公演時期 | 2014年5月17日→6月1日 |
会場 | @ART THEATERかもめ座 |
作・演出 | 滝 一也 |
あらすじ |
2019年12月27日 New York City 彼はその年最後の仕事を控え、疲れきった身体をベッドに倒した。 まもなく闇が彼を包み込み、深い眠りについたその時、彼女は現れた。 年の瀬に起きたトンネル陥没事故。テロか地震かガス爆発か。原因はわからない。 が、確かにそこは地獄と化していた。天井は崩れ落ち、車両はつぶれ、 非常灯だけがその悲痛な情景を浮かび上がらせている。 重症者のうめき声、友人を失った少女の悲痛な叫び。まさに戦慄の光景である。 一週間後には遺体として発見される運命なのだ。 その過去に起きた事件現場に、彼とその少女がいた。 本来存在しなかった男の存在により、ほんの少し何かが変わる。 「起こってしまった過去の事実は変えられない。 しかし、その事実の持つ意味合いは変えることが出来る。」 そんな少女の思いによって… (公式サイトより引用) |
観劇感想 |
ダブル、トリプルキャストがありますが、私が観た回は、 ?謎の男 キリマンジャロ伊藤 レイシス 速見里菜 モーゼット 山上広志 デセル 桜井芙弓 イリア 鹿目こころ シフォン 本橋舞衣 ケイト 佐藤里緒 ビンセント 畑孝輔 バセリ 平瀬戸勝隆 ジャベット 鈴木優美 フィーブリス 大里冬子 このメンバー。 率直に言って、まず脚本が素晴らしい。 見聞きしただけ。文章のみ。映像のみ。 そこからしか読み取れないものがたしかにある。 だが、実際の現場。その惨状。 それを舞台に凄惨な事故現場として表現することに驚きました。 痛み、苦しみ、その臨場感は、テレビや映画から受けるものとはまた違う。 ネタバレ前提に書くと、 ストーリーテラー的存在のレイシスは、ある能力者だったようだ。 起こった出来事を再び、現実化、具現化する能力。 「ジョジョの奇妙な冒険」でいうところの、アンダーワルードのようなスタンド。 少し違うところは、あくまでレイシスの知り得る現場であって、 知らないことは他の情報が正確であっても起こらないこと。 だから、詳細な車のナンバープレートの数字は消えているし、 4日後に死んだレイシスにとっては、 その後、雨が降ることも知らないので、この新しく作った世界では雨は降らない。 そして、とある男がこの現場に、レイシスによって招き入れられる。 男はなぜ自分が選ばれたのかとレイシスに聞くと、 本来、彼は車でその現場に遭遇し、死ぬはずであったとのこと。 たまたま車のキーが無かったため、使用しなかっただけ。 それゆえに、彼の変わりに死んでしまった、レイシス(自分)を含めて、 トンネル陥没事故に巻き込まれて死んだ人を救ってほしいという。 すでに死んでいる人を救うという矛盾な行為であるとは知りつつも、 この世界に限ってはまだ存命していて、現在進行中の出来事。 しかもレイシスによれば、男は不死身の体であり、死ぬことはないとのこと。 自分(レイシス)が生きてさえいれば、元の安息したベッドの上に帰すことも約束する。 奇妙な出来事で、夢かもしれないと考えつつも、 あまりにも現実すぎる煙やガソリンの臭い、 ましてや生存者の悲痛な叫びに耐えきれず、男は行動に移していく。 これが導入部分の大きなあらすじ。 私の予想としては、映画「シックスセンス」のように、 実は逆にこの男の人が? という予想をたてていたのですが、これはハズレました。 レイシス曰く、4日目に殺された気が・・・ ということで、男は彼女を守ろうとしましたが、 本来死ぬべきはずの人を助けたりしたことで、人々の運命は微妙に変わり、 まさかの3日目にレイシスが死亡。 これは意外でした。 完全に私の予想を裏切られた。 もうひとつの予想としては、男が4日目になる前にレイシスと相談して、 彼女の赤い服を他の遺体に羽織らせ、偽装し、死を回避して犯人を見つける、 ということも考えていたのですが。 これもハズレて残念。 キリマンジャロ伊藤が演じる謎の男。 レイシスの具現化した能力では、車のディーラーになっている。 その彼が、たまたま車のキーを無くし、使わなかった為にこの大惨事を回避。 本来死ぬべきであった彼に対し、起こった出来事を見せつけ、 彼に何らかのメッセージを伝えることになる。 それが追々、彼が政治家を目指すきっかけになり、ついには大統領にもなる。 大統領就任記者会見での記者団との質問で、 自分の中では封印していた、その不思議な体験を語り始める。 その話しを聞き、記者も答える。 「これで、その子も報われましたね」と。 そして記者の答えに、ふと気づく。 あくまで自分の夢の話しではあるけれど、 結果として、その人たちの苦労や現場の惨状を知ることになり、 ついには自分が大統領にもなる「きっかけ」となった。 このことが、もしかしたらレイシスが託していたことなのかもしれない。 貴方には何かができる、と。 ただ、そもそもなぜ彼を選んだのか疑問。 彼が大統領になる素質があることを、レイシスは知っていたのだろうか? そういった能力者でもあるのか? しかも自分がその現場で凄惨な現場に巻き込まれることになるなんて。 そうなることをわかっての出来事なのだろうか? 伏線的に、途中でフィーブリスが男に対し、 「大統領」というキーワードを含む発言がありましたが、 それが地味に彼に影響したのかもしれません。 もうひとつ、気になること。 この空間はレイシスが作ったものであり、 男が車の販売員という記憶も、じつは操作できる。 もしかしたら、最初から大統領だったのではないだろうか? でなくても、有力な議員のひとりとか。 でなければ、数年後に大統領というのもちょっと飛躍しすぎる。 ま、レーガン大統領のように、元売れない俳優とかもありますけど。 レイシスがひとつこだわっていたこと。 男が「君は」と言って、彼女の名前を呼ばないことだ。 かならず、レイシス、レイって呼んでという。 これは「事件があった。何人が亡くなった」という客観的な情報だけでなく、 亡くなった人には、ひとりひとり名前があるということを言いたかったのではないか? 数で判断するのではなく、その中にたくさんの名前があることを言いたいのではないか? そんなふうにも感じます。 それを忘れないでという意味合いはあると思う。 現場には泣き叫ぶ子供たち、 車の座席に挟まったまま動かすことができない妻を見守る家族、 薬中毒気味のカップル、体の弱い娘、議員秘書。 様々な人々がいる、ということで、貧富の差、社会環境等、 国家の凝縮したものとも考えられる。 こういった現状を見て見ぬふりのまま、 野放しにしてきたのは誰の責任なのか? そう訴えているように思える。 ちょっと脱線しますが、 最近NHKでも取り上げていた、超格差社会の現状。 アメリカのとある州が独立。 そこは高額納税者の為の州。 財源は高額納税者の税金でまかなうため、医療も、警察も、教育、育児も、 ありとあらゆる面で、高いレベルものを受けさせることができるようになりました。 (しかも州の境には壁があって、警護をするほど) 問題は独立された州。 高額納税者がいなくなることによって、州の予算は激減。 それにともない、警察官の減少による治安の悪化、 学校の閉鎖、医療レベルの低下と医療費の高騰と、 住んでいくうえで生活に支障をきたす事態に。 日本ではまずありえません。 いわゆる生活保護があり、 さらには納税したお金で社会的サービスも全ての人が平等に受けることができる。 これは素晴らしい。 病院にいっさい行かないのに、高額な税金を払うのはどうかと思う、 なんて議員もいましたが。 民主主義の発展系が超格差社会になるとしたら、 民主主義とは、なんなのかと疑問に思うほど。 高額納税者の人でも、税金を払えなくなればそこから追い出されるので、 その時に気づくかもしれませんが。 とはいえ実際に現実としてもうありますから。 閉鎖された空間の中、 お互いの思想の違いを始めとして、 食料、水が減っていき、状況はますます悪化。 そして殺人が起きる。 その殺人を止めたのは皮肉にも銃。 それによって大きな混乱は収まったものの、食料も水も尽きる。 自分の娘に、ついには自分の体を裂傷させて血液を与える父親。 その凄惨な現場を、レイシスは男に見せつけていた。 「今のこの現状をどうにかしてほしい」 そんなことを彼女は言葉ではなく、 リアリティーとして伝えたかったのではないだろうか? 気になった役者は・・・ 脚本もさることながら、 キリマンジャロ伊藤とともに、ストーリーテラー的存在のレイシス役、 速見里菜が素晴らしい。 完全に大人の女優として開眼している。 瞳パッチリなのはあいわからずだけれど、 視線の上げ下げ、目の配り方がひじょうに丁寧。 特に今回はセリフ回しが絶妙で、 ここまで優しく穏やかな喋り方だたったのかと、再発見するほど。 セリフの発声、発音も心に響く。 なんというか、とても良い声の出し方。 もちろん、この役の影響もあるだろうけど、物凄く異彩を放っていました。 赤い衣裳、まるで赤ずきんのような格好なので、 全体的な体のパフォーマンスが見えなかったことだけが残念。 まっ、役どころですから、どうでもいい話ですが。 子役というレッテルは無くなり、 今後は大人の舞台にもどんどん出てくるでしょうね。 大人の舞台ですと、ただ単に演技をするというだけでなく、 また違う部分を求められると思いますが、 頑張ってほしい。 ほんとに良い女優になった。 佐藤里緒のケイト役は、本当にはかなげ。 か弱い雰囲気がにじみ出ている。 女優である以上、いろいろな役ができるのは当然なのだけど、 めがばのしっぽ 第一回公演「アリスのいる部屋しっぽver.」の、 男っぽいルイージ役よりも、私はケイト役の方が好きだな。 これは個人の趣味で申し訳ない。 彼女のあの瞳の使い方は、男だったらイチコロ。 ビンセントじゃなくても、それは惚れる。 しかも最後は、じつは隠していて・・・なんてせつないもの。 って、佐藤里緒は見た目よりも幼く見えるだけで、 子役ではないことに、今さらにして驚き。 キリマンジャロ伊藤の危機せまる男の役は、言うことないでしょ。 モーゼット役、山上広志の妻を助けることができない無念さ、 娘を助けるための自傷行為への精神の崩壊もいい。 デセル役の桜井芙弓は娘を抱きしめたい一心で腕を抜くところはが印象的。 バセリ役の平瀬戸勝隆とジャベット役の鈴木優美の、不良コンビもじつにいい。 バセリの狂気が良く出ていたし、本当に嫌な雰囲気全開だもの。 なめた口の聞き方も、ムカツク感じでいい。 みんなに嫌われる役っていうのも、難しい演技。 それと同様に、鈴木優美の嫌な女っぷりもいい。 あの異常な目つきは、本当に演技しないとできないでしょうね。 常人であの目つきできないもの。 しょっちゅう口ゲンカをするほどの仲である、彼氏のバセリだけど、 それでもジャベットにとっては大切な人であり、殺されることには納得いかなかった。 こちらの狂気な表情も良かった。 恋人としては良かったとしても、結婚したらどうなっていたかは定かではないけれど。 フィーブリス役の大里冬子はクールでカッコイイ。 前半部分においては一番謎の女性って感じでしたからね。 沈着冷静で、ある意味この現場において、一番の理解者であったかもしれない。 自らそれを公言することはなかったけれど。 本橋舞衣のシフォンは、常に咳き込む役で大変だったと思う。 奥手で地味な役ではあったけれど、その役に全うすることも女優。 抑えるべきところは抑える演技。 正直言うと、普通に喋って演技をしている本橋舞衣は観たかったのだけれど。 役柄ですから仕方がありません。 鹿目こころのイリア役。 私が観たメンバーの中では一番年下。14歳。 14歳にしては見た目は幼く見える。 見るたびに体が成長しているのがわかる。 背はまだまだ伸びそう。 演技的にもめがばのしっぽ 第一回公演「アリスのいる部屋しっぽver.」の時と比べて、 成長しているのがすぐにわかる。 前回の役が大人しいっていうこともありますが、 彼女はミュージカル系ではなく、ストレートプレイ系。 正直まだまだ気になる部分はあるけれど、今後に期待したい。 まっ、回りのメンバーがみんな上手ですから、 知らず知らずに勉強していくことでしょう。 畑孝輔のビンセントも私は印象深い。 地味で頼りなく、ぬぼ〜とした感じではあるけれど、 ひじょに憎めない役柄。 最後なんて、何意味もなく死んでるんだよ、 と思ったけれど、ちゃんと意味があったんですね。 総括 メガバの舞台は、最近、社会派サスペンスが多い。 テーマもかなり重い。 しかも出演しているのが子役が多く、トラウマになるのか、ちょっと心配。 とはいえ、私が小学生の時にはマンガの「デビルマン」や「漂流教室」を読んでいたので、 どうってことない。 舞台の場合は、現実味がかなり増していますが。 そのために、たまに「ドラゴン・ファンタジー」のようなコメディ系を入れているのかも。 いろいろと考えさせられることがたくさんあり、 直接ではないけれど、メッセージ性も高い。 ネットの中、テレビの中、映画の中とはまた違った、 現実としての痛みが伝わる舞台。 (敬称略) |