◆  「アルジャーノンに花束を」 2006
◆公演時期   2006年10月11日〜15日
◆会場 中野ザ・ポケット
◆原作 ダニエル・キイス
◆脚色 菊池准
◆演出 鷲田照幸
◆照明 佐方旬
◆音響 仙浪昌弥
◆舞台監督 須子田峰雄

あらすじ

肉体的には大人だが、知的障害によって精神的には子供のままの青年チャーリーは、
脳手術によって一般人を上回る知能を身につける。
頭が良くなるにつれ、逆に今までの友人たちが自分から離れていく・・・
そして天才になった彼は、
彼と同様の手術を施されたねずみのアルジャーノンとともに姿を消す・・・

観劇感想
キリンプロ主催の舞台です。
初めて「中野ザ・ポケット」に来たのですが、本当に小劇場といった感じです。
小さいために、どこから観ても舞台が見やすいです。
2時間20分ぐらいの舞台なので、観る方も体力が必要となります。
特に椅子の方はイマイチな感じで、腰やお尻に負担がかかるんですよ。
1日1回ならまだしも、2回連続の観劇はかなり厳しいと思います。

基本は主役であるチャーリーのひとり舞台です。
「奇跡の人」のアニー・サリヴァン役とまではいかなくても、セリフは膨大。
しかも「白痴」「天才」という、演技の表現力も問われます。

場面転換がけっこう切り替わり、役者自体も固定しているので、
全員で集まっての舞台稽古はそれほど必要ないかもしれません。
場面場面で集中して稽古ができる感じ。
売れっ子の秋山莉奈と芳賀優里亜ですから、仕方ないでしょう。

脚本もしっかりしていて、じっくりと展開していきます。
「白痴」と「天才」時の回りの反応、過去のフラッシュバック、アリス、フェイとの関係、
研究員の自らの使命感と誇り、それによるチャーリーとの確執と和解、
父、母、妹との過去と現在の描写。
私は重いテーマも好きなのでかなりハマリました。
この脚本は好きですね。

この舞台は照明の使い方もじつに的確!
かなりの演出効果がありました。
音楽も常に流れているわけではなく、効果的な場面で流れるという感じ。
私的には凄く良かったと思います。かなり計算された演出に思えたのですがどうでしょう?

気になった役者さんは・・・

チャーリー役の木野本 直
木野本ってどこかで聞いたことがあったのですが、
テレビドラマ「太陽にほえろに出演していたロッキー役、
木之元亮さんの息子さんなんですね。
背が高く、ルックスは精悍。瞳に強い意思を感じます。
あくまで見た感じですが、スポーツも万能な気がします。
さて演技の方ですが、舞台役者としては相当有望でしょう。
声質がハッキリしているし、声がかなり大きくマイクがいらないほどです(汗)
長台詞があり、主役は本当にたいへんだとは思いますが、無難にこなしていたと思います。

ただ、ダブルキャストの柳秀圭に比べると演技的なものは劣ります。
柳秀圭のほうが存在感自体で演技をしていますし、
雰囲気がまんまチャーリーとして認知できました。
木野本の場合は、声が大きいため、それに頼ってしまうんですよ。
一見するとうまく見えますが、そこまでのうまさはないです。
目が力強いので、そこでもごまかせちゃいます。
(今回はまだ瞳の演技自体もまだまだですが)
彼の演技のスタイルの中には、なんとなくアメリカンテイストがありますね。
アメリカ人特有の独特なボディランゲージとオーバーアクション(特に新聞を読んでいるところ)
そこは印象に残りました。

また、「白痴」のときと「天才」のときの対比。
これは完全に柳秀圭のほうが上でした。
やはり観ている方としてはかなりギャップがある方が楽しいですから。
もしかしたら、わざとそれほどIQレベルを下げなかったのかもしれませんが。

同じくチャーリー役の柳秀圭
「GANG2005」のビル役でもありました。
あの・・・・・・めっちゃ凄いんですけど!!!ビックリ〜〜〜!
この驚きは過去に小川亜美の「赤毛のアン」を観たときぐらいの衝撃!!!
いやっ、お世辞でもなんでもなく本当にすごいんです。
主役で、しかもひとり芝居の部分がたくさんあり、さらには膨大な長台詞。
それをじつにうまくこなしているんですよね。
白痴の時の演技もすばらしいです。
これは間違いなく相当研究をしたことでしょう。
喋り方、表情付け、雰囲気作り、どれをとっても完璧。言うことありません。

さらには白痴から天才への絶妙な変化。これがまた素晴らしい!!!
喋りが滑らかになるだけでなく、雰囲気、全身からの変化が見受けられます。
彼の場合は天才になったとき、台詞のひとつひとつが重く、
観ているこちらも引きずり込まれますから。
瞳がとりたてて大きいわけではありませんが、動かし方もじつにうまい。
(特にアルジャーノンを逃がしたふりをした時)
彼のチャーリー役を観ることができて本当にラッキーでした!
小さな舞台でしたが大満足!!!

アリス役の芳賀優里亜
テレビやDVDでも活躍していますし、ドラマにもたくさん出演しています。
ルックスにかけてはまぎれもない美人。
肌のつやというか雰囲気というか、すごく透明感がある女性です。
おはガール時代と全く変わっていません。体の線も相変わらず細いです。

さて、彼女の舞台の演技は初めてなのでとても楽しみにしていました。
演技的にはけっこうさばさばした感じで淡白。
サラサラ〜と流れる感じ。
良いようにとらえると、外見にはあまり出さず心の奥底で演技をしている、
と、とらえられるけど、ちょっと微妙かな?
落ち着いた演技です。
一番気になったのは彼女の声。
舞台系としては弱いですね。彼女は完全にテレビ向きだと思います。
声に張りが無いし、パワーがいまひとつ。
大きな舞台では厳しいでしょう。
秋山莉奈の方が舞台役者としては有望。
まぁ〜みなさん得意分野が違いますから。

同じくアリス役の秋山莉奈
じつは彼女の演技は「仮面ライダーアギト」の時しか見たことがありません(爆)
なので、彼女の声質が変わっていてビックリしました。
あの頃はまだ少女で、今は完全に大人の女性ですから。

第一印象はすごく色っぽいなと思いました(爆)
肌も真っ白ですし、それに加えて透明感もあります。これだけで目立ちますね。
演技的にはなかなか良かったと思います。
瞳に特徴があるのでそれを使った演技もいいし、台詞回しもなかなか。
意外と声がハキハキしているので、舞台系でも今後十分に活躍できることでしょう。

フェイ役の平山ゆい
台詞回しはうまいし、声も聞き取りやすいです。
ただ、言葉に重きが無く、台詞が軽く感じてしまうことがあります。
表情のつけ方は悪くはないのだけれど、ややクセがある感じ。
もともと明るい役なのでそういう意味合いがあるのかもしれませんが・・・

同じくフェイ役の永橋由美
チラシの宣材写真より、実物の方がはるかに美人なんですけど・・・・・
それは置いといて。
演技的には抜群にうまいです!ハッキリ言って言うこと無し。
表情も豊かで、台詞回しも流れるようにすばらしく、フェイという役に成りきっています。
チャーリーを何気なく色香で誘惑するところなんて、自然な流れでじつに魅力的。
私的にも惚れそうです(笑)

妹ノーマ役の小林洋子
成長した後の演技は抜群。この人はベテランさんでしょ。
落ち着いたしっとりとした演技はすばらしいです。

ドナ役の常盤真由美
岩崎恵と比べると、柔軟性のある肝っ玉母さんと言った感じ。
厳しいときは厳しく、優しい時は優しいというアメとムチ的な対比がいいですね!

同じくドナ役の岩崎恵はハスキーなアニメヴォイス。
どちらかというと、優しさを前面に押し出した感じです。
彼女自身も小柄で可愛らしい感じですね。

ジンピィ役の武田タケシはおそらく相当なベテランさんでしょう。
落ち着いていて、存在感ありありでした。
ま〜パン屋の場面では実力者がひとりはいないとね。

今野愛は看護婦ヒルダ役で登場。
雰囲気的にはすごく大人っぽい印象があります。
「森は生きている2006」では、台詞がややこもっている印象がありましたが、
今回は流れるような喋り方。
これはそうとう稽古を積んだことでしょう。
こんなに短期間で修正したのですから。
今回の役はすごく大人で、凛とした女性の役柄でしたが演技的に見るべきものがありました。
一般の人が見ていたら、ベテランな役者と見間違うほど。
舞台から降りるとまだまだ女の子であることがわかりますが(爆)

基本は大人の出演者ばかりなのでプロばかりです。
その中でもバート役の佐々木浩泰の演技はかなりいいです。
研究者チームの中で、ある意味唯一のチャーリーの理解者ということもあり、
観客も彼を好意的に見ることになりますが、演技がじつに丁寧なんですよ。
穏やかで優しく説き伏せる台詞づかいはじつにすばらしい。
今まであまり大きな動きをしなかった彼が、
最後の方で報告書を叩きつける場面はとても印象深いです。

昨今、父親のイメージ像が希薄になっていることもあり、
菅原純の母親に勝てない父親像は日本の現実社会を如実に表している感じです。
あえて強めの演技ではなくて、母に勝てない弱い父親像を演じていたのではないかと思います。

母親役の浅野文代は抜群の存在感と演技力。
ある意味、裏の主役と言っても過言ではない(爆)
悲壮感漂う姿は、観客に悪寒を呼び起こすほどです。
ナイフか包丁かわかりませんが、あれを持っている時の鬼気せまる雰囲気はかなり怖かったです(汗)
チャーリーが妹とようやくめぐり合えた時、後方でただずむ母親の表情も抜群でした。
なんとなく、映画「シャイニング」の女優シェリー・デュヴァルを思い出しました。

総括

安倍首相の一番の目玉の改革が「教育」
生徒も先生もいろいろな変化が起こるでしょう。
この「アルジャーノンに花束を」にも似たような意味合いが含まれています。
優秀でない生徒に対しての扱い方です。
厳しく、わかるまで徹底的に教えるのか?ときには体罰も必要か?
それとも本人が目覚めるまで何もしないのか?
家庭の問題も含まれており、まさに今現在、日本が直面している縮図がここにあります。
ま〜そんなことは抜きにしても、柳秀圭の演技は見事というしかないです。
小劇場の舞台で、これだけのものを見せてくれるなんて・・・嬉しいです。
個人的にはかなり楽しめました。

(敬称略)


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