公演時期 | 2016/10/8 |
会場 | 帝京平成大学 池袋 沖永記念ホール |
脚本・作詩・作曲 | 米田愼哉 |
演出 | 榎原伊知良 |
あらすじ | |
水野由紀は京北大学経営学部3年生。 小学生の時に父親を病気で亡くし、母との二人暮らし。 大学に入ってからは生活費と学費を捻出するために、 授業以外はひたすらアルバイトに励んでいる。 そんな由紀が3年になってゼミで出会った大川光と付き合い出す。 光は大財閥の御曹司。そんなちぐはぐな二人に愛と共感が育まれていく。 やがて3年の後半から就職活動緒が始まり、 ただでさえ苦しい生活が、時間、体力、金銭共に悪化し、由紀の様子に危険な兆候が。 (公式サイトから引用) |
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観劇感想 | |
帝京平成大学 池袋 沖永記念ホールは初めて。 予想以上に大きな舞台。700人収容? 大きな舞台セットはないけれど、 違和感は感じませんでした。 広い舞台でも、舞台進行の位置を下手上手にと、 観客の視線を考えてよく配置されていた。 ここは細かい。 オープニングが大学の合格発表。 しかもいきなりミュージカルナンバー。 正直、ここはまずいなと思いました。 何の脈絡もなく、いきなり歌だと舞台好きの私でも違和感がある。 前にタモリが言っていましたが、 「いきなり歌いだすのが嫌い」 という理由でミュージカルが嫌いですからね。 私は理由があってのミュージカルナンバーなので、 全く気にはならないけれど、 今回のオープニングだけはさすがに気になりました。 ここは改善した方がいいと思う。 ピアノは生?録音かな? どちらかは判断できませんが、意外と音楽が印象に残ります。 1幕は三分の一ぐらいが明るい場面なのだけれど、 残りの三分の二ぐらいが暗い話しになる。 観ている観客もかなりの緊張感。 2幕は病状が回復する話しなので、少しホッとするところ。 「鬱病」が心の病などではなく、 薬で治療する脳の病気であること。 これがメインテーマ。 それをミュージカル仕立てに表現。 水野由紀と大川光がラブラブな恋人同士になってもフレンチキス。 ま~いろいろな部分においての配慮かな? 二人の女の子はスカートで、主役の水野由紀はパンツスタイル。 ここは田舎から来たという意味合いのためかな? 色気が薄いのも、こういう主旨のミュージカルのためかな? 私的には、一番最後のミュージカルナンバーが最高だった。 おそらく、このミュージカルの主旨を意図したナンバー。 特に主役を演じた水野由紀役の佐藤まりあのソロが抜群に素晴らしい。 正直彼女の舞台はたくさん観ているけれど、 今回のこの公演はさらにさらに出来がよくなっている。 早稲田のSeiren等、 いろいろな舞台活動を経て歌唱力は特にうまくなっているのだけれど、 今回の歌を聞いて思ったことは、歌い方が本当に心を震わせる歌い方であった。 歌がうまい子、歌唱力がある子。 私もたくさん見てきました。 佐藤まりあの歌、ミュージカルナンバーは、 「歌がうまい」というひとくくりのものではなく、 聞く者に心を震わせる歌い方だと思う。 ここはおべっかを使うわけでもなく、エコヒイキしているわけでもなく、 率直に言って素晴らしい。 感動する歌い方。 年齢を重ねれば、また違った歌い方、表現の仕方になるとは思いますが、 今の年齢でしかできないことを全力で表現してくれている。 過去の『LITTLE WOMEN ~若草物語~』の粕谷日香里さんもそうだけれど、 心を震わせ感動させる歌い方。 物凄く素晴らしかった。 特に最後のミュージカルナンバー「ありがとう」かな? 歌、表情、振付、全てが素晴らしい。 全員で歌うミュージカルナンバーなのだけれど、 ある意味、個々に一人芝居のテイストもある。 ここで感情移入している佐藤まりあが素晴らしすぎる。 水野由紀としての思いを込めた歌だから、それが物凄く伝わってくる。 まいりました。 続いて演技。 ま~難しい役。 大学に合格して、田舎から都会へ出てきた夢見る少女。 自分で資金をなんとかしようとバイトをするが、 休みもくれず、他のスタッフがドタキャンで自分に負荷がかかり、 さらに店長からの圧力で休めない。 もちろん、大学もあるし、就職活動もある。 就職するにも、パソコン、プリンタ、スーツ、就職関係の本、 いろいろなことにお金がかかる。 さらに追い打ちをかけるように、祖母が熱中症で倒れ病院に入院してしまったため、 家からの仕送りが減ってしまう。 それでもなんとかやりくりをする水野由紀。 就職活動。 ブラック面接というかマジメに面接をしたにもかかわらず、 相手の面接官は高圧的。 あまりにも高学歴のために、本当に入る気があるのか?冷やかしではないか? そういった疑いもあるため、上から目線、頭ごなしで主人公に罵声を浴びせる。 それでさらに由紀は心を痛める。 しかし、こんな面接官、本当にいるのかな? 私も社会人になるために面接を何回か受けてきましたが、 こんな人はいなかったんですけど。 やや誇張はあるかもしれませんが、おそらく、やっぱり実体験もあるのではないか? と思います。 実際に相手の会社の詳しいことも知らずに、 ネットの就職情報、四季報等で給料の良いところだけをチェックして、 そのまま受けに行く人もいるのでしょう。 初任給20万程度でも、 そこから厚生年金、市県民税やらもろもろ引かれることを初めて知って、 手取りが大きく減るということを理解するのはいい。 ボーナスも超一流企業はともかく、普通はなかなか厳しい。 何カ月分というのも、なかなか信用しづらい御時世。 しかも入ったら入ったで、残業が山のようにあり、 他の社員等と比べられ、ノルマ達成やら、 上司からの圧力等で、さらに心を痛め、自殺へ・・・ なんて現実にニュースにもなりましたからね。 物凄くリンクする。 大手に入ったからといっても、順風満帆に行くのは並大抵なのものではない。 どんどんと心を痛め、バランスが崩れ、 ストレスを吐き出すことなく、ためていく由紀。 ついには「鬱」という病気を発症してしまう。 無気力、無感動、もう自分の人生なんてどうでもいい、 そんな思考におちいり、自殺への衝動。 自殺をする時。たとえば電車へ投身自殺。 電車を使う人たちに迷惑がかかる・・・ そんな当たり前のことすら考えられないのが「鬱病」 それを理解しないことには始まりません。 世間一般の人にしてみれば、身勝手な行為。 他人を巻き込むな。 死ぬなら自分ひとりで死ねばいい。 そういったコメントが正論のようにも思える。 ただ、「鬱病」という病気の一端である可能性も否定できない。 賛否両論生まれるであろう、難しい定義。 普通の大学生であった水野由紀が「鬱病」を発症してからの変化がすさまじい。 徐々に変わっていく姿が危機せまる。 こういった演技、本当に佐藤まりあはうまいと思う。 なんというか、 自分を追い込んで追い込んで、役に没頭するような感覚。 しかも精神的につらい役。 それを女優して役をおとしこんでいくのは凄い。 私は素直に賞賛する。 1幕はほぼ出ずっぱり、 2幕も前半は少なめだが、後半も当然出ずっぱり。 1時間50分の舞台、ほぼ出ていますから。 当然セリフは膨大。 ただ、そのセリフが膨大にもかかわらず、 彼女は水野由紀、本人であるかのようにそのまんまなんですよね。 流れるようなセリフ回し。 恐れ入った。 蛇足なのだけれど、 彼女はミュージカル「葉っぱのフレディ」2006年では葉っぱ役でした。 初めて観た子役で、華がある、オーラがある、歌が秀でている、演技がうまい、 特筆すべき子がいれば、その時の印象を感想に書いています。 あくまでその当時の印象。 佐藤まりあは、そういったタイプではない。 本当に努力の積み重ねの女優。 地道に自分を追い込んでいく、良い意味でのクセのある女優になった。 私の観劇感想なんて、その当時の女優の一部分でしかありませんから。 全ての女優が「華」のある女優になるなんてことはない。 持って生まれたものもある。 だからこそ違った部分での自分の個性を磨いていく。 子役から地道な努力を積み重ねてきた典型的な例が、 佐藤まりあだと思う。 「努力型」の成功例として私はとても評価したい。 華々しい女優に目を奪われがちだけれど、 別の視点、ベクトルとして、 子役から本格的な大人の女優になるべき方向性を示してくれた。 ここからは私の妄想かつ偏見。 そもそも、私は超変人なので、物語の伏線を悪い方向にとらえてしまう。 女友達が大川光に、あだ名である「財閥」と呼ぶ。 それを目撃した水野由紀が大川光のことを知るきっかけになるわけだが、 ここすら怪しいと思ってしまう。 じつは、彼とこの二人の女の子がグルで、 水野由紀を騙そうとして、大川光が金持ちであるという認識を与え、 逆に金を騙してとろうとしているのでもないか? 水野由紀はマジメだから、カモにされているのではないか? そんなふうに思ってしまった。 ただでさえ鬱病になったのに、 そこまで落とされるなんて台本はまずいですからね。 そこはストレートに純粋な人物像になった。 母親が祖母が病院に入ったということでも、 私は母親がちょっと変わった人で、 あえてわざとそう話し、仕送りを減らしたなんて、 うがった見方もしてしまった。 さすがに、そんな変な母親ではなく本当のことで良かった。 裏切り裏切りの物語が多いせいか、自分の頭の中でうがった見方をしてしまう。 お母さんが若過ぎて、ちょっと彼氏のからみも困る部分があると、 さらにうがった見方をしてしまう(笑) 気になった役者は・・・ 佐藤まりあは前述していますので、他の方を。 長倉正明 大川光役。 大川光の演技としては、ノラリクラリとした感じ。 有名財閥の御曹司ということで、 敷かれたレールの上を走っていることに嫌気があるものの、 それをなんとはなしに受け入れようとしている。 それはそれとして、男性目線からすると何をいい子ぶっているのかと、 拒否反応もある。 あくまで観客対象として。 雰囲気はカッコイイのだけれど、 詐欺師のカッコ良さ。 嘘っぽいのが、私にはわかってしまう。 何か、水野由紀を騙しているように思えてしまった。 大川光が有名財閥の息子という理由でお金の苦労をせずに、 大学まで進路がストレート。 それを嘆くミュージカルナンバーがあるけれど、 あまりこちらには伝わってこないかな~? それに目覚めたのならアルバイトぐらいしろよな~なんて思ってしまう。 あなたが汗水足らして働けと。 それでその歌ならわかるけれど。 歌でさえ「甘え」に思えてしまう。 別件なのか、似たような感じなのか、 元・日本の首相である鳩山由紀夫。 東京大学工学部計数工学科卒業。 スタンフォード大学大学院 工学部博士課程修了。 そしてブリヂストン。 う~ん、ま~いろいろ考えさせられますね。 大川光はただでさえ、見た目がチャライ。 あの長いアウターのヒラヒラ感とか、 パンツからシャツを外に出しているところとか、 「俺、ファッションセンスいけてるだろ?」感が気にくわない。 (あくまで私の中での超偏見。他の方の感想だとそれがいいと言う意見もある) セリフはいいのだけれど、私は重みが足りないと思う。 軽いな~ (これも偏見かもしれないが、どうしても私の脳のフィルターを通すので仕方ない) 水野由紀は何でもストレートに受け取ってしまったけれど、 私が女性なら「何こいつウザ!」って、一目で怪しさ全開と見切ってしまうもの。 まっ、恋愛の初期のパターンとして、 初対面はウザクて嫌な印象が後々好きになっていく、という王道ではありますが。 全体を通しての変化がないんですよね。 最初はチャラく、自分の未来への設計図が規定路線であったとしても、 水野由紀と出会ったことで彼自身が変化する部分が欲しかった。 彼女がああいう状態になったのだから、もっと自暴自棄になってもいいと思うけれど。 何か他人事のような雰囲気が漂う。 長倉正明の演技というよりも、 大川光が私とソリが合わない(笑) 新村沢美 水野亜紀子役。 お母さん若いな~というのが第一印象。 素朴な感じながら、優しい娘に任せっきり。 そして、娘がいろいろな悩み抱えていたことを、ようやく初めて気づく。 その新鮮な驚きがじつに良かった。 リアル感ありましたね。 鈴木大介 店長・面接官・ノルアドレナリン役。 特に面接官が恐かった。 ガチで恐かった。 当初は「本当にいるのか?こんな面接官?」 なんて思ったりしましたが、本当にいそうだから、なおいっそう怖く感じる。 良い味を出してました。 久織じゅん 女子大学生・看護師・保険師役。 笑顔がかわいい。エクボができるのがいいな。 ただ、保健師のセリフはイマイチかな~? ちょっとたどたどしくて違和感が。 あくまで回りの人との対比として。 鈴木沙菜絵 女子大学生・店員・セロトニン役 見た目ホワ~ンとした感じの女の子。 お嬢様感もあって良かったと思う。 ムチムチな色気も良かった。 恥をかきすてて、セロトニン役も頑張った! 総括 全体的に見ると、まだまだ手直し、ツッコミもあるけれど、 1時間50分で役者は7人のみ。 そうとうよくやっていると思う。 「青少年自殺防止ミュージカル」ということで、 気軽に見られるのか?楽しめるのか? 最初の時点では、いろいろな疑問符がありますが、 普通に観る限りでは、 説教じみたこともなく、ストレートに伝わりやすい舞台だったと思います。 「鬱病」が心の病ではなく、病気であることも直に伝わりました。 しかも役者のレベルが高いこともあり、観ているこちらを飽きさせない。 これは一番重要だと思う。 「そんな馬鹿な」「ほいほい信用するなよ」 と、人を信用しない私は(笑)水野由紀の純粋な行動に危なげな一面を感じたりはしますが、 それもまた、若さゆえ、経験の無さからくるべきものでしょう。 それを伝えるためのミュージカルですからね。 今回の舞台、大成功だと私は思います。 (敬称略)
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