エマニュエルの作戦会議「あの娘のランジェリー」


満足度
公演時期 2016/6/15→19
会場 Ito・M・Studio
作・演出 浅野晋康

あらすじ
高校バスケ部の遠征合宿に同行した、引率の教師やコーチたち。
ある夜、ひとりの生徒から、
「万引きした生徒がいる」という報告を受けた教師たちは、
その事件をめぐって、ひとりの女子生徒を追及していくことになるが・・・

※公式サイトより引用
観劇感想
簡単な流れを。

バスケの大会前日。
北川早紀が先生に吉田愛里が下着を万引きしたのを見たと告白。

本当かどうかわからず(北川の狂言、いたずらも考えられる)
悩む先生方であったが、押し切られ吉田のカバンを開けて捜索。

見つからないまま吉田が部屋に戻ってきてしまい、カバンを開けたことを知る。

北川が「吉田が今着ている」と発言し、先生たちもやもなく確認。

北川が言っていた青の下着が発見される。

買ったと言い張るが、彼女の家は経済的に不安がありそれも怪しい。

じつは学年主任が金を払い、吉田と関係をもっていたことが発覚。

平謝りの宮脇であったが、先生のひとり平林は口止め料を払えばいいとのこと。

一緒にいたコーチは焦るが、それで万事収まるのであれば、
ということで、万引きも生徒との関係も無かったことに落ち着く。

部屋に二人きりになった北川と吉田はスマホで・・・

こんな感じです。

この舞台を観ようと思ったのは、
久々に藤沢玲花の演技を観てみたいと思った為。
今までなかなか機会に恵まれず、ようやくタイミングが合いました。
完全に役者名に惹かれての観劇。
こちらの舞台がどういうものなのかは、全く存じあげませんでした。

そもそもが面白さを求める舞台ではない。
いわゆる大衆演劇、エンターテイメント性の舞台でもない。
本当に社会風刺の演劇。

テーマが重い。
だが、その重いテーマを平然と淡々と受け流す流れの舞台。
ネタバレを言ってしまうと、女子高生が万引きのみならず、
学年主任の先生と、お金のやり取りでの売春行為があったということ。
そのとんでもない話しに他の先生、コーチたちも一瞬は動揺するが、
すぐに平然となり、話が進んでいく。
当事者の生徒も淡々と「何が悪いの?」みたいな感覚、
学年主任の先生も「相手に経済的なものがあり私がそれを与えただけ」
という理屈を述べる。

普通に考えると、経緯がどうあれ18歳未満であれば犯罪。
お金が発生しようがしまいが、向こうから誘ってこようが、
18歳未満はアウト。淫行。
それを理解していない先生も痛い。
ただこの舞台はそれに対し、正義感むき出しでその先生を責めるのではなく、
口止め料をもらうことでもみ消すところにある。
それはなかなかリアルで良い脚本だった。
先生やコーチ、
俗にいう良い大人たちが聖人君主ではないことがよく描かれている。
もちろん、全員が全員そういう先生たちではありませんけどね。
あくまで舞台での役としてはいい。
「大人は偉い」なんてことはありませんから。
そういう社会で成り立っていることもあるのではないか?
という風刺でもある。

おそらくこの淡々とした演出だとテレビでは不可能でしょう。
スポンサーがからんでくるし、視聴者からの反応もある。
コンプライアンスがありますらかね。
だからこそ、表現が自由な舞台でできるとも言える。

もうひとつツッコミがあるのは、藤沢玲花が演じる北川早紀が、
先生に吉田愛里が万引きをするのを見たと告白をし、
それを探すために生徒たちの部屋に侵入し、
さらに彼女のカバンの中身をあさるという行為にまで発展。
個人情報関連が厳しい今の世の中、ま~普通はありえない行為。
常識ある先生であれば、
後で生徒や親から訴えられるということも言うべき事案。
でも、今回はそれがない。
その場での空気の流れがあり、冷静に判断できないのだと思う。
警察ものの海外ドラマでも、令状無しで捜索してしまい、
裁判の時にその行為が問われることはよくあるエピソード。
それに似ている。

吉田愛里のカバンを開けてみたものの、
万引きした下着が見つからない。
そうこうしているうちに本人が部屋に戻ってきてしまい、
自分のカバンを先生たちが開けたことに対して追及することに。
絶対に万引きを目撃したという北川早紀は、
彼女が今着けているのではと疑い、先生たちも渋々吉田に確認を求める。
と、下着を先生の前で見せるというところは観ている観客も少し緊張します。
見せブラではあると思いますが、独特の緊張は走りました。

ひとつの舞台として申し訳ないけれど、
セリフは完璧にしてほしい。
長セリフを覚えるだけでも大変なことは重々承知だけれど、
他の小さな舞台でも一語一句間違えることなく終える舞台もありました。
セリフを間違ない、それが舞台のテンポ、流れ、空気にもつながりますから。

途中、途中笑いも起こるのだけれど、
私は笑えませんでした。
あまり笑える社会風刺でもないからな~
私の性格が真面目過ぎるゆえんか?
もっとのほほんと観たほうが良かったのかな?

先生と生徒の関係。
昔はかなり距離があったのだけれど、今は普通に友達感覚。
年齢が近いこともあるし、昨今の指導方法も変わってきたもかもしれない。
俗に言う「なーなー」な関係。
生徒も変わっていれば、先生も変わっている。
「性」のことも普通に。
そういう精神状態、思考におちいる。
自分に被害を向けさせないための手段、
またはそれによる対価、利益。
清廉潔白ではない不純な行為がじつに生々しく描かれていました。

大人同士のストレートな意見。
タブー無き、ダークな裏社会の構造にも思える。
一見すると「そんな馬鹿な」という荒唐無稽な話しにも思われがちだが、
社会悪という、需要と供給のバランスで成り立っている話しでもあった。

全ての真相は、結局闇の中。
無かったことになる。
もしかしたら、
北川早紀が吉田愛里と仲良くなりたいがための演出だったのかもしれない。
いわゆる、好きなのにいじめてしまうという感じ。
仲良くなりたいが為の壮大な釣りだったのであろうか?
女子高生の思考も難しい。
全員ではないけれど、こういう舞台を観てしまうとい錯覚に陥ってしまう。

最大に恐ろしいのは、こんな事件があって、
次の日普通にバスケの大会ですからね。
それもまた淡々と乗り切るのであろう。

気になった役者は・・・
基本プロなので、雑談。

藤沢玲花 北川早紀役

静かで真面目で、おせっかいな性格。
が、本当なのかどうかエンディングを考えると怪しいところではある。
そもそも彼女が吉田愛里の万引きを目撃し、
先生たちに伝えなければ、こんなことにはならなかった。
言わなくてもいいこと。
それをあえて言ったということは、何かしら彼女にも思惑がある。
さらに言えば、すでに彼女は吉田愛里と学年主任との関係も知っていた。
いろいろといわくありげな役で、
ひとすじなわではいかない。
吉田愛里をおとしめるためなのか?
または彼女を守るためなのか?
ただ単に彼女と友達になりたい(それ以上の関係?)
そのきっかけの為なのか?
はたまた、特に意味もなく女子高生同士の他愛もないおふざけの一環なのか?
全てが計算されたかのように思えてしまう、
北川早紀の不思議な雰囲気は観るものを混乱させる。
とても難しい役柄でした。

彼女は子役の時から観ているけれど、
全く変わらないルックス、スタイルに驚く。
あのまんまの藤沢玲花がそのまま大人になった。
言葉では簡単に言えるけれど、
維持の為に並々ならぬ努力をしている、と思う。

声もルックスも、ほとんど当時の印象と変わらないのだけれど、
目つき、表情の演技が素晴らしい。
前述しているように、
ただ単に真面目な性格だから万引きをとがめるという役ではなく、
その奥底にはドス黒いものがある女子高生の役だもの。
しかも性を意識した小説を書いていて、全て実名。
それが編集者の目に止まるほどの文章構成能力。
並大抵の女子高生ではないことは明白。
嫉妬なのか、友情なのか、はたまたそれ以上なのか。
その独特の世界観を藤沢玲花はおそらく悩みながら、
成長、そして性格を積み上げていったのだと思う。
全ては観客の思考に委ねながら、
藤沢玲花なりのエンディングに向かっていく。

保田あゆみ 吉田愛里役。
美人ではあるが、少し影のある女子高生。
すごくつかみどころのない役で、難しい演技。
のらりくらりと現代社会を生きる、みたいな感じかな?
大人の社会も悟っている感もある。
すれた性格ではあるものの、経済的に不安があることもあり、
自分が楽しければそれでいい。そこにお金が発生するのであればなおさら。
あまり物事を深く追及することもない。
それを諫めたり、
「良くないことだ!」とお節介にも介入してくること自体、
彼女はウザイと思っている。
おそらく、こういう性格なので直しようがないと思う。

太田正一 宮脇(教師)役
ルックスだけで判断すると、
イメージ的にはハマカーンの浜谷健司に似ているかな?
学年主任で、普段は穏やかだが切れるとかなり威圧的。
この人が吉田愛里と関係をもつことになる。

松永大輔 平林(教師)役
イメージ的にはバナナマンの設楽に似ている感じかな?
しかも喋り方や雰囲気も似ている。
「そうだな~」みたいな言いぐさ。
何事にもあまり強く否定することなく柔和。
柔和なのだけれど、それが意味深で、
学年主任に口止め料をもらおうとする始末。
ある意味現実派なのかもしれない。
女性に対しては「胸」最優先主義のようだが、
ま~人それぞれですよね。
相性とか性格、フィーリングも重要ですよ、なんて。

廣田朋菜 藤本(教師)役
先生の中では一番まともではあるが、
確信部分では登場していないので、
学年主任と生徒の関係があったことを知らない。

田中祐理子 濱岡(コーチ)役
ショートカットで、ボーイッシュな先生。
マジメなのだが、なにぶんコーチなので、先生に逆らうことができず、
不満がありつつも、その場の空気に流されてしまう。
いろんな裏を知ってしまい、ある意味一番可哀相ではある。

β 椎名(コーチ)役
オネエ口調だが、オネエでは無いという噂であったが、
じつは・・・普通にオネエであった。

総括

よくある先生と生徒の援交ものではなく、
さらに進んだ、淡々とした雰囲気。
熱血で真面目くさって警察に訴える!
みたいなことにもならず、何事も無かったかのように普通の学校生活が続く。
女子高生同士の関係も、好き嫌いで判断できない独特な空間であった。
何も解決することはないのだが、
それが現実社会でもありうるのでは?と納得してしまう私もいる。
エンターテイメント性は全くないので、
舞台好きの玄人な人でないと、なかなかオススメはできないかな?

(敬称略)
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