公演時期 | 2009年3月4日~4月19日 |
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会場 | 彩の国 さいたま芸術劇場 大ホール |
作 | 井上ひさし |
演出 | 蜷川幸雄 |
音楽 | 宮川彬良 |
美術 | 中越司 |
照明 | 勝柴次朗 |
衣装 | 小峰リリー |
音響 | 井上正弘 |
殺陣 | 國井正廣 |
振付 | 広崎うらん/花柳錦之輔 |
あらすじ1612年、陰暦4月13日正午、豊前国小倉沖の舟島。 宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いは、一撃で決まった。 勝ったのは武蔵。小次郎は一命をとりとめる。 6年後、鎌倉佐助ヶ谷、源氏山宝蓮寺。 名もなきこの寺で、寺開き参籠禅がとりおこなわれようとしていた。 大徳寺の長老、沢庵宗彭を導師に迎え、能狂いの柳生宗矩、 寺の大檀那である、木屋まいと筆屋乙女、 そして、寺の作次を務めた宮本武蔵も参加している。 そこへ武蔵を探ししていた佐々木小次郎が現れる・・・ (パンフレットより引用) 感想絶対に観たい舞台でした。 何がなんでも、この舞台だけは観たかったんです。 舞台の公演情報サイトの管理人として、観劇感想を書いている者として、 絶対に観なくてはいけない舞台!! なんてことは全く思わず、ただ単に好きだから観たいという欲望だけ。 まず思ったことは、ロビーの送られている花の多さ。 生田斗真や、井上真央、上戸彩、 妻夫木聡、長渕剛、も~たくさん。書き切れないほど。 しかもお客さんが、生田斗真の花と一緒に撮ってる姿もすごい(爆) ま~それだけでも嬉しいということでしょう。 客席は当然のことながら満席。 折りたたみの椅子、補助席もあってビックリ! 2幕構成でおよそ休憩込みで3時間30分ぐらいですが、 私は疲れ等全く感じませんでした。 それだけ舞台に集中して見られたのだと思います。 さて本編。 話しの流れ的には、
さて、何と言っても、井上ひさし氏の新作の「脚本」 それを「演出」する蜷川幸雄氏。 出演するのが、藤原竜也、小栗旬、鈴木杏、他の方もベテランばかり。 これ、けなす人いないでしょ。 いたら本当の変人(笑) 素直にすごい。 場面場面、劇場内の上部にある電光掲示板?みたいな部分に、 「○日、夕方、題名」という形で表示されます。 これはけっこうわかりやすかったです。 開演前の劇場はスモークがすごい。 これは、不可思議な雰囲気をかもしだすための演出でしょうか? そして大きな赤い月。なかなか印象深い。 一番最初に巌流島の決闘シーン。 これは素人の私でも予想していました。 ただ、私としては過去に話しが戻るのかな~?と思いきや、 「未来」 何の情報もなく観にいったのですが、まさか後日談とはビックリ!! その巌流島のシーン。 まさに一撃で、決着がつきます。 小次郎は倒れ、はらりと武蔵の額に巻いていたハチマキが落ちます。 ここの演出はすばらしい。 言うなれば、小次郎は武蔵のハチマキだけを切り裂いたという感じでしょう。 ハチマキがハラリと落ちるタイミングは意外と難しかったと思います。 舞台セットも大きな美術セットではありませんが、けっこう新鮮。 巌流島からの切替で、竹が生い茂る、禅寺への移行。 この時、数本ある竹が移動をすることよって、奥深い禅寺をイメージさせています。 この「数本ある竹」の移動を複数の黒子が移動するのですが、けっこう大変。 何しろ、竹自体が7~8mぐらいあったでしょうか?それを各々移動ですから。 「森は生きている」では森の動物役がモミの木を移動したりしますが、 それの巨大バージョンですね。移動するのは重労働。 さらには物語の演出として、場面場面に木々の「揺らぎ」があります。 おそらく、これも黒子の仕事。 この「揺らぎ」も演出していて、じつに見事。 音響的には、鳥のさえずる声、セミ(ひぐらし?)の演出もじつに奥深い。 いろいろな意味において深みを増します。 基本は人間賛歌。 「生きていればこそ」 かなりいろいろ奥深い話となります。 メッセージ性はとても高い。 観た人が一番わかるでしょう。 禅問答に近い話しがじつに多い。 人間の「狂気」とは何か? 「罪と罰」「生と死」 さらには「罪を許し、相手を許す気持ち」 これは、旅の途中で、妻と子を殺された夫が修行僧になり、 その殺した犯人も罪を償うために修行僧となっていて、 お互いが何かのきっかけで出くわす・・・ 妻と子を殺した犯人が目の前にいる。 そのとき、夫は相手を許せるのか? そんな問答ですね。 また、鈴木杏の仇討ちにも似た話があります。 父を殺した相手への復讐のため、果たし状を送り、いざ対決。 相手の腕を切断するものの、命はとれずじまい。 そのとき、鈴木杏は無意識のうちに、 刀の刃を自分に向けます。それは自分を切る意味合いなのか? 罪を許す行為なのか? 恨みが膨らむ、連鎖を解く行為なのか? けっこう奥深い内容。 その浅川甚兵衛との仇討ちのシーンで、 筆屋乙女役の鈴木杏が甚兵衛の腕を切断するのですが、 腕が舞台上に転がり、その指は動いている・・・ 機械仕掛けですが、けっこうドッキリする演出でした。 仏教の用語でもある「三毒」のことにも触れます。 欲、怒り、愚か。 ここについての問答も長かったです。 武士がいかにして刀を手放す方法のひとつの文言。 三種の神器の話も面白い。 「鏡、勾玉、剣」 この三つのものを手にしたものは、官軍となれる。 つまり正義。 敵対するものは賊軍。 それは逆に、 三種の神器を得れば誰でも「正義」になれてしまうという愚かしさでもある。 これも奥深い。 ためになるな~ じつはこの世のものではないのではないか? という伏線が、セリフとして散りばめられています。 ただ、後にして思えば・・・ということなので、ここが伏線であるかどうか、 舞台観劇の最中として難しい判断。 禅問答ばかり。 これだけだと、とてつもなくつまらない。 飽きます。 緊張したシーンが続き、「このままの流れなのか?」 と、ちょっと不安だったのですが、 けっこう早めにコメディチックになります。 奥深い話とコメディをうまく融合させ、 それでいて「人間賛歌」を観客に訴えかける。 ひじょうにバランスがいいな~と思いました。 ただまぁ~笑えるツボは人それぞれなので、 観客が笑っても私が笑えないところはありました。 コメディ的には、武蔵と小次郎を仲良くさせる方法として柳生宗矩が考えた策が、 5人6脚。 つまり、柳生宗矩を中心にして、右に佐々木小次郎、平心、 左に宮本武蔵、沢庵宗彭で脚をヒモでくくりつける。 このやりとりがすごく面白い。 特に就寝時。 宮本武蔵と佐々木小次郎がいろいろ真面目に罵倒するなか、 残りの3人が自由気ままにアドリブのごとく動きだします。 まるで夢遊病のように。 ふたりは真面目に演技をしながら、 残りの3人が適当というのがいい味だして面白い。 藤原竜也と小栗旬が真剣に演技をしているのに、 それを邪魔をするかのように3人が勝手に動きますから。 じつに面白い演出。 また、筆屋乙女役の鈴木杏が父の仇をとるために剣術を教えてもらうところ。 とりあえず「すり足」を教えるのですが、 ここがだんだんとダンスになっていくところも面白い。 これは蜷川演出なのか?井上脚本なのか?ちょっと気になりますね。 どちらにしても、これを考えついたのがすごい。 当然のことながら、セリフは膨大。 いやいや、膨大の量を超えています。 それだけでもすごい。 観客も役者が喋った長い話を整理、理解しないといけない。 けっこう大変です。 場面3の「蛸」 筆屋乙女役の鈴木杏と木屋まい役の白石加代子の雑談がメインで、 そこで白石加代子が狂言の「蛸」を演じます。 本当にあるものなんですね。 観客の笑いも多かったです。 なるほど、確かに面白さはあるのですが、私にはちょっと合いませんでした。 白石加代子という名前自体は前々から存じあげてはいたものの、 演技を見るのは初めてでした。 完全に超ベテランのプロの役者。 この舞台。アドリブっぽいところも多いのですが、 武蔵が小次郎に対して石っぽいものを投げて打ち返すという演出。 ここは生の舞台なので、打ち返せないこともあるでしょう。 私が観た回は見事に小栗旬が打ち返し、観客席から拍手が沸き起こりました。 けっこう藤原竜也が投げるのが早く、打ち返すのはなかなか難しいです。 小次郎が産まれてから肌身離さない「お守り」 その中身は片割れの鏡。 じつは木屋まいには生き別れた子供がおり、 その子を他人に預ける時、鏡を割り、一枚は子供に、一枚は自分に・・・ ・・・ってこの話、まんま「アニー」(笑) ま~、別に似たよう話しは昔からありますが、 私のイメージ的にすぐに浮かんでしまうのが「アニー」というのは、 ある意味、観劇感想病ですね。 後半の殺陣は、幽霊との対決とのことでスローモーション。 意外と難しいんですよね。こいうい殺陣は。 武蔵、小次郎ともに、剣を構えるのですが、同じポーズがかなり長いです。 筋肉使うでしょう。同じポーズで「止め」ですから。 言葉を発しないシーンもかなり多いです。 それだけ、藤原竜也、小栗旬、他、 メインのベテランに任せておいて安心ということでしょうか? ただ、舞台の最後、帰り支度をするふたりのシーンは異常に無言でした。 かなり長いです。3~5分ぐらいあったでしょうか? ここはもしかして脚本が間に合わなかったのか? それとも演出なのか? ちょっとわからずじまいです。 だからと言って、変な違和感はありません。 すでに話しの中身自体は解決していますから。 結局のところ、宮本武蔵と佐々木小次郎以外は全員幽霊。 ただ単に、昔の「うらめしや~」てはつまらないから、 舞台作家であった鈴木杏が幽霊のみんなに演技を指導し、 宮本武蔵と佐々木小次郎の殺し合いをやめさせ、 生きる素晴らしさを説かせ、 自分たちも成仏するというのが狙いでした。 しかも最後の杏の脚本が間に合わず自殺してしまった・・・うんぬんの話しは、 明らかに井上ひさし氏の言葉のような気が、しないでもない(笑) で、成仏をしたはずなのに、またふたたび幽霊たちが同じ役柄として登場し、 舞台の幕が開き、一番最初に戻る・・・ それに勘づいた武蔵と小次郎がこの場を退散するということで舞台は終了します。 気になった役者W主役、藤原竜也と小栗旬。藤原竜也は、も~言うまでもなくうまいですから。 映画やテレビもいいけれど、やはり舞台は映える。 目の迫力も、滑舌もバッチリですからね。 パンフレットを読むと、思考的に彼は私と似ているな~と感じました。 (もちろん、ルックスは天地ですが) 不思議と共感ができる部分がたくさんありました。 武蔵役もすごかった・・・としか言いようがありません。 書く事ないもの。 無骨なムサシをしっかり演じていました。 男が男に惚れる感じ。やっぱり藤原竜也は舞台がいいな~と思う。 映画の「カイジ」も楽しみ。 小栗旬の舞台を観るのは初めて。 テレビも・・・記憶に無いほど見ていません。 ちなみに「花より男子」はテレビで一回も見たことないのですが、 観客を見渡すと、それが前提にあっての女性同士の観客が多かったと思います。 もちろん、藤原竜也のファンもとてつもなく多いですが。 う~~~ん、 おそらく、「花より男子」を見て小栗旬のファンになった人にしてみると、 たまらない舞台だと思う。 生で観られる感動、すばらしい演技、さらにはかっこ良さ。 しかもコメディチック! ストレートに武蔵を追い詰めるだけでなく、 意外とのほほ~んとしたところもじつに面白い。 「継承順位18位~」で気絶してしまうお茶目さもいい。 滑舌もそんなに悪いとは思いませんでした。 もちろん、藤原竜也や鈴木杏、他、超ベテランの人とは比べものになりませんが、 私としては違和感は感じませんでした。よくやってますよ。 場面7の「仏」 ここがある意味、藤原竜也、小栗旬ファンとしてはクライマックスでしょう。 脚本家、演出家、ともに、それを意図しているものと思います。 藤原竜也、小栗旬、ただ二人だけの芝居。 藤原竜也がセンス(?)で小栗旬の頭や額をガンガン叩きます(笑) 嫌というほど叩きます。 テレビドラマ等では打たれる寸前で止めて、後でSEとして音を入れるでしょうが、 生の舞台はガチ。 ガンガン当たっていて、生音。 あそこまで打たれる小栗旬は見たことない!(テレビは見ていませんが) これも舞台の特権でしょうか? 間違いなく語り継がれるでしょうね、あの場面は。 もちろん、それだけで黙っているはずもなく、小栗旬も叩き返しますが。 小次郎役はハマリ役。立ち姿がとても素晴らしい。 これは「天地人」の石田光成役も、ものすごいことになるでしょう。 今から雰囲気が想像できます。 あえて二度書きますが、生で見る小栗旬は本当にかっこいい。 そうそう、けっこう前の方で観ましたが、肌つやがめっちゃ綺麗。 吹き出物、全く無しに思えました。 筆屋乙女役の鈴木杏2003年『奇跡の人』以来の観劇。 声がやや低く、雰囲気、たたずまい、明らかに成長しています。 舞台特有の声で、じつにしっかりしている。 本当の舞台女優になったんだな~と思いました。 「奇跡の人」の当時とは全く比べ物になりませんね。 そういう役者の成長を感じることができるのも、舞台の楽しみではあります。 仇役のセリフとして、「ドングリまなこ」というのがあるのですが、 これは井上脚本での鈴木杏の見た目をイメージしたことなんですね。 なかなか面白い。 「ドングリまなこ」といえば、あの忍者ですが(笑) 平心役、 大石継太じつは一番彼が目立ちます。 というのも、とにかく始まってからずっと長いセリフ。 ストーリーテラー役に近いです。 数々の蜷川演出作品で出演されていることもあり、 本人も大変ではあるけれど、美味しい役だな~と思っているかも。 平心は若いお坊さん役(?)だと思うのですが、 駆け出し的な雰囲気が出ていて、すごく面白かったです。 武蔵や小次郎ともガンガン絡みますか、そういったコメディの部分が本当に楽しい。 総括まとめると、壮大な3時間くらいの大河ドラマをそのまま観ている感じ。 とても深い「人間賛歌」で、観客自身もいろいろ勉強させられます。 脚本家である井上ひさし氏の思いが、 ビシビシ心に突き刺さる・・・かもしれません。 長い公演なので、役の上での成長、脚本の微調整等、 まだまだいろいろあるかもしれませんね。 そうそう、ひとつだけ気になったことは終了時間。 一応、予定としては開演18時30分なのですが、 私の時はちょっと遅れました。 休憩込みで3時間30分の舞台。 劇場を出る時間が22時15分過ぎ(笑) 電車等の交通機関を利用する方は、 事前にいろいろ計算しておいたほうがいいと思います。 いずれはDVDになるかもしれませんが、 やっぱり舞台は生が一番。 生の迫力には到底かないません。 チケットを握りしめ、劇場に足を運ぶ。 そういう方がもっともっと増えるといいな~ この舞台を観る事ができて本当に幸せでした。 ※敬称略 |