◆  ミュージカル「この夜の終わりの美しい窓」  2009年

◆公演時期   2009年8月5日→9日
◆会場 新宿 タイニイアリス
◆作・演出 モスクワカヌ
◆芸術監督 丸尾聡
◆音楽監督 鶴岡泰三
◆作曲・歌唱指導 濱田利枝
◆振付 工藤美和子

あらすじ

シープレス・ハウスと呼ばれる古い屋敷に、
かつてミュージカル映画のスターであった母、
そして娘の二人姉妹が住んでいた。
母親の時は止まっていて、常に大女優当時の夢を見ている。
かつて映画で演じた役に浸透。
来るはずのないストレンジャーとの恋に落ちいる妄想に浸っている。

それを呼び覚まして、自分(姉)のことを抱きしめてほしい・・・
その母の妄想を終わらせるために俳優を雇い、
黒いストレンジャーを演じさせる。
黒いストレンジャーは、最後に主人公である母を裏切る役。
そして、真の白いストレンジャーが母を迎い入れ、ハッピーエンドとなる。
そのシナリオの最後の白ストレンジャー役は、姉(自分)
そこで母の愛を自分に注がせようとするが、アル中の弟が現れて・・・

(チラシより一部抜粋)


観劇感想
タイニイアリスは小劇場。
160席ぐらいは座れますが、席の前後左右はかなりせまい。
今回は超満席。
補助席として階段通路にも簡易的な椅子を出していたので、
200席は確保していたと思います。
小劇場にしてはすごい集客力。

時間は休憩無しの90分ぐらいでしょうか?
公演のチラシにはミュージカルナンバー、
一部の歌詞も書かれていて、ミュージカルの本気度がわかります。
元々はストレートプレイが主体のカンパニーのようです。

話しの内容的には、かなり難しい。
サスペンス・ホラーという感じでしょうか?
子ども向けではないですね。
本当にお芝居が好きな大人向け。
観客も気軽に観るのではなく、
真剣に舞台と向かい合わなければ理解できないかもしれません。

「姉」役、妃宮麗子が作ったシナリオを遂行するというのがメインの流れ。

オープニングはやや長いかな?
ちょっと飽きそう。
それから最初に全員、全キャラクターが登場します。
こういう演出はあったり無かったり。
ま〜どっちでもいいですが。

全体的な印象としては、おどろおどろしく、照明も暗い。

基本、主役の「姉」役、妃宮麗子のひとり舞台に近い。
元宝塚いうこともあり、演技もセリフも歌も完全にプロ。
ひとりだけ段違いに違うもの。

姉の背後には常にシャドウが存在する。
それは現実のものではない、彼女が自分自身に問いかける存在、
もうひとりの自分でもある。
このシャドウの存在も理解するのに時間はかかるが、
「姉」の心の部分を表現している部分なので、とても面白い。

タナトスの存在も最初は難しい。
オープニングから登場し、最後まで出番がある。
私は当初、白いストレンジャーかと思ったほど。
チラシを読み返し、
初めて「タナトス」という存在だったのかと理解できました。
ようは「死神」なんですね。
彼が何度も現れてストレンジャーみたいな行動をしたり、
登場人物の背後に現れ「死」を予感させた行動をしたりと、
謎めいた行動はそういうことでしたか。
観ているだけだと、イマイチ理解に苦しむことがありました。
死を司る神として、
人間の「業」「哀れな末路」を嘲笑していたのかも。
タナトスに関しては、観ている方、各々の感じ方があると思います。

妹が庭師と関わることで、ある方向にいってしまうのですが、
そこまで突き進んでしまう経緯がイマイチよくわかりませんでした。
やや極端かなと。
妹はとても素直で、真っ直ぐで、母のことを愛していた。
ゆえに、自身も精神的な病にかかっていて、
庭師が「秘密」を教えてしまったことにより、
そのスイッチが入ってしまったということなのだろうか?
悲しい結末のスイッチがここで入るのはわかるが、
あの「謎の行動」に至る経緯が、ちょっと常人には理解できない。
それだけ妹が素直だったと解釈するしかない。

スモークを微量に焚いて、6方向からの照明を投影させ、
暗闇との対比で幻想的な雰囲気を演出していました。
ここの表現はいいですね。

それから、舞台後方の大きな窓は重要なアイテム。
なのですが、なにかイマイチ。
母親にとってその場所が重要で、
途中、そして最後にも使われますが、
古い屋敷という意味合いもあるけれど、もうちょい幻想的な雰囲気がほしい。

暗闇で、ろうそくの火をマッチでつけるシーンがかなり多いです。
ろうそくの火を灯して、照明をやや明るくする。
現実問題として、ろうそくの火だけでは舞台は見えませんから(当たり前)
でもその手法がいい。
シャドウは、このろうそくの火が消えると消える存在・・・かな?

マッチで火をつけるシーンが連発で登場。
なかなかマッチがつかないというアクシデントも想定していたと思いますが、
今回はほぼ無難に遂行されました。
ろうそくの火も重要で、後で消す演出があるので、
途中で突然消えてしまうと、いろいろと問題が出てきてしまいます。
ただ、今回は全く消えることはありませんでした。

ストレンジャー役、縄田晋の「ウエストサイドストーリー」ナンバーのひとつ、
「アメリカ」は、音楽のパワーがもっとあった方が良かったかな?
ちょっとひとりだけは・・・気合入れないと。
まぁ〜3流の役者という設定で、ちょっとコメディチックであるからいいのかも。

恋人役の駒田忍のミュージカルナンバーは、
アンサンブルを含めてセクシーな雰囲気。
悪くは無いけれど、華やかさがもっともっと欲しい。

今回の舞台を観て、主役の「姉」は別として、
母親、庭師役がかなり難しい役であると私は認識。
その母親役の長橋佳奈、庭師役のリアルマッスル泉が、じつにすばらしい。

元女優で、時が止まったまま若さを保つ長橋佳奈が演じる母親役というのは、
本当に難しいもの。
役としての性格もつかみづらい。
後半になって、よ〜やく理解できる場面が出てきますが、
それまでの映画のワンシーンのような描写では、
ダンスをしているだけですからね。
また、庭師役のリアルマッスル泉も、じつに個性的な演技。
怪しさ全開。
特徴ある小刻みな動きが、
怖いもの見たさという感覚を観客に呼び起こし、観るものを引きつけます。

エンディングまでのネタバレはしませんが、
終わり方としては、良いと思います。
結果としてタナトスの意味合いがイマイチ良くわかりませんでしたが。
姉の悲哀は良く出ていたと思う。
もう少し庭師の登場シーンを増やしても良かったかな?
ひじょうに良い存在感だったし、
姉とからめても効果的だった・・・かもしれない。

母が目覚めた時、姉との結末は、ちょっと予想はしてました。
理由が「アレ」とは気づきませんでしたが。

気になった役者は・・・

主役の「姉」役、妃宮麗子は別次元的にうまい。
というか宝塚の人ですからね。
歌もダンスもセリフづかいもカツゼツも、そりゃプロですもの。
ほぼ彼女のひとり舞台に近い印象もありました。
セリフがひとりだけ膨大。
タイニイアリスは客席数が少ないのですが、
私が行った回は満席。
これも彼女の観客動員ゆえなのかも?
ただ、一点、妹の土谷春陽がとても若いので、
私は最初、母と娘の関係かと思いました。
姉ということで、ちょっとビックリ。
ま〜慣れれば対したことはありませんが。
完全にプロの役者さんなので言うことありません。

ただ、「プロだから」という理由で思考停止するのもなんなので、少し。
シャドウとの会話と、妹との会話は同じ雰囲気。
私として微妙に変化させた方が良かったかな?
雰囲気的に威圧感があるのですが、やや単調のような気もする。
威圧的な態度、母に対する優しさ、もうちょい対比はほしいかも。

妹役の土谷春陽は、ルックスはかわいい。
フランス人形っぽく、鼻筋が通っている。
この妹の性格は、真面目で素直で落ち着いた妹。
妹というと、はしゃぐイメージがあったりしますが、
この妹は違います。
ただ、それでありながら、彼女自信、妹っぽい雰囲気をかもしだしており、
清楚でかなり魅力的。
演技もしっかりしているし、カツゼツもいいし、毅然とした態度もうまい。
ただ一点、歌は高音で裏声を使うんですよね。
ここは好き嫌い別れます。
この妹役は惚れます。

タナトス役の深山陽貴
いま初めてタナトス役だと知った(汗)
白いストレンジャーと何かが、かぶっているのかな〜?と思いましたから。
タナトス=死を司る神。
ギリシャ神話は、かなり好きなので、私はすぐに理解しました。
最近・・・でもありませんが、「聖闘士星矢」でも出てきます(笑)
雰囲気はじつにいい。役者が役者という役を演じている感じ。
タナトスは精神的なのものですからね。これはこれでいい。
怪しげで魅惑的。
顔、または腕で、固さ柔らかをいろいろと表現していました。
歌は・・・ちょっとですが・・・

ストレンジャー役の縄田晋
「音楽座」の方のようですね。
歌、ダンスを披露。
演技もプロなので言うことありません。
重苦しい舞台なのに、
突然、「ララララ・アメリカ」という、
「ウエストサイドストリーリー」のナンバーがかかってビックリ。
売れない芸人役で、彼の部分だけややコメディチック。
コメディさをもっと全面に出していいものか、
サスペンスを重視して少し抑えた演技をした方がいいのか、
もしかしたら悩んだかもしれません。
演じる上でのバランスが難しい。
綺麗に演じ、まとめすぎている印象も強く、
私的にはもっと荒削りで大げさな演技でも良かったかも。
この役だけ三枚目ですから。
面白みがありそうで、じつは何もない。
最後の方も淡々とした感じで終わります。
役者として誘われ、母と対する時の緊迫感がもっとほしいな〜

シャドウの尾花宏行
姉にとって問いかける、もうひとりの自分でしょうね。
ということで女性言葉。
おかま口調とはいきませんが、それに似てます。
落ち着いた感じで、演技はすごくしっかりしている。
プロデューサーだか、演出家としても登場しますが、
同じメイクで帽子を被っているだけ。、
ちょっとそっちの意味合いは良くわかりませんでした。

恋人役の駒田忍は、
セクシー衣装にミュージカルナンバーがひとつ。
どこかのバーかクラブの歌い手さんみたいな感じでしょうか?
たしかに、歌も、カツゼツもいい。
ただ、正直もうちょい「華」がほしい。
せっかく、セクシー系担当のリーダーなのだから、
「華」が無いと、観客としてちょっと集中力に欠けます。

前述しましたが、今回の舞台で難しい役だな〜と思ったのは、
母親役と、庭師役。

母親役の長橋佳奈は、チラシの写真よりももっと柔和な感じで、
清純で大和撫子のような雰囲気。
母親が年をとらないということで、役柄的にとても難しい。
同じことを何回も繰り返す。
プライドの高い女優。
そして子供さえいらず、
子供が自分を脅かす女優になることすら恐れていたほど。
う〜ん、なかなかいいと思う。
セリフは少ないのが残念ですが、
顔の表情や雰囲気作りは観ていて心地いい。

庭師役のリアルマッスル泉
常に咳き込み、体調が悪そうな役柄。
しかし、重要な「秘密」を握っている人物。
その「秘密」がキーポイントでした。
独特な雰囲気で、かなり奇怪。
これは物凄く難しい役。
ある意味、個性が強過ぎるかもしれませんが、
私はこの演技、とても気に入りました。

弟役の和田広記
アル中の演技は意外と難しい・・・
ウイスキーが入っているボトルで、
「クイッ!」とラッパ飲みする行為は良く見かける演出。
いかにも!って感じすぎますが、
それをリアリティに近づけることは簡単そうで難しい。
もう少し危機的雰囲気があってもいいかな?
特徴的な役なのだから、もうすこし頑張ってほしかった。
傷を負ったあとも何か元気だし。
恋人とのからみも、なんだか・・・
というか、この物語り自体が非現実で、リアリティは無くていいのかな。

アンサンブル 大日向裕実
元東京メッツ 背番号「0」
東京メッツに出ているだけあって、彼女はダンスはうまい。
セクシー衣装も当時から着ているため、
今回の衣装もそんなに違和感なく受け入れたと思う。
胸をはだけている衣装も良く頑張ったと思う。

総括

前述しているとおり、基本、姉役の妃宮麗子のひとり舞台に近い。
宝塚出身をたてる意味でもそれは仕方がない。
話の内容は大人向けでかなり難しく、
自分がその物語の内容を理解するには、少し時間がかかりました。
ただ、一度理解すると飲み込んでいく感じです。
母親役の長橋佳奈、庭師役のリアルマッスル泉が難役を好演。
妹役の土屋春陽の真っ直ぐで素直な演技も印象的。
本格的な芝居を観る人向けの舞台。

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