ミュージカル「つまづいても」2017

満足度星星星空星空星
公演時期 2017/10/17→18
会場 早稲田大学 早稲田キャンパス「小野記念講堂」
脚本・作詞・作曲 米田愼哉
演出 榎原伊知良
振付 佐藤千花
医療監修 堀正士

あらすじ

水野由紀は京北大学経営学部3年生。
小学生の時に父親を病気で亡くし、母との二人暮らし。
大学に入ってからは生活費と学費を捻出するために、
授業以外はひたすらアルバイトに励んでいる。
そんな由紀が3年になってゼミで出会った大川光と付き合い出す。
光は大財閥の御曹司。そんなちぐはぐな二人に愛と共感が育まれていく。
やがて3年の後半から就職活動緒が始まり、
ただでさえ苦しい生活が、時間、体力、金銭共に悪化し、由紀の様子に危険な兆候が。
(公式サイトより引用)

観劇感想

「青少年自殺防止ミュージカル」で「うつ病」をテーマにしています。
重いテーマではあるけれど、目を背けることなく、真っ正面から物事をとらえています。
(重いだけでなく、時に明るくコメディチックな部分も)
観劇する観客も、何かしらの思いを受け取る舞台。

2016年に続いての再演。
話の流れはほとんど変わっていません。
演出的にはその時よりも、かなり修正をしてきました。

明るいオープニングの曲はとてもいい。
ここはミュージカルの入り口として、雰囲気作り抜群だと思う。
特にダンスの部分も切れがある。
地味なところだけれど、わかる人にはわかります。

今回はミュージカルナンバーが前回に比べて増えていたと思います。
歌を全て把握しているわけではないので、
もしかしたら前も歌っていたかもしれませんが、
母親のパパに対する歌、
彼氏である、大川光のソロナンバー等が増えました。
出演者のモチベーションにもつながりますし、
個々の実力も発揮できるので良い追加演出。

「お祈りメール」という言葉も、私は初めて知りました。
(日本の就職活動における用語の一つで、企業からの不採用通知)
こういうことがわかるのは嬉しいところ。

彼氏彼女の恋愛の部分と、
バイトの残業等のパワハラ、セクハラ、就職の面接による圧倒的な威圧感、
ここのメリハリはじつにいいと思う。

後半、二人が病室で愛を語り合うシーンがありますが、
ここはとても素晴らしい。
音楽が無くとも佐藤まりあと長倉正明の二人芝居に引き込まれる。
二人の世界観がとてもいい。
そして、二人のミュージカルナンバーも素晴らしい。
ミュージカルとして、一番素敵な場面だと思う。

気になった役者は

佐藤まりあ 水野由紀役
あくまで私の感覚だと、
前回はかなり病的な部分が強く、一幕は強烈なイメージが強かったです。
危機迫る感じがかなり強い。
(私はこのぐらいしてもいいと思いますが)
今回はそれよりも不安感は抑えてきた感じがします。
(舞台嵐になりそうなので、それを抑える感じかも?)

一幕最後、あまりにも追い詰められて暴走するのではなく、
フラフラと歩く吹っ切れた感。
難しい精神状態の演技も素晴らしかった。

彼氏との二人芝居も素晴らしいけれど、
やはり彼女はひとり芝居でも引き込まれる。
この舞台で、たった一人で観客を引き込ませる演技はもちろん、
それにプラスしての歌唱力。
あいかわらず本当に素晴らしい。
惚れ惚れする歌声。
特に最後のエンディングのテーマのソロは、何度聞いても感動する。
(もちろんエンディングの作詩、作曲も素晴らしいけれど)
ここって、彼女の全てが集約されている気がする。
それを歌いあげますからね。

長倉正明 大川光役
前回、
「チャライイメージで、純朴な水野由紀が騙されている感じ。なんで好きになるのか?」
と、私は思いました。
今回は雰囲気を変えてきましたね。
明らかにわかる。
キザでノリの軽いイメージをおさえ、財閥の息子で苦労しているイメージを強くしている。
特に前回よりも、水野由紀に対する心からの愛情が舞台から伝わってきました。
そういった変化がわかるのも、再び舞台観劇をする楽しみでもある。

前述していますが、音楽が無くとも佐藤まりあとの二人芝居は引き込まれます。
二人の愛を語るシーンは凄くいい。
彼の歌う場面もあって、なかなか頑張っています。
佐藤まりあの歌唱力はかなり上なので、それと比較してはいけないけれど、
彼も彼なりに頑張っているし、良いミュージカルナンバーになっている。

新村沢美 水野亜紀子役
前回は、お金も振り込んでほしい、おばあちゃんが病院だから、
と、娘の病気をさらに悪化させた、突き放した母親のイメージもありました。
(本人にその気はないけれど、観客としてみると)
今回はそれが薄まっている。
仕方なくお金を振り込んでほしいという感じでした。

彼女と夢での父親のやりとりも素晴らしいし、
彼女のソロナンバーもありました。

鈴木大介 店長/面接官/メルアドレナリン
今さらながらで申し訳ありませんが、
店長と面接官の二役をやっているとは気づきませんでした。
両方とも水野由紀をイジメる嫌な役だけれど、
雰囲気が全く違う。
こういう役づくりは本当に素晴らしい。
彼がいてこそ、この舞台にメリハリができるので、
一番のキーポイントでもある。

向谷地愛 北原莉緒/保健師役
歌唱力がとても印象的。
かなりあると思う。
私の席までよく声が届いていました。

総括

前回と比べて、ミュージカルナンバーを増やしたりと、改善、修正が行われ、
より観やすい舞台になったと思います。

佐藤まりあの演技力、歌唱の素晴らしさは言うまでもありませんが、
それを加味しての彼氏役、長倉正明の演技が前回と比べて上達し、
二人の恋愛部分に引き込まれました。
ここは特に私の評価が高いです。

学業、バイト、就職、「うつ病」に至るまでの経緯、そして治療。
重いテーマではあるものの、
母と子の愛情、恋愛、友情が散りばめられており、
ミュージカル形式にすることによって、非常にバランスの良い物語になっていると思います。

「青少年自殺防止」として、子供でも、同世代でも、親御さん世代でも、
知らないことが盛りだくさんで、知識として記憶に残るミュージカルです。

(敬称略)
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