◆  森は生きている 2005年

◆公演時期   2005年7月8日〜12日
◆会場 東京 アートスフィア
◆演出・訳詞 安崎求
◆振付 名倉 加代子
◆作曲 脇田 岐多郎
◆音響 戸田 雄樹
◆照明 中山仁
◆衣装 宇野 善子
◆舞台監督 澤 麗奈
◆脚本・プロデューサー 川崎 登
◆原作 サムイル・マルシャーク
◆翻訳 湯浅 芳子

あらすじ

日は12月最後の日、
新しい年がもうそこまできている、夕方のことでした。
雪の降りしきる森の中を、ひとりの娘が、
たきぎを積んだ小さなそりをひいて家に帰ってきました。
みなしごが寒さにふるえがら家に辿り着くと、継母が言いました。
『もう一度森へ行って、マツユキソウをつんでおいで、
女王様のおふれが出たんだから・・・』
女王様の言葉は絶対・・・
しかもマツユキソウは春に育つもので、
冬にあるはずがありません。
そうとわかっていながらも、
娘は、かごを持って森へでかけました。

もう日は暮れて外は吹雪です。
娘は激しい寒さでこごえてしまいそうになります。
とその時、森の奥の方にたき火の火が見えました。
それは、12の月の精たちが、
1年に1度の集まりのために、たいていたのです・・・・・


観劇感想

1995年、劇団仲間の「森は生きている」を私は観劇しています。
2004年の観劇感想はこちら
諸事情もあり、Fバージョンのみの感想です。
ご了承ください。

演出が安崎求氏に変わったことで、印象が大きく変化しました。
パンフレットで安崎求氏がコメントしているように、
私が観劇したことのある劇団仲間での「森は生きている」の舞台に近いと思います。

前回の舞台は、エンターテイメント重視の印象が強かったです。
とにかく、誰が見ても楽しく、何度も足を運びたくなるような娯楽大作に仕上がっていました。
今作ではそれとは異なり、原作重視の王道、芸術的作品に仕上がっていると思います。

一幕最初のシーンが、カラスとオオカミ。
いきなり前回とは違っています。
このシーンを最初に持ってきたことで、この舞台の真の意味を理解することができます。
カラスとオオカミのやりとりが何度も出てきますから。
これが安崎演出でしょう。
テーマとしては、命の大切さ、尊さ、それに関連する自然の流れ、
食物連鎖を意味していると思います。
二匹とも言葉を発していましたが、前回は喋っていません。
リスやウサギは前回の演出でも言葉を話していましたが・・・
おそらく、子供にでもわかるようにという配慮からだと思います。

もうひとつ大きな注目点として、娘の悲哀が描かれています。
「どうして私だけこんなめにあうのか?」
それが特に一幕最後の場面で表現されています。
前回の演出では、
城下町のダンスシーンとともに、娘の悲哀が交互に表現されていましたが、
今回は、せっかくもらった指輪を無くしたことによる、
娘の悲しさをスポットライトとソロの歌で表現していました。

衣裳は前回に負けず劣らず、お金をかけていますね。
髪飾りというか、頭飾りがさらに増えてました。

印象的な演出のひとつに、雪の降るシーンがあります。
とにかく雪(紙吹雪)の降るシーンが多いです。
量もハンパではありません。
天井にいるスタッフも均等に降らさなければなりませんから、
相当たいへんだったことと思います。

薪ひろいからようやく帰ってきた娘に対して、
継母が「マツユキ草を取ってくるように!」と命令する場面があります。
この後に、前回ではクスリと笑い、「冗談でしょう?」と娘が問いかける場面になるのですが、
今回は、淡々と「あるわけないじゃない・・・」という切り返しでした。
これだけでも印象が大きく異なります。

前半、1〜12月まで全員が現れて合唱するシーンから、
次の王室への場面転換の作業は秀逸でした!
王室がいきなり現れた印象が強く、観客の心にも響きます。

前回の場合は、娘と4月の精のロマンスがあったのですが、
今回はそういった部分はほとんど無しでした。

また、今回はモミの木を利用した演出も光っていました。
リス役が各モミの木を移動させることによって、止まっている舞台を動かす演出にもなります。
特に印象的なのは、1〜12月の季節が次々と変化する場面。
照明、そしてモミの木の移動もあり、迫力がありました。

リス役やウサギ役の人には、
他にもバチ(太鼓の?)を使ったダンス表現のナンバーもありました。
ここのリズム表現は、他の人との呼吸が大事なので、練習がたいへんだったことと思います。
また、カラス役の宮本竜圭さんや、
コロス役の稲津亜紀さん、廣田舞さんも加わったダンスシーンはお見事の一言。
コロス役の方は、ふたりとも演出助手なのですね。

娘と王女が初めて直接対面するシーン。
ここは物語中、一番引き込まれるシーンとなりました。
中村美貴さんと横関咲栄さんとのやりとりは緊張感にあふれ、
私を舞台へとさらに集中させました。
ここは本当に素晴らしかったです。

気になったのは、1〜12月の精の印象が薄くなったことです。
もちろんメインキャストとして登場する各月のキャストは印象が強いのですが、
他のキャストはすごく印象が薄くなりました。個性がまるでわかりません。
セリフも少ないですし、ソロもない部分もあります。
ハッキリ言って、7月、8月に関しては、リス役の子でも全く問題ないレベルです。
リス役の子のレベルが高いというのもありますが。
あえて、そういう演出からはずしたのかもしれません。

幕が降りた後の客席。
カーテンコールの拍手が起こるのですが、手拍子となり異質でした。
ちょっと不思議な感覚です。
最後に出演者が登場するシーンでもかけ声がたくさんありました。
最近では意外と珍しいですね。

気になった役者さんは・・・

ちなみに、歌が下手な方はひとりもいません。
みなさんプロの方ばかりです。

女王役の中村美貴さん。
2003、2004年のピーターパン役として有名です。
私は彼女を見るのがこれが初めてです。
演技もうまいし、セリフもしっかりしているし、落ち着いた伸びのある歌声も抜群。
全く申し分ありません。

ただ、再演の舞台では必ずと言ってもいいほど、
前回演じられた役者さんの印象を脳内で美化してしまうことがあります。
私の場合は、前回公演の女王役であった神戸みゆきさんの印象がとてつもなく強いです。
比べてしまうのはたいへん失礼なのですが、女王としてのパワーは神戸さんの方が上です。
神戸さんの演じた女王は、わがままで意地悪でありつつも、どこかコミカルで愛嬌タップリで、
憎めないところがありました(そういう演技指導なのかもしれませんが・・・)
中村さんの場合は、雰囲気が非常に男性的です。ここの違いでしょうね。
それから鋭い目の怖さも印象的でした。
「東京メッツ」で活躍していた、黒田百合さんを彷彿させます。
神戸さんのイメージを払拭するために、違った女王像を見せつけたのかもしれません。
ただ、オオカミが生き絶えるシーンでの「命の暖かさ」を知る部分に関しては、
あまり印象に残りませんでした。
「死ぬな。これは命令だ」
このセリフはちょっとかすみました。
重要なシーンでしたので、少し残念です。
ちなみにこのセリフは、
田中芳樹さんの小説「銀河英雄伝説」で、ラインハルトが言っています。

娘役の横関咲栄さん。
どうやら、新人の方のようですね。大抜擢でしょう。
演技、歌、ともにしっかりしていました。
ただ、前回の遠藤久美子さんと比べると、娘にしては、やや強いイメージがあります。
どんなイジメでも耐えられる感じです。
逆にいじめる役の方が上手いかもしれません。
正直、前半部分に関しては、悲劇的なイメージがわきませんでした。
か弱い雰囲気が感じとられたのは、後半の女王との直接対決シーン。
ここでよ〜やく、その優しさが伝わってくる感じがしました。

本人とは全く無関係の話ですが、パンフレットの写真。
瞳の中が加工されています。
アイドルDVD等で良く使われる手法です。瞳を綺麗に見させる撮り方だと思います。
これをやっているのが彼女だけなので、非常に違和感があります。
明らかに、彼女をプッシュし売り出すための戦略でしょう。
それが見え見えすぎて、ちょっと残念です。

老兵役、山内賢さん。
安定した演技です。
前回の演出と比べると出番が少なかったのので、そこが残念かな?
歌声も素晴らしいです。

博士役はこの舞台のキーポイント。
コング桑田さんのコメディチックな演技力は見応えありました。
前回のローリーのような、ハイテンションで先に先に急ぐような演技とはほど遠いですが、
彼とはまた異なる博士役を演じたので、全く問題ありませんでした。
どっしりとしていて、徐々にユーモアを出す・・・と言った感じでしょうか?
歌唱力も素晴らしいです。

4月の白川裕二郎さん。
前回に引き続き出演です。
演技、歌ともに前回よりも成長していました。
特に歌唱力。これは相当ヴォイス・トレーニングをしたことでしょう。
明らかに違いがわかります。低音が見事に響いていました。

1月の松岡英明さんも前回に引き続き出演。
全く問題無しです。流石です。

12月のあぜち守さんも前回に続いての出演。安定した演技です。
パンフレットの印象と舞台上では意外と違いますね。

継母役の北村魚さん。
最初は意外と優しい感じかな〜と思っていましたが、全然違いました(笑)
前回の継母と義姉コンビも素晴らしかったですが、
今回の義姉(小野妃香里)コンビもじつに秀逸でした。
家での意地悪な雰囲気、そして王室の間での嘘の話のナンバー。
とても素晴らしかったです。

カラス役は宮本竜圭さん。
これが秀逸。カラス的の動きを相当研究したのでしょう。見事な動きでした。

前回の舞台では、女官長のイメージは薄いのですが、今回は強いです。
女官長役の市野莉絵さんは、演技もさることなから、歌声も抜群です。

2月の辻奈緒子さんは歌声が文句無しに秀逸。
ずっと聞いていたい感じです。

3月は黒木マリナさん。
ミュージカル「美少女戦士セーラームン」の4代目セーラームーン役として有名です。
私は初めて彼女を観ることになりました。
1〜12月がそれぞれ喋るシーンがあるのですが、
ひとり、いきなりアニメ声で違和感がある声質がいました。
それが黒木マリナさんでした(汗)
かなり特徴のあるアニメ声なんですね。ビックリです。
演技も歌もうまいのですが、場の空気が微妙に変わってしまったことに、
少し違和感を感じました。
実力はたしかにある女の子です。
ただ、安崎氏が求める「森は生きている」の芸術的作品としては、微妙な感じです。

リス役は、特に誰がどうこういうレベルのものではありません。
お見かけした感じでは、松田ひかるちゃんもしっかりしているし、
池田美優ちゃん、斉藤瑛梨寿ちゃん、吉池結ちゃん、大谷明星紗ちゃん、今野愛ちゃん、と、
申し分ありません。
ただ、私の中で一番印象的だったのは、北原梢ちゃんです。
背が低く、敏捷性に優れていることも加味してか、ダンスシーンは見応えがあるし、
セリフもしっかりしていて聞き取りやすかったです。

総括

何度でも観たくなる面白さ・・・・・
であれば、前回の演出でしょう。
今回は一度でいいですね。二回観ようとは、なかなか思いません。
前述しましたとおり、
原作を基本とした王道的な芸術作品として仕上がっていると私は思います。


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