SET本公演 任侠るねっさんす

◆公演時期   2008年10月11日〜26日
◆会場 東京芸術劇場 中ホール
◆脚本 木和語
◆演出 三宅裕司

あらすじ
時は戦後まもなく。
組長の死によって解散を余儀なくされた長門組を、
芸能興業で存続させていこうと奮闘する男・片岡。
そんな折、彼が運命的に出会った天才歌姫・つぐみ。
さらに旅一座の役者として生きていた組長の隠し子・春哉。
組長の死がきっかけで出会ったこの3人が中心となり、
旅回り一座を旗揚げする。
歌姫つぐみの人気で一座は成功を収め、
興行の世界に次々と新風を巻き起こしていくが・・・
(パンフレットより一部抜粋)
観劇感想
SET スーパーエキセントリックシアターは、ミュージカル・アクション・コメディ。
舞台によって、アクション重視、歌重視、演技重視、ダンス重視等ありますが、
今回は演技重視のように思えます。
ちなみに今回は前から2列目のど真ん中で観させていただきました。
昼間の公演にもかかわらず、満席には驚かされます。

私的に感動系の物語としては、
2000年の『THE スターダスト 〜和製音楽誕生物語〜』に次ぐ、
素晴らしい出来ばえ。すごく面白かったです。

流れ的には、
盆踊り→赤穂一座→小倉率いる4人のハモリユニット
→昭和26年ののど自慢大会→昭和37年の長門組のパーティー
→病院→神社の境内

今回の舞台を観る限り、訴えるものが多数見受けられました。
子供が見る分には難しいところがあると思いますが、
大人はいろいろ裏の裏を考えたり、今の世の中がわかる感じです。
たとえば、長門組二代目となるべき六川裕史が演じる春哉は、
男でありながら女性の心を持ちます。
その彼が最後で語ります。
全ての道を閉ざさないで、少しだけ道を開けてくださいと・・・
つまりは、くさいものにはふたをしろという考えではなく、
異端な者がいたとしても全てを押さえつけないで、
逃げ道を作っておいてほしいという切実な願い。
これはなかなかジ〜ンときました。

これは、松本明子が演じる宍戸つぐみにも言えます。
彼女は10歳の役も演じるのですが(笑)
その「のど自慢大会」で、
大人顔負けの素晴らしい歌声を披露するにもかかわらず、
落選。
どうして?と問う彼女に対し、審査員が放つ言葉は、
「子供は子供らしい歌声で歌いなさい」
それが彼女には理解できませんでした。
大人のような歌い方をする彼女に対し、
回りの大人たちは「ゲテモノ」あつかいします。
これには私もちょっと自己嫌悪。
私自身、子供は子供らしい歌声がいいな〜と思っていましたが、
そういう意味合いがあるのですね・・・
たしかに、子供でも大人の歌い方で悪いことはありませんから・・・

花山役の小倉も良いセリフを放ちます。
「ヤクザにしかなれない・・・それしか道がない」
じつは意外と深い言葉なんですよ。
そういう複雑な背景の事情をとりいれているところに、脚本の秀逸さがあります。
テーマがじつに奥深い。
それを読み解くには、
観客の方もいろいろ勉強しなければいけないのですが。
観る方の力量が問われる感じ・・・ですが、そこまで深く考えなくてもいいかな?

ヤクザである「長門組」を解散させようとする日本政府に対し、
三宅裕司演じる片岡は、二代目の春哉がいる赤穂一座の興行にヒントを得て、
芸能事務所を立ち上げます。
表向きに長門組は解散しますが、
じつはその芸能事務所の地方公演等の裏を取り仕切ることとなります。
う〜ん、いろいろ奥深いですよね(汗)

今回、幕が上がっての最初のシーンは盆踊りでした。
舞台では幕を上げた時が勝負と言いますが、なかなかの好印象。
さらにいきなりアドリブ(?)の問答にはビックリ。
普通は中間ですから。

今回、歌の実力者、丸山優子がいないのはかなり寂しかったです。
すごく残念。

三宅裕司と小倉久寛ののかけあい漫才的なところは台本通り・・・
ですが、今回はさすがにアドリブが入ったと思います。
三宅のセリフに対し、小倉が反抗的な言葉遣いをしていましたから(笑)
そこを徹底的に追及する三宅がじつに面白い。
小倉が話した、ど〜でもいいオランウータンの話をわざと持ち出したり、
三宅が他の人と重要な話しをしているのに、
小倉はその話しよりもオランウータンの方が大事だと(笑)
この時は、回りに松本明子を含めたメンバーがたくさんいますが
みんな視線を合わさないよう、後ろ向きで笑っています。
明らかにこの部分は長くなりました。
さらにこの後に登場する白土直子演じる小笠原静香が、
おそらくアドリフでその話しをうまく利用して、三宅にツッコミを入れてました。
さすがにベテランならでは。
ここのやりとりも面白かったです。

松本明子演じる宍戸つぐみが、「演歌」を歌いたいと片岡に話しかけます。
しかし、片岡の許しは出ません。
なぜなら、「演歌」を歌うにはお前にはまだ経験が足りないと語ります。
物事の憎悪、妬み、悲しみ、憎しみ、その他もろもろの深み、
重さがあってこその演歌。
そう簡単に歌える曲ではない・・・
この言葉が最後に実を結ぶこととなります。

完全にネタバレとなりますが、
最後のシーン。
地方の公共施設も手回しをされて使えなくなったため、
やむを得なく、神社の境内で舞台をすることとなります。
舞台の演目は「忠臣蔵」
しかし、そこへ他のヤクザが襲撃に来ることを知ります。
つぐみはみんなを説得しますが、任侠のため、筋をとおすため、
あえて舞台に立つとして首を立てに振りませんでした。
片岡は、メンバーに対してカタギになりたいやつは来なくていいと語りますが、
誰も拒否をする人はいませんでした。
あの、女の心をもつ二代目春哉までも・・・

そして本番当日。
他のヤクザたちは、おおごとにしないよう大きな音を出す銃ではなく、
刀での襲撃。
対する長門組のメンバーも刀。
そこでチャンバラが始まります。
舞台が回転しながらのチャンバラは見応え抜群。
殺陣は、SETの見どころのひとつでもあります。
そして終焉へ・・・

全員みね打ちでした!生きてました!
というのだけは勘弁と思いましたが、本当に死んでいて安心しました。
ここは悲劇でないと物語が締まりません。
そして一番最後の歌。
ここで、宍戸つぐみの「演歌」となります。
おそらくオリジナルの演歌ですよね?
これは素晴らしい曲!CDとしてほしいくらい。
おそらく、死んでいった長門組のメンバーに捧げる曲でしょう。
この時の松本明子は、感情移入をして涙を流しています。
ただ、声には出しません。涙声でないところが、やはりプロ。
松本明子の心のこもった熱唱は、歌声のみならず、
「演歌」を歌うことなった過程を知っている観客にしてみれば、
その背景に感動しますね。
そして幕が降りて終演。
このエンディングは、私の希望通りでした。
この歌で終わってほしいな〜と歌っている最中から思っていたので、
全く問題無しです。

気になった役者は・・・

三宅裕司小倉久寛は言うにおよばず。
何よりもも宍戸つぐみ役の松本明子でしょう。
もともとアイドル出身ですからね(爆)
しかもただのアイドルではなく、当時から歌唱力は抜群でした。
その彼女が英語の曲や、昭和初期の曲を歌うのですから、それだけでも必見。
しかもこの最後の演歌の曲が泣かせるんですよ・・・
年配のお嬢様たちも、けっこう涙ぐんでいる方がたくさんいらっしゃいました。
10歳時の演技もしているので、これは大変・・・だが、本人は楽しくやってるでしょうね。
彼女はバラエティのセンスも抜群ですが、今回は抑え役でした。

春哉役、六川裕史
新人というか、本当にまだ学生さんのようですね。
大学で演劇をやっているとのこと。
SETにも所属していません。
今回は三宅裕司たっての希望らしいです。
心が女性という役どころなので、完全に女性らしい雰囲気と言葉づかい。
ここは全く問題ありませんでした。
女形ということで、日本舞踊もありますが、首や手首の動き等、とても細やかでした。
発声的にはまだまだとは思いますが、
あの舞台での発声としては、まずまず頑張った方だと思います。
演技的にナヨナヨッとしたところはいいですね。
東京芸術劇場中ホールという大きな舞台でしたが、舞台度胸は満点。

ちょっと気になったのは早乙女役の三谷悦代
たしかに老女っぽい役柄ではありますが、ちょっと覇気が感じられない・・・
竹美役のおぐちえりこはあいわからず綺麗だな〜
正田役の宮内大、西沢役の野崎数馬は中堅のベテラン、
長門組メンバーなので、かなり出番があります。
最後の「忠臣蔵」での殺陣も印象的。
岸川役の田上ひろしも今回は長門組メンバーのひとりなので、かなり美味しい役。
私的にはとても嬉しかったです。
ちなみに、野崎数馬、田上ひろしともに、
アルゴ・ミュージカル『誰もがリーダー誰もがスター』に出演していました。

総括
前半は歌、ギャグ、アドリブ等満載で、じつに楽しく進行します。
後半の盛り上がり前は演技が中心となるため、少し間があきますね。
ここがちょっとダレた印象はありました。
ただ、この直後の忠臣蔵への盛り上げ方は流石。

前述したとおり、今回は演技主体、感動主体の舞台となりましたが、
じつに秀逸でした。
物語の内容も深く、客演の松本明子の歌唱力も抜群。
素直に面白く、感動しました。大満足の舞台。
(敬称略)


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