ファミリーミュージカル「あの窓の向こう」 2008

◆公演時期   2008年8月16日〜17日
◆会場 彩の国さいたま芸術劇場小ホール
◆作・演出 二宮瑞絵
◆作詞 上北沢 トオル
◆舞台監督 小野貴巳
◆音響 大野正美
◆照明 山中康弘/宮下和貴
◆舞台美術 満木 夢奈
◆手話指導 稲村 藍
◆振付 二宮瑞絵

あらすじ
野原家の四姉妹。
マイペースの長女のゆり、
優等生ながら自分勝手な次女のさくら、
ゲーム好きで物事をハッキリ言う三女のすみれ、
甘えんぼうの四女のもも。

今日はおばあちゃんが家にやってくる日。
でも、4人は浮かない顔。おばあちゃんが苦手なのだ。
早く自分たちの時間を作りたいが、おばあちゃんがいるために無理。
ふと、三女のすみれが窓を見つめると、見慣れぬ服を着た子供たちが映っていました。
しかし、そんなことはありえません。なぜならここはマンションの4階。
気をとりなおし、終戦記念日ということで、嫌々ながらも4人はおばあちゃんにならい黙祷。
すると不思議なことが起こり・・・・・

観劇感想
エムズカンパニーの舞台。
Bチームのみの観劇です。
一度は観てみたいと思っていたので、とても楽しみにしていました。
子役さんのレベルとしては、
アニーやココスマやアルゴや葉っぱのフレディと比べてはいけません。
これはこれで味のある演技ができるというものです。

8月は戦争を題材にした舞台が多いんですよね。
高校演劇フェスティバルでも、
戦争をテーマにした舞台が数多く上演されていたことを思い出します。

約1時間40分ぐらいの舞台。
この舞台はエピソードが盛りだくさんで、全く飽きませんでした。
あまり落ち着かずに、次から次へと新しいエピソードが出てくる感じです。
実家にておばあちゃんとの会話→四姉妹の特徴
→なぜか過去へタイムスリップをしてしまい、四姉妹がのこの状況について考える
→ゆき子の兄の話→先生が招集される話→カズの話→よし子の話
→梅と耕作の話、などなど盛りだくさん。

おばあちゃんと、今の子供たちとのギャップというか、
関わり方がなかなか秀逸でした。
おばあちゃんが食べ物に対して拝み、それを子供たちが不思議がる。
ここの演出もいいし、
「おばあちゃん、誰と話しているの?ボケちゃったんじゃない?」
というやりとりも面白いです。

赤紙がきて、軍属として招集されることになった山崎先生。
先生を送り出すために、学校の生徒たちが「ふるさと」を歌います。
このシーンは秀逸。
歌っている方よりも、先生役の方がジーンとくるでしょうね・・・
ちなみにこの時、五月役の佐野桃子、超号泣。
感受性が高いんですね。

カズという女の子は、ある理由で喋ることができなくなったのですが、
それはともかくとして
あるエピソードで、喋ることができるようになります。
ただ、その理由がネコ。
えええ〜〜〜?!とか思いました。あんまりよくわからない。
それから、喋るようになってからは、きっと凄い演技をするんだろうな〜と思ったら、
そうではなかった(汗)
ま〜まだまだの役者さんだから、そういう役なのでしょう。

過去に行った当初、疎開した子供たちが学校にいるのですが、
最初のミュージカルナンバーでヒップホップの振付。
これは無いなと思いました。
いくら架空の物語でも、過去の戦争のところで、ヒップホップはさすがに無い。
どうやら元々ヒップホップ系のカンパニーのようですが、
ここはものすっごく違和感を感じました。ハッキリ言って必要ない。

それから竹ヤリの訓練。
竹ヤリを持って、舞台からはけてしまうのですが、
ここの訓練は舞台上でやってほしかった。
戦争物なのだから、そういったものはやるべきだと思うのですが・・・

火の子のダンサーはなかなかいいです。
火の子ダンサーが舞台上でダンスをすることにより、
爆弾による火災のイメージがより強くイメージされ、
その間を役者たちが駆け抜けていく、というのはなかなかいいシチュエーション。
迫力ありました。
そこをかいくぐって、子供たちを救い出す・・・
涙出ます・・・
この時の赤い照明もいいですね。

それから「ようかん」
これがいろんな伏線になるとは思いませんでした。
これはとてもすばらしいアイテム。
ちなみに私も、ようかん、水ようかん両方とも苦手なんですよ・・・
芋ようかんなら食べられますが(汗)
「これから食べられるようにしよう〜」なんて素直に思いますね、この舞台を観ると。

「ようかん」については、最初、途中、最後と約3回ふれます。
最初はおばあちゃんがようかんを食べるのに、
4姉妹は一緒には食べない、というか嫌い。特に四女のもも。
過去に行き、
「お腹すいた〜こんなことになるなら、あのようかんを食べておけばよかった」
というセリフも印象深いですし、
本当にお腹が減って体調が悪くなってしまう次女のさくらが、
カズから、前に支給された「ようかん」をもらうことも、強く印象づけられます。
最後は現代に戻り、
おばあちゃんと四姉妹が仲良く「ようかん」を食べる。
なかなか味わい深い内容でグッド!私はすごく好き。

ほほを叩くシーンがあったのですが、ガチンコ(爆)
久々に本気で打つものを観ました。最近は本当に打たなくなりましたから。

全員で歌うナンバーはあるものの、
その中でひとりひとりの小さなソロがないのは残念。
おそらく基本はダンスのカンパニーなのかな?
長女の上田栞の声はよく聞こえるものの、
他の子の歌声がイマイチよく聞こえない。
このあたり、正直、実力のある石井千夏に頑張ってほしいところなんですが・・・

というか、ダブルキャストで前のキャストが登場するところがあり、
そちらの人の歌声が大きく聞こえるというのは、
こちらのチームの歌唱力は情けない。
このへんは頑張ってほしいです。
ソロは、佐藤梅役の拵井絵里加ぐらいですからね・・・

「あの窓の向こう」というタイトルは、
最初にすみれが知らない人を見かける、マンションの窓、
そして、疎開で集まった子供たちの学校の窓、
このあたりがいろいろ関連するわけです。
ただまぁ〜、じつのところ、窓よりも、
「ようかん」や「おばあちゃん」の方が印象に残るので、
きっかけ的な意味合いの方が強いかもしれません。

気になった役者は・・・

長女の野原ゆり役の上田栞
最初は少し緊張していたせいか、セリフを焦っている様子がわかりましたが、
じょじょに慣れていった感じ。
まずまず頑張ってました。
前述しましたが、歌の声量は一番出ていました。

次女の野原さくら役の松尾理花
ルックス的には、中島あすかに、やや似てるな〜なんて思いました。
一応、主役ということになるのでしょうか?
ぶっきらぼうな性格で、エリート意識を持ち、
自分のこと以外、他には興味が無いという役どころ。
ハッキリ言って、そんなに演技はうまいほうでないのですが、
彼女なりの雰囲気で頑張ってました。
けっこう独特な世界観をもっている感じです。

三女、野原すみれ役の石井千夏
石井千夏は過去にGANG2005GANG2006にも出演していますし、
犬石隆演出の「プリンセス・バレンタイン」にも出演。
実力的には、今回出演している子役の中でもかなり上の存在。
三女のこの役は、サブ主役という感じでしょうか?
セリフは膨大。初めてでしょうね、こんなに多いのは。
本人が一番勉強になったことでしょう。

当然のことながら演技力はあります。
今どきの女の子で、ゲーム好きで冷めた性格の役。
あまり深く物事を考えずに、思ったことを口走ってしまうタイプ。
いつものおとなしい性格ではなく活発的な役なので、
観ている私にはとても新鮮に映りました。
流れるような自然な演技で、他の子役さんたちとはレベルが違います。
家でもこんな感じなのかな〜?なんて思ってしまうほど(汗)

ただ、実力があるからこそ、気になる点もあります。
カツゼツは聞き取りにくいというわけではありませんが、
ちょっと声がうわずる感じ。
できたら、もうちょっと抑えてほしいな〜と思うのですか、
まだ小学2年生なので、そこまでは言えません。

ただ、ミュージカルとして、やはり歌う場面では声を出してほしい。
実際問題、あまり良く聞き取れませんでした。
セリフの量が膨大で、喉をあまり使わないため・・・とも考えてしまいますが、
やっぱりミュージカルだと、歌う場面は一番気になります。
だからこそ、ほどほどの演技でも長女役の上田栞が光るんですよ。
印象度はとても高い。
石井千夏も、苦手ではあるかもしれませんが、
これからはもっと歌唱力、とりたてて声量をもっと出してほしい。
下手でもいいから。
歌が聞こえないと、かなりガッカリします。

この程度では私は全く満足していません。
今後の伸びをさらに楽しみにしています。

四女役の松尾彩花
正直、
出てるだけ、
セリフを喋るだけ、
ではあるものの、
途中、途中、面白いところもあって頑張ってました。
ルックスがかわいいので、これから人気が出るかもしれません。
演技の成長待ちですね。

校長役の木原歩は、腰を折ったままの演技は、なかなか難しいと思います。
そこがすごく印象深いです。

山崎先生役の嶋沢秀展
当時の怖い先生ではなく、優しい先生な感じで良かったです。
意外と印象深い役者。

このクラス、少年ふたりは厳しいな〜
やっぱり、舞台より、クラブ活動したくなるよな〜なんて思いました・・・

五月役の佐野桃子の演技はまずまず。
基本はダンスかな?かなり頑張ってました。

佐藤梅役の拵井絵里加は、問題なく無難にこなしていました。
派手さはないものの、本当に当時の先生っぽい雰囲気がありますね。
落ち着いた雰囲気がいい感じ。

何歳かは不明ですが、ゆき子役の大繽ホ生は抜群にうまい。
けっこうベテランかな?
演技がしっかりしているし、台詞回しもいいし、
少し冷たく、厳しい性格のゆき子をじつにうまく表現していました。
基本、この舞台の要ですね。
彼女がいるからこそ、引き締まった舞台になります。

耕作役の折笠真典もいいですね。
当時の特攻隊員の雰囲気もよくとらえています。

ゆきこの兄役の濱本正太もすごくいい。
特に戦争の最前線に行って倒れるシーン。これは見事だな〜
リアリティありました。

地味な役柄ながら、たえ役の小松あゆはなかなか見るべきものがあります。
知らないメンバーの中では一番印象に残りました。
演技がしっかりしてるし、喋り方がかわいく、セリフ回しも良く、しかも聞き取りやすい。
まだ舌なめずりなところもあるけれど、
私は今後の活躍がひじょうに期待できると思います。
現時点の実力から言えば相当な逸材。
おそらく来年あたり出てくるかもしれません。
今後伸びるかどうかは本人しだいですが。

総括
舞台内容としてはとても素晴らしいものがありました。
なかなか感動できる話で、私の回りの観客も涙ぐんだり、
鼻をすすったりしていた人が多数見受けられました。
ただ、私は涙にはうといので、めったなことでは泣きません。
よっぽどのことがないかぎり・・・
「ハクション大魔王」の最終回では号泣しますが(爆)

舞台で泣きそうになったのは、
2000年『THE スターダスト 〜和製音楽誕生物語〜』 (SET本公演)ぐらいでしょうか?
これは本当に感動しました・・・
SETの舞台の中でも珠玉の一品だと思います。

おばあちゃんのことを嫌い、というわけではないが苦手な4姉妹。
それが戦争当時のことを経験することによって、
おばあちゃんを好きになる、という流れはとてもすばらしい。
脚本は秀逸でした。
明るく楽しい舞台も良いけれど、1年に1回ぐらいは社会派の舞台もいいですね。
大人の私はとてもよく理解できましたが、観ているお子さんはどうだったのでしょうか?
そちらの方が私としても気になります。
とりたてて難しい表現は無かったので、受け入れやすいと思うのですが、さて。

(敬称略)


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