TOKYOハンバーグ Produce Vol.9「髪結う時」

満足度
◆公演時期 2011年5月25日〜31日
◆会場 千本桜ホール
◆作・演出
大西弘記

あらすじ
20数年前、そこには小学生の美咲、父、母がいた。
母は弟を身ごもっていて、身重の状態だった・・・
あれから20数年後。
今度は自分が母と同じく、子供を宿り、身重の状態に。
しかし、毎日の母との会話が、少しずつ、ずれていくことに気づく。
話した内容を忘れ、記憶が曖昧になっていく。
そして、その症状が段々と重くなっていく・・・
観劇感想

重い舞台。
日常というテーマだから、面白さは求めません。
アクション、冒険活劇、SF、サスペンスではありませんから。
ヒューマンドラマ。

ありていにいえば、認知症、
若年性アルツハイマーの話。
そういえば「みゆき食堂」も似たような設定でした。
マンガだと「天 天和通りの快男児」の赤木を思い出します。
アルツハイマーであることを知った赤木が、
これからの自分の無様な姿を他人に見せたくないため、
安楽死を選ぶというもの。
いろいろな登場人物が、安楽死をしようとする赤木を説得するが失敗。
このマンガの主役の天が、最後に、
「こんな死に方、無念ではないのか?」
と最後に尋ね、
「無念だ・・・」
という場面が秀逸でした。
ただ、こちらの舞台の方がさらに重い話しですが。

日常の流れということで、
導入部分での引き込み、ワクワク感、面白味はないです。

基本は、過去と現在の並行な時間軸。
一方は、妻の幸子が身ごもって、父も、そして姉の美咲も、
生まれるまで待ちきれないという場面。

一方は、20数年後の現在の幸子。
娘の美咲がついに結婚へ。
だが、幸子は不思議と忘れることが多くなる。
それがどんどんと悪くなり、家族をも巻き込んでいく・・・

過去編では、
子供を身ごもりながら、夫、娘の美咲に対する愛情を。
現在では、
物忘れが激しくなり、ついには、娘も、夫も忘れてしまう。
その過程を丁寧に伝えていくので、
観ている方はけっこうつらいです。
自分では忘れたくないのに、どんどんと忘れていく自分。
幸子の精神面の演出部分もありました。
子供の頃の美咲、大きくなった美咲、
さらには若い時の夫、年をとった夫が混ざってしまう。
混乱し、錯綜し、記憶が消えていく精神面の演出は怖いものがありました。

途中の20年後の美咲の帽子、
あの帽子についていた花は「真っ赤だな〜」の時の関連でしょうか?
何か伏線があったでしょうか?
なんとなく、観客側で理解しましたが。

途中、空調を止めたようですが、
この理由は、微妙にスモークをたいていたせいでしょうか?
スモークの揺らぎが、照明の光線をたゆわせる、
そんな感じですね。
黄色とか、青とかの照明。

母親の幸子が、娘の美咲にロングの髪の毛から三つ編みにするシーンは印象深い。
きっちりやるので、かなり長いシーン。
というのも、感想を書いていて、今気づきました。
タイトルの「髪結う時」って、ここがかかるんですね。
後半、今度は逆に娘の美咲が、
アルツハイマーが進んだ母幸子に対して髪を結います。
ここは親子の愛情。

基本、家族愛がメインとは思うけれど、
やはり最終的には、普通の男女の恋愛、夫婦愛がテーマかな?
老後までの愛。

気になった役者は・・・
個性あふれるキャラクター、
というわけではなく、本当に普通のどこにでもある家族の演技。
こういった自然な役は本当に難しい。
普通の演技というのが、一番難しいもの。
基本、劇団のプロの方なので本当に気になった方だけ。

篠塚幸子役 降矢由美子
主役のアルツハイマーが進行していくお母さん。
本当に難しい役。
優しいお母さんが、だんだんと病魔が進行していき、
あらゆるものがわからなくなっていく。
狂気にも似た雰囲気。
ただそれだけでなく、
内面での病魔に冒されていく精神世界での演出の場面もすばらしい。
正直、後半怖いですよね。
でもそれこそがリアル。

篠塚美咲 新妻さと子
美人な女優さん。
急遽決まったのかな?
にしては、問題ない出来ばえ。
清純な雰囲気。
母が変わっていくありさまに、
なんとか対応していこうとする姿が凄く健気でした。

20年前の篠塚幸子役 長澤美紀子
雰囲気的に、カーリングの本橋麻里にも似てます。
普通に穏やかなお母さん役。
とりとめない自然な演技。
前述しましたが、
娘の美咲に髪を結う場面は、時間を長くとっていました。

20年前の篠塚美咲役の川名みくる
初舞台のようですが、じつによくやっている。
セリフもけっこうあります。
「ミュージカル・アニー」のアニーズよりも断然ある。
俗にいう、舞台声、「ミュージカル・アニー」を受験するような、
やや完成された声質でないのが、逆にいい。
日常をテーマにした舞台ですし、普通の女の子の喋りでいい。
声は大きいから聞き取りやすかったです。
初舞台としては、十分すぎるほどの出来ばえ。
癖のある舞台声が嫌いな人にしてみると、
こういった舞台の子役の演技の方が自然で受け入れやすいかもしれません。
今回は独特な舞台なので、
他の大人のメンバーが激しく怒鳴ったり、
大きなセリフを突然発することもあるので、
その動揺をうまく受け入れなければなりませんから、
子役の彼女にしてみると大変だったかもしれません。
しかし、普通の子役メインの舞台とはまた違った勉強になったことでしょう。

総括
公演時間は休憩無しの1時間45分ぐらい。
重い舞台で、一日2公演もあるんですね。
これは精神的にも大変。
前半から中盤は普通の話しながら、
アルツハイマー関連で見る方も大変です。
「飽き」とは言わないけれど、真剣に観なければいけないという、
強迫観念とも思われる衝動にかられます。
舞台を観ているからこそ、しっかり真面目に観ないと、という感じ。

ただ、後半はけっこう自然に引き込まれていきます。
家族愛も、もちろんすごく伝わってきましたが、
特に、愛する妻が自分のことさえ忘れていく様。
夫にとってはすごくつらいでしょう。
この夫婦愛が深く感じとれる舞台でした。
(敬称略)

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