◆ ミュージカルSEMPO


◆公演時期   2008年4月4日〜22日
◆会場 新国立劇場中劇場
◆演出・脚色 大谷美智浩
◆作詞・作曲 中島みゆき
◆作曲 吉川晃司
◆作曲 Peter Yarin
◆音楽監督 奈良部匠平
◆振付監修 上島雪夫
◆振付 平澤智
◆衣装 宇野善子
◆脚本、プロデューサー 川崎登
◆企画・制作 株式会社ライズ・プロデュース

あらすじ
1939年7月、杉原千畝はフィンランドからリトアニアに領事代理として転任した。
ナチスのユダヤ人狩りの惨状を聞きつつも、
日本のためにドイツ、ソ連の情報収集をしなくてはならない。
そんなリトアニアもソ連に進駐され、日本領事館の閉鎖命令が下る。
領事館の外には200人以上のユダヤ人の避難民が押し寄せていた。
第3国へ出国するには、「日本の通過ビザ」が必要だった。
だが、彼らにはビザの発給条件を満たしていない人ばかり。
苦悩する千畝。彼の決断は・・・・・
(パンフレットより抜粋)
観劇感想
流れとしては、
千畝がリトアニアに赴任
→ポーランドにいるノエルが恋人のエバと国から逃げ出そうとするが、父親の反対にあい断念。
→千畝がソリーという少年に会い、招待された家でナチスのユダヤ人狩りの惨状を聞く。
→ついにドイツがポーランドに侵攻。エバの父親はナチス・ドイツの軍人に撃たれ死亡。
エバは母とともにリトアニアを逃げ出すこととなるが、その途上、母親も死去。
→リトアニアの日本領事館に「日本のビザ」を求めて、ユダヤ人の避難民が押し寄せる。
ビザの発給条件を満たしていない人が多く、悩む千畝。
苦悩の末、ビザの発行を認め、避難民たちがさらに押し寄せ長い行列となる・・・・・
日本領事館の閉鎖命令が下り、汽車に乗り込むその際まで、ビザを発行する千畝。
→ついに千畝はリトアニアから脱出。一方、ようやくリトアニアに辿り着いたエバ。
その元にノエルが姿を現す・・・

こんな感じです。これだけでも長い・・・

さて感想ですが、ハッキリ言ってすごい。
愛華みれさんの降板もあって少し不安だったのですが、
代役の森奈みはるさんの好演で全く問題無し。

それよりもなによりも吉川晃司に尽きる。
初ミュージカル初主演とは思えない素晴らしさ!
演技は何回か見たことがあるのですが、ミュージカルは初めて。
本人、相当気合が入っていたことでしょう。
落ち着いた演技に、すばらしい歌唱力。
文句のつけようがない出来ばえに私もビックリ。

私的に「シンドラーのリスト」も見ていますし、
杉原千畝の伝記についても多少は知識があったので、
舞台の内容に関してはすぐに話しについていけました。
あまりわからない人にとっては、
一幕に説明的部分があるのでそこで理解していただき、
二幕は千畝の仕事が中心ということで、観劇としては二幕の方が集中できます。

一幕に説明的部分が多いのは仕方ないでしょう。
あまり重くしてはいけないし、軽すぎてもいけない。
大変な演出だったと思います。
というのも、その説明的な部分に、
よくわからない3人の女性、日本、ソ連、ドイツが登場するんですよね。
彼女たちが各々の立場をミュージカルナンバーのセリフでまとめる・・・そんな感じです。

そもそも、このミュージカルを作るにあたり一番大変なのは、
時代背景を観客が理解できるかということ。
「シンドラーのリスト」や杉原千畝の功績を知っている場合は話しが早いですが、
全くの初心者に時代背景を短い時間で説明するのはとても難しいです。
それがやもえなく、あの3人で表現したのだと思います。
ただでさえ序盤は歴史背景、説明的ミュージカルナンバー多いので、
重くなってしまいます。
それをなんとか、多少は明るく面白くさせたのだと思います。
と、私も感想を書きながら、あの3人が何を言っていたのか覚えていません(汗)
それだけあまり気にしてなかったのかも・・・

ちなみにこの三人のひとりがグレース美香
犬石隆演出のアルゴミュージカルのパパ・アイ・ラブ・ユー!
同じく犬石隆演出の私の大好きな作品、白雪姫ゲームにも出演していました。
う〜ん感慨深い。
当時から背は高かったのですが、今見ると普通な感じ(汗)
当時は回りが小さい子ばかりですから、普通の背丈でも高く見えてしまうんですよね・・・

オープニンのダンスシーンはけっこう印象的。
あの入り方はいいですね。
衣装の色使いもバランスがとれていて、とても綺麗でした。

そしてなにより音楽が素晴らしい。
やっぱり生オーケストラ!!
迫力が違いますよ。
これだけでも観る価値あります。

ヒットラーの演説がラップというのは、抜群な演出!
これは当たりですね!
本当にあの演説そのまんま。
ここはすごく楽しかったな〜!

銃を打つシーンがあるのですが、火薬類は無し。
音で対応しました。
私はすごくいいと思います。
重厚かつ静かな舞台なので、火薬類を用いるのは観客に大きな動揺を与えかねませんから。

そして後半の山場、ビザの発行のシーン。
演出的には、ただ単に、杉原千畝のデスク前にビザを求める人たちの行列ができて、
サインと判子を押すだけのシーン。
普通に考えると、長ったらしく同じような場面が続き、観ている方は苦痛になるのですが、
私は全く気になりませんでした。
前述しているように、前半よりもこの場面の方がとても集中できました。
とにかく一刻も早くビザが欲しい難民の人々、
それを手の痛みをおしてサインを昼夜とわずし続ける千畝。
この描写がとても素敵でした。
さらには、
千畝が汽車で出国する直前まで難民の人たちにビザの発行をした場面も演出されており、
彼の情熱がとても伝わってきます。
言うこと無しに見応えありました。

千畝メインということで、正直、女性の印象は薄いです。
エバ役の彩輝なおも瞳パッチリで、歌も印象に残るのですが、
全体的な印象からすると、かなり薄い。
それだけ千畝の功績がメインなのでしょう。

一番思ったことは、これが日本人の物語であること。
レ・ミゼラブルも、ミスサイゴンも、
とても素晴らしいミュージカルであるけれど外国のお話。
杉原千畝となると日本人の実際にあった話ということで、
日本人としての魂が揺さぶられるんですよ。
もちろん、観劇している私なんて偉くもなんともないのですが、
日本人としての誇りを彼から感じ取ってしまいます。
外国の物語とは、また別な感動がありますね。

気になった役者は・・・
杉原千畝役の吉川晃司
ミュージカル独特の歌い方ではなく、歌手吉川晃司としての歌い方ですが、
私はとても好感もてました。
響きがあるし、何より苦悩する彼の思いが伝わってきます。
派手な演技ではないため、たしかに地味な印象を受けますが、
私は理路整然として落ち着いた演技、とても良かったです。
日本政府からの命令、人道的立場としての自分自身に対しての狭間で苦悩する演技、
素敵でした。

幸子役の森奈みはる
愛華みれの病気での降板もありましたが、
私が見る限り、全く不安を感じさせない出来ばえでした。

カイム役の沢木順
「森は生きている」で何回も観させていただいていますが、
あいかわらずの独特な間合い、雰囲気(汗)
ただ、彼はこういう史劇にはすごくピッタリですね。
欠かせない存在。

弘樹役の近藤亜紀
少年役、ご苦労様でした。
常にロングの髪が印象的な彼女ですから、ショートカットはかなり思いきりましたね。
さぞかし大変だったことと思いきや、そうでもないみたいです(汗)
私が注目したのは走るところでしょうか?
少年らしい、少し大雑把な走り方が印象的です。
ここは結構研究しましたね。

ただ、激しく私的な意見で申し訳ないのですが、どうせ近藤亜紀を使うのであれば、
ソリー役でも良かったと思いますね。
もちろん、ソリー役の池田祐見子は元劇団四季で、
近藤亜紀とは比較にならないほどの実力者であることは十分に理解しているのですが、
近藤の実力であれば普通にこなしたでしょう。
弘樹役も重要な役ではあるけれど、彼女の真の実力は発揮できずじまい。
すごくもったいない。
近藤真由や横山なつみはメインキャストではないけれど、
子供の役として何度も出番がありましたし、
石毛美帆を含めたアンサンブルのメンバーもダンスシーン等、見せ場がたくさんありました。
にもかかわらず、千畝の子供の弘樹役は出番控えめ・・・
ま〜ダブルキャストの織葉の対応もあるのでしょうね。
というか、ここをピックアップするのは私ぐらいですが。

総括
私が見た公演は満席でした。
「日本人」杉原千畝の功績を称えるミュージカルとして大成功だったと思います。
杉原千畝役の吉川晃司がバッチリはまっていたからでしょう。
逆に舞台慣れしている人は少し面白くおかしくする可能性もありますから、
吉川晃司のように毅然とした自然な演技が好印象だったのかもしれません・・・
と自分の中で、のたまっています(汗)
再演も楽しみです。

(敬称略)


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