ツラヌキ怪賊団4th Navigation「Beautiful Runner」

満足度
公演時期 2014年1月16日〜22日
会場 銀座みゆき館劇場
作・演出・作詩 IKKAN
イラスト ちばてつや
音楽 タナカアキヒサ
振付 Ayano

あらすじ
「子供を無事に帰して欲しければ、最後まで走らせろ!」
欲しいモノは金か?栄誉か?
不公平なまでに境遇の違う2人のランナーがプライドを賭けて走る!
(公式サイトを引用)
観劇感想
話の内容的には、
とあるマラソン大会、
小湊グループの誇るマラソン界のエリート小湊光世がまたもや優勝・・・
と思いきや、新人 猿渡鉄馬に優勝を奪われる。
→猿渡鉄馬は小湊光世昔の同級生であり、よくいじめられていた。
→貧乏だった猿渡鉄馬は、優勝賞金が入ることよって、
本来払わなくてもいい借金をも返済。知らない親戚関係も増えていった。
→かつての幼なじみ、高峰玲子もお祝いにかけつけたが、
つれない返事しかできない猿渡。
→有名になったことで、冴島正義という業界人を紹介され、
彼からVIPのパーティーにも招待される。
→そこで大手事務所の新人グラビアアイドル、有栖川さくらを紹介される。
→いいムードになったのもつかのま、お酒に入った睡眠薬で猿渡は爆睡。
→目覚めて見ると、とあるホテルの部屋に有栖川と二人きりで、彼女は泣いている。
→そこにホテルの従業員が現われ、強姦未遂事件へと発展。
→マスコミからいっせいに目の敵にされ、猿渡のイメージは最悪に。
→借金取りが現われ、金を払えと言われる。
すでに返していたと思っていたが、じつは業界人と称する冴島正義に、
怪しいとは思っていたものの、全てを投資していた。
→その冴島正義に電話をかけるが、いっこうにつながらない。
ようやく騙されたことに気づく。
→借金を返そうとするが、今まで慕っていた友人たちはいっせいに離れる。
→仕事に戻ろうとするが、そこにも拒絶される。
→かつての後輩、下地仁志と再会。居酒屋で語り合うが、
下地が客と喧嘩になり、警察沙汰になってしまう。
→警察には自分は喧嘩を止めようとしただけと訴えるが、
下地は全て猿渡がやったと自供。
→絶望する猿渡。
全てを失った猿渡は、借金取りから、とある地下労働施設へ連れていかれる。
→幾多の困難をくぐり抜け、ようやく借金を払い終える猿渡。
→テレビでは、小湊光世と高峰玲子の婚約発表記者会見が行われていた。
→さらにフリーの芸能ルポライター丹野しるべにより、
有栖川さくらとの事件は事務所の売名行為だったことが判明。
今では売れっ子女優になっているという。
→猿渡は自分に「ケリ」をつける意味でも、
小湊光世が出場するという、マラソン大会への出場を考える。
そのマラソン大会の次の日が、小湊と高峰の結婚式という意味合いもあった。
→ところが、高峰の父親は陸連の関係者で、
猿渡名義で出場申請しようとも、抽選で外れてしまう。
→どうあっても出場したい猿渡。
それに触発され、借金取りが彼の代わりに申請の手続きを行っていた。
→じつはこの借金取り、かなりレベルの高いスプリンターであった。
→変装して出場する猿渡だが、トップ集団に入ってしまうと、さすがに気づかれる。
→たまたまマラソン大会の様子を見ていた後輩の下地仁志は、陸連関係者から、
猿渡を万が一にも勝たせないように指示があることを知る。
→自分が嘘の供述をしたことで、猿渡を貶めていたことに苦悩していた下地は、
たまたま自分の妻が病院に行った時に知り合った少年ツトムが、
高峰玲子の弟であることを知る。
→短気で血気盛んな下地は、先輩の為にと、
ツトムを人質にして猿渡への妨害をやめさせ、最後まで走らせろと父親を脅迫。
→ツトムの携帯からの電話で、すぐに警察がかけつける。
→小湊とデッドヒートを繰り広げる猿渡の目の前にも、ついに魔の手が・・・
その時、小湊は・・・
こんな感じです。

ダブルキャスト、各日によって出演者も変わります。
私が観た回は「Beautiful Crew」

パンフレットには、出演者の名前のみで役名は記載しておらず、
以下、私の記憶しか頼るものがないので、間違っていたら申し訳ない。
主要な役柄だけでなく、他の役もこなしています。

意外とダンスが多くビックリする。
題名どおり、走るシーンもたくさん。
ミュージカルというわけではないけれど、
歌うシーンもあります。
合唱的な感じ。
歌詞が舞台後方スクリーンにも投影。

それから、暗転。
おそらく2時間の舞台で一回しか無かったと思う。
それぐらいずっと舞台は明るかった。
ここはけっこう意欲的。
突然過去の子供時代の話しになりますが、
その場の流れでスッと変わる。
もちろん暗転も無し。
それが自然な流れなので、
観ている方としても受け入れやすかったです。

出演者が多い場合、
髪形やルックスが似ていてわかりづらい時もあるのですが、
今回は全く感じませんでした。
それだけ髪形を区別させていたのか、
ルックスが個性的な人が多かったためかはわかりませんが。
観ている方としてはわかりやすい。

話し的には、小湊と猿渡、そして礼子の3人のからみ。
過去の弱い自分を隠す、金持ちのお坊っちゃまで常に自分主義の小湊、
貧乏だが気にすることなく、思うがままに野性的に突っ走る猿渡、
猿渡に思いを寄せるも、父のため、小湊との結婚に前向きな礼子。

過去の子供時代から、現代へと深く掘り下げている。
基本、猿渡が主人公でしょう。
悪い方、悪い方に行くのは観ていて逆に楽しい。
どこまでも騙されていく(笑)
警察も報道も芸能界も、現実は似たようなもんですから。
私の場合ですと、舞台関係の裏事情とか・・・なんて。
テレビや映画ではできず、舞台でしか表現できないものもあります。
それが舞台の良いところ。
無料でテレビを見ることと、舞台でチケットを払って見ることとでは、
精神的、価値観的にも全く違う部分。

どん底に落ちてから、のし上がっていくマンガチックなところは、
場面場面がどんどん切り替わって、あそこはテンポがいい。
なんの場面かを知っているとなお楽しい。
知らない人には、意味不明かもしれませんが。

幸福の絶頂からのどん底。
それでも明るく生きていこうとするが、全ての信頼を失い、友人たちも去っていく。
ここの裏切りに裏切りが重ね合っていくところが、
観客にしてみると逆にたまらないところ。
人間、性善説に基づいて信頼、信用はしたいのだけれど、
現実は全く甘くないもの。
気づいた時には遅い、というのは、もはや常識。
こればっかりは経験しないとのわからない。
それを強く意識しているシーンにも思えます。

小湊光世は初恋の人が高峰玲子であったが、
弱虫であった当時はは言えずじまい。
さらには、彼女が猿渡を好きなことを知っていた。
そういった経緯があっての婚約。そして結婚式。
だからこその、ケジメとしてマラソン大会の次の日に結婚式を指定する。
彼の並々ならぬ決意が伝わってきます。
唯我独尊、自分の道を行き、他人からのアプローチは拒絶する、孤高の男。
その彼が終生気になっていた男が猿渡であり、そして、高峰玲子でもあった。
彼の冷淡ながらも、心の中で燃え盛るものを、私は感じました。
藤公太の小湊役、じつに感慨深い。

良く考えると、イラスト「ちばてつや」って凄いですよね。
それも加味されてか、猿渡のところは雰囲気的にはカイジなり、
マンガチックでゲームチック。
エンディングなんて、アニメのエンディングにも思えました。
スタッフロールあり〜の、という流れで。

ちなみにエンディング、ネタバレにもなりますが、
おそらくは走り終わった後のエピローグ的な部分。
行方不明だった冴島正義が登場。
じつは単に携帯が壊れていて、
投資した金が億単位に変わっていた、というエピソード。
おまけ的な部分ではあるけれど、正直ホッとしました。
あのまま逃げたら逃げたで、猿渡、マジ最悪ですから。

私的にひとつ言わせてもらうと、
ちょっと猿渡とホームレス、おばちゃんのところは長いかな?と。
テンポ的にはあそこで止まる感じがします。
後半、ある意味、重要な部分にはなりますが。

気になった役者は・・・
藤公太 小湊光世役。
冷静沈着さ、背が高いこともあって、異様な雰囲気をかもしだしている。
観ているだけでも、近寄りがたい。

ウチクリ内倉 猿渡鉄馬役。
皮肉屋たっぷりの野性味あふれる真っ直ぐ感。
でありながら、純情深いと。
どんどん落ちていく様子も面白い。
芸能界の裏・・・というか、ある意味現実の方が裏も多いですけど。
しかし、借金取りと対抗できるあの迫力は、
一般の人はなかなかできませんけどね。
しかもあの借金取りが・・・ってマンガチック。

石井明日香 高峰玲子役。
初めて観ましたが、なかなかいい女優。
スタイルがいいから、そこも魅力的。
気になる発音、舌なめずりな部分もあった。
おそらく、その発声も努力をして克服して、ここまできたのだと思う。
どちらかというと、この明日香役は母性があって健気な雰囲気。
過去の気が強い部分とともに、よくとらえていると思う。

松本一平 喜多川行路役。
田中邦衛似のホームレスと部下。
この2役はさすがに気づきませんでした。
私も騙された。
ダンスも柔らかい。

田中淳之 山中松通役。
彼は小芝居がうまい。
声の張り方が違うもの。
彼がいるとしまる。
なんでも活用できそう。
あのランナーと借金取りのギャップが物凄い。
私は相当好きですね。

藤井仁人 下地仁志役。
猿渡の後輩役も、裏切りっぱなしかと思ったら、
情に厚くてビックリ。
ある意味ストレートで素直で純粋な役だからこそ、
一番自然に近かったかもしれない。
暴れたりしますが、じつのところ一番まともかもしれない。
短気がタマにキズだけれど。

加藤敦 高峰洋平役。
礼子の父親役はじつにハマッテいる。
こういう切れている役者は好きだな。
しかも、途中なんて、若本規夫も入りますからね。
そこも面白い。

北谷優典の借金取り役は怖過ぎて泣きます。
猿渡はよく対抗できますよ。
暴力振るわなくても、あの声と存在感だけでたじろぐほど。
それだけ威圧感ある演技。

黒田勇樹 丹野しるべ役。
黒田勇樹兄さんには、かなり注目していました。
ナースエンジェル りりかSOS
今回はスクープ記事を負うルポライター的な役柄。
正直、ブランクは感じる。
セリフも昔と比べたらまだまだ。
本人が一番わかっていることでしょう。
長い舞台だから、公演期間中にどんどん成長してほしい。
私は復活を期待しているもの。

中村裕香里 有栖川さくら役
独断と偏見のエターナルファンタジー演劇大賞2012のMVP
ま〜かわいい。
そりゃ、この役でしょって感じ。
途中ナレーター役もありますけど、「華」ありすぎだもの。
率直に言って、めちゃくちゃかわいい。
田舎くさくて、猿渡と似ている部分がある・・・なんてところだけで、
怪しさ満々(笑)
後半結局罪の重さに気づくことになるけれど、
私はあのまま突っ走ってもいっこうにかまわない。
それが芸能界。
彼女の場合は社長のやり方に反抗した、
という、後日談としてのちょっと良い人にもなる。

Ayano 下地絵里&大鳥居アナウンサー役
下地仁志の妻。
ただ、下地仁志の車の事故により同乗していた彼女も負傷。
車イスで、半身も麻痺。言葉もおぼつかず。
難しい役だけれど、私はよくやっていると思う。
特に下地仁志に暴力をふるわれ、床に倒れ、
それでもなお言葉を発しようとするシーン。
気持ち、伝わってきしまた。

今回私の中で一番印象深かったのは、
おーみまみ 高峰ツトム役
ちょっとパンフレットの写真は宣材すぎるんですけどね。
それはそれとして、少年役は至極抜群。
背が低いこともあるけど、ものすごくハマッテいた。
声がちょっとアニメっぽいところもいい。
まだ荒削りなところもあるけれど、
長い公演期間なので、さらに良くなっていくと思う。

総括
若手?中心だけれど、熱い舞台。
男の出演者が多いので、客層も女性ファンが多かったように思えます。
マンガチックでコメディもあり、一部荒唐無稽な部分もあるけれど、
じつは現実的な社会風刺も組み込まれている。
そこを観客が面白おかくしく受け止められる。
そしてじつは熱い、ひとりの女性を巡る男の「走り」での戦い。
王道な恋愛の話しでもある。
若い人向けの作品ではあるけれど、
男女ともに共感が得られる作品。
(敬称略)
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