舞台でアピールする機会だと思います。
言うなれば、やはり前述した、「ミュージカル・テニスの王子様」路線でしょうね。
女性客を取り込むことは重要ですから。
(敬称略)

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