◆  『アニー』2005年

◆公演時期   2005年4月23日(土)〜5月8日(日)
◆会場 青山劇場
◆演出 ジョエル・ビショッフ
◆演出補 伊藤 明子
◆翻訳・訳詞 瀬戸 千也子
◆振付 ボビー吉野
◆音楽監督 栗田 信生
◆歌唱指導 呉 富美
◆訳詞 片桐 和子
◆タップ振付 藤井 真梨子
◆美術デザイン ピーター・ウルフ
◆照明デザイン 沢田 祐二
◆舞台監督 森 聡/長沼 仁
ミュージカル『アニー』の原作者
◆脚本 トーマス・ミーハン
◆作曲 チャールズ・ストラウス
◆作詞 マーティン・チャーニン

あらすじ

1933年、ニューヨーク。
孤児院で暮らす、赤毛の少女アニー。
孤児院には父親や母親を亡くした子供たちが、たくさんいます。
ただ、アニーの両親だけは、まだわかりません。
『すぐに引き取りにまいります』という、
自分が赤ん坊の頃に書かれた両親の手紙・・・・・
その言葉を信じて、アニーは11年間支えにしてきました。
しかし、いつまでたっても両親は迎えに来てくれません。

ついに、アニーは孤児院を出る決心をします・・・・・


観劇感想

ジョエル氏、5年目の演出。
ジョエル氏がパンフレットでも述べているように、
自分が手がけた、元モリー、元テシーがアニーになることで、
その思いは感慨深いものであったに違いありません。

今回は、ウォーバックス役に名高達男さん、ハニガン役に荻野目慶子さんなど、
若い配役が注目されました。
まず、これは二通りの見方があると思います。
ひとつは今まで『アニー』を観劇してきた方は、固定観念にとらわれることがあり、
ウォーバックスは、平野忠彦さんをイメージし、
ハニガンは、やや年配の悪女をイメージします。
この固定観念があると、今回の二人の役者さんについては、イマイチ感があることでしょう。
ただ、私の場合は、新しいウォーバックス像、ハニガン像を見せてもらえたことに、
とても感謝しています。お二人とも、とても新鮮だと思います。
もちろん、私も過去のイメージにとらわれていますが(笑)
やはり、新しいイメージ像は必要ですからね。

アニーのふたり、石丸椎菜ちゃんと鈴木満梨奈ちゃんは、
予想通り、安定した力を発揮してくれました。
それぞれのキャストについては、後半で述べます。

ある意味、一番気になったのは、名高達男さんの左手薬指の指輪。
これがかなり光っていて気になりました。
ウォーバックスは結婚をしていないので、この意味が全くわかりませんでした。
はずせない事情でもあったのでしょうか?
裏事情があるのかもしれませんが……
ちなみにパンフレットでははずしています。

『ここが好きになりそう』のナンバーでは、テーブルクロスの振付が好きです。
もう少し長くしてもいい感じです。

変わったところと言えば、タップキッズの登場シーン。
いつもの「N.Y.C」の場面で登場するのですが、今回はストーリー仕立て。
私は物語が好きなので、この案には賛成です。
おそらく、アンケート等でも、「タップキッズの登場部分が短い」
と書かれたのでしょうか?私も同意見でした(汗)
その分、今回は長めにとってあります。

ただ、本間憲一さんがメイン。
タップがうまいことは重々承知していますが、キッズをメインにしてほしいな〜と思いました。
それから、タップキッズの中からひとり呼び出すような、
人をいじるやり方は好きではありません。
劇中劇ということで解釈すればすみますが、私は違和感がありました。

気になったのは、『Easy street』のナンバーのキスシーンの多発。
これは多いでしょ。
ヤキモチ焼いているわけではありませんが(笑)
ほっぺと唇ですからね。
あくまで私の予想ですが、おそらく、ジョエルさんの演出では無いでしょう。
ここまでするからには、
ルースター役の本間さんや、リリー役の川原さんの打ち合わせがあったことと思います。
私個人的には、必要ないです。

アニーが警察官に捕まり、孤児院に連れてこられ、ハニガンがアニーのお尻を叩くシーン。
ここの演出が変わりました。
たしか前回は、叩こうとした瞬間にグレースがドアをノックして、
それを何度か止めるような演出があったような気がしたのですが……
気のせいでしょうか?

セットはちょっぴり豪華になりました。
金の椅子や机、アニー用(?)の椅子や机も登場しました。

「N.Y.C」のニューヨークの町並みの画ですが、
一番真ん中に、「Coca-Cola」(コカコーラ)の文字が入っていることが気になりました。
私が観た二回ともに、観劇している回りの子供たちから、
「コカコーラだ!」という囁き声がありました。
パンフレットを見る限りではスポンサーでは無いと思いますが・・・
どうなんでしょう?

パンフレットは2500円。
今回は20周年の特別なパンフレットなので両面特別仕様!
現在芸能界で活躍している蒼井優さんや、富田麻帆ちゃんのインタビュー記事、
過去のアニーのコメントなどもあり、2500円は安い設定だと思います。
キャストの緊急交代もあり、アニーズのところが非常に気になったのですが、
パンフレットの差し替えは間に合ったようで、ホッとしています。

気になった役者さんは……

アニー役の鈴木満梨奈ちゃん。
優しい感じのアニーですね。
気の強いセリフを喋っても、優しさが先に伝わってくる感じです。
表情付けが、かなりいいです。
歌唱力もなかなかのもの。もう少し声量があると、さらに良いです。

彼女は身体能力も高いのか、ダンスで召使いの人に回される時、
膝を曲げて見栄えをよくしていました。
石丸椎菜ちゃんは、私が観た回では広げたままでした。
ここの違いがありますね。

名場面のひとつ、ロケットを投げ捨てるシーン。
あくまで私の観た感想ですが、
私が見る限り、メイキングの口調と演技、全く変わっていませんでした。
成長が無いというのではなく、おそらく、あの時点でほぼ完成していたのでしょう。

蛇足ながら、私が見た回では、
「歯をへし折られたいのかい!」のところが、
「へをへし折られたいのかい!」になってしまいました・・・
まっ、この程度はご愛嬌です。このぐらいのアクシデントは全く問題ないです。

同じくアニー役の、石丸椎菜ちゃん。
ハッキリ言って、文句無しの出来ばえです。
イメージ的には、真面目な生徒会長のような感じのアニーです。
歌唱力は抜群。声量もあり、伸びも豊か。
表情付けも抜群にうまいのですが、歌っている時は、歌詞の意味を理解して歌うため、
表情付けよりも歌唱力に重点を置いているような気がします。
ここが、満梨奈ちゃんとの違いでしょうか?

名場面のひとつ、ロケットを投げ捨てるシーン。
ここが、満梨奈ちゃんとは明らかに違います。
ウォーバックスからもらったロケットを投げ捨てた後、
しばし、感情移入するために『タメ』を作ります。
そして、ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて、自分のロケットについて話し出す・・・
こんな感じでした。
これは見方が二つに分かれるでしょうね。
「感情がこもっていて、とっても良かった!」という感想と、
「感情の入れすぎで、舞台の流れが止まってしまった」という感想。

じつのところ、私は後者です。
これは好き嫌いありますから、あくまで私の個人的な意見です。
あの感情の入れ方は、ちょっと違和感ありました。
感動というよりも、ちょっと引いてしまいます。
そこまでする必要あるかな〜?と、小首をかしげる感じです。

このシーンがいかに重要なシーンであるのか?
アニーを目指す人にとっては誰でも知っていることです。
その思い入れが強く、椎菜ちゃんは独特な感情移入をしたのでしょう。
ただ、自分のペースで行き過ぎてしまって、
他の大人の役者さんのペースが乱れてしまったように思えます。
「ガラスの仮面」の「舞台荒らし」ではありませんが、
他の役者さんとのペースを合わせることも今後の課題でしょう。
なによりも、実力がありすぎるゆえの課題ですから、
徐々に修正していくことと思います。

椎菜ちゃんは、さらに、ふたつの場面で感情移入します。
「世界で私のお父さんになれる人は、ウォーバックスさんだけだよ…」と、
ウォーバックスが、アニーに対し、
「本当の両親は亡くなっていたんだよ」と語りかけるシーン。
ここの感情移入の仕方は、とても良かったと思います。

ダフィ役の妹川華ちゃん。
ダフィ役と言うと、通常アニーズのキャストの中で一番背が高く、
小さい子と比べると機敏性に欠けるため、やや地味な存在です。
ところが、この妹川華ちゃんは非常に目立ちます。
表情付けが抜群にいいです!
あと、よく考えたら、モデルさんをやってらしたんですね。
なるほど。

同じくダフィ役の伊宮理恵ちゃん。
彼女は『アニー』の出演が二回目です。
セリフ口調が柔らかでうまいです。

ジュライ役の北川理恵ちゃん。
ジュライ独特の優しい雰囲気をうまくとらえています。
喋り方も優しく、声もやわらか。口調がとても聞き取りやすいです。
腹話術をしながらの歌も、じつに見事。

同じくジュライ役の小松加奈ちゃん。
北川理恵ちゃんに比べると、やや強い感じのジュライですね。
歌唱力、なかなかあります。
そして、彼女も腹話術の歌声、見事でした。

ペパー役の武田めぐみちゃん。
とてもいい感じですね。役に合っています。彼女は適役でしょう。
ダンスも良かったですし、歌唱力も「ハローグッバイ」の時よりも成長しています。

同じくペパー役の堀田杏奈ちゃん。
ルックスはとても可愛らしいです。
う〜ん、もう少し、いじわるで強い感じでもいいかな〜と思いました。

テシー役の中島あすかちゃん。
テシー役の時も良かったのですが、
タップダンスで登場してきた時の表情付けが抜群にいいです!
これにはビックリ!
この子は今後伸びるでしょうね。成長株としては、とても面白い存在です。
歌唱力も、なかなかありますよ。

同じくテシー役の加藤結菜ちゃん。
緊急交代ということもあり、稽古時間も短かったでしょうに、じつに見事に演じてくれました。
相当苦労したことと思います。
表情の付け方もよく、かなり目立ちました。
声質はバッチリで聞き取りやすいです。
独特のおどけたポーズは彼女独自のアドリブでしょうか?
流石の一言。

ケイト役の金子海音ちゃん。
なかなか頑張ってました。
もう少し表情があると嬉しいかな?
気を抜くところもあるので、そこを気をつけてもらえると嬉しいです。

同じくケイト役の宮治舞さん。
ごめんなさい、あまり覚えてないです(涙)

モリー役の佐藤瑠花ちゃん。
まずまずかな?悪くはないです。
前半よりも、後半の方が体もほぐれたのか、いい感じでした。

同じくモリー役の新志穂ちゃん。
これは久々に目立つモリーですね!
ルックスは可愛らしいですし、声がハッキリしていて聞き取りやすいです!
モリー役で声が聞き取りやすいのは、ほんとに久々だと思います。
表情の付け方もうまいし、歌もまずまず。
ダンスの方は、まだまだこれからですが、じつに有望な女の子だと思います。
特にハニガンの笛で驚くシーンが面白かったです(笑)

タップキッズでは、あまり特定の子を取り上げるのは失礼なのですが・・・
江頭里穂ちゃんと、小林夏実ちゃんの表情付けが良く、かなり目立ちます。
北村美緒ちゃんもなかなか良いのですが、このふたりが異常に目立ちます。
論より証拠、観ればわかると思います。

今回のストリートチャイルド役、栗原小春ちゃん、矢野杏奈ちゃん。
印象薄いです……ごめんなさい。特に感想を書くものがありません。
前は、もう少し目立つ場面があったと思うのですが。
なぜか今回はあまり印象に残りませんでした。

オリバー・ウォーバックス役の名高達男さん。
演技力は全く問題ありません。
歌自体は、決して下手ではありません。
ただ、やはり声量、そして低音の響くような歌声ではありません。
しかしながら、名高さん独自のウォーバックス役ができあがっていたので、
私は満足しています。
もちろん、平野忠彦さんのような、声量大の低音があれば申し分ないのですが…(汗)

ミス・ハニガン役の荻野目慶子さん。
今までのイメージとは変わって、かなり若いハニガンです。
う〜ん、少し優しい感じも残ってるかな?
どちらかというと、厳しさと色気を合わせもつ、少し年上の学校の先生という感じでしょうか?
前述したとおり、今までの固定観念であるハニガンと比べると、
迫力が無く見劣りはします。

ただ、このハニガン役は、荻野目慶子さんが独自に作り上げたハニガンだと思います。
私は、多少の違和感はあるものの、なんとか受け入れることができました。
演技力は抜群。
歌の実力はありますが、声量はあまりない感じ。
正直言うと、もう少し悪女らしさがほしいかな?

グレース役の岩崎良美さん。
彼女については、言うことないです。
演技も歌唱力も素晴らしいです!

ルースター役の本間憲一さん。
彼についても言うこと無しです。
素晴らしいです。

リリー役の川原多美子さん。
「歌、ダンス、演技において、すべてが初めて・・・」
とパンフレットに書かれているとおり……な感じです。
これから頑張ってほしいです。
そうそう、『NYC』の場面でも、たしか踊っていたと思います。

総括

若く新しい役者さんが入ったことにより、
今までの「アニー」とは違ったイメージ像の、ハニガン、ウォーバックスが生まれました。
賛否両論あることと思いますが、
私は新しい可能性を生み出した点において評価できます。
私は素直に楽しむことができました。
両アニーともに素晴らしい出来であったことが、最大の要因でしょう。

観客の雰囲気から、初めて「アニー」を観劇しに来た方が多いことを感じとりました。
この新しい雰囲気が、新しい出発点になるのかもしれません。


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